英語4技能のスキルアップを目指し、各学校が様々な取り組みを行う中、大谷中学高等学校は次世代英語教育として注目される「5ラウンドシステム」を4年前から導入しています。目指すのは、自分の言葉で英語を楽しんで使える人。どのような授業で生徒たちを“英語好き”へと導くのか、各学年で指導にあたる英語科の先生方に話をうかがいました。
「5ラウンドシステム」とは?
各学年で使用する1冊の教科書を1年間で5回繰り返し学習する先進的な英語教育。
横浜市立南高校付属中学校が2012年度に導入し、大谷中学校では2019年度から実施。
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内容理解
CD等による音声のみで教科書の内容を理解。
繰り返し英語を聞き、ストーリーに合わせて
ピクチャーカードを並び換えて学習する。
単語や文法などの解説はほとんど行わず、教科書も使わない。 -
音文字の一致
音声を聞きながら英文を追い、音と文字を一致させる。
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音読
「ラウンド1・2」で耳からインプットしてきたことを実際に
教科書を使って音読。
発音やイントネーションに気をつけながら
CD等の音声をまねる。 -
穴あき音読
聞き取った音声をもとに、
教科書の英文に設けられた空欄を埋めていく
「穴あきリーディング」に取り組む。 -
リテリング
教科書のストーリーを自分の言葉で伝える
「Retelling(自分の言葉でわかりやく相手に話を伝える)」
を行い、ノートに書くライティングに取り組む。
1学期:
ラウンド1~22学期:
ラウンド3~43学期:
ラウンド5
須藤恭平 先生(中1担当)
崎中 颯 先生(高1担当)
澤井志織 先生(中3担当)
目の前の英語に、生徒は興味津々!
「5ラウンドシステム」の英語教育を導入した経緯を教えてください。
崎中先生生徒たちが英語4技能をマスターするにあたり、どのような授業をすればより効果が上がるのか英語科の教員同士で日々議論していました。そうした中、5年前に横浜市立南高校附属中学校が実施している「5ラウンドシステム」のことを知り、足を運んで授業を見学させてもらい、担当の先生にも話をうかがって、本校でも取り組む価値があると感じて2019年から導入しました。
どこに取り組む価値があると感じられたのでしょうか。
崎中先生授業を見学させてもらった時、生徒たちは日本語を交えつつも積極的に英語を話していました。教室全体を見まわすと全員が楽しそうに授業に参加し、多少レベルの差があっても英語を使いこなしていたのです。私たちも以前からそうした授業ができれば理想だと考えていたので、その思いと「5ラウンドシステム」が上手くリンクした形になりました。
須藤先生どの学年も1学期のラウンド1ではまだ教科書を使わず音声による内容理解を行います。具体的にはピクチャーカードを用いてストーリーの順に並び替える活動を行います。何度も繰り返し音声を聞くことで、その次のラウンドの授業への橋渡しになります。学年が進むにつれ、生徒たちもラウンドの授業に慣れていき、英語で表現することの幅を増やしていきます。
澤井先生5ラウンドの授業の前半にはスモールトークの時間があります。日常的な会話を教師や生徒同士で英語を使って行います。ラウンドが進むにつれ、スモールトークの中でもこれまでに学んだ教科書の表現を上手に使って会話する生徒が増えていきます。クラスではペアのパターンが複数決まっており、普段から多くの生徒と会話することで様々な表現をペアから学んでいきます。
「5ラウンドシステム」ではどのような教科書を使うのですか。
須藤先生ストーリー性のある教科書が適していると感じます。現在使用しているのは、中1から中3の最後まで登場人物が同じで、成長の物語を感じさせるものです。3年前に教科書の改訂があり、教科書会社も「5ラウンドシステム」を見据えた内容に寄せてきて、専用のワークブックも付いていますから、生徒はより学びやすく、教員も教えやすくなりました。
アウトプット力、ますます向上!
授業はオールイングリッシュで行われるのでしょうか。
崎中先生英語のインプットをたくさんさせるのが目的にありますから、教員は基本オールイングリッシュの授業に努めます。中1の1学期は日本語を交えて指示を出しつつも、生徒の習熟度に応じて段階的に英語を使う割合を増やしていき、最終的にオールイングリッシュにシフトします。
澤井先生だからといってネイティブの先生が教鞭を執るわけではありません。ネイティブの先生は「5ラウンドシステム」とは別にある「オーラルコミュニケーション」の授業を担当しています。そして嬉しいことに、生徒たちは「5ラウンドシステム」で英語に慣れているので、ネイティブの先生の授業を受ける時も抵抗感がありません。
「5ラウンドシステム」を導入して、生徒が成長したと感じるところは?
