column ココロの特集
親子で向き合うルッキズム~親が知っておきたいことと、子どもへのメッセージ
親と子どもがともに外見にとらわれないようにするにはどうすべきか、ルッキズムの意味や影響、子どもを守るためのアプローチに焦点を当てて紹介します。
ルッキズムという呼称は、1970年代にアメリカで始まったといわれています。肥満を理由とした差別に抗議する「ファット・アクセプタンス運動」で使われたことから、徐々に広がっていきました。
ルッキズムの具体的な例として、以下のようなものがあります。
他人に向かって「もうちょっと背が高かったらよかったのにね」「ちゃんとメイクをしたら、もう少し可愛くなれるのに」など、容姿を否定するような発言をする
「太っている人はだらしなさそう」「あの人は痩せているから、たぶん神経質だろう」など、体型によって人を評価する
採用面接で容姿を理由に合否を決定する
SNSやネット広告、メディアなどで、特定の体型(瘦せている)や容姿の人ばかりが美として扱われ、その他のタイプの人たちが除外されている
ここではルッキズムが子どもに与える主な影響について紹介します。
他人から外見を理由にからかわれたり、否定的な意見を聞かされたりすることで、自分の価値を認められなくなり、自己肯定感が低下する恐れがあります。「自分は外見がよくないからダメだ」という思いから自信を失うこともあるでしょう。
外見を理由に仲間はずれにされたり、いじめられたりして、周囲とコミュニケーションをとることに消極的になってしまう恐れがあります。
人の評価は内面や能力より外見で決められてしまうと思い込むと、勉強や習い事への意欲が低下してしまうことがあります。「どうせ可愛くない(かっこよくない、太っている、背が低いなど)自分では、何をやっても無駄だ」という思い込みから、努力を諦めてしまうことも少なくありません。
外見が社会的な成功に大きく影響すると考え、将来に対する不安を抱くことがあります。それらの不安が大きくなると、将来の選択肢を狭めてしまう可能性もあります。
親が不用意に外見についてコメントすると、子どもがその価値観や表現を真似することがあります。「可愛い」「かっこいい」「スタイルがいい」などの言葉を使う場合は、例えば「同じクラスの●●ちゃんは誰にでも親切で優しいね。その優しさが出ているのかな、笑顔が本当に可愛いね」など、その人の内面を褒める言葉とセットにするなど、言い方に気を付けてください。
また子どもときょうだい、子どもと友達など、外見を比較したり外見でその人を評価したりするのを避けましょう。例えば「お兄ちゃんは背が高いけど、あなたは小柄だから」「●●ちゃんみたいに可愛い子と友達になれてよかったね」などです。子どもが自分自身の価値観を大切にし、ありのままの自分を認められるような表現を心がけてください。
例えば友達について、「●●ちゃんはスポーツが得意で、体育や部活で活躍していて魅力的ね」「●●くんは優しくて、友達が本当に多いね。きっとみんなに好かれているんだね」などです。外見だけでなく、内面に関する魅力の多様性について理解できるような伝え方をしましょう。
外見だけでなく内面や才能など、人それぞれに違う価値があることを教えてください。ルッキズム的な狭い価値観に縛られることを避けるためには、親が多様性について教えることがとても重要です。
子どもがさまざまな年齢層の人と触れ合う機会を作る、異文化に触れるイベントに親子で参加する、多種多様な本や映画に触れる、旅行や体験学習をしてみるなど、異なる価値観に触れることは、自分自身を客観的に見ることにもつながります
また、インターネットやSNS、テレビなどの情報は、必ずしも正しいとは限らないと教えてください。メディアが伝える内容をうのみにせず、自分自身の価値観を持つことを促しましょう。子どもが多様な価値観を持てる環境を整えてあげてください。
親自身がルッキズムに捉われている場合、人を外見で判断したり、外見で優劣をつけるなどの発言をしたりして、子どもにも影響を与えます。
しかし、親が子どもの内面も外見も大切にし、多様な価値観について教えることで、子どもはルッキズムに捉われずにすみます。
