帝塚山中学校 高等学校

チームで医療課題に挑んだ5カ月間 得られた「チャレンジ精神」と「絆」

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帝塚山中学校 高等学校 チームで医療課題に挑んだ5カ月間 得られた「チャレンジ精神」と「絆」
教室に掲示されたポスターがきっかけで、次世代イノベーター集団『inochi WAKAZO Project』が設ける医療・ヘルスケア課題に興味をもった帝塚山高等学校の女子生徒たち。授業の一環でも、探究学習カリキュラムでもない課外プロジェクトに「4人で挑む!」と決めたのは、他ならぬ彼女たち自身でした。得られたのは、賞だけでなく、それ以上に大切な「チャレンジ精神」と仲間同士の「絆」。日々奮闘し、どう課題と向き合って自分たちのアイデアを形にしていったのかを紹介します。

帝塚山高校・女子チーム が参加したi-GIP― inochi Gakusei Innovators’Program ―とは?

次世代イノベーター集団『inochi WAKAZO Project』が手掛ける「i-GIP」は、中高生が2~4名でチームを組み、医療・ヘルスケアの課題解決プランを考案して競う“次世代のアントレプレナーの育成”を目指す課外活動プログラム。2023年は「睡眠時無呼吸症候群/SAS」の課題で実施され、関西・関東・北陸・九州の4地域から書類選考、二次選考、および、追加登壇枠獲得戦で選抜されたチーム・計7校が最終プレゼンテーションに進出した。

帝塚山高等学校・女子チームオーディエンス賞を獲得!

発表の様子
子ども達が使用した実際の写真
賞状と共に

帝塚山高等学校・女子チームが考案したのはカルタのカードゲームあにまるべー

子どもの「睡眠時無呼吸症候群」に着目

課題である「睡眠時無呼吸症候群/SAS」について調べる中、帝塚山高校・女子チームが着目したのは、子どものおよそ3%に兆候がみられる「小児SAS」でした。喉の奥にあるリンパ節のアデノイドの肥大が小児SASをもたらす原因とされ、さらに詳しく調べていくと、アデノイド肥大は口呼吸によって引き起こされる可能性が高いとわかりました。

口の筋肉を鍛える体操が有効だけど…

クセになってしまいがちな口呼吸を防ぐには口のまわりの筋肉を鍛えるトレーニングが有効で、「あいうべ体操」を推奨する歯科医院や保育施設もあります。体操自体は「あー」「いー」「うー」と声を出すだけなので簡単ですが、帝塚山高校・女子チームが調査を進めると、子どもはそれを“退屈”に感じることが多いとのこと。実際に保育施設の3~5歳児・10人を対象に実践すると、「面倒くさい」「楽しくない」などの理由で1週間のうち1.6日しか継続できませんでした。

「楽しい」と感じれば継続できる!

「あいうべ体操」を“遊び”にすれば長く続けられるのでは――。そのように発想を転換させた帝塚山高等学校・女子チームは、具体的に保育施設に通う子どもたちをターゲットに、カルタのカードゲーム「あにまるべー」を考案。遊び方は、読み手が「ライオンの“ま”」「キリンの“う”」などと読み上げると、子どもたちは「まー」「うー」と言いながらカードを探して取るというシンプルなもの。再び園児10人に遊んでもらうと、実に楽しそうに、1週間のほぼ毎日にあたる6.8日間継続できました。

帝塚山高等学校・女子チームのアクション!
  • 4人が各自で「睡眠時無呼吸症候群」を勉強
  • ブレスト(アイデア出し)ミーティングの繰り返し
  • 約400人への駅前・街頭インタビュー
  • 28の病院・保育施設・会社に協力を依頼してヒアリング
  • 自宅・校内でプレゼンテーションに向けた練習 … etc.

