大学連携の体験実習で見つける「これを学びたい」 近畿大付属中学校

近畿大学附属中学校では、近畿大学の各学部や近畿大学病院と連携した豊富な「体験実習」が実施されています。現場に行き、専門家に指導を受ける体験は、生徒が自身の興味・関心に気づき、進路を考えるきっかけになり、その後の進路実現に向けた学びのモチベーションへとつながっていきます。ココロコミュでは「体験実習」の中の一つである和歌山県・近畿大学附属湯浅農場での『湯浅農場体験通年プログラム』をレポートするとともに、充実した「体験実習」の全容を教頭補佐の志船先生にうかがいました。

湯浅農場体験通年プログラム

5月・7月・3月と通年で行われる『湯浅農場体験通年プログラム』の第2回目は、7月の猛暑の中で行われた。近中2年生たちは午前・午後の2班に分かれて湯浅農場を訪問。今回は、柑橘遺伝資源保存園での柑橘摘果体験や観察がメインだ。5月に花が咲いていた柑橘の木には、青く硬いたくさんの果実がなっていて、その中から傷が付いたものや日照りの悪いものを選んで摘み取っていく。農場の方からの指導後に、グローブを付けた手でおそるおそる果実を摘む生徒たち。残った果実をより良くするためには、意外に多くの摘果が必要だと言われ、時間が経つとともに思い切りよく作業していった。

次に木に残る幼い果実をしっかりと観察して、ていねいにスケッチ。摘果作業時とは異なり、集中して静かに描く姿が見られた。また、前回観察した花が印象的だったようで「あの花のどの部分?」「小さい花は小さいみかん?」と通年プログラムの意味を感じさせる声も生徒からあがる。

湯浅農場では様々な熱帯果樹類の栽培研究も盛んで、日本初の新品種ですでに販売されている近大マンゴー「愛紅(あいこう)」も豊富に実っていた。ビニールハウスにはその「愛紅」を生んだキンコウ、アーウィンといったマンゴーやドラゴンフルーツ、フィンガーライムなど珍しい熱帯果樹類の木があり、生徒たちはiPadで興味をもったものを撮影していく。最後には農場内で使われている滅多に見ることのない農耕具に触れる機会も得た。現場で実物を見て、触れ、考える貴重な時間。この体験が近中生の心の中に小さな種を植える。

「あの研究室で、こんなことを学びたい」
意思を持って大学選択を

― 近畿大学附属中高が大学と連携した体験実習を重視している理由を教えてください。

志船先生 本校は15学部49学科ある近畿大学の附属校ですから、多くの学部、多くの学科がどんなことをしているのかを体験して、「ここで学びたい」というモチベーションを持って大学に進んでもらうことが可能な環境です。だからこそ、将来自分が進みたい道を見つけて目指す機会となる体験実習をたくさん行うようになりました。

― 近年、自分の興味・関心を伸ばす進路選択が大切とされますが、貴校の体験実習はかなり以前からスタートしています。

志船先生 学校での勉強だけをしていると、「自分の学力では、この大学のこの学部なら行けそう」という進路選択になりがちですが、せっかく大学附属校にいる生徒たちにそんな選び方はさせたくないという思いがありました。「あの先生のいる、あの研究室で、自分はこんなことを学びたい」という思いを持って、大学に行ってほしいのです。それが可能なことが本校の強みであり、生徒にとっても魅力だと考えています。

― 体験実習は、いつ頃から始まったのでしょうか。

志船先生 医学部の体験実習や農学部の水産研究所見学は15年以上前からになりますね。『湯浅農場体験通年プログラム』は農場が整備されて新しくなった機会に「中学生に何か体験させてもらえないか?」とお願いして、去年から通年での経過観察体験が始まりました。

― 7月に行われた湯浅農場での体験実習は2回目でしたが、生徒たちの様子を見ていて印象に残ったことはありましたか。

志船先生 5月の時点では、柑橘類の花の観察をして、日光がまんべんなく当たるように余分な木の枝を剪定させてもらっています。今回は小さいピンポン玉ほどの実になっていて、残した実に栄養が行くように適度に間引きする摘果という作業を行いました。つまり生徒たちは、あの実ができる前が花だったことを、数ヶ月前に見ていますから、「数ヶ月経ったらこんな風になるんだ」という思いは持っていたようで、「あの花がこんな実に?」と興奮していたのが印象的でした。農場では、生徒たちが段階を追って観察できるようにプログラムを設定してくれていますので、3学期になれば黄色く実った美味しい柑橘を収穫します。

― 柑橘の成長を観察するだけではなく、大学での研究とはどういうものかを知る機会にもなっているのでしょうか。

志船先生 そうですね。5月は湯浅農場の先生から柑橘の品種の保存について詳しい講義を受けた後に、種類別の花の観察に行っています。ですから単に農業をしているのではなくて、研究内容を勉強させてもらった上で体験に取り組めるようになっています。実はその講義をしてくれている湯浅農場の先生は、附属中学校、高校の卒業生で、生徒たちの先輩。私の教え子だった生徒が、今は中学生たちに柑橘の品種についての講義をしてくれているのを見て、感慨深いものがありました(笑)。

