ホームページを制作して各クラブの活動の様子を発表し、セレモニーはYouTubeでライブ配信。さらに校内では感染予防に配慮したうえでクラブ体験・展示、ラッフル(チャリティーのくじ引き)の実施などオンラインとリアルを融合し、テーマ「Reaction」のもと、アイデアと可能性の実現に挑戦した、これまでにない学院祭になったようです。
学院祭コミティーとして活躍した高校3年生と、彼女たちを支えた先生方に、今年の学院祭についてお話をうかがいました。
可能なことはやり遂げる
ゆるぎない思いで完成させた新形式の学院祭
先輩の思いを受け継ぎ可能な形を模索
O.Nさん:学院祭コミティーは、文化系クラブや運動系クラブが活動を発表するための企画を練り、学院祭を運営する実行委員会です。本来なら高校生徒会役員からの立候補者に加えて、若干のメンバーを募集する形でコミティーを結成するのですが、今回はコロナウイルスの影響で選挙ができなかったこともあり、生徒会役員の20人で学院祭コミティーとして活動することになりました。
O.Aさん:高校生徒会奉仕部は、学院祭で例年「ラッフル」というお菓子が当たるチャリティーのくじ引きを企画しています。今年は、学校近くにある小林商店街のお菓子をラッフルの景品にして、コロナの影響による売上減少の現状に関心を持ってもらうことを目的としました。ただ、感染対策上、箱からくじを引いてその場で景品を手渡しすることはできないので、事前に学年別でラッフル券の予約販売を行い、学院祭当日に当選番号をホームページに掲示して景品を受け取りに来てもらう形にしました。
O.Nさん:学院祭コミティーの発足は昨年の12月です。コミティーと各クラブに希望を確認したところ、オンラインとリアルで開催しようということになり、行動に移しました。
文化系クラブには、演劇クラブやEnglish Drama Clubといった公演を行うクラブがあり、学院祭が貴重な発表の場です。昨年、学院祭が中止になって完全燃焼できずに卒業された先輩たちを見ていたので、今年は発表する場を絶対に設けたいという強い想いが私たちの中にありました。
O.Aさん:奉仕部門は、これまでも学院祭で「架け橋ショップ」という東北の被災地のお菓子を販売する東北支援や、兵庫県の社会事業所のお菓子を販売するかたちでの支援を行ってきました。今年はコロナ禍ということで例年とは違う形式で実施するということになりましたが、不安もあったので、1月に練習販売を行いました。活動目的をきちんと理解して参加してもらえるように、自分たちで企画書を作り、お菓子の販売をしました。この時にホームページも初めて作成し、宣伝のツールとして使用しました。
妥協しない強い思いで、コロナ禍の今、再び行動を
O.Nさん:今回のメインテーマは「Reaction」で「反応」という意味です。マスクをつけると表情が見えにくく、反応も分かりにくいので、しっかりと反応を示そうという意味を込めました。もうひとつは「Re」と「Action」で分けて、「再び行動を起こす」という意味を込めました。私たちはコロナ禍で停滞しがちな行動を再び起こそうという強い気持ちを根本に持っていました。制限の多い状況が続く中で、できることはないかと模索し続けながらも、妥協しないという想いは強かったです。一つ提案を出して可能になれば完成するまでやり遂げる。それは、私たちの中でゆるぎないものとしてありました。
O.Nさん:手探りの状態で、ホームページ部門とリアル部門に必要な人数、必要な部署、仕事の振り分けなどを考えること、それを限られた少ない人数で作り上げることはとても難しかったです。ホームページも注目されると思っていましたから、見やすくきれいなものを完成させる工夫が必要でした。そのためコミティー一人ひとりの負担は大きかったかもしれません。
また、リアルの学院祭を行った結果、校内でコロナが感染することだけは絶対に避けたかったので、感染対策の部署を立ち上げて、分散登校でも人が一度に集まらないように工夫しました。
O.Nさん:オンラインでのラッフルは初めてのことで説明しても想像がつきにくかったようで、参加率が低い学年がありました。ただ、私たちが参加を強制するような呼びかけをしてしまうと、奉仕活動が受け身になってしまうので、何度も朝礼の時間をいただいて、目的やお菓子を提供してくださる事業所の情報を伝えて、主体的に参加してくれるように呼びかけました。
