column ココロの特集

小学生がゲーム・動画と上手に付き合うには?

小学生がゲーム・動画と上手に付き合うには?
現在の小学生は生まれた頃からインターネットが身近にあり、ごく自然に使ってきた世代。特によく利用するのがゲームと動画視聴というデータがあります。
友人とのコミュニケーションや共通の話題作り、新しい知識の吸収などのメリットがあるものの、「何時間もスマホやタブレットに釘付け」「寝る時間になってもやめようとしない」など、親にとっては心配な面も。
過去にはゲームや動画を一切禁止する親も少なくなかったようですが、生活に欠かせない存在になった今は、予想外の問題にぶつかることもあり得ます。
今回は子どもたちのインターネット利用の現状やゲーム・動画のメリット・デメリット、禁止せず上手にそれらと付き合う方法などについて考えます。
監修:正木大貴[博士(医学)]
1

小学生の
インターネット利用の現状

総務省が発表した「令和3年度 青少年のインターネット利用環境実態調査 調査結果(概要)」によると、小学生(10~12歳)のインターネット利用率は前年比5.5%増の96%でした。
なお、同調査・同項目におけるコロナ禍前の令和元年(2019年)の結果は86.3%となっています。コロナ禍による外出自粛で、スマートフォンやタブレットなど様々な機器でインターネットに触れる時間が増えたと考えられます。 続いて、同調査を参考に機器の専用・共用の比率、インターネット利用の内容・時間などについてみていきましょう。

機器(スマホ・タブレット・ゲーム機など)の専用・共用

スマートフォンでは小学生(6~9歳)のうち約65%が親、約9%がきょうだいと、それぞれ共有の機器を使用しています。
10~12歳になると約63%が子供専用の機器を、約7%がきょうだいと共有の機器を使用しています。いつから子ども専用に切り替えようかと考えている保護者にとって、このデータが参考になるかもしれません。
ちなみに中学生になると専用のスマートフォン使用率は90%以上と大きく上がり、高校生になるとほぼ100%が自分専用の機器を使用しています。

機器(スマホ・タブレット・ゲーム機など)
専用・共用
機器(スマホ・タブレット・ゲーム機など)の専用・共用

利用内容

インターネットをどう利用しているかについては、低~中学年、高学年ともに「動画を見る」「ゲームをする」が多いようです。

利用内容
利用内容

中学生の結果をみると、①動画を見る②検索する③ゲームをする、高校生では①動画を見る②音楽を聴く③検索するという順番になっています。

利用時間

6~9歳で最も多かった利用時間は「1時間以上2時間未満」となっており、以下「1時間未満」「2時間以上3時間未満」と続いています。
10~12歳になると「2時間以上3時間未満」が最も多く、続いて「1時間以上2時間未満」「3時間以上4時間未満」となっています。

インターネットの利用時間
(6~9歳)
インターネットの利用時間(6~9歳)
インターネットの利用時間
(10~12歳)
インターネットの利用時間(10~12歳)

子どものインターネット利用について、保護者としては金銭的または他人とのトラブルなどが心配ではないでしょうか。次は、インターネットを利用する中で子どもたちが実際に経験したトラブル、または問題行動についてご紹介します。

経験したことがあるトラブル、または問題行動

内閣府の「令和3年度 青少年のインターネット利用環境実態調査報告書」によると、対象となった10~12歳の小学生のうち74.9%が「トラブルや問題を経験したことはない」と回答しています。その一方で、「迷惑メール・メッセージが送られてきた」「勉強に集中できない」「睡眠不足になった」などの声もありました。

インターネット上の経験(上位5項目)
インターネット上の経験(上位5項目)

小学生のインターネット利用の現状から、多くの子どもたちがゲームや動画視聴を楽しんでいることがわかりました。ゲーム・動画はもはや欠かせない娯楽になっていますが、夢中になっている子どもを見て「悪い影響はないのだろうか」と不安になる親がいるかもしれません。
続いては、ゲームや動画視聴のメリットとデメリットについて考えます。


2

小学生が
ゲーム・動画視聴をする
メリットとデメリット

デメリットがクローズアップされがちなゲームや動画視聴ですが、大切なのはメリット・デメリットの両方を理解した上で、上手な付き合い方を考えることです。ここではメリット・デメリットのそれぞれをみていきましょう。

