「野生動物学初歩実習」とは京都大学霊長類学・ワイルドライフサイエンスリーディング大学院が主催する高大連携プロジェクト。プロジェクトに参加した高校生は、京都大学の学生を中心としたジュニアアドバイザーと研究者(シニアアドバイザー)のサポートのもと京都市動物園で動物観察を行い、データの分析・研究に取り組みます。さらに研究成果は、霊長類学や動物園学などの分野から広く研究者が集まるプリマーティス研究会で発表。関西大倉高等学校は府立北野高等学校と合同で、初回からこのプロジェクトに参加しています。
今回はプロジェクト8期生として参加した10名の関西大倉生のうち、キリンの研究で「高校生ポスター優秀賞」を受賞した3名にインタビュー。なぜプロジェクトに参加したのか、どのような研究を行ったのかなどの話を聞きました。

野生動物学初歩実習

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Students’ Interview

川上さん/高校3年 梶さん/高校2年 山口くん/高校2年

生徒

動物同士の触れ合いに注目してチームを結成

― 皆さんがプロジェクトに参加した理由を教えてください。

川上さん 私は動物が好きなので、動物に関わる仕事として獣医以外にどんなものがあるのか興味があったんです。私が高1のときは、コロナでこのプロジェクトは中止だったのですが、その代わりに開催された2日間の動物研究短期実習に参加し、嵐山モンキーパークや京都市動物園で、興味あるサルを観察する「個体追跡法」という研究手法を体験しました。そのときに2時間延々とニホンサルを観察していても全く飽きない自分を発見。研究にも興味があったので、高2になったとき、長期で体験できるこの研究プロジェクトに参加しました。

梶さん 私は京都大学の方が関西大倉で開催した、このプロジェクトの説明会に参加したのがきっかけです。聞く前は全く興味がなかったのですが、京都大学の方のプレゼンがとても興味深かったんです。日本の神話に出てくる動物の話は、動物の習性を昔の人が理解できなかったことから、言い伝えや神話になっていった…というようなお話でした。そこから動物の生態観察に興味を持ち、参加することにしました。

山口くん 僕は動物好きということもあったのですが、外務省の官僚をめざしているので、自分の視野を広げる目的で参加しました。高校生で、なかなか研究職の人と出会える機会はありません。理系への視野を広げ、自分とは考えの違う人との交流をしてみたいと考えました。

― この3人でチームを組んだのはどうしてですか。

山口くん 研究プロジェクトの最初に、京都市動物園で各自が好きな動物を観察して発表するという機会がありました。その後、京大生の方が、興味を持っている分野が似ている生徒を集めてくれたのが、チーム結成のきっかけです。この3人は疑問点や興味を抱く分野が似ていたので、そこに北野高校の生徒2人も加わって、キリンを研究対象とすることにしました。

川上さん 当初は、1回目の観察で見られたシマウマとキリンの触れ合いを観察する予定でした。でも観察を始めてみると、シマウマとキリンの交流はとてもレアなことだとわかり、キリン間での触れ合いに研究対象を絞り、テーマを変更することになりました。

梶さん キリンの瞬きの数を調査しようとか、研究テーマが決まるまでは迷走したのを覚えています。

人工保育で育てられた、子キリンを研究のターゲットに

― 紆余曲折を経て、皆さんの研究テーマは「飼育下の子キリンにおける社会的行動の傾向の変化」となったわけですが、実際に何を目的にどのような観察を行ったのかを教えていただけますか。

梶さん 京都市動物園には6個体のキリンが飼育されていますが、一番若い生後約半年の雄キリン・カブトだけ、他の個体との接触が少ないように見受けられました。そこでカブトの「社会的行動の傾向の変化」に着目して、成長につれて行動がどのように変化するのかを観察しようと考えました。
実はカブトは人工保育で育てられた子キリン。こうした個体の先行研究はあまり例がないということで、全国の動物園の方々にとっても有益な情報を得ることを目指したいと考え、研究を進めていきました。

山口くん 観察においては、カブトの行動を追跡する「個体追跡法」という手法を取りました。月2回ほど日曜日に京都市動物園を訪問し、キリン舎の前で2箇所から10分間ずつカブトの行動を撮影。それをパソコンで解析して、「接近」「授乳」「嗅ぐor舐める」「首の振り付け」「共同での摂食(他の個体と一緒に餌を食べる)」の5つの項目が行われているかを確認。それぞれの時間数をカウントして、カブトと他のキリンとの社会的行動がどれだけ行われているかを数値化しました。

川上さん 結果として現れたのは、カブトが一緒にいる時間が多いのは 自分の親ではないミライ(メス) > 同年代のユラ(メス)と妹のミクニ >母親であるメイ > 父親のイブキの順番でした。また社会的行動として見られたのは「接近」と「共同での摂食」 がほとんどで、授乳やスキンシップ的な行動はあまり見られませんでした。

観察最終日に、子キリンの成長を実感

― 細かく観察されたわけですが、そこからどのようなことが見えてきたのでしょう?

