日本プロゴルフ協会(PGA)公認トーナメントプロ。
YouTubeでゴルフチャンネル「MY GOLF」で、ゴルフYoutuberさしみとしても活躍している。
YouTuber名「さしみ」は、留学時代に呼びにくい日本名以外の名を考えてつけたもの。
「まさし」の「さし」と海外でも誰もが知っている「さしみ」から。
当時も今もインパクトは抜群!
楽しかった学校生活
先生が僕ら一人ひとりを
じっくり見ていてくれた
― まずは、甲南中学校を目指した理由を教えてください。
上村さんゴルフ部があったからです。当時は中学校でゴルフ部のある学校は甲南の他には少なく、部活がある方が試合に出られます。それが甲南を志望した一番大きな理由でした。
― ゴルフはいつ頃から始められたのですか。
上村さん小学校5年生のときです。ゴルフが好きな父の影響で、練習場に連れて行ってくれたことが始まりでした。僕自身は、親が好きだから続けていたというのが本音です(笑)。
ただ、小学生の時にサッカーも習いましたが、個人競技であるゴルフの方が大きなツアーで優勝するなど夢があるし、自分主体のスポーツであるところに魅力を感じてゴルフを選びました。
― 甲南中・高でのゴルフ部の思い出は?
上村さん合宿の思い出が強いですね。朝陽が登る時間からキャディーバッグをかついでコースを2ラウンドくらいして、あとは練習。練習後は部員のみんなと夜遅くまで卓球に夢中になり、先生に怒られたことも良い思い出になっています(笑)。先輩も後輩も仲が良く、上下関係の厳しさは全然ありませんでした。
今は施設が整っているようですが、当時は球を打てる場所が校内の限られたスペースしかなかったので、部活では走ったり簡単な筋トレをやったりして、部活後に親に練習場に連れて行ってもらっていました。
中学ではなかなか活躍できませんでしたが、高校では阪神支部大会、県大会、関西大会、全国大会に出場しました。当時の目標は、全国大会に行って好成績を残すこと。部活にも試合で結果を残したいという子は少なからずいたので、仲間とラウンドを回って腕を磨きました。
― 甲南中・高での普段の学校生活での思い出は?
上村さん真っ先に出てくるのが、高2の北海道への修学旅行です。仲の良い友達で班を組めて行動ができたことが楽しかったですね。ゲームを持っていったことがばれて先生に怒られたのも、今となってはいい思い出です。
僕たち生徒は、先生に怒られるのが好きだった気がします(笑)。先生との距離感が近く、怒ってくれるのも僕らのことを考えてくれているからだとどこかでわかっていました。大人になった今わかるのは、先生が僕ら一人ひとりをじっくりと見ていてくれたこと、感心を持ち続けてくれたこと、我が子のように育ててくれたことです。失礼ですが、友達に近い信頼感がありました。
学校は男子校だからこその楽しさもいっぱいあって、女の子がいないからこそ気兼ねなく騒いだり、冗談を言い合ったりすることが最高に楽しかったです。
― 今振り返ると、甲南らしさはどういう部分だったと思いますか。
上村さん礼儀正しさを軸に置きながらも楽しむところでしょうか。みんな明るいし、はっちゃけもするのですが、一定の規律は守っていたと思います。当時はやんちゃだった子も、今会うと礼儀作法はきちんとしていますし、中高を一緒に育った人たちは筋が通っている気がしますね。
学校として特に厳しいわけではないのですが、先生が良いタイミングで注意してくれたおかげだと思います。部活でも挨拶に関しては厳しく言われましたし、それは大人になってからも活きています。
ゴルフ以外の世界を見たい
留学で得た視野を広げる大切さ
― 甲南中高から甲南大学に進学されたのも、ゴルフが理由ですか。
上村さんそれが、大学ではゴルフではなく英語ができるようになりたいと思って、ゴルフは一旦やめて、マネジメント創造学部という留学や英語に特化した学部へ進学しました。
― 大学ではゴルフをしなかった?
