他校では体験できない体験を!
― 今年度2回目の「土曜プログラム」を見学させていただきました。進化しながら20年続く「土曜プログラム」の強みは何でしょうか。
何東先生 シンプルな回答になりますが、他校では体験できないようなことを体験できることが最大の魅力だと思います。授業で教科の勉強をするだけではなくて、学校内で横断的に勉強した結果を「土曜プログラム」の講座にも反映することができる。全ての講座ではありませんが、そういう機会があるのは、生徒にとって良いことではないかと思います。また、入試の際、帰国生のみ面接を行いますが、大抵の受験生が『「土曜プログラム」をやりたいから田園調布学園を受験した』と言います。受験生の合格に向かって頑張ろうというモチベーションの一つに、「土曜プログラム」がなっているのは嬉しいですね。田園調布学園をインターネットで検索して調べたときに、「土曜プログラム」という学びが目につき、こんなことができるんだという楽しみを与えているのかと思います。
入先生 本校は体験を重視することを軸としていますが、普段の授業の中では、「土曜プログラム」のような体験はなかなかできません。また、本校の学校ルーブリックの中にある「対話する力」や「社会にはたらきかける姿勢」にも、「土曜プログラム」の影響は大きいと思います。「土曜プログラム」に講師として来てくださる、社会で活躍されているその道のプロの方と対話をしたり、触れ合ったり、話を聞いたりという貴重な機会が「土曜プログラム」にはあるからです。今年からは我々教員が持つ講座も増えてきました。授業の延長線上にある講座を「土曜プログラム」でやれるのは深化につながっていると思います。
― 「土曜プログラム」には入門編と応用編があったり、同じ講座でも回数を重ねて展開していく講座があったりと、内容が多彩ですね。生徒たちはどのような反応ですか。
何東先生 6年間ずっと同じ講座を受け続ける生徒もいます。今、日本舞踊で講師をしている大学生は、「土曜プログラム」で日本舞踊を体験して今もずっと続けていますから、人生に影響を及ぼしていますね。反対に、軽い体験で終わらせてしまう生徒もいます。なかなか全ての生徒に最大限の結果を出すのは難しいですが、良い体験の機会にはなっています。
入先生 「土曜プログラム」がダイレクトに大学入試につながっていくかは生徒それぞれですが、フランス語講座をきっかけにフランスに興味を持ち、現在はフランス在住の卒業生など、その後の人生に影響している人はかなりいます。「土曜プログラム」で体験したことが社会に出てから生きる生徒もいるでしょうし、視野を広げた結果をいつか生かしてほしいと思います。
多彩な講師陣は専門分野のプロが結集
― 講師陣も多彩ですが、どういう方が参加されているのですか。
何東先生 講師人数が多いので、詳しいご経歴まですべては把握しきれていませんが、各専門分野のプロで、生徒に伝えたいものを強く持っている方たちに来ていただいています。スタート時はいろいろな人脈を使って、その道のプロの方を呼んでいたようです。場合によっては企業の教育活動を活用して、さまざまな分野から人を探したこともありました。今も続くこだわりとしては、その道のプロの方を選び、生徒がしっかりと話を聞ける機会を作ることです。
― 例えば「理科ふしぎ不思議」は、少し年配の先生方が大勢いらっしゃいましたが、どういう先生でしょう?
