1912(明治45)年に開校した
三田学園中学校・高等学校。創立25周年事業として1937(昭和12)年に建てられたのが、三田学園記念図書館です。1998(平成10)年に国の登録有形文化財に指定されて以降も、変わらず現役図書館として愛されています。別棟には、2009(平成21)年に創立100周年事業で建てられた情報棟図書閲覧室があり、インターネットを使って調べ学習ができるほか、授業も行われます。伝統の記念図書館、革新の報棟図書閲覧室。その幅広い魅力を取材しました。
「創立25周年 記念図書館」の木製看板と登録有形文化財の証が迎えてくれる玄関。開館当初の看板文字は、第1回卒業生の書道家・上田桑鳩さんの書だったが、今は第27回卒業生の書道家・上羅芝山さんの書。
入ってすぐのラウンジには、卒業生からの寄贈書と三田学園の歴史や三田市の郷土資料が並ぶ。寄贈書は、阪神大震災で被災し亡くなった卒業生のご父兄からの寄贈「藤田伸哉文庫」が始まりで、その後も「常沢進文庫」「福井和也文庫」などたくさんの寄贈書コーナーができている。郷土資料が多いことも同図書館の特徴。
記念図書館の閲覧室には、永遠という意味を持った八芒星(はちぼうせい)のモチーフが。四角形が二つ重なった形で、天井の中心部や通路の壁にも17個の八芒星がある。
新たに図書館に入ってきた「新着本」コーナー、原作本が併設された「マンガで読破」コーナー、卒業生や文化講演会で来校された方の著書コーナーなど多彩なコーナーを展開。記念図書館内の書架には文学作品が中心に並んでいる。
背が高すぎない木製の書架や25周年記念のイスなど、生徒たちがくつろげる温かみのある空間。この図書館を忘れられない卒業生が戻ってくることも多く、豊富な郷土資料を読みに来たり、問い合わせをしてきたりするのだとか。
図書館と同建物内にある、趣あふれる自習室。帽子掛けがあるなど、建築当初の時代背景がうかがえる。自習室の壁にも八芒星のモチーフがあった。同館内には文芸部の部室もあり、歴史を感じる部屋で生徒たちが活動している。
情報棟図書閲覧室は、記念図書館とは別の新しい情報棟の1階にある。放課後だけ開館され、文学、郷土資料以外の本が置かれている。インターネットも使用可能だ。情報棟にはほかに、情報教室や選択教室などもある。
1クラス全員での授業ができる広いスペースを確保。調べ学習や論文指導など本を使う授業で活用される。個人席になった自習スペースは、集中できると生徒たちに人気。
記念図書館にも情報棟図書閲覧室にも新着本コーナーがある。同じように本が置かれた図書館だが空気が全く異なり、生徒たちは読みたい本や気分で使い分けている。
図書委員の2人から見た
三田学園図書館の魅力を教えてください。
Kさん
記念図書館は国の重要文化財に登録されていることもあって、いろんなところで歴史を感じることができます。私が中学生の時は照明もシャンデリアで、カーペットももっと古いもので、今よりもっと物語の中にあるような図書館という感じでした。少しずつ変わっていますが、それでもやっぱり落ち着く空間であることは変わらないです。
Oさん
私もこのレトロで独特な雰囲気の中で本を読める環境がいいと思います。放課後誰もいないとき、1人でひっそりとここにいるのは感慨深いというか、うまく言い表せないのですが(笑)。すごく集中して本が読める空間です。
図書館としての機能的な部分の良さは?
Kさん
蔵書数が多いです。文芸書もすぐに新刊を入れてもらえますし、新書も読めます。古い本もありますが、それは歴史あるこの図書館ならではのものかなと思います。OBの方が図鑑とか百科事典を寄付してくださっているのでありがたいです。
Oさん
私は「マンガで読破」というコーナーが導入されて、本が苦手な子もそのあたりの本を読んで原作に興味を持つというのがいいなと思っています。
記念図書館と新しい情報棟図書閲覧室がありますが、
使い分けていますか。
Kさん
記念図書館は文芸書が主ですが、図書閲覧室は調べ学習や小論文を書くにあたっての資料が豊富で、そういったときに使います。
図書委員を選んだ理由を教えてください。
Kさん
私は中学1年から図書委員で、5年目になります。図書委員は中高合わせて100人くらいいて、部活とはまた違った上下関係がありますが、高校生と中学生がフレンドリーに活動ができて、すごく楽しいんです。本が好きだったことと、本が好きな友達に図書館で本を教えてもらうことで読書のジャンルの幅が増えたことがきっかけです。
Oさん
私は中3からKさんに誘われて図書委員を始めました。Kさんは一生懸命働きますし、私は頼りないところが多いので頼っていますね。私も読書は好きでしたが、図書委員の方と触れ合うことで、いろんな本の情報やジャンルが見えるようになったと思います。
図書委員は年間を通してどんな活動をしているのですか。
Kさん
学校での大きなイベントは3つあって、学校見学会、オープンスクール、文化祭です。基本的に仕事内容は似ていて、いらっしゃったお客様に図書館を案内したり、見学の誘導をします。文化祭ではイベントも入れていて、図書委員のビブリオバトルを観戦していただきます。図書委員が本について評論を書いて展示することも行っています。
図書館内のポップなども書いているのですか。
Kさん
ここから歩いてすぐのところにある市立図書館の棚を借りて、図書委員がテーマに沿った本を選んで展示するという活動を2か月に1回させてもらっていて、ポップは主にそこで掲示しています。
実はこの企画は、図書館の方から「やってみませんか?」というオファーをいただき、先輩たち5人だけで始めたんです。今は後輩が来てくれて充実した棚になっていますが、最初の頃は一人あたりの仕事量が多く大変でした(笑)。
