関西大倉中学校・高等学校

作家の時間&読書家の時間で育む 人生を豊かにする国語力

私学的授業
関西大倉先生インタビュー国語授業中学受験私立中学大阪関西共学校

作家の時間&読書家の時間で育む人生を豊かにする国語力
関西大倉中学校では中学1年、2年の国語科の授業を図書館で行います。書きたいことを書いて書く力をつける「作家の時間」、読みたい本を読んで読む力をつける「読書家の時間」は、深く考え、人とつながり、世界を人生を彩り豊かにするための時間。国語科の授業でありながら、一般的な国語科の授業とは取り組み方も評価方法も全く異なり、身に付く力も違います。個性豊かな時間を提供する関西大倉中学校の国語科教育について、この学び方を主導する堀内先生にうかがいました。
国語科授業「作家の時間」「読書家の時間」とは? 関西大倉中学校 国語科教諭 堀内誠太郎先生
「作家の時間」「読書家の時間」導入理由楽しい、有意義、やりたい勉強を大事にしたい

本校では、中学1・2年生の国語の授業は「作家の時間」「読書家の時間」と呼ぶ方法を取り、図書館で授業を行っています。従来の国語の授業では教科書を読むことが中心で、生徒が書いた文章を見るのは先生だけです。「文章を読んで、先生に赤ペンでいっぱい書きこまれた」で終わるのが一般的だと思いますが、それでは生徒の興味関心に即しておらず、力を伸ばし切れないと感じていました。

関西大倉中学校は6年一貫校で高校入試がないものの、それをメリットとして生かし切れていないと感じていました。高校入試がない=勉強しなくていいと生徒は捉えがちで、なかなか全員が前向きに勉強に取り組めません。生徒に意欲を持たせるためには、テストではない何かで引っ張っていきたいと考えました。つまり、勉強が単純に楽しい、おもしろい、有意義だ、やりたいと思える内発的動機をもっと大事にしたい。6年一貫教育だからこそ可能である、目先に捉われない国語教育はないかと思ったのです。そこで出会ったのが「作家の時間」「読書家の時間」という授業スタイルです。2020年度からスタートさせました。

ひたすら書く!「作家の時間」自分で見つけた書きたいことを書いて「書く力」をつける

「作家の時間」が目指すのは、自立した書き手。テストで点を取る、大学入試に合格するといったことをゴールとするのではなく、生涯を通した書き手としての力をつけていこうということです。

「作家の時間」の目標
自立した書き手
「作家の時間」のねらい

書くことを通して、

  • 1. 自分の考えを整理し、より広く、より深く考える。
  • 2. 自分の考えを伝え、他の人を動かしたり協力したりする

「作家の時間」のねらいの1つは、書く作業によって自分の考えを整理してより広く深く考えることができるようになること。もう1つは書くことで人に考えを伝え人とつながれるようになることです。国語科では書くことがよく宿題になりますが、書けない生徒にとっては苦痛でしかありません。しかし「作家の時間」は授業内で書く時間を十分に取り、「書きなさい」と言われたことを書くのではなく、書くことを自分で見つけ、書きたいことを書きます。当たり前のようですが、そのようにやってこそ書くことで書く力を身につけられます。それが重要なのです。

「作家の時間」授業サイクル
  • ミニレッスン(講義)10分 <先生に教わる>
  • 書く時間・個別カンファランス 30分 <自分が書きたいことを1人で書く>
  • 発表・共有の時間 10分 <生徒同士で書いたものを読んで学び合う>

授業内容は、従来型の一般的な講義授業が最初の10分程度。その後の大半は生徒が書きたいことをひたすら書く時間です。進行段階も、下書き、清書、考案中と生徒それぞれで異なり、教員は一人ひとりに個別指導をしていきます。最後は書いたものを他の生徒と共有して、生徒同士の学び合いの時間となります。重要なのは、生徒が書いたものを実際に読む読者(他の生徒)がいること。読むための方法を、「出版」と呼んでいます。

出版方法
  • ・壁に掲示
  • ・文集制作、学内誌への掲載
  • ・電子書籍化
  • ・弁論大会での発表
  • ・コンクールへの応募

昨年度の中学1年生の詩集「136色の世界」は、タイトルを生徒の公募で決め、表紙も生徒がデザインしました。1年生が入学した1学期に作った詩集です。中学2年生の「独り机に向かひて」は自分で書くジャンルを自由に選べ、詩や小説のほか意見文を書いた生徒もいました。生徒は自分の作品が活字になると喜びますから、様々な形で出版して多くの生徒が読み、そのフィードバックが励みになってまた書きたい気持ちになるという形を取っています。

