column ココロの特集
不安との上手な付き合い方
不安は先の読めない現代を生きる私たちにとって非常に身近であると同時に、強い苦痛を感じる存在です。しかし不安は置かれた環境や自分の身の上に起こった出来事などの原因以外に、自分の心が生み出しているものでもあります。不安を感じることは決して異常なことではありませんが、抱え込んでしまうのは避けたいものです。今回は不安との上手な付き合い方についてご紹介します。
もくじ
1不安はなぜ起きる?
私たちはさまざまな場面で不安を感じます。例えば将来への不安、人間関係に関する不安、経済的な不安、特定の物事・場所に対する不安など、「もしうまくいかなかったらどうしよう」「失敗してひどい状況になるかもしれない」という恐怖に襲われる―そんな経験を多くの人がしてきたのではないでしょうか。
また、不安は未知の物事や体験に対する時にも起こります。不安は不快で憂うつなものですが、決して特異な感情ではありません。ネガティブなものとしてとらえられがちな不安は、「何か危険なことが起こるかもしれない」「準備不足で失敗するのではないか」と私たちに教えてくれるサインでもあり、生きていくために重要な感情ですが、そうとわかっていても、できれば感じたくないというのが実際のところでしょう。
では強い不安を抱え込まないために、私たちはどんなことを意識すればよいのでしょうか。
2自力で変えられない不安には立ち向かわない!
不安もいろいろありますが、まず自分で対処できる不安か、対処が難しい不安(=感じるしかない不安)かに分けて考えてみましょう。
例えば資格試験に合格できるかどうか不安という場合は、自分で納得がいくまで勉強することが不安の解決につながるため、自分で解消・改善できる余地が大きいといえます。
一方、「新型コロナウイルスとは別の危険なウイルスが新しく出てきたら、そしてもし自分が感染してしまったら?」という不安は、個人の力で左右できる余地が非常に小さいケースです。
自分で対処が可能な不安と、感じるしかない不安
- 対処が可能な不安
- 昇格試験に落ちるかもしれない
- 大事なプレゼンでミスをするのでは…
- 転職に失敗したらどうしよう?
「今の自分に何ができるか」に集中し望む未来の実現に向けて努力することで解消・軽減が可能!
例
プレゼンの練習・準備を行う。
転職先の会社について調べたり、関係者に話を聞いたりする。
ただし、いくら努力をしても100%成功するという保証はありません。どれだけ準備をしても残る不安は、対処が難しい不安といえます。
転職先の会社について調べたり、関係者に話を聞いたりする。
ただし、いくら努力をしても100%成功するという保証はありません。どれだけ準備をしても残る不安は、対処が難しい不安といえます。
- 感じるしかない不安
- 子どもが受験に失敗したらどうしよう?
- 新しい職場の社員と、うまくやっていけないのではないか?…
- ある日いきなり、家族が事故に巻き込まれるのではないか?
自分以外の人の努力や他人の気持ち、天災、事故など、自分ではコントロールが難しい領域の不安。個人の努力で解消・軽減は基本的に不可能。
まずは、自分が感じている不安はどちらなのかを判断していきましょう。不安の真っただ中にいる時は難しいかもしれませんが、自分が今抱えている不安がどちらなのかを見つめてみてください。
自分の努力や働きかけによって不安の原因が解消する、あるいは解消はしなくても減らせそうだと感じる不安なら、原因解消を試みてもよいでしょう。しかしそうでない場合、あえて不安に立ち向かわない、頑張らない、正面から向き合わずに受け流す方が適切な対処といえます。
不安に立ち向かわない、受け流すとは不安を感じていることを否定したり、不安を感じてはいけないと自分の気持ちを押さえつけたりすることではありません。不安を感じていることは事実としてただ受け入れつつ、コントロールしようとしないことです。
解消が難しい不安への対策①
3不安の受け止め方を変えてみる
解消できない不安なら、不安になる原因にアプローチするのではなく、不安の受け止め方を変えてみましょう。
