1989年創部で、まもなく30周年を迎える武庫川女子大学附属中学校・高等学校マーチングバンド部「Eins」。歴史あるチーム名には、ドイツ語で1を意味する「ein(アイン)」に英語の複数形を意味するsを付けた「Eins」で、コンテストの1番、そして毎日ベストを尽くすという意味も含まれています。中学・高校の部員が一緒に管楽器・打楽器・カラーガードを担当して、60名の中編成のスタイルでショーを行うのがEinsの大きな個性。夢中で練習に励み、マーチングバンド部としても、人としても高みを目指す彼女たちを取材しました。
知りたい!
マーチングバンド部Eins
  • 練習がすべて
    練習がすべて
    演奏技術だけでなく視覚的な美しさや完成度も求められるマーチングバンド部は、毎日が練習日。少しでも練習時間をとるために、終礼後は一目散に部活へ向かう。管楽器、打楽器、カラーガードの各パートでの練習や全体練習を繰り返し、Einsの最大の目標であるマーチングバンド関西大会での金賞、全国大会出場を目指す。
  • 3つのモットー「時を守り、場を清め、礼を尽くす」
    3つのモットー
    「時を守り、場を清め、
    礼を尽くす」
    人としての基礎を大切にしているマーチングバンド部Einsでは、グラウンドに入るときも礼をするのが当たり前。練習の区切りでも、先輩の話が終わると、帽子をとってしっかりと90度に礼をする。普段の態度や責任感、連帯感、意識の高さなどがすべてショーで形になることを部員たちは知っている。
  • 欠かせない体力作り
    欠かせない体力作り
    マーチングバンド部は文化部だが、欠かせないのが体力作り。行進や足踏みをしながら演奏をするため、特に足の筋肉強化は大切。練習の合間に先輩からの指導を聞く時間も、部員たちはつま先立ち。全員でのランニングや筋トレ、ストレッチもマーチングバンドに欠かせない練習メニューになる。
マーチングバンド部 ”Eins” PROFILE
創部
1989年
部員数
60名
中1:9名 中2:13名 中3:5名
高1:10名 高2:12名 高3:11名
練習
毎日
成績
2015年度
兵庫県マーチングコンテスト金賞
マーチングバンド・バトントワーリング兵庫県大会金賞/グランプリ/兵庫県知事賞/神戸新聞社賞
マーチングバンド関西大会金賞[全国大会出場]
マーチングバンド全国大会金賞
2016年度
兵庫県マーチングコンテスト優秀賞
※この年からマーチングバンド兵庫県大会の開催が中止
マーチングバンド関西大会金賞
2017年現在
Photo Report 写真レポート
写真レポート写真レポート
マーチングバンド関西大会に向けて管楽器隊とカラーガード隊は屋外で、打楽器隊は各パートを屋内で練習。グラウンドの管楽器隊は、重い楽器を高い位置で持って、縦横の列を合わせるために足もとのラインやポイント(目印)をガイドにしながら、美しい動きを目指す。炎天下のグラウンドに関わらず、きびきびとした動きが気持ちよく、管楽器の朝顔部分がきれいに前を向いて迫りくる姿は、音が出ていないことを忘れさせるほどだ。
写真レポート写真レポート
練習の合間には何度も集合。先輩から「もっと周りを意識して」「流されないで自分の動きを考えて」と様々な指導が飛び出さす。それをつま先立ちで真剣に聞く部員たち。
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グラウンドの管楽器隊を窓越しに見ながら、演奏練習を行う打楽器隊。ここでも先輩たちが細かく指導して、演奏技術を磨いていく。
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カラーガード隊は、コーチの指導のもと、笑顔でリズミカルに動きながらも旗を美しく振る練習に取り組む。大きな旗の扱いは難しそうだが、中学生も高校生も関係なくひとつにそろう姿はそばで見るとかなりの迫力。
写真レポート写真レポート
マーチングバンド部の部室。苦しい練習や体力トレーニングを乗り越える精神的な支えになる言葉があちこちにはられていた。もちろんEinsの3つのモットー「時を守り、場を清め、礼を尽くす」も、歴史を感じさせる色褪せた状態で貼られている。
  • 【校内のサマーコンサートでのEinsのショー】
    校内のサマーコンサートでのEinsのショー
  • 【体育大会でのEinsのショー】
    体育大会でのEinsのショー
Student Interview 生徒インタビュー
Nさん Iさん
技術だけではなく、
人としての基礎を
大切にしているクラブ
Iさん[高3 部長 IEコース バリトン担当]
Nさん[中学3年 Iコース 中学部長 ユーフォニウム担当]
筋トレやランニングが必須の文化部
―入部の動機を教えてください。
Iさん中1で勧誘ショーを見に行った時に、先輩たちの笑顔やかっこ良さを見て、「私もこの部活でああいう風になりたい」と憧れ、楽器をやったことがないのに入部しました。
Nさん私は音楽が好きで、姉が武庫川に通っていたこともあって何度かEinsのショーは見ていたのですが、6年生の時の体育大会のショーがすごくかっこ良くて感動しました。それで「この学校に入ってこの部活に入ろう」と決心して入学したんです。
―入部したら、希望の楽器は担当できるのですか。
Iさん希望は出せますが、中1の時にまず全ての楽器と旗を体験します。それを見た先生と先輩方が各自に見合った楽器を選んでくださり、発表されます。私は吹奏楽でいうとトロンボーンの役割になるバリトンを担当することになりました。マーチング用の楽器で、見た目はトランペットを大きくした感じです。ブラスをやりたいと思っていたので、希望通りになりました。
Nさん私も希望が通りました。ユーフォニウムという肩にかつぐ管楽器で、一番大きいチューバの次に大きいです。
―憧れのマーチングバンド部に入部した当時の印象は?