STUDENTS INTERVIEW

途中、モチベーションを保てず
仲間割れの危機に直面

― i-GIPに応募しようと思った理由を教えてください。

M.Yさんきっかけは、教室の掲示板に貼られていたポスターでした。私は「こんなのがあるんだ」と何気なく見ていましたが、T.Yさんが「一緒にやろうよ!」と積極的に誘ってくれて、仲良しの4人で挑戦することになりました。

T.Yさん私は中学生の頃から医療に興味をもっていました。参加すれば生徒の立場でもそうした分野を知ることができるかもしれないと思い、みんなと一緒にチャレンジしたくて声をかけました。

A.Fさん彼女がリーダー的存在になってくれて、ずっと私たちを引っ張ってくれました。

Yさんそれぞれ文章を書く、アイデアを出す、イラストを描く、スライドを作成するといった得意があったので、そのたびに役割を決めて進めていきました。

― チャレンジすると決めて、最初に取り組んだことは?

A.Fさん一次選考に必要な書類の作成からスタートしました。

T.Yさん書類審査のシートはある程度質問が決まっていて、個々の熱意を書く項目もあれば、チーム全体で世の中の医療問題について書く項目もありました。医療問題に関する見解は、みんなで意見を出し合いながらまとめました。

Yさん書類選考を突破できたのは、今ある医療問題を他人事ではなく“自分事”として捉え、自分たちにできる解決策を一生懸命考えたことが評価されたと、後日選考に携わった関係者の方から聞きました。

― 次のステップである二次選考に向けては、どのような取り組みを?

M.Yさん4人でブレスト(アイデア出し)を行い、疑問に思うことや医療の問題点などをいろいろ挙げました。

A.Fさん同時に今回の課題である「睡眠時無呼吸症候群/SAS」についても各自でしっかり調べ、ブレストで出したアイデアとどう結びつけるのか複数回にわたって話し合いました。

― その際、学校の先生からのサポートもあったのでしょうか。

T.Yさん先生は基本的にノータッチでした。私たち4人が自主的に主体性をもって進めていくことに意義があると考え、あえて遠くから見守ってくださっていました。

M.Yさんただ、自分たちだけでは行き詰まってしまうこともあるので、その時はi-GIPから派遣されるメンター(大学の医学部に通う学生)の方に助言をいただきました。

Yさん毎週火曜日にオンライン上でミーティングを定期的に行うことも提案してくださいました。

― みんなで出したアイデアを1つに絞る時は、苦労もあったのでは?

Mさん実は、4人の間で取り組みに対する熱量の差が出始めた時期がありました。テスト前は勉強する時間が必要ですし、遊びを含め、他にもいろいろしたいことがみんなの中にあったので、i-GIPの課題にどれだけ時間を割くべきか悩みました。

M.Yさん私はモチベーションを保てなくなり、途中で降りようと思ったこともあります。その時にメンターの方から「みんなで同じ舟に乗ったのだから、最後まで協力し合って漕がないと!」と叱咤激励され、初心を思い出して「最後までやり遂げる!」と決意を新たにしました。

A.Fさんそうして「頑張ろう!」となってからも、どのアイデアを課題の解決策にするかで相当悩みました。決まりかけても「この視点から考えたらどうなの?」と疑問が生じ、再び議論を重ねるとさらに熟考が必要だとわかり、なかなか決まりませんでした。

T.Yさん私もその時が一番大変でした。最終的にカルタのカードゲーム「あにまるべー」のアイデアに決まりましたが、それ以前はアプリで「あいうべ体操」をやるプランを考えていました。しかし、協力先の保育園に意見を聞くと、「園内で子どもがデバイス機器を使うのは抵抗がある」という先生の声が出てきたのです。やはり自分たちで完結するのではなく、現場の方々から意見を聞くことはとても大事だと実感しました。

練習を繰り返して、いざ本番!
審査員の鋭い質問に焦る

― 本番のプレゼンテーションに向けては、どのような準備をしましたか。

Y さん壇上で読み上げる原稿を完ぺきに覚える練習を各自で繰り返しました。私は家でお風呂につかりながら声に出して覚え、スライドに合わせてきちんと言えるように何度も練習を重ねました。直前は学校の会議室で、本番さながらにマイクやプロジェクターを使って予行演習をして、在校生や先生方にも聞いていただきました。

