column ココロの特集
我が子を追い詰めないために親がすべきことは?
教育虐待は2010年代になってから広まった言葉ですが、その内容についてご存じですか?
親が子どもの意思を無視して無理な教育やしつけをすることですが、親が子どもに良かれと思っているケースが多く、親に虐待の自覚のないまま行われることがあります。
そのため気づかないうちに子どもに教育虐待をしてしまっている恐れがあるのです。
今回は教育虐待と、教育虐待を防ぐために親はどんなことを意識すべきかについてご紹介します。
親が子どもの意思を無視して無理な教育やしつけをすることですが、親が子どもに良かれと思っているケースが多く、親に虐待の自覚のないまま行われることがあります。
そのため気づかないうちに子どもに教育虐待をしてしまっている恐れがあるのです。
今回は教育虐待と、教育虐待を防ぐために親はどんなことを意識すべきかについてご紹介します。
1.教育虐待とは
教育虐待は親が子にいきすぎた教育やしつけを行うことです。教育虐待の難しい点は、親が「子どものためになる」「将来、わが子に幸せになってほしいから」と、子どもに過剰な期待や心配をするあまり、子どもを追い詰めている意識を持たずに子どもを親の意のままにコントロールしてしまうことです。
世間に認知されるようになったきっかけは、2011年に開催された「日本子ども虐待防止学会」において、武蔵大学の武田信子教授が「子供の受忍限度を超えて勉強させるのは教育虐待にあたる」と発表したことだと言われています。当初は厳しい受験対策など主に勉強において使われていましたが、近年では習い事なども含めるようになりました。
教育虐待は身体的虐待やネグレクト(育児放棄)などの児童虐待と違い、法律上の定義がないためはっきりしたデータはありません。しかし昭和29年度にはわずか1割だった大学・短期大学への進学率が、令和元年度には約6割に達しているほど教育に関心の高い日本は、教育虐待が起こりやすい土壌といえるかもしれません。
また少子化が進み、1人あたりの子どもへの期待が高まっていることも、教育虐待を生み出す下地になっていると思われ、教育虐待は親子間だけでなく社会問題であるといえそうです。
子どもを取り巻く環境の変化も見過ごせません。最難関大学への入学が“教育のゴール”だった時代なら5教科の成績を上げればよかったのですが、近年はそれに加えプログラミング力や英語などの語学力、創造力など、子どもに求められるスキルが次々と増えています。何をどこまでやれば学ばせればいいのかがわかりにくいため、親自身が不安になり子どもに「もっともっと」と努力を求めてしまいがちです。
では、教育やしつけと教育虐待はどこが違うのでしょうか。様々な意見がありますが、大まかにいえばその違いは「子どもを1人の人間として、親とは違う別人格であると認めた上で教育しているかどうか」であるといえます。
2.児童虐待の4つのタイプ
教育虐待について法律上の定義がないことは既にご紹介しましたが、児童虐待については「児童虐待の防止等に関する法律」で規定されています。
現在、厚生労働省は児童虐待として身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待の4種類を定義しています。
現在、厚生労働省は児童虐待として身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待の4種類を定義しています。
厚生労働省による児童虐待の定義
- 身体的虐待
- 殴る、蹴る、叩く、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせる、首を絞める、縄などにより一室に拘束する など
- 性的虐待
- 子どもへの性的行為、性的行為を見せる、性器を触る又は触らせる、ポルノグラフィの被写体にする など
- ネグレクト
- 家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、重い病気になっても病院に連れて行かない など
- 心理的虐待
- 言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、子どもの目の前で家族に対して暴力をふるう(ドメスティック・バイオレンス:DV)、きょうだいに虐待行為を行う など