ゲーム・動画視聴のメリット

コミュニケーションツールになる

ゲームは娯楽だけでなく、同世代の友達とのコミュニケーションツールにもなっています。例えばオンラインゲームなら学校の友人たちと一緒に楽しむことでやり取りができますし、グループで対戦すれば協力して敵を倒すなどの共同作業によってチームワークスキル向上の機会にもなります。動画の場合は共通の趣味・話題を通して新たに友達ができたり、友情が深まったりするきっかけになります。

動画でいろいろな学びが手軽にできる

動画の中には子どもの知的好奇心を刺激するものもあり、より広い視野を得るきっかけになります。また子どもに人気の動画共有サービスでは、タレントがわかりやすく理科や社会、算数をテーマに解説する動画などもあります。教科書に向かって勉強するのが苦手でも、動画なら抵抗がないという子どもも多いのではないでしょうか。
またCGやアニメなど現実では難しい世界を見せてくれる動画もあり、想像力を広げるツールにもなってくれます。使い方次第では子どもの可能性を広げる、様々な知識を入手して物事に対する理解を深めるために役立つといえるでしょう。

デジタル機器に早くから慣れることができる

ゲームや動画視聴にタブレットやパソコンを使うことで、デジタル機器への抵抗感が減ることが期待できます。失敗をすることもあるでしょうが、ITリテラシーは自分で小さな失敗を繰り返し、メリット・デメリットを学んで身につくものです。
インターネットは今後、ますます生活に欠かせないものとして存在感を増してくるはずです。そんな未来を生きる子どもたちにとって、リテラシー教育に早すぎるということはないでしょう。だからこそ失敗を通して成長する場として、子どもがまだ小さく、親の目がとどきやすい小学生という時期は最適ではないでしょうか。

ゲーム・動画視聴のデメリット

視力の低下につながる恐れがある

オンラインゲームや動画はまだ歴史が浅いため、子どもの発達に悪影響があると証明されたわけではありません。しかし長時間ゲームや動画視聴を続けると、眼精疲労(疲れ目)を起こしやすいといわれています。
またスマートフォンのような小さな画面を長時間見続けると、内斜視(右眼か左眼どちらかの視線が内側に向かっている状態)になる恐れがあるという報告もあります。

運動不足になる場合がある

体を動かすフィットネスやエクササイズなどのゲームは別ですが、長時間座りっぱなしでゲームをしたり動画を視聴したりするのは、運動不足につながる恐れがあります。

だらだらと続けてしまいがち

ゲーム・動画視聴の時間が長いと睡眠時間が削られ、朝起きられなくなるなど生活リズムの乱れにつながったり、生活リズムの乱れが勉強に集中できない原因になったりするという報告もあるようです。
また本来は勉強や習い事、家族とのコミュニケーションなどに使われるべき時間が削られることにもなりかねないので、注意が必要です。

ゲーム・動画視聴のメリットとデメリットをご紹介しましたが、やはりデメリットが気になる……という保護者もいるのではないでしょうか。もし普段から長時間にわたってゲームや動画視聴をしている子どもなら、禁止したくなるかもしれません。しかし、ゲームや動画の禁止にはリスクもあります。全面的な禁止ではなく、親子ともに納得できる方法はないのか、考えていきます。


3

小学生の
ゲーム・動画視聴の禁止に
まつわるリスク

個人で楽しむ娯楽の域を越え、コミュニケーションツールになっているゲームや動画。私たちの生活に欠かせないものだからこそ、全面的な禁止は様々なトラブルの元になりかねません。禁止にはどのようなリスクがあるのか解説します。

友人とのコミュニケーションに影響がある

友人と集まってやり取りしながら遊べるオンラインゲームは、昔でいえば「放課後、公園に集ろう」という状況に似ているのではないでしょうか。そうであれば、ゲームを禁止されるのは子どもにとって、「友達と遊んではいけません」と同義になりかねない恐れがあります。