親は、子どもの前で人の外見についてコメントすることに対し、慎重になるべきです。「外見で人を否定したり、差別したりするのはダメなことなのだ」という価値観を、親が自らの振る舞いを通して、子どもに教え込むことが大切なのです。
なぜ「もっと可愛く(かっこよく)生まれたかった」と思うのか、理由を子どもに聞いてみましょう。考えられるのは「学校で、同級生から外見についてからかわれた」「友達と自分を比べて、自信がもてない」、あるいは「友達やアイドル、タレントなど特定の人に憧れている」などでしょうか。
「それは嫌だったね」「そんなことを言われたら悲しかったでしょう」など、子どもの気持ちを認めてあげてください。その時、「気にしないで放っておきなさい」「外見について気にする暇があったら、もっと勉強しなさい」などと気持ちを否定したり、批判したりせず、ただ気持ちを受け止めてあげることが大切です。
外見について、「お母さんは、あなたが今、嫌だと思っているところも可愛いと思うよ」と、違う見方があることを子どもに伝えます。
とはいえ、思春期ともなると、いくら親がそう言っても子どもは納得しないこともあるでしょう。それでも親は「私は、あなたは可愛いと思う」「あなたが好きだ」と伝え続けることが大切です。そのうえで、外見以外の価値について伝えてあげてください。
例えば内面について、「あなたは優しいところがあるよね。そこが好きだという友達もいるんじゃない?」「率先して友達を引っ張るリーダーシップがあるから、頼もしいよ」など、具体的な言葉で褒めてあげましょう。
なぜ整形手術を受けたいのか、どの部位を整形したいのか確認しましょう。整形手術も負担が軽いものから重いものまでさまざまです。親としては、小学生が美容整形などあり得ないと叱りたくなるかもしれませんが、まず落ち着いて子どもの話に耳を傾けましょう。
以前に比べ、近年は美容整形に対するハードルが下がっています。SNSで美容整形の体験をオープンにする人も増え、身近なものになってきたといっていいでしょう。また整形手術の技術も向上し、まぶたを二重にする手術などは短時間でできるようになっていることから、整形を希望する高校生・大学生も増えています。
しかし、いくら技術が進歩したといっても手術である以上、失敗する、合併症が起こるなど、リスクはゼロではありません。また小学生は心身ともに大きく変化する時期です。あまり早い段階で整形手術をすると、年齢を重ねた時に思っていた形と変わってしまったり、違うスタイルに変えたいと思ったりすることがあるかもしれません。大人になってから「美容整形を受けてよかった」と思えるのか保証できないということを子どもに話してみましょう。
例えば、整形したい理由が特定の人物への憧れなら、他人と比較するより外見・内面ともに自分の長所に意識を向けるよう、子どもを導いてあげてください。他人と比べて足りないものにこだわるのではなく、自分が持っているものに目を向けるように伝えましょう。
整形が身近になった近年、「大きな負担がなければ、整形に抵抗はない」と考える親もいるかもしれません。「可愛く(かっこよく)なるには整形しかない」、あるいは「整形は絶対に許さない」というどちらかにとらわれず、十分に時間をかけ、親子で納得するまで話し合いを重ねてください。
小学生の場合、低学年の子どもは悪意なく外見に関する感想を口にすることもあり、人を傷つけたり、人に傷つけられたりすることがあります。また高学年になってくると可愛らしさ・かっこよさ、体型など、他人にどうみられているか敏感になり、悩みがちです。
他人から「可愛い」「かっこいい」「スタイルがいい」などの評価を受けることは、自信につながるかもしれません。しかし、外見に対する判断は人によってさまざま。自分の評価を他人に委ねていると、外見についていつまでも悩まされることになります。
外見以外の魅力について自信をもつこと、自分なりの軸をしっかり持つこと、また他人を容姿で優劣をつけたり差別したりしないことの大切さを、親子で理解することが必要ではないでしょうか。