プロ棋士養成機関である奨励会員も、中学生・高校生の大会で好成績を残す部員も、中学で将棋に触れた初心者も揃う甲南高等学校・中学校の将棋部。2000年で部になって以来、部員や卒業部員による後世代へのアピールや学校からの将棋に打ち込むための環境支援、各大会での好成績によって注目を集めるクラブに成長してきました。毎日放課後は中高合同で練習を続け、春・夏の各休暇中には3泊4日の合宿も行うなど、精力的に活動している甲南将棋部。その魅力を、部員と先生の言葉で紹介します。

甲南将棋部プロフィール

2017年11月現在
歴史 同好会:1985年~ 学校公認クラブ:2000年~
部員 高校15人<プロ棋士養成機関 奨励会員4名含>
高3:5人 高2:7人 高1:3人
中学13人
中3:3人 中2:7人 中1:3人
目標 高校:団体・個人で全国優勝(8月全国高校選手権=個人・団体 8月全国竜王戦=個人、1月全国新人戦)
中学:団体・個人で全国出場(8月文部科学大臣杯中学団体戦、同月全国中学選抜(個人戦)
2017年度の戦績 兵庫県高等学校将棋選手権大会 男子団体戦 準優勝
兵庫県高等学校将棋選手権大会 男子団体戦 ベスト8
兵庫県高等学校将棋選手権大会A級個人戦 優勝
兵庫県高等学校将棋選手権大会B級個人戦 優勝
第30回高校竜王戦A級3位
第30回高校竜王戦A級5位
部員に聞いた! 甲南将棋部と将棋
Question & Answer

部員に聞いた!

甲南将棋部と将棋

吉田くん[高校2年・部長・アマチュア初段] 服部くん[高校2年・副部長・アマチュア初段]
松本くん[高校2年・マネージャー・アマチュア初段] 山道くん[高校3年・アマチュア四段] 小路くん[高校1年・アマチュア三段]

Q.甲南将棋部の良さは?

先輩後輩の仲がいい。一緒に次の手を考え、
勝敗抜きに戦法を試して棋力向上

吉田くん 将棋の塾では将棋をするだけですが、将棋部は先輩、後輩を通じて将棋以外のこともたくさん学べますし、合宿や遊びを通じて先輩や後輩の仲がいいんです。普段は厳しくないですが、上下関係もちゃんとするところはちゃんとしています。
服部くん 道場や将棋会館で将棋を指すと、級や段位が上がることを目標にしますが、甲南の将棋部は自分の試したい戦法を勝敗抜きにして試すことができるんです。それは棋力向上にとって重要かなと思います。
松本くん 対局している人たちだけではなく、そこに集まってきた人たちと一緒に次の手を考えたり、相手の手を考えたりして、一番いい手を探して指していく楽しみも将棋部にはあります。それも部活ならではだと思いますね。
山道くん 僕は高校1年で奨励会をやめ、そこから甲南将棋部の部員として高校生のアマチュア大会に出場しています。特に団体戦は、仲間と楽しく指せて面白いですね。個人では好成績を目指して研究して頑張ることができます。
小路くん 小学校のときは部活に将棋部がなくて、先輩と考えながら将棋を指すということはなかったんです。甲南で将棋部に入って、そういう先輩や後輩ができたことが嬉しいし、楽しいです。

Q.将棋の面白さや成長できるところは?

決断力、イメージ力、先読み力がつく将棋。
自分の狙っていた手が決まったときはたまらない!

山道くん 将棋の場合、負けはミスをした自分の責任ですが、勝ちも自分が頑張った成果なので勝つとすごく嬉しいです。だから努力が苦になりません。将棋は時間が短くなればなるほど、わからないままでも決断しなければいけないので、そのための精神力はかなり鍛えられていると思います。
小路くん 相手が「こうしてくるだろう」という大まかな見通しを立てて指し、それが想像通りにきて自分の用意していた手が決まったときは、「やった!」と叫びたくなります。 将棋を続けてきて目に見える形での変化は、数学の成績が上がったことですね。数学は計算能力や解き方のイメージが必要で、将棋と共通するところがあるんだと思います。
吉田くん 相手を詰ませた時の爽快感や、自分が狙っていた手が決まった時が、将棋はたまりません。将棋では、相手のことやその先がどうなるかを考えますから、私生活でも「これをすると相手がどういう思いになるか」とか、「これをやったら、こうなってしまうな」とか、物事の先を深く考えることができるようになりました。
服部くん 将棋の面白さは、知らない相手と指したときに、そこで交流が生まれることです。指している間に相手と思考が一致すると、楽しさを感じます。将棋は勝ちが見えて気持ちが高揚したときに軽率な一手を指すと一気に崩れるので、指す前に一度立ち止まって、自分の中で先をよく考えた上で指すようになりました。その癖が普段も行動を起こすときにも出ています。
松本くん 対局で勝った時は嬉しいですね。将棋は「勝った」とわかる時点があり、そこから勝った気分を噛みしめながら指していられるんです。でも、それを態度に表すと相手に失礼になるので、感情を抑えて相手を思いやることが心の成長にもつながります。