先輩と一緒にストレッチや筋トレに励む下級生たち先輩と一緒にストレッチや筋トレに励む下級生たち
Iさん本番はすごく楽しそうでしたが、それは練習での努力の積み重ねで、とても厳しくて驚きました。練習以外でも、返事の仕方や責任の持ち方など、一から徹底して教えていただきました。
Nさんマーチングバンド部は文化部なのですが、ランニングや筋トレもしっかりやるので、あまり文化部らしくないなと思いました。最初は先輩方と同じことをするのはつらかったのですが、最近は大丈夫になりました。
気持ちが届き、お客様から拍手をいただいたときは本当に嬉しい
―マーチングバンド部の良さや厳しさを教えてください。
Iさん部員全員で一つのショーを作り上げるので、練習でも全員が一つになれたときは楽しいですし、本番で私たちの気持ちが届き、お客様から拍手をいただいたときも本当に嬉しいんです。ただ、一つのショーを作り上げることは本当に大変で、一人ひとりのメンタルや体力も違うので、それを考えながらメニューを作り、練習をしていくのが大変にはなってきます。
―部員を統率していくうえで、部長として心がけていることはありますか。
Iさん日頃から一人ひとりをしっかりと見て、その子がどう思っているのか、どう感じているのかをしっかり読み取るようにしています。練習が長時間になることもありますが、決して練習時間に余裕があるわけではないので、時間を有効に使えるようにみんなの意識を一つにまとめるように声掛けをしています。
―Nさんのマーチングバンド部での良さや厳しさは何でしょう?
Nさん先輩と同じになりますが、本番が終わった後にお客様からいただける拍手は達成感があって本当に嬉しいです。それに練習中に自分ができなかったことができるようになって、自分の成長を感じたときはすごく励みになります。私にとって厳しいのは、朝練のために朝早く起きることです(笑)。
―中学部の部長として意識していることは?
Nさん全員の目標は一緒なのですが、考えていることが個々で違います。それをまとめるために、練習中に中学生に対する声掛けをしたり、練習が終わった後に中学生を集めて反省や話し合いをしたりするようにしています。
Iさん高3部員は指導法をよく話し合います。マーチングバンド部は先輩が後輩に教えるので、高校生の指導法が違うと中学生の成長に影響してしまうんです。
―マーチングバンド部の練習は、演奏の練習だけでなく、動きの練習もありますね。
自分たちが受けてきた指導を後輩たちに伝える。自分たちが受けてきた指導を後輩たちに伝える。
Iさん歩く基礎のことをベーシックと言い、動きながら自分のポイントに入る練習をしていきます。やはり演奏と動きの両方の練習は難しいです。最初は演奏だけに集中して、少し余裕が出てきたら動きもイメージしながら演奏します。動きだけの時は歌いながら動いているので、それを演奏とマッチングさせていきます。隣の人と音や列を合わせる必要もありますし、周りを意識してやることが大切です。
諦めずに限界を超えていく挑戦
―歴史あるマーチングバンド部ですが、受け継がれている練習法はありますか。
Iさん 休日は練習が始まる前に全員で集合して気持ちを一つにして挨拶します。それからランニングをしますが、個々で走るのではなく、マーチングバンド部の名前のEINSを1人ずつ「E」「I」「N」「S」と順に掛け声にして、全員が列になって走ります。
―先ほど筋トレも大変という話が出ましたが、体力作りも重要なんですね。
Nさん筋トレや体力作りを日頃していないと、演奏をしながら動きの練習段階で、息が上がってしまって音が鳴らせなくなってしまうんです。だから、しっかり体力をつけて、長時間の練習でも大丈夫なようにしています。
Iさん筋トレは、体幹を鍛えるトレーニングを30秒×10セットやります。今年の大会曲を流しながら自分たちのパートで腕立てをするなどのトレーニングもやっています。マーチングバンドでは、全体の動きを統一することが求められますが、筋肉がついていないと足の持久力がなくなって動きが揃わなくなってしまうんです。ただ、かなり厳しい筋トレをしているので、特に中学生には大変なようで、気をつけて声掛けをして諦めずに限界を超えていく挑戦をするようにしています。
入部すれば青春!
