column ココロの特集
子どもと言葉のコミュニケーション
学校であった出来事を家で話す時や、自分が感じていること、意見などを人に伝える時、あなたの子どもはどのような言葉の使い方をしていますか?
物事の内容や自分の気持ちを正確に言葉で表現するのは、大人でも難しいもの。子どもがそれらを適切な言葉で表せるようになるためには、どうすればよいのでしょうか。
今回は、子どもが「物事や自分の気持ち・意見を言葉で表現する」ために、家庭でどのようなことに気をつければよいか、親はどうサポートしていけばよいかについて考えます。
物事の内容や自分の気持ちを正確に言葉で表現するのは、大人でも難しいもの。子どもがそれらを適切な言葉で表せるようになるためには、どうすればよいのでしょうか。
今回は、子どもが「物事や自分の気持ち・意見を言葉で表現する」ために、家庭でどのようなことに気をつければよいか、親はどうサポートしていけばよいかについて考えます。
もくじ
1コミュニケーションと言葉
コミュニケーションには、大きく分けて「言語」「非言語」という2つの手段があります。言語コミュニケーションとは、言葉を使って自分の考えや思い、見たり聞いたりしたこと、知識、価値観などを他人に伝えることです。
一方、非言語コミュニケーションとは顔の表情や視線、声のトーン、身振り・手振りなどでメッセージを伝達し合うこと。ここでは、言語コミュニケーションについて詳しくみていきます。
一方、非言語コミュニケーションとは顔の表情や視線、声のトーン、身振り・手振りなどでメッセージを伝達し合うこと。ここでは、言語コミュニケーションについて詳しくみていきます。
言語コミュニケーション①コミュニケーションにおいて言葉が果たす役割
子どもは言葉を使うことで相手の気持ちや考えを理解し、自分と他の人との気持ちや考えの違いにも気づけるようになっていきます。いわば子どもは言葉を使ったコミュニケーションによって、周囲と関わりながら社会生活を送る力を身につけていきます。
多様性を前提とするこれからの時代、関わる人すべてが同じ認識のもとで理解・行動できる場面はどんどん減っていくはずです。ですから互いの理解を深めたり、問題を解決したり、新たな考えを生み出したりするために、言葉を用いたコミュニケーションの力をつけることは、今後ますます重要になっていくと考えられます。
多様性を前提とするこれからの時代、関わる人すべてが同じ認識のもとで理解・行動できる場面はどんどん減っていくはずです。ですから互いの理解を深めたり、問題を解決したり、新たな考えを生み出したりするために、言葉を用いたコミュニケーションの力をつけることは、今後ますます重要になっていくと考えられます。
言語コミュニケーション②言葉は不完全なコミュニケーションツール
言葉はコミュニケーションにおいて非常に重要な役割を担っているものの、必ずしもパーフェクトなツールとはいえません。例えばメールやSNSなど、テキストでやり取りをした時に相手に誤解され、「そんなつもりじゃなかったのに」と驚いたり、戸惑ったりした経験はありませんか。
たとえ同じ言葉でも、自分と相手が全く同じように物事を受け止めたり、理解したりしているとは限りません。このように、言葉を重視する一方で、その限界や不完全さも認識しておきたいものです。
たとえ同じ言葉でも、自分と相手が全く同じように物事を受け止めたり、理解したりしているとは限りません。このように、言葉を重視する一方で、その限界や不完全さも認識しておきたいものです。
2より良いコミュニケーションのための言葉の使い方
文化庁は2018(平成30)年、言語コミュニケーションに関して「『分かり合うための言語コミュニケーション(報告)』について」と題する資料を発表しました。同資料は成人を対象としているものの、その内容は子どもが成長過程で獲得しておきたい要素も多分に含んでいます。同資料では、「これからの時代のコミュニケーションに必要な考え方」として、次の6点が紹介されています。
- 多様性を前提として、互いに歩み寄るよう努める
- 人の言葉遣いは寛容に受け止め、自身は適切な言葉を使うよう努める
- 敬語を適切に用いるとともに、親しさを示す言葉遣いも意識する
