2023年度の大学入試において、京都大学に3名が現役合格した報徳学園中学校・高等学校。中1から高1までは難関国公立大学への進学を目指すII進コース、高2からは高校入学生と合流した特IIコースで学び、京都大学に進んだ卒業生3名に、報徳学園のやる気を引き出す学習環境、希望進路へ進めた理由を話してもらいました。また、そんな彼らを6年間支えた担任の中東先生には、どのような方針で生徒の可能性を伸ばしたのかをうかがっています。そこからは報徳学園中高にしかできない教育が見えてきました。
勉強、スポーツ
各自の個性を大切に、
伸ばしてくれた報徳学園
Profile
影山稜真さん 京都大学工学部電気電子工学科1年/特Ⅱコース卒業
足立歩望さん 京都大学農学部資源生物科学科1年/特Ⅱコース卒業
井上井上創太さん 京都大学理学部理学科1年/特Ⅱコース卒業
自由な雰囲気の中
信頼関係を築き勉強
報徳学園の学校生活で良かった点は何でしょうか。
影山さん報徳は難関大学を目指す他の進学校とは雰囲気が違って、自由な雰囲気の中で勉強ができます。先生から厳しく「勉強しなさい」と言われるわけでも、課題がものすごく多いわけでもありません。僕は情報オリンピックに参加するなど自分の興味あることに向かい、その活動のおかげで 京大を学校推薦型選抜の特色入試で受験できました。周りにスポーツに熱中している人がいっぱいいる中で、勉強をメインでやっている人もいる。報徳は、自分がやりたいことをそれぞれがやれる環境でした。
井上さん報徳は、一人一人の個性を潰すことなく、僕のやりたいことややるべき勉強を尊重してくれました。また、クラスの雰囲気も良かったです。受験に対しても殺伐とした感じがなく、最後までラクで良い感じのクラスで過ごせました。スポーツなどいろんなことをやっている人が周りにいる中で、自分は自分がやりたい勉強をやります。その環境も、自分の心を安定させてくれました。
足立さん僕は、少人数教育が良かったです。担任の先生も、生徒一人一人の特性をしっかり理解してくれ、何かを相談したときもアドバイスが的確でした。そのおかげで信頼関係が築けました。それに校内に多様なことをしている人がたくさんいるのは面白かったです。その中で自分もやりたいことを探していけ、僕は勉強の中に自分のやりたいことをみつけました。
特Ⅱコースは中学からのⅡ進コースと、高校からの選抜特進コースが高2から合流するコースとのですが、特Ⅱコースの良さはありましたか。
足立さん特Ⅱコースだけ生徒数が少ないので、先生との距離が近いという良さは特Ⅱコースだからこそかもしれません
井上さん中高一貫のⅡ進コースは、中1から高1まで同じ少人数のクラスで、担任の中東先生も持ち上がりでした。先生やクラス内の距離の近さは良さですが、そのままでは中高の6年間が、ある意味とても閉鎖された状態で過ごすことになります。でも、高2で合流があることによって、公立中学で3年間育って来た別のバックグラウンドを持つ人と新たに知り合って仲良くなれ、世界が広がるきっかけになりました。
影山さん雰囲気が全然違うので、面白かったです。結果的に仲良くなれる人の種類が増えて良かったなと思います。
報徳学園はスポーツの強豪校のイメージが強いですが、学内にはⅡ進コースや特Ⅱコースがあり、スポーツを頑張る人も勉強を頑張る人もそれぞれいます。そういう学校環境の良さは感じていましたか。
影山さん学校にいる何百人もが勉強ばかりしていたら、しんどいと思うんです。周りにスポーツに熱中している人が大勢いる中で、勉強をメインでやっている人もいるという状況は、自分がやりたいことをそれぞれがやれる環境になり、僕は良かったと思っています。
井上さんあまり意識することはなかったですが、改めて聞かれると、いろんなことをやっている人が周りにいる中で自分は自分がやりたいことをやるというのは、自分の心の安定として良かったように思います。それぞれの個性を認めてもらえていたんですね。
足立さんいろんなことをしている人がたくさんいるのは、すごく面白かったです。多様な人の中で、自分もやりたいことを探していく。僕は勉強の中に自分のやりたいことをみつけました。
皆さんは部活動をされていたのですか。
足立さん中学の時は弓道部、高校では理科研究部に入っていました。でも一番のリフレッシュは、放課後にクラスの友達としゃべることした。
井上さん僕は中1から高1まで吹奏楽部です。高1の途中から数学にハマり、特に当時は数学オリンピックに出て良い成績を残そうと頑張っていたので、そのためにもっと勉強したいと考えて吹奏楽部を辞めました。高2の終わり頃に、中東先生が他のクラスや一学年下の数学好きな人を集めて同好会的な集まりを組んでくださり、高3からはそこで活動していました。
影山さん中学の時は陸上部、高1・高2は美術部でした。美術部員は大半が同じクラスの同じ学年の人で、受験時期になると休部状態になってしまって(笑)。高3はほとんど行ってなかったのですが、絵を描くのは好きです。
報徳学園での思い出といえば?
