ココロコミュ

【海城中学高等学校】
新しい人間力と学力をそなえた
真のリーダーを育成

体験学習「ドラマエデュケーション」の学び

演劇創作を通して、他者と関わり、価値観をすり合わせながら問題を解決する体験プログラム

「ドラマ(演劇)」の手法を用いて体験的に行われる教育プログラム。 中学1年の「安全ワークショップ」、中学2・3年の「コミュニケーション授業」の他、各授業でも取り入れられている。 ある状況や場面下に自分を置き、登場人物の身になって感じたり、役割や立場を入れ替えて考えたりして想像力を鍛える。グループで演劇を創作・発表する過程で、他者を見出し、自己の身体やこころを感じながら、価値観の違いを尊重する対話的コミュニケーションの方法や、効果的なプレゼンテーションの方法を体験的に学ぶ。
ドラマエデュケーション<DE>とは・・・
■中学1年「安全ワークショップ」
ドラマの手法を用いて体験的に行われる教育プログラム、中学1年の「安全ワークショップ」の様子
安全ワークショップでは、お互いが安全・快適に過ごすためには、他者とどう関われば良いのか、何が大切なのかを体験的に学ぶ
お互いが安全、快適に過ごすためには、他者とどう関われば良いのか、何が大切なのかを、体験的に学ぶプログラム。グループで演劇を創ったり、コミュニケーションゲームを行う中で、適切な他者との関わり方を体験的に学ぶ。
<中村先生> 学校生活において、生徒たちが明確な意図をもって他人を不快にさせたりするような例はほとんどありません。しかし中学1年生の段階では、無意識のうちに不適切な行動をしてしまい他人に嫌な想いをさせて、時に人間関係のトラブルを起こしてしまうことがあります。自分でも気がついていない無意識の行動ですから、教員がいくら言葉で注意しても同じ失敗を繰り返してしまうこともあります。自分では悪気がないのに他人に迷惑をかけてしまうのです。
「安全ワークショップ」の中では、「自分はこんな風に他人を不快にさせてしまうことがあるのか」のように、自らの無意識が意識化されます。意識化されれば、そのような行動をしないように気をつけることもできるようになりますし、その上でお互いが快適で安全に暮らすためにはどうすれば良いのか考えることができます。
さらにワークショップの後にきちんと振り返りをすることで、これまで以上に互いを気遣い合う意識が生まれてきます。このように中学1年生の早い時期に、お互いが安心して学び合うことのできる学習空間を整えることが、「安全ワークショップ」のねらいです。
■中学2年「コミュニケ―ション授業」
中学2年「コミュニケ―ション授業」の様子
知らない大人との会話、仲間と演劇を創作する体験を通して、コミュニケーションの難しさ、重要性などを学ぶ
初めて会う色々な職業の大人に話を聞き、それを原稿に書き起こして短い演劇作品を創作し、発表するワークショップ。 話を聞く大人は、20代から80代と幅広い年齢層で、地元商店街の方々、看護師、気象予報士、お蕎麦屋さん、俳優、写真家、フリーライター、編集者、通訳、織物教室経営、外車販売、テレビ局勤務など様々。知らない大人との会話、仲間と演劇を創作する体験を通して、コミュニケーションの難しさ、重要性などを学ぶ。
<中村先生> 6名から7名の班に分かれ、初めて会う大人の方と会話をし、そのしゃべり口調のままお話を原稿におこし、それをもとに班ごとに短い演劇の作品を創り発表します。 地域社会がうまく機能しなくなってしまった影響から、現代の子どもたちは、両親や親戚、学校などの先生以外の大人と話す機会が、ずいぶん少なくなってしまっていますので、初めて会う方々とじっくり会話をすること自体とても貴重な経験です。
そのお話をもとに演劇作品を創っていくのですが、そもそも同じ話を聞いていたはずなのに、それぞれの原稿が全然違ったりするのです。印象に残った部分、大切だなと感じた部分が、それぞれ違う。その違いをすりあわせて班で一つの作品にしなくてはいけないので、当然密なコミュニケーションが起こります。 そして、最後にその作品を発表する。観ている人に作品を届けるにはどのような表現が適切か。自分たちの想いをしっかり届けるには、どのような工夫が必要なのか。体験的に気づく機会となります。
演劇を創ったり、発表したりする時、子どもたちは本当に楽しそうです。彼らは、その過程の中で「コミュニケーション能力」にとどまらず、様々なことを楽しみながら体験的に学びとっているように見えます。他人と協働し、楽しみながら表現活動を行う中で、色々な気づきを得られる機会となることも、このプログラムの魅力です。
■中学3年「コミュニケーション授業」
中学3年「コミュニケーション授業」の様子
演劇という身体表現を通して、適切なコミュニケーションの方法、価値観の異なる他者とのコミュニケーション法などを学ぶ
修学旅行の事後学習として行われる演劇ワークショップ。4人の演出家を講師に迎え、旅行先で撮ってきた写真、思い出などをもとに演劇作品をグループで創作、発表するプログラム。 演劇という身体表現を通して、適切なコミュニケーションの方法、価値観の異なる他者とのコミュニケーション法などを学ぶ。
<中村先生> 東京デスロックの多田淳之介さん、ままごとの柴幸男さん、青☆組の吉田小夏さん、範宙遊泳の山本卓卓さんといった演劇界の第一線で活躍されている演出家の方々に来ていただき、修学旅行の思い出をもとにグループで演劇作品を創り発表します。
役者同士が同じイメージを持たないと、成立しない芝居の世界にヒントがあった
――体験学習「ドラマエデュケーション(DE)」を行ううえで、重視されていることを教えてください。