- 語彙を幅広く身に付け使いこなす
- 情報化によって発展してきた伝え合いの手段や媒体の特性を意識する
- 言葉による伝え合いの重要性を見直す
言葉を使ったコミュニケーションで大切にしたい「4つの要素」
同資料はこれらの内容をさらにわかりやすく、「正確さ」「分かりやすさ」「ふさわしさ」「敬意と親しさ」という4つの要素に分類しました。
「正確さ」「分かりやすさ」「ふさわしさ」「敬意と親しさ」で意識すべき点
正確さ
- ①意図したことを誤りなく伝える言葉を用いているか
- ②ルールにのっとって言葉を使っているか
- ③誤解を避けるよう努めているか
- ④情報に誤りがないか
- ⑤情報は目的に対して必要かつ十分か
分かりやすさ
- ①相手が理解できる言葉を互いに使っているか
- ②情報が整理されているか
- ③構成が考えられているか
- ④互いの知識や理解力を知ろうとしているか
- ⑤聞いたり読んだりしやすい情報になっているか
ふさわしさ
- ①互いの気持ちに配慮した伝え方を考えているか
- ②目的に調和した、感じの良い伝え合いになっているか
- ③場面や状況に合った言葉や言葉遣いになっているか
- ④相手や内容、目的に合った手段・媒体を使っているか
- ⑤互いの言葉や言葉遣いに対して寛容であるか
敬意と親しさ
- ①伝え合う相手との関係を考えているか
- ②敬意をうまく伝え合っているか
- ③親しさをうまく伝え合っているか
- ④互いに遠ざかりすぎたり近づき過ぎたりしていないか
- ⑤用いる言葉が相手との関係や距離に影響することを意識しているか
3良いコミュニケーションのために、
子どもが身につけておきたい言葉の力
子どもが身につけておきたい言葉の力
ここでは、「正確さ」「わかりやすさ」「ふさわしさ」「敬意・親しさ」の4つにおいて、それぞれ例を挙げ、何が足りないのか、どうすればより良い表現になるのかを考えます。
正確さに問題があるケース
友達から電話があり・・・
- 子
- 「ヤマちゃんから電話があって、明日、学校に雑巾を持ってきてって」
- 親
- 「(ヤマちゃん? ああ、クラスメートの山田さんのことね) 何に使う雑巾?」
- 子
- 「掃除に使うみたいな感じだったよ」
- 親
- 「はっきりしないのね。本当に掃除用の雑巾でいいの? もう一度、聞いてごらんなさい」
※電話を終えて
- 子
- 「洗った後のパレットや絵筆を拭く、きれいな雑巾がいるみたい」
- 親
- 「それなら汚れてもいいタオルがいいね。でも、明日は図画工作の授業はないのに、なぜ雑巾がいるの?」
- 子
- 「図画工作の授業はないけど、図画工作クラブがあるから」
- 親
- 「え? じゃあ、どうして山田さんが電話してくれたの?」
- 子
- 「山田さんじゃないよ。ヤマちゃんは図画工作クラブの山本さんだよ」
ポイント
小学生の子どもをもつ親にとっては「あるある」な会話ではないでしょうか。問題点についてみていくと、まず1回目の電話で、雑巾の用途をめぐって子どもと山本さんの間での正確な情報共有ができていないことがわかります。また、親は「ヤマちゃん」のことを「山田さん」だと勘違いしており、このように省略された呼称では話す相手との間に誤解が生じる可能性があることがわかります。わかりやすさに問題があるケース
家族との話の中で・・・
- 子
- 「今日は、急いで塾に行かないといけないAくんとBくんと一緒に帰ってきたんだよ」
- 親
- 「AくんとBくん、一緒の塾に行っているのね。2人ともそんなに急いでいたの?」
- 子
- 「違うよ、急いでいたのはAくんだけだよ。僕とBくんはAくんに合わせて、3人一緒に帰ったんだよ」
ポイント
内容は間違っていないものの、伝え方のせいで非常にわかりにくくなっているケースです。このような場合、言葉の順番を意識すればわかりやすくなります。例えば「僕とBくんは、急いで塾に行かなければならないAくんと一緒に帰ってきた」とすれば、かなりわかりやすいのではないでしょうか。ふさわしさに問題があるケース
友達が家に遊びに来て・・・
- 友達
- 「ねえ、パソコンでアニメを見ようよ。私、『□□□』がいいな」」
- 子