例えば仕事がうまくいかないことで、「もしクビになったら」「降格させられたら」など、将来起こるかもしれないことに対して不安を感じたとします。そんな時はまず、現在想像しているような事態は実際には起こっていないことを認識してください。それから仕事がうまくいっていない現状に対する捉え方を「こんな時期もある」「この失敗を次に生かせばいい」というように変えてみてください。
また家族や友人など信頼できる人に話を聞いてもらうことや、客観的な視点からみてもらうことも、不安から解放されるために有効な方法の1つです。別の角度からの視点に気づかせてもらうことが、不安の軽減につながる場合もあります。
解消が難しい不安への対策②
4不安によって受けたストレスを解消する
不安を感じることによって受けたストレスに着目し、解消する方法です。ダメージを解消するのも、心と体にとっては大きな意味のあること。「一時的な逃げに過ぎない」などと考えて、自分を追い詰めないようにしましょう。
ここでは、不安によって受けたストレスを解消する具体的な方法をご紹介します。
自律神経を整える
自律神経が乱れると体調が不安定になり、心身のバランスの崩れから不安を感じやすくなりがちです。心身をリラックスさせるための方法として、ここでは「自律訓練法」と「漸進的筋弛緩法」をご紹介します。
自己暗示で不安を軽減する「自律訓練法」
自律神経は本来、人の意思でコントロールすることはできませんが、この自律訓練法では「言葉」と「イメージ」を用いて、気持ちや体調の安定を目指します。具体的な方法は次の通りです。
- ①
- 自分が楽だと感じる姿勢を取り、ゆっくりと腹式呼吸を行います。鼻から息を吸い込んでお腹をふくらませ、口から息を吐きだしながらお腹をへこませます。
- ②
- 呼吸が整ったら、「手足が重たい」と自己暗示をかけます。手足が重たいとイメージできたら、③から⑦へと続けていきます。
- ③
- 「手足が温かい」
- ④
- 「心臓が静かに脈打っている」
- ⑤
- 「楽に呼吸ができる」
- ⑥
- 「お腹のあたりが温かい」
- ⑦
- 「額が涼しい」
- ⑧
- ②~⑦の自己暗示が終わったら、体を起こします。
- ⑨
- 手足の屈伸や背伸び、深呼吸を数回ずつ行います。
リラックスした後の仕上げとして、⑨はとても大切なので省かないようにしてください。ただ、眠たい時や知らないうちに寝てしまった時はそのままでも大丈夫です。
意図的な筋肉の緊張⇔弛緩を繰り返す「筋弛緩法」
体の各部の筋肉をわざと緊張させ、力を抜いていく方法です。体の緊張と一緒に心がリラックスする効果があります。実行する前に、ベルトや時計など体を締め付けるものを外しておきましょう。また、できるだけ静かな場所で行うことをおすすめします。
実際の手順は下記の通りです。
- 両手
- 手をギュッと握り(5秒間)、ゆっくり広げて膝の上に置き脱力(10秒間)。
- 両腕
- 力こぶを作るように腕を曲げ、脇をしめて力を入れ(5秒間)、脱力(10秒間)。
- 両肩
- 両肩をぐっと上げて力を入れ(5秒間)、ストンと落として脱力(10秒間)。
- 首
- 右に曲げて力を入れ(5秒間)、脱力(10秒間)。
- 背中
- 両腕を外側に広げ、肩甲骨を引き寄せて力を入れ(5秒間)、ストンと落として脱力(10秒間)。
- 顔
- 目と口をぎゅっと閉じ、奥歯を噛みしめて顔の中心に寄せる気持ちで力を入れ(5秒間)、口をぽかんと開けて脱力(10秒間)。
- お腹
- お腹をへこませて力を入れ(5秒間)、脱力(10秒間)。
- 両脚
- 椅子などに腰かけ、両脚を前に伸ばしてぐっと力を入れ(5秒間)、脱力(10秒間)。
全身で行うのが理想ですが、時間がない時や外出時に行う時はできるパーツだけでも構いません。繰り返すうちに、自分で意識して力を抜けるようになります。
アロマテラピーでリラックスする
アロマテラピーは自律神経を整え、心身をリラックスさせる効果があるといわれています。アロマオイルやアロマディフューザーを使って部屋に香りを漂わせたり、カップにお湯を入れてオイルを数滴たらし、デスクの上に置いたりしてもいいでしょう。
香りはリラックス効果があるとされるラベンダー、グレープフルーツ・オレンジなどの柑橘系、ローズマリーなどがおすすめです。
