誰かに頼らず、「どうすればよいか」を
自ら考えられる人間に
生徒に考えさせる
KEY WORD①教員は手を貸さず、口を出さずに我慢
文系や理系の枠を横断して学びを深めるSTEAM教育は、2009年にオバマ大統領がその重要性を演説したことがきっかけで日本でも一気に認知度が高まりました。ただ、当時を振り返ると、「それを学校でやる必要があるのか?」という声があったのも事実です。私はSTEAM教育の王道は“モノづくり”を絡めることだと早くから考えていたので、2009年よりも前から「アルディーノ」というイタリアで教育向けに開発された素晴らしいプログラミングツールの存在が頭にありました。同時に、モノづくりを絡めた学びをSTEAM教育に組み入れて、いつか生徒たちに提供したいとかねてより考えていました。
そこで、私が顧問を務める物理部でまず実践し、目標に定めた『ロボカップジュニアジャパン』に出場しました。この大会には、「大人が手を出すと子どもたちが自分で考える力を育めない」という理念があり、私も生徒を指導する際の参考にしました。最初はつい口を出したり、手を貸したりしたくなりましたが、そこはぐっと我慢です(笑)。すると、生徒たちは自分でいろいろ工夫しながら、想像以上のことをやり始めました。この経験を生かし、探究学習やSTEAM教育を実践する際も、教員は同様の姿勢で生徒に向き合うことが大事だと実感しました。
遊びから、学ぶ
KEY WORD②今も昔も、当然「思考力」は必要
今、どの学校も探究的な学びや活動を実践するカリキュラムを導入し、これからの時代に求められる「思考力」の育みに力を注いでいます。「AIが登場したから、思考力はますます重要かつ必要になる」という声もありますが、「思考力」は当たり前のことながら今も昔も人間が進歩していく上で必要なのは言うまでもありません。ただ、残念なことに、日本という国全体が豊かになればなるほど、思考力も、技術力も、諸外国に及ばなくなってきている事実は教員の立場である私も感じざるを得ません。
もちろん、便利になった社会から受けられる恩恵は少なからずありますが、それでも貧しかったかつての時代のほうが、日本の子どもたちには考える力があったのではないでしょうか。学校以外の場で“遊びをより楽しく”するために、皆でアイデアを出し合い、あれこれと試す中で、子どもたちの思考力や判断力は自然と育まれました。つまり、昔は「遊びが“学び”」でもあったわけです。本校がSTEAM教育に“Robotics(モノづくり)”を加え、「STREAM」に発展させたのは、そうした思考力を育む根本の部分にもう一度目を向ける必要があると考えたからです。
経験値を高める
KEY WORD③器用な人はいても、不器用な人はいない
本校では「STREAM」の授業を中1・中2で実施しています。入学後、まず1学期に取り組むのが羽ばたき飛行機の製作です。前述の通り、授業では教員は具体的な作り方などは教えず、導くこともしませんから、生徒たちはマニュアルとなる紙の資料と動画を見て、自ら考え、悩み、判断し、実際に手を動かして製作していきます。多くの生徒は工具を使った経験がなく、ピンバイスやドリルを用いて作業をする時は苦戦もしますし、失敗もします。その体験があってこそ「なぜうまくいかないのか?」を考えることができ、さらに「どう工夫すればよいか?」を思案する次のステップに進めるのです。
そして、羽ばたき飛行機が完成しても、なかなか思った通りには飛びません。そこで再び「なぜ飛ばないのか?」を考え、動力になるゴムの巻き方や羽の角度を調整したり、よく飛ぶ他の生徒の飛行機を観察したりしながら、個々で改良を重ねていきます。私は授業の場で、「器用な人はいるけど、不器用な人はいない」とよく話します。不器用なのは経験値の差ですから、生徒にはどんどん失敗して構わないと背中を押し、失敗した後に我慢強くトライし続けることが大切だと説きます。
一歩を踏み出す
KEY WORD④ためらわず、まずはやってみる!
