2006年に発足し、昨年10周年を迎えた大阪桐蔭ロケット研究部。初年度から模擬衛星を製作してフランス「C'Space」での打ち上げ大会に参加しているほか、大阪・能勢などでの打ち上げや校内外のイベントに参加するなど積極的に活動しています。 (株)創機システムズ(小型ロボットの開発、製造を行うシステム会社)の指導や先輩の活躍を見ながらプログラムや配線を学び、模擬衛星を製作できるようになっていく、ものづくりが大好きな部員たち。入学希望の小学生が集まる「体験クラブ」も大人気という大阪桐蔭ロケット研究部の意欲的な活動に注目しました。
知りたい 大阪桐蔭ロケット研究部
01 国内でも海外でも! ロケットが打ちあがる瞬間がたまらない!
ロケット研究部の2大プロジェクトが、毎年フランス南部で行われる模擬ロケットの打ち上げ大会「C'Space」に参加する「France Project」と、サポートしてくれている(株)創機システムズと合同で行う大阪・能勢でのロケット打ち合げ実験「Nose Project」。飛距離が違うそれぞれのロケットに入れる模擬衛星を製作して、打ち上げた後、上空から静止画像や動画を撮影するとともに気候に関するデータを取る。2017年度の「Nose Project」では、模擬衛星だけでなく、ロケットも一から作るという試みに挑戦する。
02 いろいろな大きさのロケットに乗せる摸擬衛星を製作!
ランチャー(発射台)に装填してロケットを打ち上げると、数秒後に上空で一部が開きパラシュートをつけた模擬衛星が飛び出すようにする。写真で部員が持っているのは、通常300~400メートルの飛距離がある国内用のロケット。フランスでは約700メートルを飛ばすため、ロケットも写真より1.5倍ほどの大きさになる。
03 校内校外でも 活躍を見せるロケット研究部
文化祭での発表や、入学希望の小学生を対象にした「体験クラブ」、大東市の市民会館で小学生・幼稚園児を対象にした「実験教室」などさまざまなイベントを開催。他校の科学系クラブとも積極的に交流するとともに情報交換し、共同研究を行うこともある。
大阪桐蔭ロケット研究部 PROFILE
大阪桐蔭ロケット研究部 部員一同
創部 2006年
部員数 20名(中学1年~高校2年)
HISTORY
2006年 フランスでの初打ち上げ
2007年 フランスでの打ち上げに参加
2008年 創機システムズによる支援スタート 衛星のみフランスで打ち上げ
2009年 フランスでの打ち上げに参加
2010年 フランスでの打ち上げに参加(現地で強風のため中止)
2011年 フランスでの打ち上げに参加 和歌山・加太で水ロケット打ち上げ
2012年 缶サット甲子園・和歌山地方大会に出場
2013年 和歌山・加太でロケット打ち上げ(8月・3月)
2014年 フランス「C'Space」での打ち上げに参加 缶サット甲子園に参加
2015年 フランス「C'Space」での打ち上げに参加 KADA2015(和歌山加太でのロケット打ち上げ)
2016年 創部10周年 FRANCE PROJECT 2017(フランス「C'Space」に参加)
2017年 体験クラブ実施 FRANCE PROJECT 2017(フランス「C'Space」に参加) 大東市Art&Science Festaに参加 NOSE PROJECT 2017(大阪・能勢でのロケット打ち上げ) ロケット合宿(能勢・8月)
PHOTO GALLERY 協力して、助け合って、悩んで…この時間が楽しい!
大阪桐蔭ロケット研究部
この日は、7月に行われるフランスでの打ち上げ大会「C'Space」用のロケットの中に入れる模擬衛星を製作中。本体を製作するチーム、パラシュートの開き方を研究するチーム、軽量化のためのチームなど、担当に分かれてそれぞれが試行錯誤。今回のフランスで打ち上げるロケットは、落下した衛星を発見しやすいように、校歌が流れるシステムを搭載。これまでにない挑戦に、創機システムズのスタッフの方や先生に相談しながら、部員間で意見を出し合い、協力し合って完成を目指している。フランスへ行くのは6人のメンバーだが、模擬衛星は部員全員による共同製作。ロケットは一旦分解して、現地で組み立てられる。
部員&先生インタビュー 自分たちの衛星を乗せたロケットが飛ぶ喜びを体験!
Koさん[高1 フランスプロジェクトリーダー] Tくん[高2 部長] 香野先生[顧問] 水野先生[顧問]

