ココロコミュでは、サイエンスセンターでの各科の設備や学び、関連するクラブの活動に注目。理科を愛して止まない先生と生徒たちの声で、海城の理科教育とサイエンスセンターの価値を探ります。
地学部員とめぐる地学フロア
僕らの学習欲を刺激する
サイエンスセンター
地学編
2007年創立。水文班、地質班、天文班、気象班の4班に分かれて活動するが、班を超えた協同作業や合宿も多い。個人や班で研究を行い、ホームページや文化祭、各大会で発表。興味が同じ者同士が学年を超えて共同研究することが伝統となっている。現在の部員数は25名。
直近1年の受賞
- 日本地球惑星科学連合大会優秀賞
- 東京都公園協会賞最優秀賞
- 日本学生科学賞入選2等,日本ストックホルム青少年水大賞審査部会特別賞(物理部と共同研究)
- 日本地学オリンピック最優秀賞・日本代表選出,産業技術総合研究所地質調査総合センター特別賞
校舎を支える
10万年前の地層を展示
地学実験室前の床面には、サイエンスセンター建設時に採取された関東ローム層のはぎとり標本を展示。校舎の地下の地層がひと目でわかる貴重なもので、「科学館にもないような価値あるはぎとり標本です。関東ローム層の下には河川敷のような武蔵野礫層が基盤にあったことがわかります」と河野くん。自分たちの校舎下にあった約9~10万年前の地層を目にして大きな刺激を受けた地学部員。熱く語ってしまう自慢のはぎとり標本だ。
歴史ある標本と最新設備が
共存する地学実験室
地学実験室前は、生徒の興味を引く仕掛けがいっぱい。画面では、防災情報や風・気温をリアルタイムで確認できる。授業へ向かう前に足を止めて食い入るように画面を見つめる生徒の姿は、充実した設備の賜物だろう。地学部員も、先輩が採取した貴重な展示物を見て「いつか自分も!」と闘志を燃やす。
触れて、感じろ!
体感スペース
化石から岩石まで、教科書の中の資料が実際に並ぶ地学実験室後方の体感スペース。生徒が実物に触れ、感じた興味を次へとつなげていくことは、科学の関心を深めるうえで大切な一歩だ。
採取した岩を自ら加工して
詳細を観察
野中くん(中2)の企画で行われた野外巡検で採集した岩石。岩石カッターで切断し、研磨剤と水を用いて2時間程かけて研磨したものが並ぶ。このあとさらにプレパラートへの接着と研磨を経て、岩石薄片が作られる。新しく購入した大型の岩石カッターも、地学部員は楽しみにしている。
好奇心を満たすための
価値ある器具や標本
最新設備だけでなく、先輩や在籍した先生によって蓄積された標本や資料、貴重な器具が豊富に揃うことも地学実験室の魅力。生徒が地学を身近に感じられるものは何か?地学の本質を理解するために必要なものは何か?が大切にされている。
流水による地形観察で
理科教育と防災教育
流水によってできる地形を観察する「emriver(エムリバー)」を地学実験室内に設置。ポンプで水を循環すると、ラバーチップが運搬されて堆積するため、流路の変化を見ることができる。地形の授業だけでなく、自然堤防の氾濫といった防災面からの考察を中2の授業で行う。「目の前で実験すると、実際にどうなるかがわかり実感ができるので理解度が高まります」と野中くん。
地学部員が語る
海城地学部と地学の魅力!
