【東京都市大学付属中学校・高等学校】
自ら答えを導く科学実験

東京都市大学付属中学校・高等学校、通称トシコーでは、中学3年間で約60テーマ、高校で理系を選択すると1年間で約20テーマの「科学実験」を行っています。実験の後には記述式レポートの提出が必ずあり、さらにそのレポートを個別添削指導するという徹底ぶり。長年続いているトシコー名物授業ともいえる「科学実験」で、生徒たちは何を得ていくのでしょうか。実験が行われていた授業時間を取材しながら、理科教員でもある広報の桜井利昭先生に話をうかがいました。
VALUE 01中学3年間60の実験テーマで深く学ぶ
サイエンスギャラリー
生徒全員が使える実験器具を完備した物理実験室(大・小)、有毒ガス除去装置など最先端の機器が導入された化学実験室(大・小)、水槽に入った生物や標本が多く集まる生物実験室(大・小)が並ぶ。
本校はもともと旧武蔵工業大学付属中学校・高等学校で、理系の単科大学の付属校だったんです。2009年に大学が文系の学部を増設し、東京都市大学と校名を変更したのに併せて、本校も現在の校名になりました。ただ、理系の特色や従来のカリキュラムは生かそうということで、2006年に校舎を建て替えたときも実験室を6教室作りました。高校生の実験の科目は30年以上前からすでにあり、中学は15、16年前からスタートさせた歴史ある取り組みです。
「科学実験」は、中学3年間で60テーマと向き合います。いわゆる生物や化学といった理科の授業は教室で別に行い、「科学実験」は1つの科目として週に1時間(中2・3は隔週2時間)の授業になっています。高校では2年で理系に進むと、「生物」と「化学」または「化学」と「物理」から選択して、1年間に約20テーマの実験をしています。
中学1年 | 生物 | タマネギの表皮細胞の大きさ 哺乳類の解剖 |
中学2年 | 化学 | 鏡の製作 キーホルダーの製作 |
中学3年 | 物理 | 弦の振動 オームの法則 |
高校2年 | 生物 化学 物理 | ブタの腎臓の観察 電気分解 光の干渉 |
VALUE 02自分でさわる。自分で作る。自分で感じる。
高校2年(理系)実験 生物
医学部を目指す高2の生徒が受けていた生物「生命現象と物質/細胞と分子」の授業。高2の生物では1年を通して、タンパク質や核酸などの物質の働きを理解し、生命現象を分子レベルでとらえることができるようになるのが学習目標。生命現象への理解を深めていく。
高校2年(理系)実験 化学
高2の理系選択者が受ける化学基礎「化学結合/結晶の性質」の授業。実験を行うことで、基礎的な実験操作を修得しながら観察力・考察力をつけ、授業で学習した内容をさらに深めて定着させていく。
中学3年 科学実験 物理
中3の物理「弦の振動」の科学実験では、弦の振動の規則性を見出す。実験目的や実験方法などの詳細が書かれた記述式の実験レポートをまとめていくことで、実験と物理の授業を結び付け理解を深め、科学的思考力を身につけていく。
小学校の理科に生物の内容が多いので、中1の理科は一番入りやすい生物から学びます。「科学実験」も、中1は生物。仮説検証的な実験を入れてグループでいろいろ話し合わせますから、アクティブラーニングの要素も大きく、主体的な学びになっています。解剖では、検体は1人1体。「かわいそう」と言ってできない生徒もいて、その場合は見学させています。もちろん生徒には命の大切さを説いて、命をいただいて実験させてもらっているんだという話をしています。
キーホルダー 中2は授業で化学がスタートするので、「科学実験」と連動しながら進めていきます。
中2の「科学実験」では、もの作りをたくさんやります。例えば、キーホルダーを一人ひとり作るんです。これはもともと銀色ではなくて、きれいな五円玉の色をしている真鍮盤。そこにシールを貼って上から薬品をかけるとシール以外の部分が溶けて、凹凸が出てくるんですね。それをきれいに磨き、ニッケルのメッキをかけるとこんなキーホルダーができます。うまくできたら嬉しいみたいで、中3になってもカバンにつけている生徒がいますね。ものができあがる面白さを感じながら、実験器具の使い方を学び、科学的な知識も得ていきます。