Q.初心者が参加しても大丈夫?

心配無用! 先輩の指導と
同級生との練習で自然に力がつく

吉田くん 僕も中学から、仲のいい友達が入ったという理由だけでルールも知らずに入部しました。心配はいりません。ルールは知らなくても自然に覚えていけます。
松本くん 僕も駒の動かし方を知っているくらいでした。自由な相手と対局していいとき、同級生とやっていたら楽しくて自然に力もつきますし、先輩とやったら細かい指導もしてもらえます。

PHOTO GALLERY

将棋部の練習場所になっている教室では、机が数列並び、部員たちが静かに対局を始めていた。高校生同士、中学生同士で指す者もいれば、後輩を指導しながら指している上級生もいる。奨励会員同士が指し合う様子が見られるのは、甲南将棋ならではの部活風景だろう。
盤上を黙って見つめ、考えた一手を指したと同時に対局時計を押す。自分の持ち時間を計る時計は、将棋の大会でも必需品で時間配分や時間感覚を身につけることも棋力向上のための大切な要素だという。練習中の寡黙で真剣な様子には圧倒されたが、休憩時間になると学年問わず楽しく談笑する姿が見られ、落ち着きを放っていた部員たちは一気に普通の中高生に戻った。

奨励会メンバーに聞いた!

甲南将棋部と将棋

※奨励会:日本将棋連盟のプロ棋士養成機関。

後輩指導も部活らしい楽しみ
みんなで鍛え合い、部全体を強く!

藤井くん[高校3年・奨励会四級]
藤井くん[高校3年・奨励会四級]将棋は、小学校3年生からやっています。高校に推薦で入学し、将棋部に入りました。甲南の将棋部は、レベルが高くて、奨励会に所属している人が日本で一番多い学校ではないかと思います。棋力を上げるためにはとてもいい環境です。初心者の部員もいますが、教えることも部活での大切な役割だと思っています。将棋はコミュニケーションをはかるためのいいツールになります。集中力や忍耐力もつくし、人脈が広がるきっかけにもなりました。将来はどんな形でもよいので将棋に携わる仕事か、将棋を海外に広める仕事に就きたいと思っています。
森本くん[高校1年・奨励会一級]
森本くん[高校1年・奨励会一級]中学から甲南の戦績を生かした入試を利用して入りました。将棋は、小学校1年生からやっています。将棋部の良さはにぎやかなところで、うるさすぎるぐらいです(笑)。将棋は言葉がなくてもできるところがいいですね。記憶力も上がったと思います。将来は、プロ棋士を目指して、もっと研究して成長していきたいと思います。
横山くん[高校3年・奨励会三段]
横山くん[高校3年・奨励会三段]将棋は、小学校1年からやっています。将棋部は、奨励会員の部員だけでなく、アマチュアの部員も強くて、部全体が強いところが良さです。みんなで鍛え合っている感じですね。将棋が体に染みついているので、将棋に関することを考えることが楽しいです。プロを目指しているので、練習のプレッシャーや大変さはありますが、将棋を続けてきたことで挨拶や礼儀が身についたと思います。

中学生部員に聞いた!

甲南将棋部と将棋

先輩とも対局でき、困らせることも、
勝つこともできるのが将棋の面白さ!