O.Nさん:学院祭の2週間前にプレページを公開して注意事項などをチャット形式で楽しく伝え、前段階から学院祭の気分を味わってもらえるように工夫しました。一番気を遣ったのは、著作権の問題です。ネットで公開すると使用料が発生しますが、どうしても音楽が必要なクラブもあるので、費用を管理したり、著作権のチェックをしたりとホームページ部門のメンバーが働いてくれました。セレモニーでも原曲を使わずに、友達に頼んでピアノで弾いてもらうなど、たくさんの協力があって成り立っています。
提案することの価値を知り、
形にすることの意欲につながった
O.Nさん:今回のような大きな企画を立ち上げるにあたっては、生徒や先生はもちろんのこと、関わってくださる方々からいろいろな意見や要望が出てきます。その中で先生方はいつでも「やってみたらいい」「新しいことをしていい」と言ってくださいました。もちろんできないことも多くありましたが、「それはできない」と断ち切るのではなく、「別の形でやるならどういうふうにできるか」、「どういう形なら再現できるか」と私たちに再考する時間を与えてくださいました。その結果、私たちは提案することに価値があることを知り、何とか形にしたいという意欲につなげることができました。先生方から信頼していただき、任されたからこそ頑張れたと思います。
私自身、今回の学院祭を通して、新しく企画して発信していく力や全体を統括するリーダーシップが身に付いたと感じています。伝統を大切にしながらも、何もない状態から自分たちで作るという喜びがありました。
O.Aさん:私はこの学校で学んできた「他者の気持ちを思いやる」ということを、学院祭で生かせたと感じています。奉仕部のリーダーとして、周りの学院祭コミティーの仲間や企画に参加してくれる生徒みんなの正直な意見に耳を傾けることで、より可能性が広がりました。
私は人に流されやすいところがあったのですが、皆の意見を取り入れながらも一度決めたことはあきらめずに強い意志を持って実行する力がついたと感じています。
O.Nさん:前例のない状態だったからこそ、私たちはいろいろなことに挑戦することができました。後輩たちには、今回の型に収めるのではなく、それ以上に高みを目指し、想像力を持って臨んでもらえたらと思います。
O.Aさん:私たち同様に、学院祭の目的を大切にしながら、前向きにかつ主体的に誰かのことを思いながら参加するという気持ちを引き継いでほしいです。ただ、来年はまた状況も変わっていると思うので、自分たちで意見やアイデアを出し合って、新しい形にチャレンジしてほしいと思います。
生徒の想像力と創造力を育てた学院祭
受け継がれた学院祭への思い
小笹先生:併催は、おそらく一番大変な開催形式だったと思います。私にとっても初めてのことだったので、整った指導ができなかったことは反省しています。ただ、学院祭コミティーだけが楽しいと思うお祭りではなく、オンラインであってもなるべく全校生徒が一体感を持った学院祭にしてほしかったので、当日の様子を見て、いい学院祭ができて良かったと思いました。
音楽の著作権の関係であきらめざるを得ない企画も多くあり、生徒は悔しい想いもしましたが、あきらめずに何度も提案してくれて、押し負けるところもあったほどです(笑)。その生徒の想いが、生徒会顧問だけでなく様々な先生方に伝わり協力していただけた部分は大きく、生徒の成長も感じました。
田中先生:生徒たちは柔軟でした。最初、私たちはオンライン学院祭に抵抗がありましたし、何とかリアルで実現できないかと模索しました。ただ、最終的には「やらせてみようか」となりました。生徒たちの想像力は本当に豊かで、それを実行に移す力強さも準備段階では感じていました。できたものを見てみると、イマジネーションの想像力とクリエイティビティの創造力のどちらもが成長しているなと思いました。
そもそも学院祭の基礎は、フィーストという学長様のお祝いの翌日に小学生から高校生までが一緒になって学校生活で学んできたことを発表する会を行ったことが始まりです。バザーの始まりは、関東大震災で東京にある聖心女子学院の校舎が潰れた時の援助が原型でした。
リーダーシップを養い、人の気持ちを考えながら過程を大事にして取り組む。それが本校の学院祭や奉仕活動の根幹になっているところです。守り続けてきたその魂を、生徒たちは知らず知らずのうちに受け継いで成長しています。昨年は学院祭が中止になりましたが、それまでの先輩たちが守ってきたものは受け継いでいると強く感じましたし、生徒会の先生たちが生徒の自主性を大事にされたところにも魂があったのかなと思いました。