ほかにも、灘中学校との「交流読書会」もされていましたね。
Kさん
生徒が主体となって連絡を取り合って読書会を開いています。1冊の本を事前に読んでおいて、当日その本について「ここのセリフはどういう意味があるのか」とか、自分たちがこの物語の舞台にいたらどうするかなどを話したりするんです。普段は他校の方との交流が少ないので、いい刺激になりました。今年は、辻村深月さんの『島はぼくらと』という青春小説で、お互いにキャラが濃いので熱のある読書会になりました。
2人は読書のおもしろさとはどういうところだと思いますか。
Kさん
描写よりストーリーの展開が気になるので、ハッとさせられると楽しくてたまりません。ハリーポッターのようなファンタジーものなら、現実にはない世界だからこそ想像力が働いて、ちょっと現実離れした気持ちにもなります。
Oさん
私は主人公に感情移入してしまうことがあって、その本の世界観にどっぷり浸かれる感じがいいなと思います。あっという間に2時間ぐらい過ぎていて、ずっとこの態勢で2時間いたんだと驚きます(笑)。
では、図書館も含めた三田学園の良さを教えてください。
Kさん
三田学園にはこの図書館も含めて歴史ある建物が多くて、中学1年生は記念図書館ができるよりも前にあった本館で勉強できるんです。歴史ある建物の中で勉強したり、本を読んだりできる、他の学校にはなかなかない貴重な機会があると思います。ただ、この学校はその歴史ある環境の中でiPadを1人1台導入したりして、新しいことも学んでいけるんです。その両方あることが、すごく大切なことだとこの学校で学んできて気づきました。
Oさん
周りに自然も多くて、春になると桜が満開です。歴史ある校舎から見える桜って最高です(笑)。
『燃えよ剣』
司馬遼太郎(新潮文庫)
私が中学1年生になって初めて読んだ司馬遼太郎の本です。新選組とか歴史に興味があったのですが、当時の京都の様子がわかり、主人公の土方歳三の生き様が本当にかっこよくて感動しました。
『φは壊れたね』
『すべてがFになる』
森博嗣(講談社文庫)
最初に読んだのが『φは壊れたね』で、叙述トリックがすごかったんです。それからずっと森博嗣さんを読んでいます。すごく好きな作家さんです。
『ひきこもりの弟だった』
葦舟ナツ(メディアワークス文庫)
この作家さん自体は知らなかったのですが、主人公の心情が細かく書かれていてラストのオチがすごく衝撃的で、改めて後で考えると「このラストで正解なのかもしれないな」と思うような話です。1日で読み終えたすごくおもしろい話です。
『ぼくらの七日間戦争』
宗田 理(角川文庫)
私が本好きになるきっかけを作ってくれた本です。小学校のときは字を読むのが苦手だったのですが、図書館でたまたまこの本を見かけて読んでみたら、自分と学年が近いしストーリーの展開がおもしろかったんです。「本ってこんなにおもしろいんだ」と思いました。
『ぶらんこ乗り』
いしいしんじ(新潮文庫)
三田学園の入試でこの本の抜粋が出題されていたんです。続きがずっと気になっていたのですが、中2になったときの担任の先生が、教室にこの本を置いていてくれていて、読んでみると「これ、もしかして受験の時に出た問題では?」となりました(笑)。モヤモヤが解決されて感動しました。担任の先生に感謝です。
『博士の愛した数式』
小川洋子(新潮文庫)
初めて本で泣きそうになった作品です。本で感動して泣くことがほとんどなかったので、「本で感動して泣けるんだな」と思いました。
登録文化財を大事に使う図書館
生徒には「何だろう?」と思う気持ちを大切にしてほしい
登録文化財で天井の高い記念図書館でゆっくり読みたい生徒と、新しいコンクリートの建物の情報棟図書閲覧室が好きな生徒がいて、好みによって使い分けられるのがいいですね。通常は学校図書館と言うと新しい建物が多いと思うのですが、本校では貴重な登録文化財を大事に利用しているところもいいと思います。外観の写真だけ撮りに来る方もいらっしゃいますし、文化祭では図書委員が案内します。文化財使用に制約はありませんが、木は傷んできますから大事に使わないといけませんし、照明器具が傷んで修理がきかない状態になったので、明るいLEDに替えました。
本校では、教職員も生徒も本のリクエストを受け付けています。それ以外は選書資料などから選びます。普通のマンガ本は置きませんが、文学全集や難しい本の入り口になるようなマンガを集めた「マンガで読破」のコーナーを作りました。卒業生から寄付があって貴重な本をいっぱい頂いていることも特徴です。整理がなかなか追いつかないほどです。
生徒には「あれは何だろう? これは何だろう?」と思う気落ちを大事にしてほしいと言っています。本の中で、例えば宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を読んで、いろんな天体や鉱石や化学反応の話が出てきたときに、「これ、どんな赤だろう?」と思って調べる。そういう何かを調べようと思ったときに調べられる図書館でありたいと思います。
中学生には難しい本も置いていますが、「これは何だろう?」と思って図書館で見ていたら、大学に行ったときにその記憶があれば探せます。卒業生からときどき電話がかかってきて「あそこにあった本は何ですか?」と聞かれることもあります(笑)。そういう利用の仕方をしてほしいですね。自分の好みで選んだ作品だけにとどまらず、そこからいろいろ興味を広げていけるような読み方をしてほしいし、学校の図書館としてそれを手伝っていきたいとも思います。