帝塚山中学校 高等学校では希望生徒を対象に課外活動「田んぼプロジェクト」を行っています。国営飛鳥歴史公園内のキトラの田んぼでの稲作体験に現地参加し、無農薬・無肥料の米を作る生徒たち。そこで得る体験は、学校の授業や勉強とは異なる感動や喜びを与え、生徒たちは多くの気づきを得るようです。2022年1回目となる田植えの様子とともに、貴重な体験に対する生徒と先生の声をお届けします。
課外活動の楽しさと学びが詰まった
「田んぼプロジェクト」
手と足だけでなく、服も顔も泥だらけになりながら、田植えに夢中の帝塚山生たち。田んぼの中でうまく動けなかったり、足を取られて転んだり、土の中に苗がしっかり立てられなかったりと四苦八苦している生徒が多くいましたが、皆が楽しんでいることだけは伝わってきます。カエルを見つけたと言って皆ではしゃぎ、泥の手形を友達の背中につけて大笑いする光景は、普段なかなか見られない生徒たちの様子でした。午後からは今日の感想を学年を超えたグループで話し合ったり、農家の方たちに質問をしたりと、体験だけで終わらず、しっかりと振りかえり、知識や経験として定着させる時間も設けられています。今はまだ小さい苗が並ぶ自分たちの田んぼ。次にこの場に来た時、そして最後の実食時に生徒はどのような想いを膨らませ、何を考えるのか。課外活動の可能性がたくさん詰まった「田んぼプロジェクト」です。
Tさん[高1]
体験しないとわからないことがたくさんある
私は中2から3回目の参加です。籔先生が面白そうなことを始めると知って、農業に興味があったので参加しました。都会から離れた自然豊かな場所で農作業ができることは、すごく楽しいです。ただ、個人的に毎回大変なのは稲刈りですね。とにかく重くて、担いで運ぶのが大変です。でも、実食させてもらったら、とびきりの美味しさで感動しました。昔の人がもっともっと広い土地を全部手作業でやっていたことも驚きです。
こうした体験は、実感できることがいっぱいです。田んぼも隣同士なのに柔らかい泥と硬い泥があり、温かい泥と冷たい泥もあります。田んぼにそういう個性があることは裸足で継に触れ、手で触らなければわかりません。楽しさとともに、体験しないとわからないことがたくさんあることを知りました。
Oさん[高1]
自分で1から作ることで知るありがたさ
私は籔先生から話を聞いても自分からは行動できなかったのですが、母が学生時代に田んぼに入ったときの楽しかった経験を話してくれて、自分もやってみようと思って参加しました。参加したら楽しくて、中2から3年間続けています。
普段、当たり前に食べているお米を自分で1から作ると、そのありがたさを実感します。農家の方が苦労して作業してくださるから自分たちがお米を食べられていることを知ると感謝しかありません。田んぼの感触とか匂いとか、やっぱり田んぼに入らないと感じられないことが多くて感動したり、農家の方の現状も学べるのがこのプロジェクトの良さです。
Tくん[高2]
自然に触れる体験がこんなに楽しいとは!