中村先生:一言で言い表すことはなかなか難しいですが、演劇を創作する活動の中で、様々なレベルで他者と関わり、価値観をすり合わせながら問題を解決していく体験ができるかどうか、そういうプログラムになっているかということは、気にするようにしています。例えば、創作活動の最後に必ず観客に向けて発表する場を用意するのも、班員同士が価値観をすりあわせて一つの作品を創るだけではなく、それを観客に届けるためにはどのような工夫が必要か、伝わらないとしたらそこにはどんな問題があるのか考えて、皆でその問題を解決する体験をして欲しいからです。
自分たちで色々と工夫して届けようとした作品がきちんと伝わると、観客は笑ってくれたり、拍手してくれたりします。活動の最後にアンケートをとると「みんなで作った作品を発表して笑ってもらえたのが嬉しかった」のような感想が必ず出てきますが、みんなで力を合わせて創り上げたからこそ、面白い作品ができたという実感が彼らにあるのだと思います。みんなで創り上げた作品が観客に伝わって笑ってもらえた。自分たちの表現に共感してもらえた。それは価値観や個性の異なる者同士が協力することで、ある成果をあげることができたという経験です。「協力して成果をあげることの喜び」あるいは「他人に思いが伝わる喜び」をみんなで体験することは、非常に重要なことだと思います。
――他者とのコミュニケーションやグループで力を出す訓練という意味での演劇の価値とは?
中村先生:演劇は価値観の異なる多様な人間が、限られた時間の中で作品を創っていく営みですが、作品を創りあげる過程では、自分とは異なる考えを持つ他者と意思疎通する必要があります。自分が当たり前だと考えていることが通用しないことが多々起こりますが、それぞれのばらばらな個性を認め合いながらお互いの価値観をすりあわせ、イメージを共有することなしには、作品を創りあげることはできません。
例えば、揺れている船が舞台の芝居を演じるとします。船はどのように揺れるものなのか、船が揺れた時に人はどのような動きをするのか、それぞれの価値観をすりあわせ、全員がそのイメージを共有して動かなくては、そこが揺れている船の上だと観客には伝わりません。もちろん、揺れていることを意識せずにただ突っ立っているような人がその場にいたら、途端に舞台上の船は揺れなくなります。
このように、演劇表現のためには、お互いの価値観を擦り合わせイメージを共有する必要があります。演劇は「価値観の異なる他者とコミュニケーションを取り協働する」ノウハウを、半ば宿命的に有しているのだと思います。
――「ドラマエデュケーション(DE)」が生徒の成長段階に必要なものになっているという手応えはありますか。
中村先生:演劇ワークショップのような体験的な学習は、ある時間内にどれだけ知識を獲得したのかという知識の量で評価できる活動ではありません。獲得した知識の量で評価できるならば、ペーパーテストによって生徒たちがどれだけのことを身につけたのか点数化して客観的に評価することもできますが、体験学習は、最初にもお話したように、活動を通してどのような体験をし、その体験を通して何に気づき、何を学び取ったのかという体験の「質」が大切にされます。そのような体験の質を客観的に評価することは、今まさに研究が進んでいるところだとは思うのですが、まだまだ難しいです。
もちろん、個人的には意義のある活動だという実感もありますし、さまざまな手応えもあります。主体的に自ら学びとろうとする姿勢や、面白がってやってみようという積極性などが、以前と比べて多く見られるようになってきた気もしています。価値観の異なる多様な他者とコミュニケーションを取る術を学ぶことは、これからの社会においてはますます重要になっていくでしょうから、中学生の時にその術を体験的に学ぶことは意義深いことだとも思っています。
いずれにせよ、演劇を創作し発表する過程で経験したことを、今後の生活に生かしていって欲しいと強く思っています。ふとした時に、この経験から得た気づきが何かの役に立つことがあるのではないかと考えています。
それぞれが違った人間なんだということを 体験的に知っている人になってほしい
海城中学高等学校独自の真のリーダーを育成する教育プログラムについて語る中村陽一先生と次重文博先生
――両先生にお伺いします。御校にしかない教育や体験学習を通して、どんな「新しい紳士」に育ってほしいですか。
中村先生:人々の価値観が多様化している現代だからこそ、その多様性を生かせるような人になってほしいと思います。「3人寄らば文殊の知恵」と言いますが、同じ価値観の人が3人集まっても同じ意見しか出てきません。価値観の違う3人が集まるからこそ、いろんな発想が出てくるんです。
カリスマ的なリーダーの価値観に従っていれば、成果を上げられるという時代ではありません。時代の変化が激しい中、組織の強さとしては、これからは多様性を持っている方が絶対に強い。既存の知識、能力では解決できない問題に直面した時、その多様性を生かしながら新しい問題を解決していけるような人、価値観の異なる人の意見やアイディアをうまくすりあわせ、多様な個性を生かすことで、1人では解決できない問題を解決していける人。そんな人になって欲しいです。
次重先生それぞれが違った人間なんだということをちゃんと体験的に知っている大人になってほしいです。人とかかわるということは、相手の気持ちを「きっとこうだろう」と想像することでもありますが、その想像が独りよがりになっていたり、自分の尺度で相手を判断してしまわないように、本当の意味での違いを分わかった上で、相手の立場に立って人との関係を結んでいってもらいたいと思います。
そういう関係が結べた時に新しいものが生まれたり、面白いことが始まったりするということを体感して大人になってもらいたいですね。その積み重ねが世界を変えていくということを、体験学習という意図的に作られた小さなプログラムからでも知ることができると思っています。

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