山口くん 観察データをもとに考察したのは、実母でないミライがカブトの第二の母的存在になっているのではということです。普通に考えたら、実母であるメイとの社会的行動が多くなるはずです。でも人工保育を受けたカブトは、実母であるメイからの育児を受ける機会が少なかったため、メイとの接近が多くなかったのではと考えました。
実はメイは、あまり育児が上手な個体ではなかったのです。逆にミライには、自分の子であるユラはもちろん他の個体の面倒を見てあげるような行動が多く見受けられました。そこも関係していたのではないかと思います。

梶さん 今回のプロジェクトは3ヶ月間だったのですが、残念なことにカブトが一頭で行動する傾向はなかなか変わりませんでした。そのため研究結果としては、カブトと他個体との間の社会的行動の傾向には変化が見られなかったとまとめるしかなかったのですが、実は最終観察日の2月5日に、カブトから他の個体への接触が明らかに増えていることが観察できたのです。
例えば接触が少なかった父親のイブキを舐めに行くような行動があり、また母親のメイと授乳しているのではないかと思われるような行動も見られました。動物園の方に画像を確認していただいたところ、授乳とは言い切れないという回答ではあったのですが、母子間の距離が近づいたという意味では、カブトが成長して社会的行動が変化したのではないかと考えています。

― それは感動しますね!

川上さん それとは別に、キリンたちの社会的行動と気温との相関関係も考察してみました。私たちが観察したのは昨年の12月〜2月だったのですが、寒い日ほどキリンが接近して過ごしていることが多かったからです。

山口くん 僕らが観察した期間は冬だったので、僕は今年も引き続きこの研究プロジェクトに参加してキリン研究を続けたいと考えています。そこでは気温が社会的行動にどのように影響しているのかについても調査する予定です。

880分の映像を放課後に分析

― プロジェクトを通じて、大変だったことや楽しかったことを教えてください。

川上さん やはりデータの解析が一番大変でした。予定していた解析ソフトがパソコンのウイルス対策ソフトに弾かれて使えなかったので、880分ある映像をすべて目視で分析しないといけなかったからです。とくに「接近」という社会的行動の定義が、キリンの首2頭分の長さ(約4m)でしたので、複数の個体が同時に「接近」していることもあり、チェックや仕分けに苦労したのを覚えています。研究会での発表の直前は、放課後毎日残ってパソコンで作業していました。
ですがデータ分析が終わり、それをグラフにしながら「こういうことが関係しているのでは」と仮説を立てていくのはとてもワクワクする時間でした。どんなグラフにすれば仮説をわかりやすく紹介できるかなどを、参考資料にあたりながら考えていく時間は、まさに研究という感じがして楽しかったです。

山口くん グラフ作りは本当に大変でした。カブトに対象を絞るまではミライとの比較を考えていたので、カブトの撮影時間にばらつきがあったのです。正確に比較検討できるよう、データを全部秒数で割るなどの複雑なアプローチが必要で、その計算やそこから仮説を上手く伝えるためのグラフ作りにも苦労しました。
大変ではありましたが、3ヶ月分の撮影データを分析するなかで、カブトの変化を感じるようになってきたときはとても楽しかったです。先ほど梶さんが紹介したような、家族への積極的な行動が見られたときは、その瞬間が表示されているパソコンに3人が集まって「関わっている〜」と大喜びしながら写真を撮りました。

梶さん カブトの成長を見守れたのは嬉しいことですが、最初は変化がなかったのでやきもきしました。カブトは人工保育の個体だったので、もっと変化が顕著に現れると想定したのですが、実際にデータをグラフにしてみるとそんなことはなく、そこは少しがっかりしました。当たり前ではあるのですが、やっぱり生き物相手は難しいと実感したところです。