自分たちが作ったものが飛ぶことの 大きな達成感が大切

――ロケット研究部では、2006年の創部当初からフランスでの打ち上げに参加されていますね。発端は何だったのですか。
水野先生 ロケット研究部は、創機システムズを作られた元JAXAの技術者の方が地元の中高生と一緒にロケットを作りましょうということで始まったクラブなんです。その方が、フランスのロケットの打ち上げ大会「C'Space」とつながりがあり、最初からそこを目標にしようということになりました。最初は出席する部員も3~4人で、まだまだ本格的な活動はできずに、盛り上がらない状態がしばらく続きましたね。
水野先生
――その意味でも、自分たちが作ったものを実際に飛ばすという目標設定は大切でしたか。
水野先生 そうですね。やはり自分たちが作ったものが飛ぶことの達成感は大きいと思います。ただ、いきなりのチャレンジは難しかったですね。創部1年目はフランスに行くことが決まっていたのでそれに合わせて無理やり作りましたが、徐々に部員たちだけでも製作できるようになっていき、今では私が考えている以上のアイデアを出して協力しながらできるようになっています。もちろん飛ばしたいだけでなく、宇宙に行かせたいという野望も持っています。

みんなで作業をして成功した喜びを 一緒に味わえたときが一番楽しい

――部員の2人が入部したきっかけを教えてください。
Tくん クラブ紹介で先輩の発表が気になり、面白そうだなと思って入部しました。入部当初は何をしたらいいのかわかりませんでしたが、先輩のやっていることを見て勉強しながら、中3になる頃には本格的に製作できるようになりました。僕が一番楽しいのは打ち上げのときです。作っているときも楽しいですが、あの瞬間の達成感は大きいです。
香野先生 彼の先輩たちは、エンジニア派ですごくアイデアに富み、作ることを工夫していたんです。だから面白かったんでしょうね。東大や京大の工学部を目指すような生徒たちだったので、刺激を受けたんだと思います。
Koさん 私は小学6年生のときにもらった大阪桐蔭のパンフレットに「ロケット研究部」とあって、面白そうだなと思っていたんです。もともとロボットや工作が好きだったので、入学後のクラブ紹介を見て決めました。部活は、みんなで作業をして成功した喜びを一緒に味わえたときが一番楽しい。うまくいかないときもいろんな人が助けてくれます。
Tくん
Koさん
――2人は昨年のフランスでの打ち上げに参加したそうですが、行ってみてどうでしたか。
Tくん フランスの人や他の国の人もいて、そのロケットを見ると自分たちの未熟さをいっぱい感じました。例えば、今年は校歌を流すのですが、そのアイデアも去年フランスで音楽を流しているロケットがあったからなんです。参考にするアイデアや技術が山ほどあって、ものすごく刺激を受けました。 それに去年は作業が残っていて、現地に行ってからもやらなくてはいけないことが多かったんです。それで失敗して飛ばなかったら自分たちの責任ですから、その意味でもフランスに行くことは重大な責任を負うと思いました。
Koさん 去年は外国に行くのが初めてで、すごく緊張したのですが、意外にコミュニケーションが取れて楽しかったです。部員みんなで作り上げたものをフランスに持って行ったので、「失敗した」とは伝えられないなと思って、成功を収めないと!という緊張感はありました。
香野先生
香野先生 フランスの大会では参加者の年齢層も幅広く、下は小学生、上は企業で働いている社会人の方がその期間だけ参加されていたりします。特に大学生や大学院生の参加が多く、高校生は大阪桐蔭生だけです。フランス以外の国の方も多くて言葉が通じなかったりするのですが、作業をしながら交流していますね。その経験を通してTくんはこんなにしっかりと話せるようになってうれしい限りです(笑)。
水野先生 帰国してから現地で知り合った外国人とメールのやりとりをしている部員も多いです。こんな機会がないと英語で手紙なんて書かないと思いますから、彼らは本当に得難い体験をさせてもらっていると思いますね。
――国内は能勢での打ち上げがあるんですね。
水野先生 そうです。フランスも良いのですが、現地に行った生徒しかロケットが実際に打ち上がる瞬間を見られないので、国内の打ち上げにも大きな意味があると思っています。
香野先生 今年は能勢で2回飛ばす予定です。感動的な瞬間を皆で味わえますし、それを回収してデータがちゃんと取れているかどうかを確認するのもドキドキです。
――衛星でのデータというのは、具体的にどういうものを測定するのですか。
香野先生 上空から静止画や動画を撮ったり、気候データとして気温、気圧を測ったり、落下時の加速度を測ったりします。それを最後に回収します。3年前のフランスでは衛星を回収するために2日かかりました。動物の骨が落ちていたり、いばらだらけの場所に踏み入って2日間探したんです。去年は、ドローンを用いて落ちた辺りを探しましたが、最終的には草むらを分け入って自分たちで探さないといけないから大変です。