教育虐待は、児童虐待と重なる部分もあり、例えば「親の言う通りに勉強しない子どもを叩く(身体的虐待)」「テストで100点を取れなかったら罵る(心理的虐待)」などです。
また厚生労働省の「福祉行政報告例」調査を見ると、児童虐待は平成27年~令和元年の5年間でおよそ倍に増えていることがわかります。
また厚生労働省の「福祉行政報告例」調査を見ると、児童虐待は平成27年~令和元年の5年間でおよそ倍に増えていることがわかります。
寄せられた虐待の内訳では心理的虐待が5年間で大きく増えていることがわかります。
件数では最も多いのが心理的虐待で身体的虐待、ネグレクト、性的虐待の順になっていますが、性的虐待は表面化しにくく、統計上の数字と実態には大きな差があるといわれています。
件数では最も多いのが心理的虐待で身体的虐待、ネグレクト、性的虐待の順になっていますが、性的虐待は表面化しにくく、統計上の数字と実態には大きな差があるといわれています。
同じ調査によると児童虐待のおよそ9割が実の親からとなっています。さらに児童期に虐待を受けた子どもは心身に大きなダメージを受けることが様々な研究結果からわかっています。
3.教育虐待の具体例
では実際に、どのような親の行動が教育虐待にあたるのでしょうか。
教育虐待の具体例
- 子どもの勉強や成績が親の期待に沿わないと「なぜできないの?」と責め続け、無理に勉強を強いる
- 親が決めたレベルや点数をクリアするまで無理に勉強させる
- 子どもの睡眠時間や食事時間を削って勉強させる
- 成績を理由に「こんな問題も解けないなんてバカじゃないの?」など、子どもの自尊心を傷つけるような発言・行為をする
- 成績が上がらないと怒鳴りつけたり、机を叩いたりして子どもを威嚇する
- 子どもがやりたがっていること(スポーツや習い事など)を成績アップや受験のために、子どもの意向を無視してやめさせる
- 志望校や職業など子どもの将来を、本人の意思や希望を無視して親が強引に決める
- 「お父さん(またはお母さん)の子どもなら、これくらいできるはずなのに」などの言い方で子どもの成績が悪いことを叱る
- きょうだい間で成績を理由に比較したり差別したりする
これらの例から、教育虐待の背後には「自分の理想を子どもに実現してほしい親」の姿が見えてくるのではないでしょうか。
子どもを最難関校に入れることが夢だったり、自分が入れなかった、あるいは自分と同じ学校へ入学してほしかったり、親には親の想いがあるでしょう。
しかし、それが子どもの希望ややりたいこと、そして適性などと一致していない場合、無理に達成させようとすると教育虐待へのリスクが高まるといえます。
子どもを最難関校に入れることが夢だったり、自分が入れなかった、あるいは自分と同じ学校へ入学してほしかったり、親には親の想いがあるでしょう。
しかし、それが子どもの希望ややりたいこと、そして適性などと一致していない場合、無理に達成させようとすると教育虐待へのリスクが高まるといえます。
4.教育虐待をしないため、親が気をつけること
教育虐待の怖いところは親が子どもに良かれと思ってやっているため、虐待をしている自覚を持ちにくいことです。それを避けるには成績や勉強、習い事を理由に子どもを叱る際に、「これは教育虐待ではないか?」と自分に問いかけることが必要です。
“自分の教育法が絶対に正しい”という自信を持っている方は特に気をつけましょう。どの分野にもいえることですが教育においても“絶対”はなく、子どもの数だけ教育法があります。自分の子どもに合う教育法を見つけるのは難しいことですが、失敗や試行錯誤をしながら子どもと一緒に見つけていってはどうでしょうか。親も人間ですから間違えていいのです。
教育虐待を避けるため
親が自分に問い直して欲しい点
親が自分に問い直して欲しい点
- 「子どもができないのは自分がダメな親だから」というように、子どもの評価=親の評価と思い込んでいないか
- 子どもは自分とは別の人格であることを理解しているか
- 親が子どもの人生を決定すべきであると考えていないか
- 成績や成果など結果だけで子どもを評価していないか
- きょうだいで比較せず、子ども一人ひとりの個性や適性を尊重できているか