山口くん 苦労はしましたが、観察時間が880分と他の高校の研究発表に比べて圧倒的に長かったこと、グラフが正確だと京都大学の方にも褒めていただいていたことが評価されて、研究会での受賞につながったのかなと思っています。

京都大学生との交流が、進路選択にも影響を与えた

― 最後に、プロジェクトを通じて感じた自分の成長があれば教えてください。

梶さん 本当に刺激になりました。私は生物系への進学は考えていないので、このプロジェクトに参加しなければ、畑違いな人々との出会いはなかったと思います。しかもこのプロジェクトには、農学部や生物系の学部以外からも京大生が参加していて、研究はもちろん進路の話もたくさんしていただきました。自分もこんな大学生になりたいと夢を持つようになりました。

川上さん 法学部の方もジュニアアドバイザーとしてプロジェクトに参加されていて、本当にお世話になりました。研究のことだけでなく、例えば敬語の使い方からメールの書き方まで、社会人として必要な基本的なことをたくさん教えていただけたのです。「いつでも頼って」と気さくに接してくださり、こんな人になりたいと憧れました。

梶さん 私が音響に興味があるという話をしたら、京都大学の工学部建築学科でそれに近しい研究をされている方を紹介していただき、面白い話をたくさん聞くことができました。それまで私は文理選択に悩んでいましたが、そこから苦手でも頑張ろうと物理を選択。苦しみながらも今、頑張っています。

山口くん 僕も進路への影響を受けました。僕が官僚になりたいという夢を話すと、京大生の方の人脈で、財務省で働く卒業生と繋いでくださったんです。省庁ではどんなふうに過ごしているのかとか、どういう勉強をして官僚になれたのかなど、たくさん質問をすることができ、自分の夢に向けた第一歩を踏み出すことができたと感じています。
プロジェクト中はとても忙しかったですが、反対にモチベーションは上がって、結果成績も今までより伸びました。人間性を含め自分が何か成長したのかなと思いますから、参加して本当に良かったです。

川上さん 私は2人より年上ですが、二人の積極性に本当に助けられました。特に山口くんは京都大学の研究者や動物園の方にも先陣を切って積極的に質問をしてくれて、私も積極的に動かなければと大きな刺激を受けました。梶さんも文章をまとめるのがとても上手で助けられました。
私は看護師をめざしていて、それは今も変わらないのですが、プロジェクトに参加したことで、研究にも関われるような看護師になりたいと思うようになり、看護研究ができる大学をめざしています。

Teacher Interview

プロジェクト担当教員 杉邨仁美先生

教員

京都大学高大
連携プロジェクトへの期待

京都大学の学生や研究者の交流で、生徒の学習や進路への姿勢が大きく成長

この京都大学との高大連携プロジェクトは、現在ウイーン大学で動物研究に取り組んでいる本校の卒業生が、京都大学で霊長類学を学んでいる頃に企画したものです。同じ学部の仲間であった北野高校の卒業生とともに「高校生と一緒に研究して、何か面白いことをしたい」と企画したため、本学と北野高校に向けた高大連携プロジェクトとなっています。

元々は1年をかけての研究でしたが、コロナ禍の影響もあり8期生は半年と短い期間となりました。ただし今後は継続的な研究や論文にも取り組ませたいという京都大学側の意向もあり、2年計画でのプロジェクトになる予定です。

関西大倉には研究職をめざす生徒も多くいますので、なるべく大学生や研究者の方と共に、研究手法に触れることができる機会を設けたいと、このプロジェクトを続けさせて頂いています。京都大学のシニアアドバイザーの方からは、高校生と一緒に取り組むことで、指導している学部生にも大きな成長が見られると、連携を評価してくださっています。

例年このプロジェクトに参加する生徒は、自主的に行動できるよう成長していきます。何をどうアプローチしたら良いのかを、大学生とディスカッションしていくことで、知的好奇心も高まっていくのを感じています。このプロジェクトに参加すると課外活動時間をかなり要しますし、研究会に向けた資料作成にもかなりの労力が必要ですが、参加した生徒は勉強と両立して、学校の成績でも結果を出してくれます。

またプロジェクトを通じて京都大学や動物園の研究者の方々と接することも多いので、進路への考え方が変わってくる者もいます。北野高校の生徒と一緒に活動することも生徒への刺激となっていて、学校生活全般において取り組む姿勢が大きく変わっていくのを感じています。