どんなに時代が変わっても、報徳学園中学校・高等学校には1911年の設立時から一貫して“変えない・変わらない”ものがあります。それは、二宮尊徳の行動を模範とする報徳思想の教育。人に尽くし、社会に貢献できる人間になるために「以徳報徳」「至誠勤労」「分度推譲」の校風三則のもと、生徒たちは「知・徳・体」のバランスのとれた21世紀型リーダーの素養を高めます。日々の学校生活ではどういった徳育教育が実践され、一人ひとりがどのように心を成長させているのか、報徳教育部の小林裕貴先生に語っていただきました。

「報徳講話」の授業

本校では明治44年の設立時から一貫して二宮尊徳先生が江戸時代に実行された行動と思想に基づく人間教育を行ってきました。報徳思想といいましても決して宗教ではありませんから、あくまでもその考え方・精神を教訓として学ぶことで生徒の日々の頑張りと努力の一助になればと考えています。
その役割を担うのが月に1回行われる「報徳講話」の授業で、年間を通じて10回ほど各クラスの担任がホームルームの時間に実施しています。二宮尊徳先生の生涯を本校独自のテキストを用いながら、時に生徒は自らの生活に照らし合わせながら、「自分だったら、どうしていたか」など、問題解決の観点からも報徳思想を学びます。中学から入学した生徒は中1から高校1年までの4年間、高校からの入学者は高1の1年間、この授業を通じて様々な言葉や道歌に触れます。
また、毎日のHRでは二宮尊徳先生の言葉を集めた素読用の冊子を用いて、毎日クラス全員で音読をします。この取り組みでは、素読の学びが中心ですのでその意味を国語的な解釈で追究することに重きを置いていません。それよりも味わい深い文章を身体に記憶させること、言葉が持つ語音や感覚を大切にし、学校生活の場で、さらには本校を巣立った後に、具体的な体験を通して、「こういう言葉があったな」と自然と本来の概念に気づき、それが心の支えになればと思っています。
「1日1訓のカレンダー」「二宮尊徳のことば -素読用-」

「心田啓発」を実感

生徒たちの行動を見ていると、報徳思想の教えが一人ひとりの心や感受性を育む「根」になっていると感じることは多々あります。訓の一つに「積小為大」という言葉があります。小さなことの積み重ねが大きな成果につながるという意味ですが、これはまさに日々の勉強や定期考査、クラブ活動の頑張りに通じるものです。
また、自らが培った徳(良さや能力)を誰かのためにというボランティア精神も生徒一人ひとりに涵養されていると感じます。地域の行事が行われる際、例えばその1つである地元の夏祭りでは、本校の自彊会(生徒会)のメンバーが率先して参加し、自ら進んで小学生たちのお世話をしてくれます。
もちろん自彊会の生徒だけではありません。学園祭では模擬店を訪れてくれた地域の子どもたちに本校生徒は気軽に声をかけ、積極的に触れ合います。また、学園祭を初めて経験する中1生を上級生が導く様子も毎年見られます。そうした姿を見ると、自然と報徳思想の精神が一人ひとりの心に刻まれ、豊かな心が育っているのだと実感します。
以前、「福島県教育旅行モニターツアー」があり、近隣の仁川学院と一緒に東日本大震災後の復興に取り組む福島県を訪れました。本校からは高1と高2の生徒、仁川学院からは中3生、合わせて30人弱のメンバーで参加したのですが、その時も他校の生徒としっかりコミュニケーションをとる姿勢が見受けられました。
夏祭りで地域の子どもと関わる報徳生
福島県教育旅行モニターツアー

「未来に活きる力」を育成

生徒が世の中に出る未来社会はAIの時代になると言われています。先の読めない事や困難にもたくさん遭遇するでしょう。時には何を信じて行動すればよいのか迷いが生じることだってあるかもしれません。人が人としてあるべき姿を模索している世の中にあって、江戸時代から時を経て今も受け継がれる報徳思想の教えは、どんな時代においても人として正しく生きる道を示す心の指針になると思います。さらに、国連加盟国が2016年から2030年の15年間で持続可能な社会づくり達成のために「SDGs」という目標を掲げました。17あるテーマのなかの一部を紹介すると、「貧国をなくそう」「安全な水を世界中に」「働きがいも経済成長も」「産業と技術革新の基盤をつくろう」など、どのテーマも尊徳先生が数々の農村の復興をされていく中で実践されたことです。報徳学園で報徳思想を学んだ子供たちが世界を舞台に新たな風を起こし、活躍してくれることを願っています。

TOPICS

報徳思想は生徒のみならず教員も享受。年に2回、二宮尊徳先生の教えの1つである「分度推譲」の訓に基づき、社会への「推譲」を実行するために地域の清掃活動を実施

Q.入学前から二宮尊徳のことを知っていましたか。

Dくん(高2・自彊会会長)
小学校に銅像があったので知っていました。

Mくん(高2・自彊会副会長)
僕も同じですが、二宮尊徳ではなく“金次郎”の愛称で知っていました。

Q.「報徳講話」の授業で印象に残っていることは?

Oくん(高3・自彊会元会長)
「報徳講話」の授業で他者や社会のために行動することの大切さを学んだのは今でも覚えています。それがきっかけで自彊会の活動に参加し、自ら積極的にいろいろなことに取り組みたいと思いました

Mくん
僕は授業で学んだ「積小為大」の言葉がずっと心にあります。中学に入学した頃はテストの点数があまり良くなかったのですが、わからないことがあればその都度先生に質問したりして一つひとつ弱点を克服していったことが実を結び、高校ではコースで1番になりました。

Q.勉強だけでなくクラブや他の活動でプラスになることも?

Dくん(高2・自彊会会長)
僕はスキーの部活を頑張りたくて報徳学園に入学したのですが、Mくんと同じく「積小為大」の教えは日々の頑張りにも通じると感じます。夏休みは家の近にある7kmのランニングコースを毎朝3本走ったり、とにかくコツコツ努力することで競技に挑める体を作り、そのおかげでクロスカントリーの近畿大会で1位を獲ることができました

Oくん
人間関係にもよい影響があると思います。高校で参加した語学研修(当時はカナダ)は中2から高2まで幅広い学年の希望者が集まります。現地では中学生と一緒に行動する時間もあるので、タテのつながりを大事にしながら時にはしっかり面倒を見て、みんなと仲良く過ごしました。

Q.先生たちが地域の清掃活動をしていることは知っていましたか。

Oくん
はい、知っていました。僕たちも美化委員会と一緒に地域の清掃活動を行っていますが、先生たちだけで活動されている姿を見ると、報徳の教えを率先して実行されているのだと感じます。