足立さん中2の春休みにあった『アイルランド語学研修』です。英語をそれほど勉強していない時期でしたが、英語を勉強しなければというモチベーションにもなり、その後の英語の勉強にも影響しました。
井上さん宿泊施設に泊まり、留学生の大学生と様々な活動を一緒に行った中2での『国際交流合宿』です。その時に、英語で自分が言いたいことを伝えて、相手の言いたいことを感じ取ることは意外とできると知りました。報徳では、英語に関する活動が毎年あり、英語を使いたいと思った時に使える環境はとても良かったです。
影山さん僕は、高1・高2での『英語ディベート大会』です。他校と英語でディベートするのですが、僕は英語に自信があったものの、相手の言っていることが全くわからないし、言いたいこともうまく言えないという壊滅的な状況になってしまい、その後の英語学習の取り組み方を変える良い体験になりました。
希望進路の実現を
サポートしてくれた
先生との交流
各学部・学科を志望した理由と、報徳学園の進学サポートについて教えてください。
井上さん中3の時に、学校から配布されたiPadに入った数学の予復習ができる「Qubena(キュビナ)」にはまり 、先の範囲まで数学の予習をやっていくうちに数学にどんどん関心が出て、「理学部で数学をやろう」と思うようになりました。世間的に「理学部に行っても将来につながらない」というイメージがあり、僕も一時期はそれが不安でしたが、僕より見識の広い先生方が、「今は数学に関係した仕事はたくさんある」と教えてくれたことで未来への不安もなくなり、自分の進む道を決められました。
影山さん僕はもともとSFの映画の影響でプログラミングが好きで、情報系の学科志望でしたが、情報オリンピックでプログラミングに関する論文を書いていた中で、「プログラミングよりもコンピューターそのものを作りたい」と思うようになり、電気電子工学科に進むことを決めました。特色入試は考えていませんでしたが、高3の春頃に中東先生からすすめられて、「受験の機会が増える」くらいの考えで受けることにしました。思い返すと先生との距離が近くて「こういう活動をやりました」とその都度報告していたので、先生も僕に特色入試をすすめてくれたのだと思います。書類提出時にも何回も添削してもらいました。
足立さん僕は小学生の頃から昆虫や虫捕りが大好きな少年で、生物系に進みたいと思っていました。最初は大阪大の理学部の生物科学科を考えましたが、理学部は基礎研究がメイン。 僕はどちらかというと応用研究や社会に直接役立つことをしたかったので、京大の農学部を見つけました。僕が影響を受けたのは、高1の生物基礎の先生です。すごくユニークな方で、その先生と授業終わりに生物についていろいろ話すと、生物への興味がより深まったんです。報徳の先生は皆、面倒見よく対応してくれました。
報徳学園の生徒の皆さんに話を聞くと、「以徳報徳」の精神が身に付いていることを感じますが、この学校で学んだ教えで、今後の自分に活かせそうなことはありますか。
井上さん報徳の思想に「一円観」というものがあり、これは一見対立するようなもの…よく例に挙げられるのが「男」「女」とか、「正義」「悪」といった一見対立するようなものでも、実際は一つの円の上にあって繋がっているという考えです。僕はこの考えは、物事を二項対立と簡単に分けずに、一つの円の上の同じところにあるものとして見るという思想でとてもいいと思っています。僕の解釈が正しいかはわかりませんが、それを「簡単に分類せずに俯瞰してみる」と言い換えるとかなり応用性の高い考えだし、いろんなところにその考えを役立てられるのではないかと思っています。
影山さん中学時には「報徳講話」という授業が週1回程度ありました。僕も「一円観」の話が出てきた時は、面白い考え方だなと思いました。対立して、向こう側が悪に見えるのは、その反対側に自分がいるから。上から見るとどちらかが善で、どちらかが悪というわけではないという考え方は、今も自分のポリシーのような、大きい部分を占めています。そういうことはあると、常に思っておいた方がいいのだろうと思いながら生きています。
足立さんありきたりですが、「積小為大」という言葉があって「小さなことからコツコツと」的なことですが、それは受験にも今後にも役立ちます。やっぱり基礎から積み重ねていくのが大切。それは報徳精神で教わったことかなと思います。
