滝川第二中学校の「スペシャル・ウェンズデイ」は、毎週水曜日に福祉体験や農園芸体験、芸術鑑賞、講師を招いた講演会など、さまざまな体験学習ができる授業。生徒たちの自主性や創造力、自然科学などに対する興味を引き出し、生徒たちも心待ちにするプログラムです。なかでも赤ちゃんに定期的に会ってその成長に触れ、育児体験ができる「赤ちゃん先生教室」は生徒たちに大人気。赤ちゃんやお母さんから生徒たちが何を学んだのかを取材しました。
赤ちゃん先生とは ...
NPO法人ママの働き方応援隊による赤ちゃん先生プロジェクト。
0~3歳までの赤ちゃんとお母さんが、2~3カ月おきに計5回来校(1コマ50分の授業)。
ありのままの赤ちゃんと触れあうことで、 生徒たちはいのちの大切さに気づき、
自己肯定感を高めます。
また、お母さんから出産・育児の体験談を聞き、
大切に育ててくれた親への感謝の気持ちを育みます。
テーマ
自分はどれだけ
大きくなったかな
生後2カ月から3歳まで、約10組の赤ちゃんとお母さんが登場。はじめましての握手で、小さな手に触れるだけでドキドキ。赤ちゃんと手の大きさや背の高さを比べて、「こんなに大きくなったんだ」と自分の成長に気づく生徒たち。お母さんからは、大変だけれど楽しいという育児の話を聞きました。
テーマ
いのちの力
エコー写真を見ながら、お母さんの妊娠・出産体験談を聞きました。将来自分が子どもをもつことを想像したり、「バスや電車で妊婦さんに席を譲ってあげたい」という発言も。赤ちゃんの柔らかなほっぺに触ったり、抱っこすることもできるようになりました。
テーマ
泣いてもいいんだよ
お母さんが語ってくれた流産体験では、大人でも泣くことがあることを教えてもらいました。その後、生徒たちに赤ちゃんを預けてお母さんたちは10分間退室。大泣きしてお母さんを探す赤ちゃんを必死になだめ、あやそうとする生徒たち。泣いていない赤ちゃんには優しく声をかけて安心させました。
テーマ
育児体験
いよいよ実際の育児体験です。ベビーカーでの移動や着替え、食事のお世話などを班ごとにチャレンジ。抱っこひもであやすときは、赤ちゃんが落ちないように慎重に。遠慮気味だった生徒も積極的に参加するようになり、メンバーが協力して赤ちゃんのお世話をしました。
テーマ
みんなの未来
赤ちゃんとお母さんから、生徒一人ひとりにコメント入りの修了証書が渡され、生徒からは「15歳になった赤ちゃん先生へ」という手紙を渡しました。赤ちゃんと同じように、自分も見守られ、大切に育ててもらったことに気づくことができました。
英語科(文部科学省認証 英語教育推進リーダー)
中高一貫 中学主任
森田 剛志 先生
赤ちゃんとの交流で
生徒に芽生える親への感謝と信頼
― 赤ちゃん先生教室をはじめたきっかけはなんですか。
森田先生 本校の養護教諭とのつながりからNPO法人ママの働き方応援隊を紹介してもらい、体験学習授業「スペシャル・ウェンズデイ」の一環として、赤ちゃん先生教室をスタートしました。赤ちゃん先生教室には、性教育に近いものから親への感謝の気持ちを育むことまで、いろんな要素を含めたいと考え、担当の方と相談しながら1年間の流れとテーマを決めました。
― 赤ちゃん先生教室ではどういう体験ができますか。
森田先生 生徒が約10名ずつ集まる各班に、生後2カ月から3歳までの赤ちゃんとお母さんが1組つきます。各テーマに沿って赤ちゃんと触れあう授業は、2~3カ月ごとに計5回。お母さんから出産や育児の話を聞いたり、実際に自分たちが育児体験をするなかで感じたことを毎回感想文に書きます。思春期特有の多感な時期であり、親への反発の気持ちが強くなる中2の終わりから、落ち着きが戻る中3の冬までの1年間に実施することも有効だと感じています。
― 生徒たちに学んでほしいことは何ですか。
森田先生 一人っ子やきょうだいが少ない生徒が多いので、育児の手順をそばで見るだけでも学びになります。そして、赤ちゃんとの触れあいを通して自分の成長を振りかえり、大事に育てられてきたことを知ることが家族の関係を深めるきっかけになってくれたらと思います。
― 今後も赤ちゃん先生教室を続けられますか。
森田先生 当初は先生が赤ちゃんの成長を見て、お母さんの苦労を知る機会と捉えていました。しかし、毎回生徒の感想文を渡してニュースレターをいただくという交流を通して、実はお母さんも生徒たちの成長を見守ってくださっていることがわかりました。双方向のコミュニケーションができるすばらしい授業を、次年度も実施する予定です。
宍田さん(中学3年)
宮本さん(中学3年)
小平くん(中学3年)
子育ての大変さを体験して、
親にもっと優しくしようと思った
― 赤ちゃん先生教室を体験する前の気持ちを教えてください。
宍田さん 子どもは好きでしたが、泣いたらどうしようと思っていました。でも接していくうちに、お母さんと離れて寂しいとか、赤ちゃんも理由があって泣くことに気づきました。
宮本さん 私も小さな子のお世話は好きだったので楽しみにしていました。でも、おむつ替えの体験をしたり、夜寝るひまもないという育児の話を聞いて、子どもを育てることは大変で責任のあることだと思いました。
小平くん ぼくは小さな子が苦手で、泣かせてしまったらどうしようと心配していました。でも、回を重ねるうちに距離が近くなって、赤ちゃんが大好きになりました。
― 赤ちゃんと接してどんなことを感じましたか。
宍田さん 赤ちゃんはちゅうちょせずに、素直に人と関わっていけるところがいいなと思いました。少しずつ大人っぽくなっていく顔つきに成長を感じました。
宮本さん 最初は表情や動きだけで自分の気持ちを表していたのに、2回目に会ったときは、言葉で自分の気持ちを伝えられるようになっていてとても驚きました。
小平くん 小さな手でタッチしてくれるようになったときは、とてもうれしかった。つんつんしたら、泣き顔が一気に笑顔になるところがかわいかったです。
― お母さんとの触れあいで感じたことはありますか。
宍田さん 子育ては大変だけど、お母さんには子どもを守る責任があるんだと思いました。私もいままで大切に育ててもらったんだと改めて感じました。
宮本さん お母さんは子どもへの愛情があるから、辛いことがあっても育児が楽しくできるんですね。私はいま“絶賛反抗期中”で(笑)、親に対してキツイ言葉を言ってしまうことがあるので、もう少し優しくしたいと思います。
小平くん お母さんが子どもの成長をうれしそうに話しているのをみて、自分も親から大切にされてきたんだなと思ったし、妹にも優しくしようと思いました。
― 将来にいかせる体験はできましたか。
宍田さん 私は子どもを育ててみたいと思いました。子どもはとてもかわいいし、成長をそばで見ることはすごくいい経験になると思います。
宮本さん 子どもを励まし、元気を与えるような接し方のできる大人になりたいと思っていたので、いい勉強になりました。
小平くん いまから小さな子と触れあう経験をすることは、将来の仕事にきっと役立つと思います。