もっと多くの人に ロケット研究部を知ってもらいたい

――苦労することも多いロケット研究部ですが、魅力は何ですか。
Tくん 僕が一番思うのは、明るく楽しく取り組んでいることです。趣味が共通している部員が集まっているから話が合うし、性格的に優しい子が集まっているとも感じます。お互いに支え合い、協力し合って作っていく団結力の強さが何より自慢です。地味なイメージもあるようですが、「楽しい!」というのをもっと発信していけたらいいなと思います。
Koさん 一つの目標に向かって、みんなで仲良くひとつになって作っていくところが魅力です。部員同士の連携がかみ合っていないと結果にも影響するし、情報交換も大切で部員同士のコミュニケーションも重要です。女子部員はまだまだ少ないのですが、先輩に教えてもらったり、自分でも勉強しながら、興味のあることだから頑張れます。もっと多くの人にロケット研究部を知ってもらいたいです。
理科部の様子
――先生方が思われるロケット研究部の魅力は何でしょうか。
水野先生 ロケットは外見が注目されがちですが、その中にはいろんなものが入っています。何もないところから、ロケットを打ち上げるところまで協力して遂行し、さらに打ち上げたロケットを回収して、結果を発表する。その全部を体験できるプロジェクトに参加できることが、ロケット研究部の大きな魅力だと思います。
香野先生 ロケット研究部は、外から見たら何をしているのかわかりにくいようで、学校でも積極的にアピールをしているところです。このクラブは、理系全般にわたってモノづくりを思い切り楽しめます。部員たちが考えて進めているクラブであり、いろんなイベントを通して成長できることも大きいですね。卒業後の進路としても理系のイメージが強いのですが、文系でも活躍できるクラブです。その意味では、企画を立てる、アイデアを発信するといったマネージメントの面も力を入れていけたらと思っています。
2017年度「France Project」を終えて...
フランスでの交流会
フランスでの交流会
フランスで打ち上げ前に作業
フランスで打ち上げ前に作業
打ち上げ直前
打ち上げ直前
ロケット装填
ロケット装填
ロケット発射の瞬間
ロケット発射の瞬間
ロケットを発見
ロケットを発見
フランス大会参加部員コメント
Koさん[高1・フランスプロジェクトリーダー] 去年できなかったことが出来たらいいなと思って、今年もフランスに行きましたが、打ち上げが失敗に終わり、衛星でデータ収集ができませんでした。みんなに良い報告ができなくて残念です。 交流面では去年より頑張れました。日本から参加していた岐阜大学のグループの皆さんと話をしたり、運営団体の「C’Space」のスタッフの方とも仲良くなって楽しかったです。 今後に活かしてほしいのは、直前の点検をしっかりして、ちょっとでも気になるところは直してから打ち上げるということです。フランスでの打ち上げは、その大会に参加している学校が大阪桐蔭以外にないので、このロケット研究部に入ったからこそ体験できることです。積極的に参加してほしいです。
Kuくん[高1・プログラム班リーダー] 僕は今回初めてのフランスだったのですが、全員で作ってきたものがうまく打ち上がらなかったのがすごく残念です。僕も事前のチェックが足りなかったのかなと思いました。 交流では、仲良くなった岐阜大学の方と今も意見交換などいろいろと交流しています。そこで新たに組み込みたいものや作業が効率化できるアイデアを知ることができて勉強になります。 今後に活かしたいことは、スケジュールに余裕を持って取り組むということです。ロケット研究部は、チームワークが大切なクラブだと思うし、海外でも国内でも自分たちで考えてトラブルに対処できるところが良いところです。今後も後輩には体験をいっぱいしてほしいです。
香野先生 フランス大会参加も8回目になり、年々やることは大きくなっていますが、今回は時間的な余裕がなく、現地での時間を当てにしていたらトラブルもあってうまくいかなかったんです。今後はスケジュール管理をして、余裕を持って動けるような体制を作っていきたいと思っています。 フランスに行って部員たちは、海外の方と触れ合うことで一皮も二皮も剥けて今回も帰ってきました。勉強面も生活面もそうですが、ただ海外に行ってロケットを打ち上げるだけではなくて、その中で自分なりのミッションを達成することが成長につながるのだと思います。その意味でもこの大会に行くことは、ロケット研究部として続けていきたいなと思います。今回は結果としてうまくいかなかったのですが、これまでも同じようなミスがありました。それが共有され、引き継がれていなかったところがあるので、OB会を作って、過去の打ち上げに関する情報などをとりまとめて失敗を繰り返さないようにしていきたいと思っています。
「France Project」報告会
後日、7月のフランスでの打ち上げに参加したメンバーによる報告会が行われた。各席のパソコンモニターに報告用資料を掲示して、参加メンバー6人が前に立ち、フランスでの状況、反省点を、衛星を共に作った他の部員たちに報告していく。「衛星を作るのが遅く、設計上のミスが起こってしまったのが悔しい」「結果は悪かったが、みんなで協力して衛星を作るためにいろいろなことを乗り越えられたことが一番良かった」「次に活かせるように、場数を踏んでつなげていきたい」といった言葉がフランス大会参加メンバーからは発せられ、質疑応答も行われた。一丸となって作り上げた衛星を誇りに思う部員たち。その気持ちは、すでに次のプロジェクトに向かっているようだ。
FRANCE PROJECT C'SPACE2017