各体験で大学での学びを実感

― 代表的な体験実習について詳しくお聞きしたいのですが、医薬コースの近畿大学医学部・薬学部や近畿大学奈良病院の体験実習には、どのような魅力がありますか。

志船先生 中学生が病院や医学部内で実際に体験させてもらえるのは、とても貴重なことだと思っています。特に中学1年生は、近畿大学奈良病院で院内のバックヤードツアーをしてもらいます。例えば薬局の裏、手術室、患者様が通るルートとは違う病院の裏のルートを見学して、病院全体を見せてもらうのです。その上で、医師の方のお話をうかがって、「医師になりたい」「薬剤師になりたい」という気持ちを幼いながらに育んでいきます。
残念ながらコロナの影響で、近畿大学奈良病院での体験実習は難しく再開していない状況ですが、大阪狭山キャンパスでの近畿大学医学部実習は今年4年ぶりに再開できて喜んでいます。今回も生徒が一番楽しそうにやっていたのは、シミュレーションラボという施設での人間の腕と同じような柔らかさの人工腕から静脈を見つけて採血したり、人間の皮膚そっくりの柔らかさの模型の傷口を手術用の針と糸を使って縫合したりするといった体験です。医学部の先生からは、中学生用にかみ砕いた講義を受け、昼食は入院患者さんの病院食を栄養士の方の説明を聞きながらいただきます。昼休憩には本校の一貫コースの卒業生で、現在近畿大学病院で働く先輩が来てくれて、生徒たちの質問に対応してくれます。実際に白衣を着て、そういった具体的な体験をさせていただくことは、生徒たちのモチベーションアップにつながる貴重な時間になっています。

― 農学部の実習も充実していますね。

志船先生 そうですね。去年から新たに加わった実習が、農学部の生駒キャンパスに中学1年生全員が行く『農学部体験実習』です。全体での講義のほか、12個に分けた班に先生と学生が付いて、きめ細かく面白い体験をさせていただきます。例えば、環境に優しい害虫駆除システムの研究・開発をされている先生が試作品を解説したうえで、実験させてくださり、その効果を目の当たりした生徒たちは大喜びでした。生徒たちは各体験で、研究とは何か、ゼロから何かを生み出すとはどういうことかといった大学での学びを実感していると思います。

― こうした体験実習を経て進路を決めていった卒業生で、先生の印象に残る方はいらっしゃいますか。

志船先生 例えば農学部水産学科で学び、今はそのまま水産研究所で働いている卒業生は、中学の時の『南紀体験学習』以降、「どうしてもここで学びたい。絶対にあそこで研究するんだ」と強い意志を持って、目標に向かいました。かなり努力が必要でしたが、最後まで頑張り抜きましたね。6年生(高校3年生)の面接時には、「自分を農学部水産学科に入れなかったら大きな損失ですよ」と大見得をきりました(笑)。近畿大学進学時も早めに学びのモチベーションを得て早めに努力したほうが、希望学部進学という結果にはつながりやすいと思います。

― 体験実習の成果が発揮されていますね。

志船先生 進路を選択するという意味では、本校は4年生(高校1年生)になるまでに、近畿大学に進学するのか、他大学の受験をするのかという選択をします。3年生(中学3年生)から4年生になるときが、その大きなカテゴリー分けの最終決断時期です。以前、点数だけで進路を判断していたときは、勉強を頑張っている生徒ほど他大学受験を選ぶ傾向がありました。しかし今は、近畿大学での学びを知ったうえで、自分の目標実現のために近畿大学のあの学部という選び方や、目標に近づくから他大学受験という選び方に変わってきていると思います。

― 体験実習の多くが中学生で行われるのは、進路選択前に将来をよく考える意味もあるのでしょうか。

志船先生 そうですね。高校でも体験実習は引き続き行いますが、中高一貫で入ってきた生徒たちには中学時にひと足早く様々な体験をして、ある程度目標を絞り込みつつある状態で4年生(高校1年生)になってもらいたいという意味合いはあります。

― すでに充実している体験実習ですが、今後検討されていることなどはありますか。

志船先生 今まで大学の施設全体を知る機会がなかったので、今年から試験的に中学生用のオープンキャンパスをしてもらいました。近畿大学の施設にはいろいろ面白い場所がたくさんあります。例えば開設したばかりの情報学部を見学して、eスポーツの大会を開くことができる施設に驚いたり、複雑な造り方をした大学図書館を隅から隅まで回りジャンル別に研究書から関連漫画まであることに感動したり、生徒にとっては面白い体験だったのではないかと思っています。今後も、生徒の学びのモチベーションを上げる体験を考えていきたいですね。