―EINSの個性や強みは何だと思いますか。
Iさん技術だけではなく、人としての基礎を大切にしているクラブなので、そういうことがショーにも必ず出てくると思います。2年前から学校の屋外で音が出せなくなり、動きながら音を出せる練習は体育館や室内の練習だけです。ただ、歌が楽器につながることもあるので、外で練習する時は一人ひとりがしっかり歌って、楽器につながるように練習しています。止まって練習する時でも足を動かしたりして、音を揺らさないための練習を一人ひとりが工夫してやっています。
―マーチングバンド部での活動を通して、自分自身が変わったことや、将来につながると思うことはありますか。
  • Iさん
  • Nさん
IさんEINSに入って、上下関係も学ばせていただき、それは将来につながると感じます。礼儀や挨拶に関しては、この部活に入っていなければ学べなかったことがいっぱいあります。
Nさん挨拶や言葉使いなど礼儀を大切にしている部活で教えてもらったことは、将来も役に立つなと思います。責任感を持ってやっていることも、将来に生かせると思います。
―最後にマーチングバンドに憧れる小学生へのメッセージをお願いします。
Iさん練習は大変ですが、練習してきたことを本番ですべて出し切ったらその分結果もお客様の笑顔や拍手も返ってきます。それは他では得られないものです。だらだらしていたり、のんびりしていたりはEINSにはないのですが、入部すれば青春している!と感じられます。大会の練習をしている時は、まさに青春です。
NさんちょっとでもEINSに興味を持ってくれる人がいたら、一度でいいので生でEINSの演奏・演技を見聞きしていただきたいです。そうすればきっと伝わるものがあると思いますし、私たちも伝わるように頑張ります。
Teacher Interview
先生インタビュー
マーチングバンド部顧問 久家亮市先生[音楽科]
マーチングを通しての
人としての学びを
大切にしてほしい
マーチングバンド部顧問
久家亮市先生[音楽科]
―マーチングバンド部Einsは、中高一緒に作品を作ること、礼節を重んじる人間作りを大切にしていることが特長だと以前の取材でうかがいました。
久家先生そうですね。実は本校でも、中高全員が必ず出るというのはマーチングバンド部だけです。また、オーディションをして大会に出る部員と出ない部員を分けません。どんなに苦手な生徒でも全員が毎回出ます。全員が出てこそのEinsの本当の姿であり、作品になります。全員がレギュラーです。
だからこそマーチングバンド部で一番教えることは責任です。自分がいい加減なことをすると他に迷惑がかかりますし、ピンチヒッターがきかないということで自分がしっかりしないといけません。そこから社会に出て通用する大切なことを学べます。生徒たちも「この子は苦手だから出さない方がいい」といった考えは全くありません。
―久家先生がご指導において大切にされていることはありますか。
久家先生マーチングの中でだけではなく、普段の生活の中でも責任や礼節を意識をさせるということです。全員がずっとマーチングをやるわけではなく、むしろマーチングを取り除いて残るものというのが本当の財産や宝物になります。その意味でマーチングを通しての学びを大切にしてほしいのです。
EINSの一番のテーマは、EINSらしさ。女子だけだからできる作品作りを目指しています。今年も「百花繚乱」といって花にまつわる曲ばかりを選びました。練習では音が出せないので、歌を歌いながら練習をしていますが、歌もピッチに合わせて歌そのもので音程感を取るためにちゃんとハモりますし、カウントでやることもあります。練習の条件は厳しくなっていますが、部員たちは頑張っていると思います。
―そんな中で全国大会を目指しているわけですね。
久家先生外で本番のように練習できなくなりましたが、良かった時と比べてばかりいると、常にテンションも下がってしまいます。グラウンドがいつも使えるだけでありがたいんだ、雨が降ってきてもすぐに戻れて空調の入った部屋があるんだと、自分たちの条件をプラスに置き換えて、ポジティブになってほしいです。そういったやる気にさせるスパイスを、こちらがどういうタイミングでいかに振ってあげるかということは、自分の中でいつも考えています。
―音や動きを見せるクラブですから、気持ちが出てしまいますね。
久家先生そうです。だからこそ、日頃からEINSの一員であるという自覚をしっかり持ってほしいんです。OGもそれを背負って生活してくれています。EINSの価値を上げるのは、周りの評価よりも自分自身がそれをどう大切に扱うかだとも言っています。環境や状況が変わる中でも、一番大事なものは伝統やプライドだと思います。
―モットーである「時を守り、場を清めて、礼を尽くす」は変わらないわけですね。
久家先生それはOGも含めて全員が言えます。「時を守り、場を清めて、礼を尽くす」というのは、EINSのスローガンでもあり、座右の銘とまでいかなくても生涯大切にしてくれると思います。
よくクラブを見学に来られ、感銘を受けて帰られますが、私としては部員たちにクラブ以外でも、同じようにできてほしいんです。部活でできることを、一歩外に出たところでも、人に見えないところでもきる人間になってほしいというのが私の考えです。誰もいないところで勝負ができるというのが一流の人であり、一流のプレイヤーです。部員たちには、そういった人間的な成長を踏まえつつ、全国大会出場を目指してほしいと思っています。