親に隠れて行う

例えば、家でゲーム(オンライン含む)を禁止されると、ゲームが許可されている友人の家に集まって遊び始めるかもしれません。もし友人宅で親に隠れてゲームをしたら、課金や個人情報の漏えいなどのトラブルに巻き込まれるかもしれません。子どもの同意を得ない、あるいは全面的なゲームの禁止には、子どもの実態が見えにくくなる恐れがあります。

子どもの好奇心・創造力を抑えかねない恐れがある

子どもが好きなものは親も大切にしてあげたいものですが、「好きなものだけでなく、教育効果のある動画も見てほしい」という親の願い通りには、なかなか動いてくれません。しかし遊びをメインにした動画の中にも、新たな興味のきっかけになるものはあります。例えばゲーム実況動画に熱中していた子どもが、プログラミングに取り組むこともあります。
動画を見る中で学びとの接点が見つかる可能性もあるため、むやみに動画視聴を禁止するのは、その機会をつぶすことになりかねません。

ゲーム・動画の禁止に伴うリスクについて解説してきましたが、結局、ゲーム・動画とどのように付き合っていけばよいのでしょうか。次に、小学生とゲーム・動画との上手な付き合い方についてご紹介します。


4

小学生が
ゲーム・動画と
上手に付き合う方法は?

デメリットだけでなくメリットもあるゲーム・動画視聴。ならば、親はデメリットをできるだけ抑え、子どもが上手にそれらと付き合えるよう工夫してあげたいものです。ここでは、ゲーム・動画とのよりよい付き合い方について考えます。

家族でルールを決める

ゲーム・動画視聴をする時のルールを家族で決めましょう。どれくらいの時間を使うのか、どこで行うかなど、項目は各家庭によって様々ですが、意識したいポイントをまとめてご紹介します。

注意点①ルールの必要性について話し合う

まず、なぜルールが必要なのかを子どもと話し合いましょう。「眼に負担がかかる」「のめり込んで勉強や睡眠時間が削られるかもしれない」「ゲーム以外の生活をおろそかにしないためにも必要」など、ルールを設けないとどんなデメリットがあるかを子どもにきちんと説明します。それによってルールの必要性が腑に落ちるはずです。

注意点②親が決めたルールを押し付けない

親が一方的に決めたルールを子どもの意見も聞かず守らせるのは避けましょう。小学校低学年なら素直に従ってくれるかもしれませんが、中・高学年の子どもを納得させるのは難しいのではないでしょうか。ルールは子どもも納得した上で決定してください。

注意点③定期的に見直しをする

例えば、3年生と6年生では適切な使用時間も、楽しむゲーム・動画の内容も変わってくるはずです。学年が変わる時など、節目でルールを見直すことをおすすめします。

注意点④守れなかった場合のペナルティを決めておく

ルールは家族で決めた約束ですから、守れないのは約束を破ること、家族からの信頼を損なうことと同じです。ペナルティを設け、ルールを守る大切さを子どもに認識させましょう。例えば決めた時間をオーバーした場合は翌日その分だけ短めにする、ルール違反が3回になったらゲーム・動画を一週間禁止など、各家庭で設定してみてください。

最も好ましくないのは一度決めたルールが守られず、放置された状態になることです。約束を守る(信頼を保つ)姿勢を身につけるのは、子どもにとって簡単なことではありません。ルールを守らせる役割を担う親の方も、相応の覚悟と努力が必要と理解しておくべきかもしれません。

ルールの例
●親が機器を管理する

子どもに「スマートフォンやタブレットなどの機器は親の持ち物である」と認識させるためのルールです。「親の持ち物を子どもに貸し出す」という形を取り、自分の自由に使えるわけではないと理解させましょう。

●1日あたりの利用時間を決める
ゲーム機

目の疲れやのめり込みによる生活リズムの乱れを防ぐため、利用時間を制限します。例えば「スマホやタブレット、ゲーム機などは1時間使ったら2時間休む」というルールにしたり、「ゲーム・動画視聴は16時から19時まで」など使用できる時間帯を決めたりしてもいいです。また当記事の「利用時間」のデータなども参考にしつつ、各家庭で適切な長さを決めもいいでしょう。