古川くん[中学3年・アマチュア七級]
古川くん[中学3年・アマチュア七級]将棋部は先輩と後輩の壁があまりなく、フレンドリーに接することができる部活です。先輩とも後輩とも指せることも楽しいです。将棋については入部してから先輩にいろいろ優しく教えていただきました。将棋は奥深く、ひとつの場面をとってもいろんな手があって、良い手も悪い手もすべてつながっていくところが面白いです。次の手を考える時は集中しないといけないので、集中力は鍛えられました。
萬谷くん[中学3年・アマチュア八級]
萬谷くん[中学3年・アマチュア八級]将棋は相手を困らせることができたとき、すごく面白いです。対戦では、先輩を困らせることもできるんです。僕は初心者で、最初は負けてばかりでしたが、同学年の経験者や先輩たちに教えてもらって、中1の夏にはルールを覚えて指せるようになっていました。初心者にも将棋は楽しいと思います。将棋を始めて、周りや相手のことを考えながら行動できるようになったところが成長したかなと思います。
古川くん[中学3年・アマチュア七級]
小野くん[中学2年・アマチュア一級]卒業した兄が将棋部員で、聞いていた将棋部のイメージが良かったので入部しました。将棋は小学1年からやっています。部活では、先輩にも教えてもらえますし、いろんな人を相手に将棋ができます。そんな場所はあまりなく、先輩に勝てることもあって楽しいです。将棋は先まで読む必要があるので、普段の生活でも先のことを考えられるようになってきたように思います。
Teacher Interview

話さなくても
コミュニケーションできる将棋
強さも弱さも大事にしたい

甲南高等学校・中学校 将棋部顧問
<アマチュア三段・国語科教諭>
塩見恵介先生
小学校1年生で、父親から将棋を教わり、5、6年生では道場に通う。甲南高等学校・中学校出身だが、在校当時は将棋部がなく、ブラスアンサンブル部に在籍。当時の将棋同好会の試合には、借り出し応援という形で参加していた。その後、甲南大学で将棋部に入部。甲南高等学校・中学校に教員として赴任した1997年より将棋同好会顧問を担当、2000年よりクラブになった将棋部の顧問になる。

生徒の活躍で部に昇格
めずらしい学校の優遇措置も

― 1985年から続いていた将棋同好会が、2000年から将棋部になったきっかけは何ですか。
塩見先生 1997年に入った部員たちが高校生になった時に全国大会で団体3位になったんです。それで学校も「部にしようか」ということになりました。その後、卒業したメンバーの1人が関西の将棋会館でアルバイトをしていて、強い子がいるたびに「甲南はどう?」と声をかけてくれていたんです。そういう子が1人入学して、また下の学年の強い子を呼んできて…というようにつながっていき、今のクラブの形が出来上がっていきました。
― まさにスカウト方式ですね。
塩見先生 経験者同士の口コミは大きいと思います。将棋である程度強くなっても進む道に悩む子が多いのですが、本校には奨励会に参加する際の公認欠席制度があって、将棋をやっている子の保護者に広まっています。実は、将棋で優遇措置をしている学校はあまりないんです。そういうところが理解されているのかなと思います。
― 部員たちが言っていた将棋の推薦入学とはどんなものですか。
塩見先生 本校の中学入試には「Ⅰ期b方式」があり、スポーツや文化・芸術活動で優れた成果を上げている者に資格があります。何でもいいわけではなく、実際は有段者であるとか、関西の大会などの戦績を見て判断させてもらっています。高校も同様の形ですが、中学校の校長が推薦してきた生徒をこちらで審査するという形です。気になった方は相談いただければと思いますね。
― 確かに将棋部でそういう制度があるのはめずらしいですね。
塩見先生 そうですね。ただ、生徒たちは学校を休んでいたら勉強が遅れてしまいますので、自分で勉強して、ある程度の成績はきっちり取るという自覚が前提になります。
Teacher Interview
部室に飾られたたくさんの表彰楯。