最後に大学生活で挑戦したいことを教えてください。
足立さん僕はやっぱり生物に興味がありますから、今は週に3コマぐらいある専門科目の講義を聞いて、知識と興味を深めていきたいと思います。
影山さん京大には交換留学のシステムがあり、留学先の大学での単位が認定されるので、いずれ行ってみたいと思っています。世界の大学でコンピューターについて学んでみたいです。
井上さんまず専門の数学をしっかりやるということ。そして京大には英語で開講される科目があるので、その講義に対応できる英語力、そして世界で学問ができるようなアカデミックな英語力を身につけたいと思います。
生徒の興味関心を
次へつなぐために
たくさんの経験と挑戦を
中東敏也先生
社会科(世界史)教諭。報徳学園で13年目。
2023年春に高校を卒業した3名の在籍したクラスを、
入学時から卒業まで6年間担任。
現在は高校1年の担任を務める。
生徒が持つ
興味関心を引き出し
先を見つけるための
きっかけづくり
中東先生は今春卒業した3名のクラス担任を6年間務められてきました。彼らのクラスはどのようなクラスでしたか。
中東先生個性や興味がしっかりとあって、それぞれが自分の興味関心に向かっていくクラスでした。彼らより前に担任をしたクラスでは、やりたいことが決まっていないけれども意欲はあり、そこに僕が描くビジョンを見せて引っ張っていくスタイルのクラスもありましたが、彼らのクラスは興味関心を引き出し、個性を最大限に延ばすことを考えてクラス作りをしていきました。特に3人がいろいろなことをやってくれたというのはありますが、それ以外の生徒も、プログラミングコンテストで作品を作ったり、『トビタテ!留学JAPAN』で留学したりと、自分の興味を深めていく生徒が大半でした。
興味を伸ばすきっかけや、深めるための情報を先生が与えていかれたわけですか。
中東先生とにかくアイデアをたくさん出して、生徒がいっぱいトライできるようにしてきました。面白いと思えば行動してくれる生徒たちだったので、生徒たちが興味を持てることや僕が関心を持っていることをベースにして、行動を促す機会をたくさん作りました。
卒業生のお話では、進路で悩んだときに視野を広げてもらったり、自分にチャンスがある入試にチャレンジするアドバイスをしてもらったりと、自分より見識の広い先生を頼りにしていた印象が強かったです。
中東先生数学が好きだった井上くんには、例えば数学を研究している人の話だけではなく、数学を志した後に経済学者になった小島武仁先生のニュースを僕のコメントと一緒に紹介しましたね。他の生徒にも、関心を持っていることに対するニュースと僕のコメントを毎日たくさん送りました。影山くんの特色入試は、興味関心を深めていく生徒が多かったので、クラス全体に総合型選抜を一つの選択肢として紹介し、面談でも話をしていたんです。それが自分にとって有利であればチャレンジしようという話も頻繁にしていたので、それを活かしてくれました。
中東先生の中では、生徒たちへどういうスタンスで関わろうと思っていたのですか。
中東先生ファシリテーターというか、生徒が持つ興味関心の出先を見つけるきっかけづくりをする人でしょうか。いろんなものをやらせてみて、そこで楽しめたことが次のステージに変わっていって、大学受験や人生を作っていく上での糧になるようなことを準備する役割だと思っていました。報徳学園は、先生と生徒の距離がとても近く、しかもスポーツをやっている生徒も勉強をやっている生徒もいます。生徒から良さを引き出すために、先生方は非常に細かな配慮をしながらも、その個性を引き出して伸ばすための声かけをしていきます。つまりコーチングがうまい学校なんです。そこは僕も意識していました。
自分の常識や枠を外して
その先へ行けるかどうかが大切
他にも3人は報徳学園が自由な学校だと言っていました。厳しく勉強を強要されたことはないし、他の進学校のような雰囲気ではないと。その良さを先生が指導で生かされたことはありましたか。