中3は物理の「科学実験」です。授業も中3から物理が始まるのですが、実験でデータをとりそれを解析していきますから、数学がわかっていないとデータ解析ができないんです。だから物理の「科学実験」は、かなり高度な内容になっていると思いますね。
VALUE 03どこを見るべきか、どう書くべきかを考える
科学実験レポート
提出日だけでなく、再提出、再々提出日の欄もあり、くり返し提出しながらより良いものをまとめあげる。1つの実験項目のレポートごとに、形式、書き方、内容、考察、宿題までが評価対象になり、その合計点によってA~Eの最終評価がつく。
中学には記述式の「実験レポート」があります。実験の方法や観察するポイントが指示されていて、生徒はそれに沿って記入していきます。私は中2の実験を受け持つことがありますが、最初は「先生、どう書いたらいいですか」と聞くので「見たまま書けばいいよ」と言うんです。そうすると、男の子は記述が苦手な子が多いですから、「燃えた」とか、簡単に一言だけ書くんですよ。でも、「炎はどんな色だったのか」「どれくらいの時間燃えていたのか」と手直しをするポイントを指導してレポートを再提出させることを繰り返すと、レポートの記述の方法が少しずつわかってくるんです。
「科学実験」を続けていくと、まず確実に変わってくるのがレポートの記述内容です。記述力は新しい大学入試制度に直結します。それは、他のことでも応用できるし、中学3年間で積みあげていくと、高校生になる頃にはかなり書けるようになってきます。もちろん個人差はありますが、実験でのレポートを書く経験をしているか、していないかは大きいと思いますね。
さらに、観察するポイントが変わってきます。見るべきところがわかってくるというか、ただ漠然とではなく、どこを見ると変化に気づけるかを理解するようになります。それは大きな成長です。
高2では、年間約20テーマの実験を、いわゆる大学で求められるレポート形式で書いていきます。このレポートで考察を書くことで、データから論理的に考える力が少しずつ育ち、記述力も確実についていきます。2020年度からの大学入試改革にも充分に対応できる力になっていると思いますね。
以前、学校説明会で理系の大学の先生が息子さんの受験のために来られたのですが、「実はうちの研究室にトシコーの卒業生がいて、大学1年生の基礎実験の時からレポートがたいへんよく書ける。理由を聞いたら、高校時代からずっと書いていると言うので、どんな学校なのか興味を持った」と言っていただきました。その意味でも、このレポートは本校の特色の1つになっています。
VALUE 04科学実験は、将来への土台作り
東京都市大学付属中学校・高等学校 桜井 利昭先生[理科]
実験はまさしくアクティブラーニングです。実験書に書いてある通りにやってもうまくいかないのはなぜかと、自分で考えたり、仲間と相談しながら主体的に取り組むことに意味があります。
それに教科書だけで学んでいたら、必ずそうなると生徒たちは思っています。でも、反応後の色にしても発生する物質の量にしても、実験すると理論通りにはなりません。この経験は、やはり実際に自分でやらないと気づかないことだと思いますね。
本校には、理科や算数が好きで入ってくる生徒は多いです。ただ最近では、逆の生徒もいて興味深いですよ。トシコーを選んだ理由を聞くと、「僕は理科が不得意だけど、トシコーには実験がたくさんあるから、入学したら理科の楽しみがわかると思ったから」と言うんです。そういう子ほど理科の面白さに気づいて伸びていくかもしれません。
理系の生徒が多いイメージがある本校ですが、高2の文理選択では、約半数の生徒が文系を選びます。今までは、数学ができなくなった、理科が嫌いになったという理由で、消極的に文系を選ぶ生徒が多かったのですが、最近は理科もできるし数学も得意だけれど、将来こういうことをやりたいから文系を選びますという生徒が多くなりました。
やっぱり文系に進んだとしても、実験で養った科学的な視点はすごく大切で、枠を超えた視野があることで見えるものも変わってきます。論理的に伝えることも求められます。それは理系に進んでも同じです。「科学実験」は、こうした生徒たちの将来への基礎的な土台作りにつながっているんだと思いますね。