- 子どもの人生は親次第と思っていないか
教育虐待とは親の意のままに子どもをコントロールしようとすることと前述しました。子どもに勉強を無理強いしていないか、子どもは納得して勉強や受験、習い事に取り組んでいるか、そして親は「子どものため」を言い訳に自分の思うように子どもを動かそうとしていないか、折に触れてご自身に問いかけてみてください。
5.「子どもは子ども、親は親」の視点を取り入れよう
教育虐待を避けるためには、親が子どもの勉強や習い事から少し目を離してみるとよいでしょう。
- 勉強の指導は学校や塾に任せる
- 「なぜできないの」「こんなこともわからないなんてダメね」など否定的な声かけではなく、「よく頑張っているね」「前回はできなかった問題が解けてよかったね」など、子どものモチベーションが上がったりやる気が出たりするような言い方を心がける
- 子どもの選んだやり方に親が不安や疑問を感じていても、いったんは子どもに任せてみる
教育虐待を避けるためには親と子どもが一体化しすぎないことも大切です。一体化しすぎないとは、「子どもは子ども、親は親でそれぞれの人生がある。いつか離れ離れになる日が来る」と理解しておくことです。
子どもが自分の手を離れていくのは、親としてはつらい経験でもありますが、子どもにとっては必要な成長過程の1つです。ですから親は子どもの教育だけに打ち込むのではなく、子どもと適切な距離を取り、自分の人生を楽しむことも考えてみてください。
子育て以外の趣味をもつ、家族以外の人たちとつながりを深める、自分に合った範囲で仕事を始めてみるなど、親が自分の人生を歩み「自分と子ども」だけの世界にどっぷりと浸かって視野を狭めないことが教育虐待の抑制力になるはずです。
また第三者の視点を取り入れることも効果的です。もし子どもの教育方法や子育てで悩んでいるなら、思い切って友人や学校の先生、行政やNPO団体に相談してみるのも1つの方法です。
教育虐待は親の愛情が暴走してしまった結果であることも多いのですが、それは言い換えればわが子の成長と幸せを心から望んでいて、手助けしてあげたいという想いがとても強いということ。そこは自信を持ちつつも、子どもが嫌がったり戸惑ったりするような態度をとっていないか十分に注意しながら1人の人間として尊重すれば、子どもは親の愛情をしっかり受け止めて伸びていくはずです。
どのような教育方針をとるにせよ、最も大切なのは子どもの人格や意思を重んじることです。あらためてご自身の子どもへの思いと、教育への考え方を見直してみませんか。
「もしかしたら教育虐待をしてしまっているかもしれない」
「教育虐待をしている自覚はあるけれど、自分でやめることができない」
「相談したくても、知っている人には言いにくい」そんな悩みを抱えている時に
相談できる窓口をご紹介します。
「教育虐待をしている自覚はあるけれど、自分でやめることができない」
「相談したくても、知っている人には言いにくい」そんな悩みを抱えている時に
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虐待や子育てに関する悩みを相談したい
・24時間子供SOSダイヤル(文部科学省)
いじめやその他の子供のSOS全般について、子どもや保護者などが夜間・休日を含めて24時間いつでも相談できる、都道府県および指定都市教育委員会などによって運営されている、全国共通のダイヤルです。
電話番号:0120-0-78310(なやみいおう)
受付時間:24時間受付(年中無休)
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・子どもの人権110番(法務省)
「いじめ」や虐待など子どもの人権問題に関する専用相談電話です。
電話番号:0120-007-110
受付時間:平日8:30~17:15 ※土・日・祝日・年末年始は休み
受付時間:平日8:30~17:15 ※土・日・祝日・年末年始は休み
児童虐待について通告したい
・児童相談所虐待対応ダイヤル「189」(厚生労働省)
※児童相談所虐待対応ダイヤル「189」にかけると、発信した電話の市内局番等から(携帯電話等からの発信はコールセンターを通じて)当該地域を特定し、管轄の児童相談所に電話を転送します。