大阪桐蔭中学校・高等学校の個性あふれる学び「プロジェクトワーク」。中学生と高校生が共に、興味・関心あるテーマに1年間をかけて取り組む体験型学習です。「プロジェクトワーク」を通して、自ら行動し、自ら考え、それをまとめて発表する生徒たちには、どのような力が身につくのでしょうか。ココロコミュでは、「プロジェクトワーク」の時間を取材するとともに、テーマの発案者であり指導も行う先生方に、この時間の価値をうかがいました。
プロジェクトワークとは?
プロジェクトワークとは?

週に1回・7時間目に、中学1年から高校2年までが学年やクラスの枠を越えて取り組む体験型学習。趣味的なテーマから知識・教養を深めるテーマまで全53種類のプロジェクトワーク(2017年度)があり、生徒たちは興味・関心を持った講座に1年間をかけて参加する。それぞれのテーマの課題を考察し、レポートにまとめたり、プレゼンテーションしたりすることで、「知る・考える・発表する力」を身につけることを目指している。

2017年度のプロジェクトワーク[抜粋]
ロボット講座 医学研究 音楽社会学
グリーンワーク 着付けとマナー ミュージックベル
木工 Lockin’ Dance! マスコミ論
将棋 食品から考える科学 カルトナージュ
ミュージカル研究 先生になろう 俳句甲子園
色彩学 アラビア語会話 英米文学研究

参加者:中1/男子1名、中2/男子2名、高1/男子3名、高2/男子1名・女子1名

どんな内容?

熱量の研究は、アルコールランプから発生する熱量の測定実験を行う。熱量を効率よく吸収するように試行錯誤しながら装置を改良し、グループごとに議論やレポート、発表を繰り返し、レポートにまとめる。熱量の計測実験は、理科の通常授業で行うことはなく、扱いにくい実験で、マニュアル通りに進めるのではなく自分たちで実験装置を考え、熱量を測定するという貴重な体験ができる。

発泡スチロール箱に氷を入れて作った氷熱量計で測定する生徒たち。何度も実験して失敗を繰り返しては、アイデアを出し合いながら再チャレンジ。手順通りの実験ではないために、自分たちで考えて取り組まなければならないことばかりだが、だからこそ対応力が求められ、面白さが味わえる。

参加者:中1/男子1名、中2/男子2名、高1/男子3名、高2/男子1名・女子1名

どんな内容?

自分が興味を持った他の人に薦めたい本の魅力を、制限時間5分間の中で参加メンバーに伝える。その後、誰の発表が良かったではなく、誰の本が一番読みたくなったかを投票し、チャンプ本を決定する。学年を超えて交流することで、難しい内容の本に挑戦したり、これまで読まなかったジャンルを開拓したりする生徒もいて、本を介してコミュニケーション能力を高める効果も出ている。