澤井先生英語学習に取り組む姿勢が前向きになりました。教科書を開いて文法を一から学ぶといった従来型の授業では、どうしても苦手意識をもってしまう生徒が少なからずいました。しかし今は、自分から英語に触れようとする生徒が多くなり、何より楽しそうに授業を受けている様子が私たち教える側にも伝わってきます。
須藤先生中学生が内部進学で高校に上がる際、必ず全員が入試を受けます。今の高1生は「5ラウンドシステム」の1期生ですが、高校入試の点数は前年比で大きく伸びました。その他、年に1回、中3は年に2回、生徒たちは4技能を測る「GTEC」の検定を受けますが、その点数もアップしています。
澤井先生「GTEC」に関しては特にライティングの点数が伸びました。
崎中先生当初、リスニングとスピーキングの点数が伸びるだろうと予想していたのですが、実際はライティングの点数が大きくアップしました。授業でしゃべったことを短時間でノートに書くこともあり、その経験を積むにしたがって英語を書くことに対する抵抗感もなくなるのでしょう。
澤井先生「5ラウンドシステム」はインプットが多い分、アウトプットの量も増え、それが結果的に書く力につながっているのだと思います。
さらなるプラス効果!
高校でも「5ラウンドシステム」は継続されるのでしょうか。
崎中先生今のところ「5ラウンドシステム」は中学だけで導入しています。ただ、前半のラウンドで取り組むスモールトークは、高校でもスピーキングの練習として継続します。英語学習は“反復”が重要ですから、何度も繰り返して学習することで学力は定着します。ですから、高校の先生方にバトンを渡す時は1回で完璧な結果を求めないようにお願いしています。
須藤先生「5ラウンドシステム」は、飽きないように繰り返して学習できるシステムで、ストーリー性のある教科書が支えになります。それが高校の教科書になると、ストーリーよりも評論的な内容が増えるため、その部分で生徒がどう学び、教員もどう教えるのか、今後中高の英語科が一体で考えていく必要があると思っています。中学で効果を上げているからこそ、高校にもうまくつなげていきたいです。
「5ラウンドシステム」が、他の学びにプラスに働いていることはありますか。
崎中先生中2で「イングリッシュキャンプ」が行われますが、ここでも少なからず「5ラウンドシステム」の効果はあらわれています。ネイティブの先生のもと、2泊3日で滋賀県の施設でゲームやアクティビティに取り組み、最終日にプレゼンテーションを行いますが、滞在中は英語漬けになるため、普段から英語に慣れ親しんでいる生徒たちは実に楽しそうに臨んでいます。
須藤先生担任も同行しますが、キャンプ中はできるだけ生徒から離れて見守るようにしています。私たちが近くにいると、中には日本語で助けを求めにくる生徒もいますので(笑)。
崎中先生この「イングリッシュキャンプ」は、中3の3月に実施される「シンガポール研修旅行」の架け橋になっています。コロナ禍を経て昨年度から再開し、今年度は6泊7日にバージョンアップする予定です。多民族国家のシンガポールで異文化に直接触れることは、教員が思っている以上に生徒にとって刺激になるようです。現地での経験が成長の糧になり、英語が苦手だったけれど新学期から新たな気持ちで頑張ってみようと前向きになる生徒がいれば、研修を機に将来の夢が決まったという生徒もいます。
須藤先生今年の3月にシンガポールに行った学年は、偶然にも「5ラウンドシステム」の1期生だったこともあり、なおのこと英語や異文化に大きな刺激を受けていました。
今後、大谷中学の英語教育はどのように進化していきますか。
澤井先生ラウンドの授業の際、生徒が文法を間違えることもよくありますが、それに臆することなく「自分が言いたいこと」「伝えたいこと」を積極的に英語で表現しようとする姿勢があることに感心しています。4技能のすべてにおいて学びの成果がついてくるように楽しみながら学べる授業を心掛けて、私たち教員もレベルアップしていきます。
崎中先生やはり社会に出ても使える英語を身につけさせてあげたいと思っていますので、そういう意味で「5ラウンドシステム」は大学入試だけを見据えない画期的な英語教育であると感じます。事実、生徒たちは授業を通じて着実に英語力をつけていますので、今後も本校の英語教育に私たち教員がまず期待感をもって一人ひとりを導いていきたいと考えています。
須藤先生3年間「5ラウンドシステム」の授業を受けた生徒たちの感想に目を通すと「英語の授業が楽しい!」「英語が好きになった!」という声がたくさんあり、本当に嬉しく思います。“好きこそものの上手なれ”という諺があるように、4技能のスキルアップはやはり英語が好きになってこそですから、今後も中高の各学年の先生たちと連携して本校の英語教育をさらに充実させていきます。
イングリッシュキャンプ
シンガポール研修旅行