好奇心を無駄にしない環境で
研究できる地学部
興味が同じ先輩や後輩と一緒に研究を進めていく中で関係性が深まっていくのが地学部の特長。特に先輩から卒業後も研究のアドバイスをいただけるので、ずっとつながっていけるような関係が作れています。僕も自分の研究を後輩にどうつなげていけるかを、自分なりに考えていきたいと思っています。
大きく分けて2つの研究をやってきました。1つは「新宿区立おとめ山公園における湧出量変動メカニズムの要因」、もう1つが物理部の勝山くんとの共同研究「機械学習を用いた高精度地下水予測モデルの開発」です。こうした研究は地学部内にある「研究をどんどんやっていこう」という風潮が後押ししてくれました。地学部は好奇心を無駄にしない環境があると思います。
また、地学部での研究を通して、いろいろな大人の方にアドバイスをもらえたことが良い経験になっています。僕らの年代は大人とちゃんと向き合う機会が少ないですが、僕の研究について本気で語ってくれる方がいたり、意見をもらえたりという貴重な機会がたくさんありました。
地学は一番身近な学問であると思います。例えば化学や物理は習っていてもなかなか実感することはないですが、地学は机上の勉強よりも野外で実物を見るだけで勉強になることがあって、普段の生活の中で学べる学問。地学を学べば普段の生活が楽しくなりますし、道を歩いたり、空を見上げたりするだけでも習ったことがいろいろ出てくるのが地学の良さだと思います。
中1の頃から環境に興味があって、その興味を具体的な研究にしていけたのは地学部があったからです。例えば「水」に興味がある人に出会うことは日常ではなかなかありませんが、地学部に行くと「水」に興味がある人が何人もいます。そういうコミュニティがあることが貴重だなと思いますし、自分の活躍したい場が見つけられた気がします。僕にとって地学部がない海城生活は考えられませんでした。
将来は、都市環境の政策立案に関わりたいと思っています。今、水環境の保全に必要なことは、技術を発達させるだけでなく、技術をどのように導入するかということだと思うんです。そこには社会学や政治学の問題が入ってきますから、自分が身近な水環境を守りたいと思った時にどれだけ貢献できるか、どの分野なら貢献できるかを考えながら将来の道を見つけていきたいです。
やりたいことを
満足するまでできる地学部
先輩と後輩のつながりが強いのが地学部です。上下関係が厳しいわけではなく、同じ興味の対象に一緒に気兼ねなく取り組めます。僕は地質班で、東北大にいる鉱物が好きな先輩に鉱物採取に連れていってもらったり、先輩の紹介で別の高校の人と地学でつながれたりしました。部活内でも水文班の青山先輩の研究をずっと見てきて、苦労を知っていますし、ずっとやり続けた結果、受賞して実績を残していることを尊敬しています。継続の大切さを教えてもらいました。その意味でも先輩の存在は大きいです。
僕は研究を続けるというよりも、イベントで活動してきました。例えばはぎとり標本で露出した地層の名前やそれぞれの火山灰の中に含まれる鉱物を観察しました。最終的に地層は立川ローム層、武蔵野ローム層といった形に分けられましたが、はぎとったばかりの時は分類がわからず、先輩、部員、顧問の先生の助言をもらいながら、いろいろな関東地層の論文を読んで、どれがどの地層で、どうやってできたのかを考えました。そのはぎとり標本をサイエンスセンターに設置できたおかげで、今後も博物館でしか見られないような生の地層を、文化祭で小学生に紹介することができます。海城のある新宿はコンクリートとアスファルトだらけなので、その地下の地層が見られるのはとても貴重ですし、小学生の教科書には地層や化石は簡略化されていますから本物を見てもらうことで地学的な刺激を与えられると楽しみにしています。
地学部で活動してきて思ったことは、研究したことをわかりやすく伝えることの大切さです。以前、地学のイベントに行く機会があり、難しいことでも簡単そうに教えられる大人の方の手腕に感心しました。青山先輩も自分の研究の説明をするのがすごく上手です。研究も大事ですが、地学の知識がない方にも伝えられる力を身につけたいと思っています。
教室よりも家よりも長い時間を過ごす地学部の部室と実験室は、僕にとって馴染み過ぎた場所ですが、学外の高校生のイベントに参加すると、自分が所属する海城の地学部のレベルが高いことがわかります。先輩に恵まれ、施設などの環境も整っていて、やりたいことを満足するまでできるのが海城の地学部です。
将来的には地質分野の古生物の研究をやりたいですが、まずは地学オリンピックで結果を残すことが目標です。
湧水を見れば飲まずにいられない部員
ペットボトルの飲み比べランキングも存在
各自の好みの1本を手にした地学部員。地学部としてのおすすめの1本は、「信州安曇野天然水あずみ」(トップホテルズマネージメント)。抜群の甘さと舌ざわりのまろやかさが堪能できるらしい。