自分が選んだ本の魅力を、相手にしっかりと伝える力を求められるビブリオバトル。この日の生徒たちは、「アンネの日記」「サラの柔らかな香車」「セーラー服と機関銃」「影法師」「クリスティ短編全集Ⅰ」を持ち寄った。新たな発見や出会いがたくさんある貴重な時間だ。
Teacher Interview
Teacher Interview
探究心や興味のあることを掘り下げる
教科横断的な要素があるプロジェクトワーク
――2017年度は53種類あった「プロジェクトワーク」ですが、現場から見た特長はどういう点ですか。
有馬先生 必ずしも生徒の第1希望のテーマになるわけではありませんが、どんなテーマであってもそれぞれの探究心や興味のあることを掘り下げる教科横断的な要素があるものになっています。生徒たちの自発性や、友達と議論を重ねながらことを進めたり発表したりするという要素が自然と入ってくる課題設定になっているところが良さですね。
木原先生 それに加えて、学年を超えて生徒たちが関われることも大事だと思っています。週に1回先輩や後輩と必ず交流する機会があるわけで、先輩の姿を見て後輩が学んだり、目標とすべき先輩が見つかったりということが頻繁にあるわけです。教科横断的という意味でも学年横断的という意味でも、受験に必要な勉強だけではない試行錯誤する力や想像力、人との付き合い方も学べるのが「プロジェクトワーク」の魅力です。
――種類がたくさんあることに驚きますが、ポイントはそこだけではないわけですね。
有馬先生 テーマは、先生方がいろいろな引き出しをお持ちなので、それをできるだけ活かそうという感じです。教科の専門性とは違う、趣味の分野やそれぞれの先生が個人で研究されていることなどをテーマとして設定できるので、興味深くなっています。狙いとしては、生徒の関心が高い状態から主体的に活動する場を作っていくことです。
――有馬先生が担当されている理科実験「熱量の研究」の面白さや学んでほしいところを教えてください。
有馬先生 熱量は普段の生活でも感じるものですが、理科の授業では測定することがありません。そこであえて自分たちで測定してみることの難しさに挑戦してもらおうと思ったんです。実際にやってみると、熱は逃げるし、どこに逃げているのかが見えない。それを実験で「ここが溶けていた」「ここが熱かった」「ここは冷たいままだ」など、熱がどう移動しているのかを肌で感じて測定し、数値化していくことで、思考力を養っていけるのではないかと思いました。また、例えば「エアコンから出ている熱が、部屋の中でどう動いているのか」など、理科的な要素が日常生活の中でどのようにつながっているのかを知るきっかけにもしていきたいと思っています。生徒たちがどこに興味を持つかはわからないので、将来伸びていくためのひとつのきっかけになればと思います。
――木原先生が担当されている「ビブリオバトル」の面白さや学びのポイントはどこでしょうか。
木原先生 ビブリオバトルは、それぞれが魅力を感じた本を持ち寄って発表します。当然、発表の上手な生徒と上手でない生徒がいますし、高校生のほうが語彙力も多く相手への伝え方もよく知っていますから、中学生は勉強になることが多いでしょうね。中学生と高校生が興味を持つ本のジャンルは少し違いますし、高校生が読んでいる本に中学生が「おもしろそう」と食いついたり、逆に高校生が「それ、前に読んだ。おもしろいよね」と言ったりして盛り上がることもあります。読書というと、どうしても自分の世界だけになってしまいがちですが、ビブリオバトルは本を通して人を知ることができますし、先輩・後輩の関係性も、時にはその垣根を取り払って本好きの仲間としても交流できる面白さがありますね。
――プロジェクトワークでの学びで、先生方が目指されていることは?
有馬先生 一つは、今の中学3年生が大学受験の時に、入試改革の流れの中で、探究活動などの実績を蓄積していこうという動きがあります。そこで、生徒個々の活動の記録を受験時の参考資料として提出する動きがあるんですね。そこに研究レポートを持たせたいなという思いがあります。もう一つは今の子どもたちがYoutubeなどのネット動画を見て、何でもやった気になっているとすごく感じていますので、そうではなくて実際に実験をすることで、五感で感じてもらえたらなと思っています。
木原先生 以前から「ビブリオバトル」の話を聞いて、ずっとやりたかったんです。今の生徒たちは、学校から読めと言われた本を読むことを読書だと思い込んでいる子が多いので、実際に生徒たちが興味を持つ本は何なのだろうと思っていたんですね。ただ、「この本が好き」ということはわかるのですが、「どこがなぜおもしろいのか」「それを相手にどうやったら伝えられるのか」を訓練することは、とても難しいところです。入試改革が進む中で自分の意見を述べることも求められていきますし、現行の入試でも小論文対策が必要な中で、人を通じて本を知り、本を通じて人を知っていってほしいと思っています。コミュニケーションツールとしても本を活用して、LINEやツイッターだけではないコミュニケーションの形を身につけてほしいですね。
――「プロジェクトワーク」での今後の目標を教えてください。
木原先生 ビブリオバトルは他の学校やいろいろな自治体などでもやっているとうかがいますから、機会があれば校外の方たちとビブリオバトルができると生徒たちの読書の世界がもっと広がるかなと思っています。校内では、つたなくても何とか伝わってしまうところがありますから、初対面の人にも自分の考えや想いを伝えられるように、今後さらに取り組んでみたいと思いますね。
有馬先生 実は生徒たちは、理科の授業で数学を使うとか、英語の授業で国語的なことを聞かれると嫌がります。でも「プロジェクトワーク」では、普段の授業でのリアクションとはあきらかに違っていて、頭が柔軟になるんです。授業とは完全に切り替わるんですね。その意味では「プロジェクトワーク」を、自分の持てる知識を総動員して自分の考えを引っ張り出す機会や、正解がないものを自分でどこまで突き詰められるかといった機会にしてほしい。これがよく言われる、答えのないものにどう取り組んでいくかに繋がると思うのです。