A.F さん私は原稿を覚えるために、通学の電車の中で窓に向かって一人ブツブツとしゃべっていたこともあります(笑)。

M.Y さん私はセリフが飛んでしまいがちだったので原稿を少なくしてもらい、スライドを切り替えるクリッカー役を頑張りました。みんなのセリフを録音して、それを聞きながら家でも練習しました。

T.Y さんあとは、本番で観客の皆さんに関心をもってもらえるように、原稿を棒読みするのではなく、身振り手振りも工夫しながら言葉に“表情”をつけて話す練習もしました。

― 当日、プレゼンテーションを終えて感じたことを教えてください。

Y さん事前練習をしっかりしていたので、思ったほど緊張しなかったです。

A.F さんプレゼンテーション後に審査員の方から質問があり、鋭いことを聞かれました。カードゲームのイラストは自分たちで描いたオリジナルでしたが、そうした著作権に関することなどを質問され、実際に商品化するならきちんと考えておく必要があるのだと改めて気づかされました。

M.Y さん私も同感で、審査員の方は私たちとは違った視点で見ているのだなと感じ、その鋭さには焦りました(笑)。

T.Y さんもちろん自分たちのアイデアを商品化することは想定していましたから、かかるコストについてもマーケティング会社や印刷会社の方に尋ね、事前に見積を取っていました。1セットを製作するだけでも相当の費用が生じるとわかり、世の中に流通させるのは決して易しいことではないと実感しました。

― 最後に、今回のチャレンジを通して成長できたことを教えてください。

A.F さんもともと人前に立って話をすることが苦手でした。4人でやろうと決めた当初は、まさか自分たちが登壇して 200人を前に発表するとは想像すらしていませんでした。しかし、貴重な機会をいただき、いざプレゼンテーションをすると、これまでに経験したことのない達成感が得られ、大きな自信になりました。今後も機会があれば、こういう場に自ら飛び込んでいきたいです。

M.Y さん私は、みんなと一緒に“舟に乗る”のは大きな責任を伴うと痛感しました。もし途中で降りていたら、当然チームに迷惑をかけていたはずです。まわりに励まされて最後まで続けたからこそ団結でき、みんなと“絆”を築けました。また、アイデアを形にしていく過程でいろいろな人と触れ合えたことで、視野が大きく広がりました。

T.Y さんチャレンジする前は、「睡眠時無呼吸症候群/SAS」という病気があることすら知りませんでした。そんな私たちに対しても、取材先の病院の先生や保育士さんをはじめ、たくさんの方々が労を惜しまずサポートしてくださり、物事を前に進めるには“協働”が大切だとわかりました。そのおかげでアイデアが形になったので、これからは社会実装するには何が必要なのかといったことも学んでいきたいです。

Yさん私は1つの目標に向かってチームで活動することの難しさを実感しました。個々の熱量やモチベーションが少し違うだけでも仲間割れに近い状態になることを、身をもって体験できてとてもよかったと感じます。もしみんなと一緒に挑戦しなかったら、普段通りの仲良しの関係のまま高校生活を送っていたと思います。それはそれで素晴らしいことですが、おそらく強い“団結心”や“チャレンジ精神”までは培えなかったかもしれません。みんなには本当に感謝の気持ちでいっぱいです!

彼女たちのチャレンジは、
後輩に刺激を与えるロールモデルに

入試渉外部長 仲島浩紀 先生
教室に掲示された案内告知のポスターから始まった、授業でも探究学習の一環でもないプログラム。彼女たち自身が主体性と自主性をもって自分たちの意志でチャレンジしたからこそ、途中で困難が生じてもその都度みんなで話し合い、協力し、最後のプレゼンテーションまで走り続けてくれたのだと思います。
本校では、総合的な人間力の礎となる「知・意志・躯幹・情」を高める「力の教育」を実践しています。その素養は生徒個々が“自主性をもって行動する”ことで培われる面もあるように感じています。だからこそ、彼女たちのチャレンジ、そして自分たちで成し得た受賞の成果は後輩たちに大きな刺激を与えてくれるものと考えます。今後も社会とつながる課外プログラムに挑む帝塚山生がさらに増えることを期待しています。