アロママッサージを試してみるのもよいです。肩や腹部、脚などをさする、揉む、押す、軽くトントンと叩くなどして、筋肉の緊張をほぐしましょう。ただ肌トラブルの元になる恐れがあるので、オイルの原液を直接つけるのは避けてください。
生活環境を整える
十分な睡眠とバランスのよい食事を取りましょう。
睡眠で意識したいこと
休日は寝すぎない
休日はつい寝すぎてしまいますが、休日に生活リズムの乱れがあると平日にすっきり目覚めにくくなり、疲れを招く恐れがあります。休日もできるだけ、平日と同じ起床・就寝時間を守りましょう。
就寝時間にこだわり過ぎない
睡眠を取ろうと焦るあまり、緊張して寝つけなくなることがあります。そんな時は「眠くなるまでゆっくり横になるだけでいい」と、考えを切り替えましょう。夜にどうしても寝つけなかった場合は、座ったままでいいので、20分程度のごく短時間の昼寝をしてみてください。
食事で注意したいこと
わかっていてもバランスのよい食事を継続するのは難しいものです。そんな時はコンビニで手軽に買えて、ストレス解消に効果的な食品を選びましょう。おすすめは、材料に牛乳か大豆、あるいは卵が入っている食べ物を選ぶこと。これらは精神を安定させるトリプトファンやビタミンC・B・E、イライラを抑制するカルシウム、カルシウムの吸収を補佐するマグネシウムなどの栄養素が入っているためです。
例えばトリプトファンとカルシウムを含むヨーグルト、ゆで卵や鶏肉などのたんぱく質が入ったサラダ、マグネシウムが含まれたココア、ビタミンCが豊富なスムージーなどがおすすめです。
例えばトリプトファンとカルシウムを含むヨーグルト、ゆで卵や鶏肉などのたんぱく質が入ったサラダ、マグネシウムが含まれたココア、ビタミンCが豊富なスムージーなどがおすすめです。
解消が難しい不安への対策③
5不安な気持ちを受け流す
不安を書き出して“燃やす”“流す”ことで、解消が難しい不安を受け流します。具体的には、自分が感じている不安を紙に書き出し、それを大きめの灰皿などの中で実際に燃やします。心の中で「私の不安が消えて、空に登っていく。さようなら」と思いながら、立ち上る煙を眺めてみましょう。
火を使うのは不安という方は大きめの葉っぱを公園や道で広い、そこに感じている不安を全部書き込んだつもりで、川に流してみてください。流れていく葉っぱを眺めながら、「私の不安が遠くに流れていく。さようなら」というイメージを持ちましょう。現実に川が近くにないという方は、流した想像をするだけでも効果はあります。
6まとめ
毎日の生活の中で必ずと言っていいほど感じる、私たちにとって身近な存在である「不安」。不安を感じるとつらさや不快感のあまり、その原因を根本から解消したいと気持ちが起こり、その実現に向けて行動しがちです。
もちろん行動によって不安の原因が解消するならよいのですが、個人の力ではどうしようもない不安が存在することも事実です。対策として、自分が感じている不安は「自分の力でどうにかできる不安か」「自分ではどうしようもない不安か」を見極め、後者である場合は受け流すことを考えましょう。
繰り返しますが、不安は感じて当然の身近な存在です。どうしようもない不安は「そういうものだ」と考え、うまく対処していきましょう。
コロナ禍の影響による生活や人間関係の大きな変化で、大人だけでなく子どもも不安を感じやすくなっています。子供が不安を感じてつらい時に、親ができることについて考えました。
まず、子どもが感じている不安やそれに伴うつらい気持ちについて、話を聞いてあげることが何より大切です。子どもが話しやすいように、「そんな風に感じているんだね」「それはつらかったね」など、気持ちを受け止める言葉をかけるとよいでしょう。元気づけたいからといって、むやみに励ましたり「そんなことを考えても仕方ないでしょう」など、一方的に叱ったり否定したりするのは逆効果です。
また、今回の記事で説明してきたように、不安は私たちが身を守るための大切な防衛システムでもあります。子どもが不安を感じているのは、自己防衛の意識がしっかり働いている証明でもあるのです。人にとって不安は身近な感情であり、感じるのが当たり前であること、無理をしてなくそうとしなくてもいいことに気づいてもらいましょう。自分(親)が子どもの頃に感じていた不安や、その不安にどう対処したかなど、体験談を話すのも効果的です。