小笹先生:コミティーの生徒たちを中学生の時から見てきたので「この人たちなら絶対に大丈夫だ」と思っていました。だから彼女たちには可能な限り「まずはやってみて」と伝えました。生徒たちは、教員の固定された枠の中にある考えにはないものを持ってきますから、最初に枠を与えるのはもったいないと思ったのです。彼女たちの思考の柔軟さと、学校のスピリットからは外れないという信頼があったので任せられました。
田中先生:私は、もともと新しいことにチャレンジするのは好きなんです。ただ、今回はオンラインでの実施ということで「ラッフル」や「架け橋ショップ」といったこれまで続けてきた活動を中止にしてしまうことに怖さを感じていました。ですから、「今年もやります」と言って次々にアイデアを出してくる生徒たちを見ていると嬉しくて、模索しながらでもきっとやり遂げるだろうと思っていました。失敗しても何とかなる、必ず助けるから、という思いでした。
小笹先生:11年(高2)の生徒は学院祭コミティーの仕事が初めてだったので、どう動くのかがわからない状態でしたが、各クラブが出してくるホームページの誤字脱字や音楽の使用、著作権などのチェックを細かくやってくれました。みんなに伝わりやすくするにはどうすればいいのかを考えたり、先輩の動きを見ながら一つの行事を成功させるためにはどうやって動くべきなのかを考えたりと、気づきはたくさんあったのではないかと思います。
12年(高3)の生徒は想像力が豊かで、アイデアが豊富でした。例えばオンライン学院祭の注意動画をカメラレディーというキャラクターに扮して制作し、注意喚起をするだけでなく、難しいことをおもしろおかしく伝えるという柔軟さを発揮していたことは印象的です。後輩の学びにもなったと思います。
小笹先生:他の人に楽しんでもらいたいという気持ちを持った人がもともと多いですね。昨年の卒業式はコロナの影響で在校生が出られなかったのですが、「どうしてもアンサンブルで歌を届けたい」と言い出したんです。本来は在校生が卒業生に向けて歌を届けるのですが、時期的に難しい状況でした。ただ、諦めずに考え抜いた結果、それぞれの家で演奏した動画を一つにするという方法で先輩たちに歌を届けました。
田中先生:卒業生も歌ってもらえないのが残念だと言っていたので、その動画を見て感動していました。
身に付いていた柔軟性や行動力
田中先生:実はこれという理由は思いつかないんです(笑)。ただ、生徒がタブレットPCを活用して活動する話を聞くと、「そんなことができるんだ」と驚くと同時に、4年前のタブレットPCの導入は良かったのだと確信しました。授業で使うだけのツールだと思っていましたが、生徒はいろいろな場面で使い、自由に創造するということをしていたんですね。そういう力が学院祭に活きてきたのだと思います。
小笹先生:この学校は一人ひとりの個性を大切にしますから、言ってみたり、やってみたりといろいろチャレンジできます。自分の発想が少し変わっていても決して仲間外れにされないので、そういう意味ではいろんな方向から物事を考える柔軟さや行動力が身に付くのではないかと思います。リーダーシップとフォロワーシップのどちらも大事だということは、すべての先生が折に触れておっしゃっていますし、リーダーだけを褒めたりもしません。そういった教育の積み重ねの影響はあるように思います。
小笹先生:後輩たちには、先輩が残してくれたものを大事にしてほしいと思っています。今回のホームページのメインページのイラストも、昨年度のパンフレットに使うはずだったイラストに続きを描くという形で作成しました。そういうつながりや先輩たちの想いは受け継いでほしいと思います。
田中先生:私は進路指導担当でもあるので、いろんな大学に推薦で入る理由などをよく聞かれますが、特別な指導は何もしていないとお答えしています。ただ、こういうひとつひとつの行事の中に、人のために何ができるかと考える機会があり、人とつながりを作り、自分を生かして、どこかで自信をつけて、人のために自分が役立つという経験をして大人になっていくことが重要なんだと思います。生徒には社会で役立つ人になってほしいと常々思っていますから、こういう行事をなくさないようにしていきたいです。