昨年、一昨年と中学1・2年生の2年間に「作家の時間」を行い、その2年間を生徒に振り返ってもらったところ、「書くことが好きになった」「書く力がついた」というポジティブな回答が約95%になりました。また、「作家の時間」を終えて88%の生徒が「読み手として成長した」と答えています。これは自分が書き手に立ったからこそ、読み手になった時に書き手の伝えたいことや工夫が見えるようになってきたということであり、我々教員としても発見でした。

「作家の時間」修了後の生徒の声
文章を書くことは人と人をつなぎ、成長させてくれる手段

「文章を書く」ということは、自分の意見を他人に理解してもらえたり、新しい表現を知ることができたりと、人と人とをつなぐすばらしいことだと思います。「作家の時間」では先生から文章の書き方や表現の方法を教わり、自分の頭で考え、自分の言葉で文章を考えていきます。みんなと自分が書いた文章を共有することで新しい文章の書き方を知り、実際にその方法で文章を書くことで表現の幅が広がり、一人ひとりが成長していきます。2年間行ってきたことはこれから大人になってもたくさん使う場面があると思います。なので、私は「文章を書く」ということは、生きていく上で自分の意見を伝える際に必要であり、人を成長させてくれる重要な手段だと思います。

ひたすら読む!「読書家の時間」読みたいものを読み、他者を理解する「読む力」をつける

「作家の時間」と両輪で、「読書家の時間」も行っています。「作家の時間」と基本的な考え方は同じで、自立した読み手を目指します。「読書家の時間」もゴールはテストでの得点がメインではなく、読むことを通して他の人の思考や感情を理解し、自分と関連づけられるようになることを目指しています。

「読書家の時間」の目標
自立した読み手
「読書家の時間」のねらい
読むことを通して
  • 1. 他者の思考や感情を理解することができる
  • 2. 他者の思考や感情と自分の思考や感情を関連づけることができる

「読書家の時間」では、生徒が読みたい本に没頭して読める時間を授業中に確保しています。国語の世界では良書や名著と呼ばれるものがあり、大人から子供に「これが良い本」と手渡されがちですが、生徒たちがその時に読みたい本を読むことが肝心なのです。ただ、決して自由に読ませるわけではなく、教員がアプローチをかけながら少しずつ読む本のレベルを引き上げ、読むジャンルの幅を広げていきます。読むことで読む力をつけるとは当たり前のようですが、従来の国語の時間は50分あっても50分間読むわけではなく、大半の時間は先生の話を聞いています。しかし、読まないと読む力はつけられませんから、とにかくたくさん読む時間を「読書家の時間」では設けています。
授業サイクルも「作家の時間」と同様で、教員からの講義後はひたすら読む時間です。その間に個別カンファレンスを行い、共有の時間には生徒同士が本を紹介し合います。

「読書家の時間」授業サイクル
  • ミニレッスン(講義)10分 <先生に教わる>
  • 読む時間・個別カンファランス 30分 <自分が読みたい本を読む> 
  • 共有の時間 10分 <生徒同士で本を紹介して学び合う>

「読書家の時間」後にも、生徒の振り返りでは「本を読むのが好き」という答えが21%上昇しました。図書室の貸出冊数も、同じ生徒の2019年度3学期と2020年度3学期では4.4倍アップしています。「授業を受ける前は本をほとんど読まなかったけれど、本と出会って家で読むようになりゲームをする時間が減りました」という感想もあり、保護者の方には「ゲームばかりしない」と言うよりも、ゲームよりおもしろいものを子どもたちに与えてあげれば変化があることを知っていただければと思います。

「読書家の時間」修了後の生徒の声
本を一層楽しめるようになった!

本から少しずつ離れていきそうだった私にとって、とても良い授業だったと思います。物語をただ楽しむだけではなく、スキルを身に付けることでより一層楽しむことができるようになり、これからより読書がとても楽しみになりました。家で昔購入してすでに何度も読んでいる詩集を最近読み返したのですが、明らかに前とは違う読み方をしていました。ただ綺麗な言葉に浸るだけではなく、「なぜその言葉を使ったんだろう?」などと疑問を抱き、考えるようになりました。本から少しずつ離れていきそうだった私にとって、とても良い授業だったと思います。物語をただ楽しむだけではなく、スキルを身に付けることでより一層楽しむことができるようになり、これからより読書がとても楽しみになりました。家で昔購入してすでに何度も読んでいる詩集を最近読み返したのですが、明らかに前とは違う読み方をしていました。ただ綺麗な言葉に浸るだけではなく、「なぜその言葉を使ったんだろう?」などと疑問を抱き、考えるようになりました。