- 「えっ、まだこんなアニメ見ているの? これ、低学年向けって書いてあるよ。高学年はこんなアニメ見ないって! うちの妹だって、もうそんな幼稚な番組見てないし。それにもう流行ってないよ」
- 友達
- 「私の好きなアニメを、そんな風に言わないで!」
ポイント
子どもが主張する内容(友達が見たがっているアニメは低学年を対象としている)に間違いはないものの、相手への配慮に欠ける発言といえるでしょう。趣味嗜好は人によって大きく異なる上に、デリケートな問題でもあります。相手に合わせて嘘をつく(「私もこのアニメを見ている」「私もこのアニメが好き」など)必要はありませんが、相手が好きであるなら必要以上に否定するのは好ましくありません。例えば「そういう言い方をしたらお友達は嫌な思いをするかもしれないね」「『〇〇ちゃんはこれが好きなんだね。私は××が好きだよ』って言ってみたらどう?」という伝え方を子どもに提案してみてはいかがでしょうか。
敬意と親しさに問題があるケース
非常に仲の良い友達について・・・
- 子
- 「僕と〇〇くんは仲良しだけど、〇〇くんって本当に面白くてバカなことばかりするから、バカオくんって呼んでる」
- 友達
- 「仲が良くてもバカとか言っていいの?」
- 子
- 「だって、〇〇くんも僕がいつも笑わせるから、バカちゃんって呼ぶよ。お互いに呼んでるからこれでいいの!」
ポイント
過去に「けなし愛」という言葉が流行しました。非常に仲が良い友達だからこそできる、一種のコミュニケーションと多くの子どもがとらえており、また互いにけなせるほど自分たちは仲がいいのだという周囲へのアピールにもつながっていたようです。しかし「親しき中にも礼儀あり」という言葉もあり、仲の良さに甘えて一線を越えると、大切な友達を失うおそれがあることを親が教えてあげるとよいでしょう。また、言われている方は「本当は嫌だけど我慢している」ということもあり得ますから、その点も子どもに聞いてみてください。
ただし互いに納得の上でやり合っている、双方の敬意や信頼感の上に成り立っているコミュニケーションの場合は、親は静観していてもいいでしょう。
当人同士が納得しているなら、子どもを信頼して任せてみるのもいいかもしれません。
では、子どもの言葉の力を伸ばすために、親はどう対応すればよいのでしょうか。次は、子どもの言葉の力を伸ばすために親ができることについて考えます。
4子どもの言葉の力を伸ばすために、親ができること
「言葉の力を伸ばす」というと、何か特別なことをしなければと思われるかもしれません。しかし、ここではいつもの生活の中に気軽に取り入れられる方法をご紹介します。
正確さ教科書や本、新聞のコラムなどを音読し、要約させる
すぐにでも取り入れられる方法ですが、正確に物事を伝える力を伸ばす上で非常に効果があります。親が子どものまとめた内容を確認する際には、次の点を意識してみてください。
- 主語と述語を正しく入れているか
- 必要な5W1Hを削らず残せているか
- 本筋に必要のないエピソードや比喩、具体例まで入れていないか など
子どもがまとめた部分を参考に、元の文章と照らし合わせて正確なまとめにできているかどうかを確認しましょう。低学年なら「上手にできたらポイント追加!」などゲーム感覚で楽しめるよう、高学年なら「国語力アップに役立つ」「うまく話せるようになる」など、ステップアップできる点をモチベーションにするとよいでしょう。
ふさわしさ同じ内容でも、相手によって言葉を変えると伝わりやすいことを意識させる
例えば、クラスで流行している遊びでも、仲の良い友達同士で話す場合、親に話す場合、年下の妹や弟に話す場合など、それぞれで伝わりやすい表現は異なります。
友達同士なら略したり、仲間内だけで伝わる言葉を使ったりしても問題ありません。むしろ、より話が深まる場合もあります。
しかしその流行について予備知識のない親には、さまざまな補足や説明が必要です。例えば自分より年下の子どもにクラスで流行っている「推し」について説明する場合は、「推しっていうのは、すごく好きな人とか、物とかのことだよ」など、より平易な言葉で言い換えます。
それでも理解が難しい部分は「〇〇ちゃんは今、アニメの△△っていうキャラがすごく好きだよね? つまり、△△は〇〇ちゃんの『推し』になるんだよ」と具体的なたとえ話にしたりと、より適切な表現にアレンジしていけるようアドバイスしてあげましょう。