同じクラスの友達の誘いで、今回初めて参加しました。僕も小学校で田んぼに入ったことがあったので「田植えなんか簡単にできる」と思っていたのですが、土に足が沈み、中腰になる姿勢が多いので、高校生ながら腰の痛みを感じています(笑)。農家の方たちの大変さがわかりました。
今回のプロジェクトでは自然に触れる貴重な体験ができました。自然の中はこんなに楽しいとは思いませんでした。今回の体験が今後の自分にどうつながるかはわかりませんが、絶対に重要だと思います。体験すると自分が少し変わります。
Bくん[高2]
体験を通して手作業の大切さを実感
僕は今回が1回目の参加です。小学校の時にも田植えをしたことがあったのですが、久しぶりにやってみたら、やっぱり大変でした。土の違いを知り、農家の方が考えて作業されていることもよくわかりました。
普段、僕らの周りには機械に頼ったものがあふれていますが、実際に自分がやると手作業が貴重なことがよくわかります。機械にばかり頼るのではなく、こうした方法を残していく大切さも実感しました。
田植えで大変だったのは、歩く時に稲を傷つけないよう足を上げたりすること。踏まないように歩きたいのですが、泥に足を取られて難しかったです。こういう自然の豊かな場所での体験は貴重です。やれるなら毎年やりたいと思います。
Kくん[高2]
勉強とは離れた体験は、社会を知る上でも大切
今日が初めての参加です。籔先生の話を聞いて興味を引かれました。帝塚山のある学園前と同じ奈良県ですが、電車が20分に1本しかないような飛鳥に来て、農家の方が実際に作業されているようなことが僕らもできる。それはとても貴重な体験です。稲をしっかりと根まで土に入れるのは、足場が安定していない田んぼでは想像以上に大変だということもわかりました。勉強とは少し離れた体験をすることは息抜きにもなるし、社会を知る上でも大切だと思います。参加して良かったです。
Oさん[高1]
自然の中には学びがたくさんある
私が中2の時にこのプロジェクトが始まり、当初からずっと参加しています。もともと自然や動物がすごく好きでした。幼い頃も母の実家で祖父の畑を手伝って楽しかった経験があり、憧れていたことに参加できる喜びがありました。
最初に田んぼに入った時は、思った以上に深く沈んでしまって驚きましたが、3回目の今回は何も気にせずに普通に入れるようになりました。田んぼに入ると、生き物がたくさんいることも知れます。微生物の効果でお肌もつるつるします。害虫のジャンボタニシも雑草を食べてくれて必要な存在になります。そんな普段は知ることのない学びがたくさんあるのが楽しいです。今年もいつものように育てて、収穫して、美味しく食べられたらうれしいです。自分で作ったお米となると、感動もひとしおです。今年もその感動を味わいたいです。
籔 稔先生[理科<化学>教諭]
田んぼプロジェクトを3年前にスタートさせたのは、子ども達が自然に触れる機会が減っていると思ったことがきっかけです。特に本校は私立の進学校で、勉強中心の生活になりがちですから、学校教育の活動の一つとして生徒達が自然と触れ合い、喜びを感じられる場を設けたいと思いました。原点は自然の中で楽しんでほしいということですが、自然の中に連れていって自然を楽しむという活動だけではなく学びがあればいいと考えました。自然の中で年間を通して皆で何かを作る喜びをコンセプトに、明日香村の農家の方々や国営公園の方々との出会いから「田んぼプロジェクト」が始まりました。個人的にも僕は化学が専門で農学系の素養がなく、生徒たちに自然や農を知ってもらうとともに、僕自身も知りたいと思いました。
田んぼプロジェクトは、中学1年生から高校2年生の全クラスで募集しています。今年は3年目ということもあって30名を超える生徒が集まってくれました。年間の活動としては全5行程。今回の田植え、除草のあと、国営飛鳥歴史公園で行われる「稲穂を愛でる会」というイベントに帝塚山中高として参加し、生徒たちは探究活動の発表をします。その後、収穫、脱穀、実食を行います。
今日の感想は、やっぱり生徒の生き生きとした笑顔がいいですね。僕としてはこの体験を通して、たんぼの中に入ったり、友達とゆっくり時間を過ごしたり、虫を嫌がったり、農家さんの真剣な話聞いたりすることで、生徒が何かを感じて帰ってくれればと思っています。それぞれに感じたものがあるのが、課外活動のいいところです。農家の方たちの話も自分が体験活動をした後だから理解できます。探せば今はYoutubeなどで簡単に農家の方の話を聞くことができますが、実体験を経た後に、実際に目の前で農家の方が語ることと感じるものは違うはずです。望めば何でも手に入る世の中ですが、だからこそ実体験とセットで話を聞くことの意味が大きくなってきていると思います。
このプロジェクトでは、普段接することがない学年同士の交流も大事にしたいです。フィールドを用意すると、生徒は僕らの予想以上の行動をしたり、自然に気づいたり学んだりすることに、驚かされています。そんな生徒たちだからこそ、今後僕がやりたいと思っているのが、自分たちで作った無農薬・無肥料のお米の成分分析などを大学と共同研究する取り組み。研究というフィールドで子供たちがどんな予想以上の輝きをするのか楽しみです。実現を目指して一歩ずつ足場を固めていきたいです。