中東先生勉強に関しても、スポーツに関しても、確かに自由だと思います。厳しく見えるとしたら、生活指導で髪型や挨拶といった人として最低限のことを守らせるからでしょう。それができていれば、やり方に関してうるさく言うことや強制することはありません。全体として言えることは、先生方が生徒の個性を重視して、やりたいときにやらせることが効率的にも良いという考えに基づいて指導しているということです。
ただ、学習量自体は大量にやっています。今回のクラスでもそれぞれの興味関心に合わせて、「こういう課題はどう?これやってみるか?」と言ったら、彼らは中学生の時から大抵「やります!」と言ってやってきました。ただ、それを宿題とは思っていないんです(笑)。やりたいことだからやる。だから自由だったという認識なんだと思います。
また担任としては、自分が好きなこと以外に気を配ることは、受験でも人生の長いスパンで見ても大事になるので、そこも意識するように注意してきました。模試で間違った問題を見返す機会を作って、みんなでシェアをする。そして他の人の意見を聞いて「そういうこともあるのか」と気づく。そういうことも大切にしていました。
彼らが大学や学部を選ぶときには、どういったアドバイスをされたのですか。
中東先生中1・中2は目の前の楽しいことを一緒にやって、それを自分の好きで表現していましたが、中3・高1ぐらいでは学問や大学のことに結びつけていかないといけないと思っていました。ただ、彼らが高1になる前にコロナが始まり、全国の一斉休校がスタートして「このままでは大学に行かすことができないんじゃないか」と不安を感じたんです。それで、より個性に寄らなくてはならず、大学には自分から学びに行くことを知る必要があると考えました。
その一端になるように、休校が始まった3月末ぐらいに、白紙の時間割表を全員にオンラインで配って、当時たくさん出てきた無料のオンラインコンテンツで授業を埋めてやっていこうと提案しました。自分が学ぼうとしたらオンラインにはたくさんの面白いコンテンツがある、学びたいものを学ぶのが大学での学びであることを実感してほしかったんです。その中に日本の各大学のオンライン講座も入れていましたから、そのうち足立君と影山君は大阪大の「シーズプログラム」という高大連携講座に個別に入っていきました。そういうものに参加したら、クラス全員にコメントをシェアしてもらいます。それで周りにも刺激を与えて、「こんなことやっている奴がいるぞ」「気になるな。じゃあ、自分も何かやろうか」というサイクルを作っていきました。
自ら学ぶ楽しさを知ることは、まさに将来に繋がりますね。
中東先生そうですね。高校生だからといって、大学の勉強ができないということは絶対にないと思っていました。高校生がノーベル賞級の発見をすることも十分可能性がある時代になっていますから、常にクラスの中でもまず自分の常識や枠を外そう、変な先入観を取っ払おう、そこからその先に行けるかどうかが大切だと伝えてきました。
3人にも話を聞きましが、スポーツに打ち込む生徒もいる、勉強を頑張る生徒もいる報徳学園で学ぶ良さはどういうところだと思いますか。
中東先生いろんな生徒がいることは、教員の層の広さにもなり、学校としての強みになっています。どの先生も、部活の顧問や監督をされながら、担任をして教科担当として授業に出られています。コースは分かれていますが、どの先生もどちらのコースにも関わり、授業の中でそれぞれの思いや考えを話されますから、生徒にとっては人生勉強にもなります。そうやって先生の強みを生徒たちに活かせる学校であることには、大きな意味があると思います。
それに生徒は、いろんな場面で学校愛を感じているように思います。例えば特Ⅱコースの生徒たちは、高校野球の応援に行く生徒がとても多いんです。学校に好きになれるところがある、学校を誇らしく思える場面があるというのは、生徒にとって自己肯定感が高い場で学ぶことになります。それが勉強に対しても、スポーツに対してもいい影響が出て結果に結びついているのかもしれませんね。
では、最後に先生から卒業生たちにメッセージをお願いします。
中東先生自分が選んだ面白いと思うこと、楽しいと思うことを、大学でさらに掘り下げたら、その先に具体的で実務的なものが見つかってくると思います。だからこそとにかく面白いこと、たのしいことを突き詰めてほしいと思いますね。