友達同士なら略したり、仲間内だけで伝わる言葉を使ったりしても問題ありません。むしろ、より話が深まる場合もあります。
しかしその流行について予備知識のない親には、さまざまな補足や説明が必要です。例えば自分より年下の子どもにクラスで流行っている「推し」について説明する場合は、「推しっていうのは、すごく好きな人とか、物とかのことだよ」など、より平易な言葉で言い換えます。
それでも理解が難しい部分は「〇〇ちゃんは今、アニメの△△っていうキャラがすごく好きだよね? つまり、△△は〇〇ちゃんの『推し』になるんだよ」と具体的なたとえ話にしたりと、より適切な表現にアレンジしていけるようアドバイスしてあげましょう。
わかりやすさ長い文章をわかりやすさを重視して要約する
わかりやすく表現する力を伸ばすには、「正確さ」でもご紹介した要約が非常に効果的です。ただ「わかりやすさ」が「正確さ」と違う点として、省略や言い換えもOKということが挙げられます。わかりやすさには、単純さやシンプルさが必要だからです。
例えば次のような文章があったとします。
<例>ソースはトマト、玉ねぎ、にんじん、にんにく、セロリ、りんご、プルーンなどの野菜や果物と、
とうがらし、しょうが、ホワイトペッパー、ブラックペッパー、ローレル、セージ、タイム、キャラウェイ、クローブ、クミン、フェヌグリーク、シナモン、フェンネルなどのスパイスを入れて作ります。
この文章をよりわかりやすく要約した一例が、「ソースはたくさんの野菜と果物、および複数のスパイスから作られます」です。正確さにはやや欠けますが、ソースに興味がない人に内容をわかりやすく伝えるには効果的といえるでしょう。
またさまざまな体験をさせ、それを言葉で表現してもらうことも、相手にわかりやすく伝える力を身につけるという意味では効果的です。
例えば子どもが植物を育てる体験をしたのなら、その体験について話してもらうのも1つの方法です。全てを話すとかなり長くなりそうな自分の体験を短くまとめて、相手に理解しやすいように伝える訓練になります。
最も伝えたいポイントは何なのか、植物はどのようにして成長したのか、プチトマトなど食べられる野菜ならどんな味がしたのかなど、できる限り端的にまとめることがポイントです。
敬意と親しさマナーや敬語など基本的な知識を教える
目上の人には敬語を使う、どれだけ仲が良い友達でも相手の嫌がることはしないなど、敬語・マナーの基本的な知識を伝えます。相手を尊重するという意識が子どもの中に育てば大丈夫です。
友達や学校・塾の先生、友達の親、近所の人、親戚などとの話し方について話をする
それぞれ距離感に応じて適切な話し方があることを伝えるとよいでしょう。例えば友達の親と話す時に親戚と同じくだけた言葉遣いをするのはおかしく、仲の良い友達に対して遠慮しすぎると、かえって友達が不安になったり違和感をもったりするはずです。接する相手と相手の立場に応じた言葉遣いを心がけるよう、子どもにアドバイスしてみてください。
5まとめ
言葉を正確に、上手に使いこなすことは大人でも難しいものです。まして小学生は、普段から言葉の使い方を意識して話したり、SNSやメールでやり取りしたりしているわけではありません。言葉は知識だけでうまく使いこなせるものではなく、さまざまな体験があって初めて本当に「正確に、上手に」使えるようになる部分もあるはずです。
基本的に言葉の使い方は実際に他人と触れ合い、トライ&エラーを繰り返して身につけていくものです。そのことも親は子どもに教えてあげましょう。焦らずゆっくりと、子どもが言葉と共に成長していく姿を見守ってあげてください。そうして多様な視点から言葉に向き合うことで、これから子どもたちが活躍する社会に順応できる力が身についていくはずです。
基本的に言葉の使い方は実際に他人と触れ合い、トライ&エラーを繰り返して身につけていくものです。そのことも親は子どもに教えてあげましょう。焦らずゆっくりと、子どもが言葉と共に成長していく姿を見守ってあげてください。そうして多様な視点から言葉に向き合うことで、これから子どもたちが活躍する社会に順応できる力が身についていくはずです。