●課金は親と一緒にする

課金のし過ぎや詐欺などの金銭的トラブルを防ぐため、ゲームへの課金は必ず親に相談し、親と一緒に行うなどの対策を取ります。

●親の目が届く範囲で行う

「機器は自分の部屋に持ち込まず、触るのはリビングだけ」など、親の目が届く場所でしかゲーム・動画視聴をしないように決めます。利用時間を守っているか、無茶な課金をしていないか、危険な第三者とコンタクトを取っていないかなど、トラブルを防ぐために有効です。子どもの成長につれITリテラシーが身についてきたら、この項目は見直してもいいでしょう。

●優先順位をはっきりさせる

例えば「ゲーム・動画視聴より家族との時間(または宿題、習い事など)を優先させる」など、優先順位を決めることも1つの方法です。例えゲームが許可されている時間内であっても、家族との時間や宿題などを優先させるやり方です。具体的なスケジュール(夕食前にゲームをするなど)は親子で話し合ってもいいでしょう。

●家族全員でスマホ・タブレットなど禁止の時間を作る

利用時間や使い方を制限される子どもにしてみれば、「お父さん、お母さんは好きに使っているくせに」と不満を言いたくなることがあるかもしれません。そこで回数(週1回や曜毎週火・木など)や時間を決めて、家族全員で「ネット断ち」する機会を作ってみてはいかがでしょうか。親子のコミュニケーションをとるよいきっかけにもなります。

ゲーム・動画以外の楽しみを知る機会を作る

子どもがゲーム・動画以外の楽しみに目を向けるきっかけを、親が作ってあげましょう。子どもが「ゲームの他にも、こんなに楽しいことがあるんだ」と実感できれば、ゲーム・動画に振り回されず、適切な距離感でほどよく楽しむことができるはずです。水泳やサッカーなどのスポーツもいいですが、例えば釣りやキャンプなど家族全員で体験できるものでもよいでしょう。


5

前向きに子ども、
そしてゲーム・動画と
向き合おう

過去には禁止の対象になりがちだったゲーム・動画ですが、今や生活に不可欠な存在になっています。さらにそれらにはデメリットだけでなくメリットがあること、禁止にはリスクがあることもわかりました。
今どきの小学生の親に求められるのは、未知の物事に触れたり人とのコミュニケーションに用いたりするツールとして、ゲーム・動画の使い方を子どもにきちんと学ばせ、子どもの成長に役立てることではないでしょうか。
時代が変化を続ける現在、まず親が「ゲーム・動画=悪者」という過去の見方から脱却する必要があるかもしれません。ゲーム・動画について、子どもがどんなゲーム・動画を、誰と、どんな風に楽しんでいるのか興味を持って知ろうとする、または親子でゲーム・動画の話を楽しんでみることが大切です。
子どものゲーム・動画利用に対して柔軟に対応していくのは、親にとって少なくない負担ですが、無理のない範囲で少し目を向ける時間を作ってみてください。

Column

ゲーム依存(インターネット・ゲーム障害)とは?

WHO(世界保健機関)による国際疾病分類「ICD-11」で、ゲーム依存と呼ばれていた状態が「インターネット・ゲーム障害」という病名で依存症分野に加わりました。ゲーム障害は下記の条件が12ヶ月以上続いている状態として定義されています。

【インターネット・ゲ一ム障害(Internet Gaming Disorder, IGD) 】

①(ネット)・ゲームに関する行動(頻度、開始・終了時間、内容など)がコントロールできない ②(ネット)・ゲーム優先の生活となり、それ以外の楽しみや日常行う責任のあることに使う時間が減る ③(ネット)・ゲームにより個人、家族、社会、教育、職業やそのほかの重要な機能分野において著しい問題を引き起こしているにもかかわらずゲームがやめられない 上記が12ヶ月以上続いている状態

またインターネット・ゲーム障害になると、日常生活に様々な影響・問題が生じるとされています。

①生活が乱れ、朝起きられない
②昼夜逆転の生活になる
③十分な食事を摂らない
④使用を制限され暴力的になる
⑤ゲームに高額な課金をしてしまう

出典:インターネット・ゲ一ム障害 (Internet Gaming Disorder, IGD)

インターネット・ゲーム依存を病気とするかどうかについて、意見が分かれるところですが、上記のような問題が生じている場合は医療機関や支援グループなどへの相談をおすすめします。