帝塚山中学校 高等学校の数学研究部は、コンピュータ・グラフィック(CG)や動画の制作、プログラミングをしてオリジナル・ゲームを作るなど、コンピュータを使って創作活動をすることを目的に活動するクラブです。情報オリンピックやパソコン甲子園での入賞、CGコンテストへの応募など明確な目標を掲げての活動以外にも、文化祭で共同作品を制作したり、夏には全員で合宿を行ったりと部員の交流も活発。先輩後輩の結束力の高さも自慢です。最近では各大会での活躍で、校内でも高い注目を集める数学研究部を取材しました。
- プログラミング班と
CG班で活動! - ゲームを作るためにプログラミングをしたり、情報オリンピックやパソコン甲子園(プログラミング部門)といった競技プログラミングの大会で上位入賞を狙って課題に挑戦するプログラミング班。女子が多いCG班は、コンピュータで加工、編集、製作したCG作品でパソコン甲子園(CG部門)や大学主催のコンテストへ応募するなど、それぞれが高い目標を持って取り組んでいる。
- 合宿で
コミュニケーション! - 個人での制作が多い数学研究部だけに、大切にされているのが部員同士のコミュニケーション。同学年だけでなく、先輩や後輩ともお互いを刺激し、尊敬し合う仲へと成長していく。毎年夏には、部員主導で企画する合宿を行い、仲間としての団結をさらに固める。
- 大会やコンテストで
帝塚山数研部が躍進中! - パソコン甲子園2017のプログラミング部門で全国5位、CG部門で優秀賞。情報オリンピック2017/2018本選Aランク。埼玉工業大学第12回13回CGコンテスト最優秀賞。
部員たちの挑戦が、確かな結果に結びついている数研部では、先輩の活躍を見て後輩も触発され頑張るスパイラルができつつある。
日本情報オリンピック
https://www.ioi-jp.org/ パソコン甲子園
http://web-ext.u-aizu.ac.jp/pc-concours/
全学年の部員数
50名[中1:14人、中2:5人、中3:4人、高1:12人、高2:10人、高3:5人]
練習日
月、水、木、土
目標
パソコン甲子園、情報オリンピック、学外コンテスト
I.S.さん
高校1年・女子英数コース/CG班
O.M.さん
中学3年・女子英数コース/CG班・中学部長
O.W.くん
高校2年・男子英数コース/プログラミング班
K.G.くん
高校1年・男子英数コース/プログラミング班
O.T.くん
高校3年・男子英数コース/プログラミング班
― 数学研究部への入部理由や部の良さを教えてください。
- I.S.さん
- 私はアニメが好きで、部活紹介の時にそういう要素が見えたので「おもしろそう」と思って入部しました。最初は不安でしたが、だんだん絵を描くことが大好きになっていって、楽しくてやめられないです(笑)。数学研究部という名前が堅苦しいですが、和気あいあいと活動しているのがいいところです。
- O.M.さん
- 他の部に比べて先輩・後輩、男女の仲はすごく良く、アットホームです。私はもともと絵を描くのが好きで、ペンタブを使って絵を描けることを知って入部しました。好きなことを突き詰められるし、好きなことをずっと続けていられるのがすごく楽しいです。
- O.W.くん
- 数学研究部は、男子が中3からしか入部できないんです。僕はもともとコンピュータやプログラミングに興味があったので、中3ですぐ入部しました。女子が多いイメージでしたが、入部したら肩身が狭いわけでもなく、仲も良くてやりやすいです。環境も整っていて、クラブ専用のパソコンがあったり、学校のコンピュータ室のパソコンも使えたりして、プログラミングを十分にできます。
- K.G.くん
- この部活は自由で、ルールや行事を全部生徒が計画して実行していきます。例えば合宿の行き先も多数決で決めるんです。個人のやりたいことや意見が反映されるところもいいですね。
- O.T.くん
- 僕は友達から「ゲームを作れる部がある」と聞いて、入部しました。最初は、プログラミングをやってみたいけど、何をどうしたらいいのかもわからないという感じでしたが、この部は、大会を目指したり、絵を作ったりという目標が決まっていて、そのためのやり方を先輩から教わることができるんです。そこが良さでした。
― O.T.くんは、いろいろなプログラミング競技大会で大活躍ですが、競技大会に参加する面白さはどこにありますか。
- O.T.くん
- 僕は数学が好きなのですが、競技プログラミングはプログラミングで問題を解いていくスタイルなので数学と似ているんです。やっぱり解けると嬉しいし、クラブ内で競技プログラミングをしている人が多いので、その人たちと競えることも面白いです。日本代表候補の合宿にも参加できたのですが、そこでも違う分野をやっている人と話し合え、知らない知識がどんどん増えていくことが楽しかったですね。