学外活動で湧水を見つけると、班に関係なくその水を飲んで味をチェックするのが地学部の恒例。また、水のペットボトルを収集して飲み比べを行い、好きな味のランキングを決めている。水の味の違いは、入部から遅くても1年でわかるようになり、舌が肥えると硬度もわかるようになるらしい。
「多くの人は水道水と天然水で分けていますが、天然水の中でも、硬度の高低だけではなく、例えばシリカ(SiO2)の含まれ方が水の味に影響しているのです。実際に比べることで日本の水の種類の豊富さや幅の広さを感じられます」(青山くん)
手作りのオリジナル計測器で
湧出量の変動を調査
青山くんが研究のために手作りした連続して水質を計測するための装置。元は手動だったが、公園の許可をもらって車のバッテリーにつなぎ電源を供給することで、約3か月は電池交換無しで動く。装置を防水仕様にするとともに、興味を持った人が数値を確認できるように透明ボックスになっている。
「僕がやってきた研究の一つが『新宿区立おとめ山公園における湧出量変動メカニズムの要因』です。中1から観測していたおとめ山の湧出量が高1の時に突然減り、「なぜだろう」「それはおかしい」と思ったことをきっかけに、湧出量が減った原因を研究しました。なかなか答えにたどり着かず、東京都の方にお話を聞きに行ったり、地学部の先輩に相談に行ったりしながら、計測器を置いてもらっている民家の井戸の地下水を計測したことで、湧出量が減った原因がひもとけていきました。簡単に言うと、おとめ山の地層には3段階の地層があり、その中で起こっていることに湧水量変動の原因があったのです」(地学部・青山くん)
https://kaijo-chigaku.com/author/aoyama/
地学担当 山田先生が語る
海城サイエンスセンターと地学の魅力
我々がどういう過程を経て
ここに存在するのかに思いを馳せる地学
科学に対する興味関心や好奇心を持続するために
生徒の中に響くものがある実験室を
― サイエンスセンター設立にあたって、先生が実現したかったこと、その思いをお聞かせください。
山田先生
一番は、旧理科館以上に観察・実験や実習をしっかりやりたいということでした。一方的に教員が話し続けるのではなくて、生徒それぞれが手を動かす。いろいろなことを試したり、確かめたりして、そこから考察したり、新たな疑問を抱いていく。そういう授業の割合を高めていきたいと考えていました。
しかし、旧理科館には物化生それぞれの実験室が1つずつと、やや手狭な共同実験室が2つあっただけで、なかなか実現が難しい。授業に探究的な要素を取り入れたいと思っても、ハード面の不足がネックになっていました。
完成したサイエンスセンターは、物理・化学・生物の実験室が2教室ずつ、地学も1教室あり、さらに共同実験室や階段教室もあって、今まで我慢していたような授業や実験も行えるようになりました。さらにサイエンスセンターの校舎自体が“学びの教材”になればと考え、生徒の知的好奇心を刺激するような仕掛けをたくさん盛り込みました。
― 地学科としての具体的な要望や実現できたことは?
山田先生
一番は、地学専用の実験室を新たに作ったことです。これまで、生徒の学習に役立てられるような器具や資料があっても、専用実験室がないために十分活用しきれていないような状態でした。例えばクラス生徒の人数分の偏光顕微鏡。本校にあるのは、廃番になっていてなかなか手に入らない貴重なものです。1人1台の偏光顕微鏡の価値を十分に発揮できる地学の授業が可能になりました。
また、学校現場ではめずらしい岩石処理室も設置し、大型の岩石カッターや岩石研磨用の器具も新たに購入しました。生徒が自分で採取してきた岩石を加工して観察するという選択肢が増えるだけでも、学習の幅は広がるでしょう。
細かい部分でもこだわった箇所はたくさんあって、教員用の実験台は据え置きで作らず移動可能にしてスペースを確保しました。前面のホワイトボードもグループワークで議論する中で自由に書きながら考えられるように広く設定して、その周囲も書き込みが可能です。生徒の実験台も、作業しやすいことを重視して全面フラットの大きな作業台を希望しました。
また、実験室を生徒にとってワクワク感がある場所にしたいと思い、ボーリング試料を貼り付けてつくった円柱、ガラス棚の中の鉱物化石、触って体感できる展示スペースなどの展示を考えました。これらを設置できたのも、専用実験室ができたからこそです。
広く平面で使いやすい実験台
触って体感できる展示スペース
ワイドなホワイトボードと移動可能な教卓
― ガラスの中の展示だけではなく、触れられるのがいいですね。体感スペースにこだわられた理由は何でしょうか。