中2になるとライントレースロボットを製作しますので、それに向けて中1の2学期からはパーツ類の一つであるオムニホイールを作り始めます。1学期の羽ばたき飛行機でモノづくりの一歩を踏み出しましたが、オムニホイールの組み立ては、より細かく難しい作業が多くなるので、生徒たちはさらに悪戦苦闘します。それでも教員は、授業のはじめに工具の使い方のヒントを与える程度で、決して手を貸しません。そして3学期になると、3D-CADを使ってオムニホイールのモデリング(3Dデザイン化)に取り組みます。
以前、中2の生徒たちに「STREAM」の授業に対するアンケートを取ると、高評価の声が全体の7割5分ほどを占めました。モノづくりが苦手であっても、経験を重ねることで楽しさを実感していく生徒も少なからずいるとわかりました。とにかく失敗してもいいから、ためらわず、まずはやってみる――。これを繰り返し、経験値を高めれば、他の様々な場面においても「まずはやってみる」という思いが先立ち、壁に当たっても「どうすればいいか」を自ら考えられるようになるはずです。これからも生徒の成長と可能性をしっかり高められるように、「STREAM」の授業をさらに進化させていきます。
ある日の『探究SGメソッド』STREAM授業
Students Interview
「ちょっと苦手かも…」が、
「だんだん面白くなってきた!」に変化!
― 中学入学後、「STREAM」の授業を受けて最初に感じた印象を教えてください。
Nさん最初の授業で、これからどのようなことに取り組んでいくのか先生から説明がありました。その時に“3D-CAD”や“3Dプリンター”という言葉も出てきて、「結構難しいことをやる授業かも……」と思いました。
Sさん私も難しそうだなと感じたけれど、最終的に中2でロボットを完成させると聞くと、一気にワクワク感が高まりました。
― 「STREAM」の授業では工具を使ってモノづくりを行います。小学校時代にそうした経験は?
Nさん理科の授業で少しだけプログラミングを体験しましたが、工具を使ってモノづくりをしたことはほとんどなかったですし、得意ではありませんでした。
Sさん私も工具などを手にした経験があまりなく、自分で手を動かして何かを作ったりするのはどちらかといえば苦手でした。
― 中1の1学期に羽ばたき飛行機を製作しました。どのように作っていくのでしょう。
Nさん作り方が示された紙の資料や動画を見ながら生徒各自が製作を進めていきます。
Sさんビニール袋、輪ゴム、竹ひご、樹脂のパーツが材料なので、すごく難しいわけではありませんが、自分で調べて考えないと作業が進まないので、結構苦労することも多かったです。
― 先生が具体的に教えてくれることはない、とお聞きしました。
Nさんその通りで、作り方に関して先生が導いてくれることはなかったです。もちろん質問すれば答えてくれますが、基本的には自分で考えて手を動かして作っていきます。
Sさん友達に聞いたり、生徒同士で教え合ったりはできるので、うまくいかない時は上手な人のやり方を参考にすることもありました。
― 完成した羽ばたき飛行機は、思い通りに飛びましたか。
Sさん野球場のグラウンドで飛ばし、遠くまで羽ばたいていく……はずでしたが、手を離した瞬間、ヒョロヒョロと目の前に落ちてしまいました(笑)。
Nさん私は完成までに時間がかかったので、後日家で飛ばしましたが、あまり飛距離はでませんでした。
Sさんでも、それで終わりではなく、「どうすればもっと飛ぶか?」を考え、動力となる輪ゴムの数を増やしたり、機体のバランスを調整したりするとグンと飛距離が伸びました。
― 2学期に入り、現在「STREAM」の授業で取り組まれていることを教えてください。
Nさん2学期からはオムニホイール(3学期~中2で製作に入るライントレースロボットに必要なパーツ)を作り始めています。
Sさんオムニホイールの製作も、生徒が自分で資料や動画を見ながら進めます。
Nさん羽ばたき飛行機を作った時と比べると、ニッパーでパーツを切ったり、ドリルで開けた穴にM3(外形約3mm)のネジを組み込んだり、細かな作業が増えるので、なかなかうまくいかないこともあります。
Sさん小さな穴にネジがうまく収まらない時は、ちょっともどかしく感じます(笑)。
― 「モノづくりは苦手……」と話されていましたが、今はいかがでしょう?
Nさん 多少難しさを感じることはあっても、今は1つ1つの作業を遂行していくことがとても楽しいです。
Sさん羽ばたき飛行機が完成した時は、これまで感じたことのない達成感を得られました。2学期に入り、今まで以上に期待感をもって授業を受けることができています。
― 「STREAM」の授業を通じて自分が成長できたと感じることは?
Nさん3学期になると、3D-CADを使ってオムニホイールの構造をモデリングするのですが、そうした初めて体験することに対してとてもワクワクできるようになりました。そう感じられるようになったところに成長を感じます。
Sさん私は「STREAM」の授業以外の場で他のことをやる際、自分から積極的に動けるようになりました。失敗しても「また次!」と思えるようになったのは成長できたところだと思います。