校内実践型「グローバルプログラム」が育む 英語力、論理的思考力、協働する力 雲雀丘学園中学校・高等学校
大阪学芸高等学校附属中学校では、百周年記念会館を改修し、2021年夏に理科実験室棟「サイエンス・ラボ」を竣工しました。充実した実験環境が整う「サイエンス・ラボ」での学びを通して育む力について、附属中学校開校時に理科のシラバス(指導計画書)作成を主導した理科主任の佐賀 朋先生にお話をうかがいました。

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生徒自身の気づきを大切に、新たな視点と課題を見つけ出す探究の場「サイエンス・ラボ

中高校舎と道路を挟んですぐの所にある理科実験室棟「サイエンス・ラボ」。1階は視聴覚室、2階は生物実験室、3階は化学実験室となっています。

1階に入ってすぐの場所には、数々の熱帯魚が優雅に泳ぐ大きな水槽が目を引きます。

1階の視聴覚室は、机と椅子が一体になった可動式テーブルチェアを採用。講義形式の授業からグループワークなど、様々な授業形態に対応可能です。今後、実験のプレゼン発表を視聴覚室で行うことも検討中。

2階は生物実験室。細胞や微生物、菌の培養もできるよう卓上のクリーンベンチも設置。2022年夏には据え置き式のクリーンベンチも導入予定で、2人同時で無菌操作なども可能に。

3階の化学実験室では、卓上型pH測定器など大学の研究室等で使われるような分析機器も揃えており、自然科学同好会の活動のほか、環境問題をテーマとする探究学習でも活用されている。ドラフトチャンバー設置後は、揮発性の高い溶液を使った実験も実施予定。

TODAY’S EXPERIMENT

中学3年 電流によるイオンの移動を見て酸性とアルカリ性を示すもととなる物質を探ろう

中3生の酸性・アルカリ性を示すもとになる成分を調べる実験。サイエンス・ラボは2021年夏竣工だが、感染症対策のため2021年度は実験することができず、附属中生のサイエンス・ラボでの実験は2022年度からスタート。

先生の説明を聞いてから、班ごとに実験を開始。今回の実験では1班3~4人で組まれている。

リトマス紙の上に塩酸を含ませた細いろ紙を置き、電気を流すことでリトマス紙の色がどのように変化するかを観察。水酸化ナトリウム水溶液でも同様の実験を行い、酸性とアルカリ性を示すもとになる成分が何イオンであるかを確認した。

実験の最後には、実験内容をレポートにまとめる。生徒同士で教えあい、助け合う姿もよく見られる。まとめたレポートはロイロノートにて提出し、次回授業で実験の解説を行う。

TEACHER INTERVIEW

自分なりの答えを出すことが目標!
たくさんの実験や観察を通して
自分で考え追求する力を育てる
理科教育

理科主任 佐賀 朋先生

― 貴校の理科教育の特徴や目標を教えてください。

佐賀先生
本校にはいろいろなことに興味を持ち、チャレンジしようとする生徒が多いので、理科的分野に興味を持ってくれる生徒を増やすことを目標に、観察や実験を積極的に行っています。生徒達は、教科書や動画教材などで見たものを実際に体験することで興味と理解を深めていきます。そういう実体験を重ねることで、将来理系に進みたいという生徒が増えてほしいと思っています。ですから、中学生の間は「理科は面白い」という理系の種をまいて、芽が出る所までを目標にしています。

― 実験を行う上で大切にしていることは何ですか。

佐賀先生
安全を第一に進めることと準備から片付けまでを生徒自身にやってもらうことです。高校生になれば、実験で使う溶液を用意するために、濃度の計算から行います。その過程で気づくことも多く、実際に理系に進学することになれば自分でしなくてはいけないことだからです。理系に進まない生徒であっても、準備や片付けなど見えない部分の大変さを知ることで、実験で結果が出た時の達成感もより大きなものになると思います。

また、実験のやり方は説明しますが、ある程度説明したら明らかに手順と違うことをしている場合を除き、後は基本的に見守ることに徹して、まずは生徒にさせてみることも大切にしています。

― まず、させてみることの狙いは何でしょうか。

佐賀先生
やはり様々なことを実際に経験してほしいからです。失敗して、他の班と違う結果が出ることもあります。しかし、失敗も経験のひとつ。中高生の教科書に載っている実験は、習ったとおりの結果が出ない場合でも、その原因が分かっていることが多いのですが、理系に進学する生徒は、大学等で答えのない実験を行います。失敗した時はなぜ失敗したのか過程を見直し、きちんと考え、条件を変えるなどして実験を再び進めていくことが求められますから、失敗を通して学び、自分で考える力を中高の6年間で付けておくことはとても大事なことです。

また、自分で経験して学ばないと理解できないことはたくさんあります。たとえば、実験中や片付けの際に生徒が試験管を割ることも起こります。「こうやったら割れるんだ」「ガラスはこんなに危ないんだ」と自分で経験して学ぶことも大切です。実験は危険と隣り合わせであることや、教員の指示をしっかりと聞いて、指示通りに行うよう最初に厳しく伝え、安全面に充分に気をつけた上で、経験を通して学ぶ場をしっかり提供していきたいと思っています。

― サイエンス・ラボではどのような実験をどれくらいの頻度で行う予定ですか。

佐賀先生
コロナ禍に入る前は、中1では植物の観察や地学の岩石スケッチ、化学分野では実際に水を沸騰させたり、凍らせたりして状態変化を見る実験。また物理分野では物質の密度を求める実験。中2では色々なものを燃やす燃焼実験やそれにまつわる酸化の実験や食物の消化の観察。中3では酸性・アルカリ性を示すもとになる成分を調べる実験(上写真)のほか、遺伝について学ぶ際に細胞の核を染色し、細胞分裂を観察する実験をしていました。

サイエンス・ラボが竣工し、1つしかなかった実験室が2つになりました。両方を同時に稼働できるので、単純に考えれば今までの2倍の実験ができます。コロナ禍でなかなか附属中生は実験ができませんでしたが、今後は中学でも全学年で実験を再開していきます。本校は中3で外部進学する生徒もいるため、時間的にもカリキュラム的にも余裕がある中1・2生では特に力を入れて実験を行っていきたいと考えています。早い段階で実験室のどこに何が置いてあるかを覚えてもらえれば、準備や後片付けも自分たちでできるようになります。

― サイエンス・ラボを通して、どのような力を育みたいと考えられていますか。

佐賀先生
まずは、とにかく自分で考えて追求する力ですね。そして、自分の経験と知識を生かして、正しい答えでなくても良いので答えをきちんと出せる力を育むことを大きな目標としています。

授業で生徒自身が実験を行っている学校は、そんなに多くありません。設備や時間的な都合などによって、一人一人の生徒が実際に実験を行うことは難しいのが現状です。本校では、サイエンス・ラボの竣工によって様々な分野の実験を行うことが可能になりました。生徒自身が実際にいろいろな分野の実験を経験することにより、自身の興味や可能性を認識し、将来の進路選択の助けになることを期待しています。

本校では、英語や様々なスポーツを頑張りたい生徒も多く、附属中から理系に進む生徒は多くありません。しかし理系に進まなくても、実験を通して理科は面白いと感じることや、実験にまつわる大変な部分も知ることは無駄にはなりません。文系に進む生徒も理科の授業は楽しかったと記憶してほしいですし、中学を卒業した後の高校での理科の授業や興味につながるような授業・実験をしていきたいと思っています。実験を通して、理科は楽しいと思ってくれる生徒が一人でも増えてくれたら嬉しいです。