「作家の時間」「読書家の時間」の成果外の見え方が変わり、内を掘り下げ豊かに生きる

このように国語を「作家の時間」と「読書家の時間」の2つに分け、大量に読み書きをして、それを生徒同士で共有して刺激し合いながらサイクルが回っていく授業を行っています。国語科の考え方としては、読み書きを通して多くの考え方や知識を知ると、外の世界の見え方が変わり、自分の内側も掘り下げられて豊かに生きていけるのではないかという考えで、この授業に取り組んでいます。

中学1、2年生では、一般的な教科書を使った授業やテストでの得点をめざす勉強は行いませんが、教科書を無視しているわけではなく、学習指導要領をしっかり確認した上で学習指導要領に沿った力をつけられるようにしています。「作家の時間」と「読書家の時間」の授業の最初の講義で教師が教え、教科書が適しているときには教科書も使いますし、他の本を教材として使うこともあります。

評価方法については、文科省からもより思考力、判断力、表現力のほか、主体的に学びに向かう姿勢を評価するようにという指導があり、それはまさに「作家の時間」「読書家の時間」の目標と一致します。中間考査や期末考査もありますが、その比重は今までよりも低く、生徒が書いた文章の内容や皆の前で話す本の紹介などのパフォーマンス評価が高くなっています。今まではそういう部分での頑張りは成績に反映されませんでしたが、評価システムを変えてペーパーテスト以外の頑張りを評価する形にしています。

高校生になると大学入試に対応できる力が必要ですが、大学入試時に頑張れる器をどれだけ広げられるかが中学1・2年の学習です。中学3年、高校1年では多少従来形の授業に近づいていきますが、教科書も含めつつそれと同じテーマに関連する文章を集めたテキストセットと呼ぶものを教員が作り、それをたくさん読みながら読解と自分の考えを形成していくという授業を行っています。古典は中学3年から本格的に始めます。

読む力、書く力を鍛える想像力を育み生徒に幸せな人生を

この授業を通して、生徒たちの潜在能力の高さを感じています。中学1年の3学期には全員が小説を書き、教員という編集者が8つの作品をノミネート作品に選ぶ「編集者大賞」と、作家仲間である生徒たちが投票で決める「作家大賞」を選び、小説と編集者による選評、作品を読んだ作家仲間からのファンレターを載せた冊子にして生徒に配布しました。大賞になった生徒の作品「タニシの楽しみ」は、物語を語っているのが教室の壊れた水槽の中にいるタニシ。毎年小学生たちの学校生活を見ていて、年に1回特定の生徒とタニシが中身が入れ替われるという設定です。クラスの「あの子は大丈夫かな」という生徒と1日だけ入れ替わるというファンタジーです。そういった発想に驚かされる作品がたくさんあります。

今の時代は想像力が求められると感じます。例えばSNSで人を傷つけてしまうのは、自分の発した文字によって相手がどんな気持ちになるかを想像できないからではないでしょうか。子供たちに人気の動画も、想像する必要がありません。現代は今までは目に見えていたものが見えにくくなり、想像力で補うしかない時代ですが、そのわりには想像力を育む場所が減ってしまっていると感じます。その点「作家の時間」と「読書家の時間」は想像力を鍛えられます。特に自分の価値観や考え方を形成していく多感な時期に、この時間によって想像力を育むアプローチができることは、生徒が幸せな人生を生きていくことに寄与できると信じて、今後も取り組んでいきたいと思います。

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「作家の時間」と「読書家の時間」も行う関西大倉中学校・高等学校
新図書館完成!

学園創立120周年事業新校舎建設の一環で中央共用棟内にオープンした新図書館。 開放的で居心地の良い館内は、生徒が気軽に集まれる場所となっている。 蔵書数は約4万8000冊。2教室を併設。

Teacher’s comment 堀内先生
堀内先生

校舎の建て替えで仮の図書室を国語科の授業に使用してきたので、新しい図書館の完成は楽しみでした。これから「作家の時間」「読書家の時間」は図書館で行います。辞書が大量に置かれているので、生徒には辞書を活用しながら作家活動をしてほしいですね。来れば気になる本が見つかりますから、生徒ができるだけ図書館に足を運ぶ回数を増やしたいと思います。図書館に通うことを関西大倉の文化として根付かせたいです。