― O.W.くんは「パソコン甲子園2017」のプログラミング部門で新人賞を受賞していますね。
- O.W.くん
- 大きな大会は、自分の実力に気づくことができます。出場できたら嬉しいから、それ以降も頑張ろうと思えるし、自分を高めていけますね。 それに「パソコン甲子園」は2人組で挑戦したのですが、もう1人が根幹のプログラムを書いて、それを僕が修正していったので、協力し合えた手応えがありました。普段の活動でも結構話し合うことは多いんです。プログラミングは家でもできますが、協力し合っての作業はなかなかできないので、そこも数学研究部の利点だと思います。
― I.S.さんは、埼玉工大のCGコンテストで最優秀賞を受賞しています。
- I.S.さん
- CGの場合も、コンテストが自分の絵の実力を知る良い機会になってきます。CGで絵を描くと、自分の絵の下手さを思い知らされますが、数学研究部では後輩が先輩を目指して頑張るし、先輩は後輩から刺激を受け、同級生に対する驚きもあって、お互いに切磋琢磨し合う関係があるんです。その中で自分の絵のクオリティを高めていくと、自分の成長を感じられるし、絵を描くことがより楽しくなります。
- O.M.さん
- 先輩みたいにうまく絵が描けるようになりたい!という一心で絵を描いています(笑)。憧れる先輩も多いです。
― 先ほどコンピュータ室では部員それぞれが自分の画面に向かって夢中になっていましたが、CG班とプログラミング班の共通部分はどこになるのですか。
- I.S.さん
- 西川先生からは、部内では挨拶をきっちりしなさいと言われます。数学研究部が基本、個人作業ということはみんなわかっているので、その中で、できるだけみんなで仲良くしようという考えです。合宿や学園祭も部員が主体ですから、男子と女子、違う班ともつながっていけるし、自然とまとまっていきます。
- O.W.くん
- 学園祭では、プログラミング班が作ったスロットのゲームを展示するのですが、スロットで流れる絵は、CG班に描いてもらったもので、協力して団結して作り上げるんです。
― 授業用のアプリケーションを作るなど、先生のお手伝いをすることもあるそうですね。
- K.G.くん
- 英語の授業で、英語を表示した後に日本語を表示するスライドで練習していたんです。それを作るのに時間がかかって大変だと先生が言っていたので、プログラムでやったら簡単にできると思ってやりました。
― 皆さんすごく楽しそうですが、数学研究部は自分にとってどういう場所ですか。
- I.S.さん
- 家にいるときと同じくらいリラックスできる場所です。授業が終わったら早く部活に行きたいと思います。体調不良になれば、「行きたいのに私の体はなぜこんな状態!」と思いますし、指をケガしても「早く描きたい!」とずっと思っていました。それくらい大好きな場所ですね。
- O.M.さん
- 定期考査前の1週間は部活がなくなるんです。その期間がつらいですね。自分にとって大事な場所になっています。
- O.W.くん
- ゲームや競技のプログラミングのアイデアが浮かんだら、それを早く形にしたい、早くプログラムを書きたいと思ってしまうんです。僕も、早く授業が終わって部活に行けたらとよく思いますね(笑)。
- K.G.くん
- 僕にとっては授業を受けて疲れたあとにリラックスできる場所です。授業の疲れが一気に消えます(笑)。
- O.T.くん
- 時間を忘れてしまう場所です。高校3年生で受験生なので、あまり部活に行くのはよくないのですが、10分くらいと思っても1時間半経っています(笑)。
― 今の活動を将来につなげたいと思いますか。
- O.T.くん
- 僕は数学が好きなので、中学の頃は理学部・数学科を出て数学の先生になりたいと思っていました。でも、このクラブに入ってプログラミングに出会えたので、大学は工学部・情報学科を目指しています。将来は大手の企業でプログラミングに関わる仕事がしたいですね。
- K.G.くん
- 僕はプログラムをできるエンジニアになれたらいいなと思っています。
- O.W.くん
- コンピュータやプログラミングに興味があるので、そういう分野に行きたいです。
- O.M.さん
- 具体的ではないですが、せっかくこうして中1から描いてきたのだから、大人になっても描き続けられたらなと思います。
- I.S.さん
- 私は部活に入るまで、アニメを見るとか絵を描くのは趣味の範囲だと思っていたんです。でも、数学研究部でパソコンで絵を描く楽しさを知り、イラストレーターやCGを作る仕事につきたいと思い始めています。まだ迷っていますが、先輩たちの話を聞いて、自分の道を決められたらいいなと思います。
西川和宏先生