入先生 くらりか(蔵前理科教室ふしぎ不思議)という理科教室をやっている団体です。元は東京工業大学の先生たちです。
― 「土曜プログラム」は5分野に分かれていますが、受講講座に対する学校からの希望はありますか。
何東先生 個人的な意見としては、あまり分野にとらわれず、いろいろな経験をしてほしいと思っています。自分では苦手だと思っていたものが、「土曜プログラム」の講座を受講すると意外と得意だったという発見もあるので、分野に関係なくいろいろな世界を知ってほしいですね。 生徒が講座選択をするときは、講座内容を理解したうえで、自分で選択しますから、生徒なりに目的を持って挑んでいると思います。ただ、ほとんどの生徒は興味がある講座を受講しますが、講座によっては定員が決まっていて抽選があり、希望講座以外を選ばざるを得ないときもあります。そういうときも体験してみて、「意外と面白い!」と何か発見してくれればと思っています。
― 自分自身で選んでいくことも大事ですか。
入先生 そうですね。講座の大半は全学年が対象ですが、中には推奨学年を設定しているものもあり、大学受験が近い高2・高3にはその時期に必要な受験講座も用意しています。ただ、私は高2・高3でも、土曜日はサッカーをやっていいし、フラワーアレンジメントに没頭してもいい、そういう意味でも自分で考えて選択してほしいと思います。全学年対象の講座は、縦のつながりも大事にしながらやるスタンスですから、別の刺激もあります。
― 先生方が興味深い講座はありますか。
何東先生
私は以前参加したプロボウラーに教わるボウリング講座です。プロボウラーの投球を見て、美しすぎて鳥肌が立ちました。どうして狙ったところにカーブをかけてボールが行くのだろうと感動しましたね。生徒がどう感じているかはわかりませんが、その道のプロの所作を見られるだけで価値がありました。
他にも、大学の先生が研究活動されている専門分野の話を聞くと、講座の相手が中高生なので、自身の研究分野をかなり噛み砕いて分かりやすく伝えようとされている努力が非常に伝わってきます。そういうときは、本校のことを考えてくれているありがたさを感じます。
入先生「土曜プログラム」ならではという意味で、私はフィールドワークの講座が印象に残っています。多摩川に行ったり、博物館に行ったりする外に出ての活動も、生徒にとって良い機会になっていると思います。
他にも「視野を世界に」という講座は、企業で活躍された方にご自身の経験をお話いただくもので、時折「この方はテレビで見たことがある」という方も来校されます。そういう機会はなかなかないので貴重だと思います。
― 「土曜プログラム」には、評価はあるのですか。
何東先生
点数化する評価はないですが、振り返りのためのアンケートは、全講座終了後に必ず実施しています。そして、講座内容が身についたかどうかを見て、来年度の改善に反映していきます。
私が生徒アンケートで印象的だったものを挙げると、前年度担当していた「多摩川野鳥散歩」の回答です。街中にとても綺麗なインコが飛んでいて、実は普段も見ることができるのですが、「これまでずっと気づかずに過ごしてきて、改めて身近に自分が見られていない珍しい鳥がいるということに気づきました」といった感動を書いてくれているのを見て、嬉しかったですね。
入先生 私は高学年の講座を担当することが多いのですが、「こういう内容を授業でやってくれればいいのに」というアンケート回答に少し傷つきました(笑)。でも、「土曜プログラム」はそれが狙いで、授業ではできないことをいろいろな人の力を借りて教育できることが良さなのです。
― 「土曜プログラム」は、授業や教科書の学びとは狙いが違うわけですね。
入先生 例えば理科では実験を多く行いますが、授業では準備も含めてなかなかできない実験もあります。でも、「土曜プログラム」ではそういった実験を行ってくださるのです。他にも「パソコンを分解してみよう」という講座がありますが、情報の時間にパソコンを分解することはできません。また、英語関係の講座も多く、そこで英語の楽しさを知り、授業へのモチベーションにつなげる生徒もいます。授業では難しいことを体験したり、授業とは違った楽しさを感じられたりするという意味でも、「土曜プログラム」の存在は大きいです。
― 充実の「土曜プログラム」ですが、今後は?
何東先生 生徒や講師の方にとって満足度の高いプログラムにしたいと思ったときに、現状の課題は、講座本来の良さや価値を生徒に伝えきれていないことです。生徒は講座を選ぶときに、どうしても表面上のタイトルや文章で選んでしまいますから、1つの講座に人数が集中したり、あるいは2~3人で開講する講座が出てきたりしてしまいます。生徒が選択するときに「土曜プログラム」の講座や講師の魅力がしっかり伝わるような動画を取り入れた、紹介ホームページなどを作りたいと思っています。
入先生 生徒にアンケートも取っていますから、生徒のニーズや現代に合うような形にしていきたいと思っています。その一つの結論として、教員が担当した方が高い効果を発揮する講座も増えてきました。講座を一気に増やすことはできませんが、我々がアンテナを張って、生徒に必要な講座を実施していきたいと思います。