山田先生 入学したての中学1年の頃は、たくさんの生徒がいろいろなことに食いついてきてくれます。地学には対しても「わあ、おもしろそう!なんだそれ!」と好奇心を持ってくれる生徒が多いと思います。それが、学年が進むにつれて、「わあ、すごい!」といった食いつきが徐々に少なくなっていくような気がします。それを見ていると、なんだかもったいなく感じるのです。科学や自然に対する興味関心、好奇心をずっと持続していくための一助になればという思いから、体感スペースを作りました。ささいなものではありますが、こういう取り組みの中で1つでも彼らの中に響いてくれるものがあれば嬉しいです。
― そうした知的好奇心の刺激による生徒の変化や成長を実感されていますか。
山田先生 そういったことの教育効果はなかなかすぐには表れてこないものですが、きっかけづくりを手伝うことは大事なことだと思っています。海城生は能力の高い子が揃っていますから、こちらで全部を与えなければいけないとは思っていません。きっかけ1つで、生徒がどんどん学んでいくということは実際に起こります。きっかけから何かに気づいたり面白がったりする力、自分で疑問を見出していく力、さらにはちょっと試してみようと動ける自主性が大切です。逆に言うと、そういったものが養えていないと、探究学習もただの押し付けになってしまうような気がします。そういう力を養うことに対して、サイエンスセンター全体としてなにがしか寄与していければいいと思っています。
時間・空間のスケールを変化させて考える力
― 山田先生が生徒に伝えたい地学の魅力とは何ですか。
山田先生
日本にいると、特に地学は大事だと思います。よく言われることですが、日本は4つのプレートが集まっていますから、地震・火山だけではなく、地学的な現象がたくさん起こる場所です。その日本に生きるなら、地学の素養を持って社会で活躍してほしい。地学を学習せずに大人になっていくのは残念です。
地学の魅力の一つはスケール感だと思っています。岩石片の観察といったミクロの世界を考えることもあれば、宇宙の大規模構造という巨大な空間や長い時間を考えることもあるわけで、そこに他ジャンルとの違いがあると思っています。自在に時間スケール、空間スケールを変化させて考えるという地学ならではの頭の使い方は、生徒がどんな方向に進んでいくとしても必ず活きてくる力です。
― 山田先生が、地学が面白いと思われる理由は何ですか。
山田先生
自分や、自分が生活しているこの世界が、どのような過程を経て今ここに存在できているのか、あるいは、自然からの恩恵と災害の中にあって、この世界でどのように生きていけるのか、そんなことを知る手掛かりになるということでしょうか。
私自身は、教員になってからの方が地学はやっぱり大事だという思いが強くなっています。そして、飽きのこない奥行きがあると思います。その奥行きは、決して大学に行かなければわからない奥行きばかりではありません。現実に目にすることができる自然があり、我々はその中で生じる様々な現象に影響されながら生きている。自然の中の事物をよく観察すれば、法則性や仕組みを論理的に読みとったり、目に見えないものに想像力を働かせたりすることもできるでしょう。資源やエネルギーや環境問題なんかは今後の人類の課題でもあります。関心を持ちやすい科目ではないかと思います。
私自身、教えながらも気づきがあって、授業もどんどん変えていこうとしています。生徒の反応から面白いと思っているところがわかって、「今度はこういうところを突いてみよう」と考える楽しさもあります。
― 地学の実験室ができて、今後地学科として挑戦したいことはありますか。
山田先生 先ほども言ったように、授業のスタイルを変化させていくことですね。今までも探究的な試みを毎年少しずつ取り入れてきましたが、そういうレパートリーを増やしていきたいです。幸い、もう1人の地学の専任の佐々木先生が積極的なので、2人で相談しながら新しい試みを取り入れていきます。その中で良さそうなものが地学科に蓄積されていけばいいと思っています。
― どのような試みをされたのですか。
山田先生
先学期にやったのは、学校の周辺2.3㎞四方の四角の中に13×13の169地点を作って、そのうちの88地点で、同時刻に一斉に気温や気圧を観測するという実習です。それは微気象という狭い範囲の気象で、何か見えるものがないかどうかを調べるもので、班ごとに考察をパワーポイントにまとめて発表してもらいました。やったことのない実習でしたので我々も結果はわからないのですが、失敗してもいいからやってみようと挑戦しました。
とはいえ、私は授業での講義形式の座学をすべて排除しようとは思っていません。座学の方がうまく伝わる内容もあるでしょうから、それはケースバイケースです。生徒の能力を向上させたり、生徒の世界を広げたりするような学びにつながる授業はどんなものなのか、面白く思ってもらえるポイントはどこにあるのか。授業スタイルの選択肢を広げながら考えていければいいなと思っています。