数学研究部顧問 中学:技術科/高校:情報科
― CG班とプログラミング班がある数学研究部ですが、活動で目指すところはどこになりますか。
- 西川先生
- コンピュータを使ってものを作ることが目的のクラブです。その目的から外れていなければ、部員が何かをしたいと申し出てきたときは許可を出すようにしています。ただ、誰もやっていないことをやり始めるときは、かなりの覚悟を持ってやるようにとは言いますね。自分で開拓していかなければいけないので。
― 普段の活動は、各自の好きなことをコンピュータを使ってやるのですか。
- 西川先生
- 今のところ女子ばかりのCG班は、大会によって決まったタイトルがあればそれに沿って描きますが、普段は自分の好きな絵を描いていますね。たまにプログラミングに移っていく生徒や両方やる生徒もいます。プログラミング班には男子も女子もいます。ゲームを作りたいと入部してきますので、「こんな大会があるよ」と誘って、基本全員を競技プログラミングの大会に挑戦させます。
CGコンテストで優秀賞を受賞した部員の作品
パソコン甲子園2017プログラミング部門5位に入賞
― 大会やコンテストに出場する意味は大きいと思われますか。
- 西川先生
- そうですね。特にCGはコンテストに出さずに描いているだけだと、趣味で終わってしまいますから、「コンテストで入賞する」という目的をはっきりさせたいと思っています。目標はクラブ活動である限り絶対に必要ですね。
― 個人的な作業になりがちな数学研究部ですが、共同制作や合宿もあるなどクラブ活動としてのまとまりや交流を重視されているのはなぜですか。
- 西川先生
- 以前は部員が個人個人でやっている状態だったのですが、クラブの顧問になって2~3年経ったときに、「このままではクラブの成長はない」と思ったんです。やはりクラブ内で僕が見られる範囲は限られていますし、教えた部員が卒業して終わり。それを繰り返すだけになっていたんですね。生徒同士が教え合う環境を作らないとクラブとしての成長はない、そのためには生徒の人間関係を作ることができるクラブにしようと考えました。 うちの部は、人づきあいの苦手な生徒が入ってくることが多いんです。そういう生徒たちが人間関係を作れるように、合宿やクリスマスパーティなどで部員同士が交流する機会を増やしました。そうするとそこでできた人間関係で、ものすごく学ぶものが多くなっていったんです。
― 部員の皆さんは大好きな場所だと言っていましたが、学校に居場所があるというのはいいですね。
- 西川先生
- まず僕がいて気持ちいいですからね(笑)。部員たちに会うのが楽しみで、早くクラブに行きたいんです。
― 数学研究部の一番の魅力はどこだと思われますか。
- 西川先生
- さっきの部員へのインタビューを聞いて、僕の思いが通じているなと思ったところは「居場所」になっているということですね。これは一番嬉しいです。そんなクラブを作りたいと思って、顧問を始めたんです。 実は僕、本校の卒業生で、数学研究部の部長だったんです。もともとは数学を研究するクラブでしたが、僕の時代にはすでに数学はどこかに行って、コンピュータを扱うクラブになっていました。当時はコンテストや大会に出ることはなく、コンピュータ好きが集まって、放課後に和気あいあいとしているクラブでした。僕はあまり学校が好きではない時期があったのですが、このクラブに入ったことがきっかけで学校が好きになったんです。ここに自分の居場所ができたんですね。そういう経緯があって、この学校に戻ってきたときも、「自分と同じような思いをしている生徒に居場所を作ってあげたい」と顧問を願い出ました。
― 西川先生の思いが形になってきたわけですね。
- 西川先生
- そうなんです。生徒たちもすごく頑張って、うまく軌道に乗ったんですよ。もし、これが野球部だったら、クラブのおかげで学校を好きになり教師を志した生徒がいて、母校に戻ってきて甲子園まで勝ち進み全国5位!ドラマになりそうでしょ。でも、これがコンピュータだと、いまいち格好がつかないのが悔しいです(笑)。
― でも、まさに生徒たちの居場所として大きな存在になっています。
- 西川先生
- 自分の表現が苦手な子が多いのですが、本当は自分を表現したいとか、周りの人の役に立ちたいという思いがあって、それがプログラムや絵を描くことで実現できる。そんな居場所になっていると思います。
― 軌道に乗ってきたからこそ、今後数学研究部でやっていきたいことはありますか。
- 西川先生
- ある程度クラブが成熟してきた状態で、彼らの目標が先輩になってしまっているんです。でも、それではクラブとして成長していかないという話は最近よくしていますね。先輩をどんどん超えていくようなクラブになっていってほしいと思います。