弱い生徒も初心者も
居心地が良いクラブに

― 将棋部の顧問として大事にされていることは何ですか。
塩見先生 将棋部のように勝負で白黒はっきりするクラブは、「誰とやっても勝てない」となる弱い子から辞めてしまいがちですから、弱い生徒も初心者の生徒も居心地がいいクラブである事だけは、気をつけていますね。例えば団体戦では意図的に強い子と弱い子をペアにすると、強い子は自分が勝ちたいから弱い子を戦力にするべく教えます。一手交代のペア将棋でもそういうペアを作っておくと、強い子は弱い子に次の手がわかるような手を指してくれるんです。それから出場する大会は適正なものを選ぶようには気をつけていますね。強豪ばかりが出る大会に初心者を入れても意味がないので、「このくらいなら適正である」という大会を探してすすめます。
― 確かに勝てる喜びは大きいですね。甲南の将棋部には奨励会員から初心者まで幅広い技術を持った部員がいますが、統率される大変さはないですか。
塩見先生 それはないですね。自分も将棋好きで、部内で10位に入るかどうかくらいの実力なので、部員たちと一緒に将棋ができることをありがたいと思っているぐらいです。勝っても負けても、授業とは一切関係ありません。中には生徒に負けてはダメだと指さない先生もいらっしゃいますが、僕は一緒に指します。僕に負けたら「調子が悪い…」と嘆く生徒もいますが、それはそれでいいかなと思っています(笑)。
― そんな甲南将棋部の強みは、先生から見て何だと思われますか。
塩見先生 誰とでもフレンドリーになれるところかもしれません。例えば、兵庫で有名な超進学校は将棋でも強豪校ですが、本校の生徒は平気で近づいて行って「一局やろう」と言いますね。他校の生徒とも大会を開いていて、何年か前に当時の副部長が主催した大会には、他校の女子生徒も含め100人くらい集まりました。そういう人集めが、うちの部員はうまいです。甲南の将棋部は、将棋より将棋大会の主催者をやった方がいいかもしれません(笑)。
― 公式な大会も1年間にたくさんあるようですね。
Teacher Interview
撮影用に部員たちと一緒に駒を並べてくれた塩見先生
塩見先生 そうですね。高校だと全国大会の県予選が個人・団体合わせて年に4回、中学なら2回あります。やはり好調・不調があるので、大会にどう自分のピークを持っていくかを考えているようですが、それも大事なことですね。部員の山道くんは奨励会やめ、今は「全国大会の有名人にどう勝つか」を考え、今まで作ってきた自分の価値観を全部壊して新しい戦法にチャレンジしています。「相手の苦手はこのあたり」とデータを調べて、コンピューターなども使って大会までの2ヶ月間は徹底的にそればかりを練習しているようです。そしてこの前の全国大会で思い描いていたライバルに勝ちました。上のレベルになるとそこまでやるんだということを、僕が教えてもらいましたね。やはり強い生徒は大会の2、3か月前からスケジューリングして備えていますし、それは立派だなと思います。
― そういう意識の高い先輩を見て、後輩も育つわけですね。
塩見先生 そうですね。僕もあんな先輩がいたら、もう少し強くなったかもしれないと思いますね(笑)。それに奨励会員は、全国で何人もいるものではなく、西日本は名古屋から九州の中で数十人です。僕らが子供の頃は、奨励会員は神みたいな存在で、道場なら対局するのに指導料も払わなければいけないんです。でも、中1の部員はわかっていませんから「先輩、指しましょう」と言って相手をしてもらっています。部活だから得をしているなと思いますね(笑)。
― 奨励会員の皆さんも、学校では一人の先輩なんですね。
塩見先生 そうなんです。嫌がらずに指導してくれるので、それはありがたいです。憧れの存在なのに、合宿では食事のとき「これ食べられないから食べてくれ」と後輩に頼んだり(笑)。そういうつながりも大きいですね。
Teacher Interview
学校図書館内には将棋関連の特設や将棋コーナーも

強くなくても、
強くなる努力をする雰囲気を持った将棋部に

― そんな将棋部で身につくことは多そうですね。
塩見先生 本校の他の先生に教えてもらって最近気がついたことがあります。大体、男の子は提出物がルーズで遅いのですが、将棋部の部員は意外とスムーズに提出します。その先生には、「将棋部の生徒は時間の使い方がうまい」とも言ってもらいました。将棋には持ち時間があって、対局の最後まであと何秒と考えながら指していきますし、大会までの将棋の研究時間と学校の勉強時間を自分で調整したりもしているでしょうから、日常の中でもある程度先を読む癖が無意識についていくのかなと思います。量と時間を考えたスケジューリングがうまくなっていくんですね。
― 今後の将棋部の目標を教えてください。
塩見先生 全国大会に行ってくれたらいいですね。ただ、強さだけを目標にしていると、学校のクラブとしてはもったいないなと思います。将棋はしゃべらなくてもコミュニケーションになりますから、話が苦手な子にもぴったりですし、ある意味で居場所がない子にとっても将棋部は合うところがあります。それに、地域のボランティアで小さい子やお年寄りの相手に行くこともできますし、使い方がいろいろあるんです。もちろん部として弱かったら注目もされず、相手にもしてもらえないので、ある程度強いことは大事だと思いますが、強くなくても、強くなる努力をする雰囲気はいつまでも持たせたいと思います。