上村さん話すと長いのですが、高校のころは自分の意志が100%ではなくて、「ゴルフをやってほしい」という親の期待に応えてゴルフをやっていたところがあったのです。でも全国大会で好成績は残せず、ゴルフしかできない自分もあまり好きではありませんでした。
また、高3のときに親友が数年間の留学から帰ってきたのですが、当然ですが英語を喋れるようになっていたことに感銘したと同時にショックを受けました。僕はというと、英語塾に通っていたから学校の成績もほぼトップでしたが、喋ることはできません。
それが僕の中で引っかかって、英語ができたら世界が広がるだろうと考え、ゴルフとは別の世界も見てみたいと考えるようになりました。
― そして大学2年の夏から1年間、カナダのビクトリアに留学されたわけですね。留学は上村さんの中でどういう体験になりましたか。
上村さん人生の中の一番大きな経験に入ると思います。自分の考えている世界の狭さに気づきました。日本では経験できないことが毎日起こるような場所だったので、固定概念にとらわれて行動していては絶対にいけないと思いました。世界にはいろんな人がいて、物事を決めつけることがいかにダメなことかを学び、極力自由な発想で物事を考える大切さを知ったので、今の自分がいるのだと思います。
― その後、プロゴルファーを目指されるわけですか。
上村さんそうです。帰国後就職活動を始めたのですが、そこで気づいたのは「僕は嘘をつけない」ということ。就職先が決まる人は、どこの会社でも「御社に一番入りたいです」と言わなければいけない。でも僕はそれが嫌で、かなり葛藤の時期でした。
その時に、僕の個性として正直に伝えられたのがゴルフだったんです。中高にゴルフの経験があると書いたらやっぱり興味を持ってもらえますし、嘘ではありません。留学をしている人は多いですが、ゴルフをやってきた人はなかなかいませんから、嘘がつけない自分にはやっぱりゴルフしかないと思いました。
これまで100%自分の意志でやっていたわけではないゴルフでしたが、そういう意味ではまだやり切れていないし、挑戦もできていませんから、もう1回ゴルフをやってみようと思ったのです。そこで就活は止めて、ゴルフ場の研修生契約を目指して動き出しました。
― 甲南大学の思い出は留学と就職活動ですか。
上村さん卒業前には大学で奨励金を頂くことができたのでそれを利用してヨーロッパを旅することを決意しました。カナダ留学でヨーロッパに住む友達がたくさんできたので、その友達を訪ねて行って泊めてもらいながら12か国を2,3か月かけて回りました。そのときにしか見られない景色を見ることができたし、友だちとの絆も深まりました。
― 個人競技が好きとのことでゴルフを選ばれた上村さんですが、人とのつながりも大切にされていますね。
上村さん自分と違う経験をしている異なる価値観を持つ人の話を聞くのが好きなんです。僕の普通は相手の普通ではなく、相手の普通は僕の普通ではない。それを知ると世界の広さを感じます。YouTubeを始めたことも、狭い視野だと気づけなかったと思いますから、すべてが活きていますね。
つらかった研修生時代
プロになっても苦難の道あり
― 大学卒業後はゴルフの研修生になったのですか。
上村さん卒業してすぐにゴルフ場の研修生になりました。研修生と言うと聞こえはいいのですが、一番下の契約社員として、体力的にも精神的にも消耗するキャディー業務をしつつ、早朝と仕事のあとに陽が沈むまで練習をして、プロテストの合格を目指しました。
この期間は、とにかくしんどかったです。今思い返しても「よくやっていた」と思うと同時に、あの日に戻りたくないですね。ただ、「ここから抜け出してやる」と反骨精神を持っていたからこそ、プロを目指して頑張れたんだと思います。結果、研修生2年目のテストで合格しました。
― その後は順調ですか。
上村さんプロにはなれたのですが、研修生として所属していたゴルフ場にはすでにプロがいたので辞めるしかなく、練習環境を失ったことで成績不振になってしまいました。そのときに、甲南中・高のゴルフ部顧問の角(かど)先生に相談して、先生のおかげで北六甲カントリー倶楽部が練習許可を出してくれて、また練習や試合に専念することができるようになりました。
その後、成績が伸びてプロ3年目でチャレンジツアーに出られる機会が増えていきましたが、自分の思う通りに動かせないスポーツ特有のイップスという症状が出るようになりました。プロゴルファーには多い症状ですが、そのときはゴルフを諦めようかなと思いましたね。その流れの中でYouTubeをやろうかなと思い始めたんです。
― YouTubeを始めようと思ったきっかけを教えてもらえますか。
上村さんYouTubeは、いろんなきっかけがありました。一つは、僕がイップスになってゴルファーとしてどん底になっても応援してくださった僕のスポンサーの方々に恩返ししたいと思ったことです。自分のテレビ番組を持つのは無理ですが、YouTubeのチャンネルなら作れると考えたのです。
2つ目はプライベートで仲間とゴルフをしていたら驚くような瞬間がたくさんあり、そういう楽しい瞬間を自分の思い出としてただ映像に残したいな、と思いました。ゴルファーの人にそれを見せたら共感してもらえるし、面白がってくれるだろうなと考えたのです。
3つめが、人との出会いです。一緒にYouTubeをやっている元プロゴルファーの彼とはとても気が合いました。それで「YouTubeをやろうと思う」と声をかけると彼も賛同してくれて、2人なら心強いし始めてみようとなったのです。
― そして、ゴルフチャンネル「MY GOLF」がスタートしたわけですね。どのようなチャンネルにしようと思いましたか。
上村さん当初、レッスン動画はありふれていたので、試合経験のある僕らの経験を活かして、ラウンド途中のメンタル面に触れようと考えました。そこでラウンドしながらの実践的なレッスン動画と、僕らトーナメントプロのラウンド動画の融合的なものを配信しています。
― 多くの人に視聴され、頻繁に更新もされています。スタートから約2年ですが、手応えは?
上村さん誰でも始められると言いつつも、YouTubeは登録者が1000人いないと収益化ができません。動画制作に大量の時間とコストを割いても収入がゼロという期間が長かったのは誤算でした。1年経ってやっと収益化して、最初の1ヵ月の給料が5000円。でも、その時の5000円はものすごく嬉しかったです。
そこから今につながっています。チャンネルが成長するたびに収入は上がっていきますから、ようやく「やって良かった」と実感しています。
― 上村さんのお話を聞いていると、夢を諦めない強さを感じます。
上村さん夢や目標は、常に持ち続けることが大切だと思います。学生の頃は、それぞれ夢や目標を語っていましたが、社会に出ると、夢や目標がなくなってしまう人も多い。でも、小さい目標でも大きな目標でもいいのです。目標や夢を持っている人はやっぱり輝いています。
僕自身は親から「目標を持て、夢を持て」とずっと言われてきました。今となればそれが僕が頑張れる原動力だったと思います。僕の決断にはその時こそあれこれ心配して反対した家族ですが、結局気づけば背中を押してくれている。僕のことを誰よりも信じて支えてくれましたから、まさに心の支えです。そのおかげで常に目標を持つ大切さを実感し、今では目標を紙に書いて目に見えるところに貼って毎日見るようにしています。将来を夢見る子どもたちにも、目標をもってそれを目指して頑張ってほしいですね。
― 最後に上村さんの今の目標を教えてください。
上村さんプロゴルファーとしての目標は、レギュラーツアーに参戦できるシード権を得たいということです。加えて、男子ゴルフ界を盛り上げたいですね。他にもYouTubeでの知名度を活かして、アマチュアの方も楽しめるようなイベントをやっていきたいです。実はゴルフ以外にも目標は子どもの頃よりもたくさんあります。それに向けて進んでいくことを毎日楽しんでいます。