2023年夏、明星学園中学校ディベート同好会が、関東甲信越地区予選大会を勝ち抜き、全国中学・高校ディベート選手権大会(第28回ディベート甲子園)でベスト8に入賞しました(得点・コミュニケーション総合では第6位)。全国大会に出場した中学24校、高校32校のうち初出場は明星学園中のみという中での競技ディベート。3年前にスタートした明星学園のディベート同好会から全国大会に出場した4人のメンバーと顧問の土器屋先生に、どのような戦いと成長を見せたのかを取材しました。
第28回ディベート甲子園 「中学の部」論題
日本は鉄道の運賃を自由化すべきである。是か非か
論題をもとに選手が「肯定」「否定」の2つに分かれ、
審判を説得すべく交互に議論を展開
審判を説得すべく交互に議論を展開
試合 原則4名の選手(立論・質疑・第一反駁・第二反駁)
- 立論
- 肯定側がメリット、否定側がデメリットを提示
- 質疑
- メリット、デメリットの立論担当者に、質疑担当者が質問
- 反駁
- 各チームが自分たちのメリット、デメリットを守りながら相手の議論に反論・再反論を繰り返す。ディベート甲子園では各チーム2回(第1反駁・第2反駁)
- 判定
- すべてのディベート終了後に審判がメリットとデメリットのどちらが大きく残ったのかを判断し、勝敗を決定。引き分けはなし。
*コミュニケーション点(明星学園ディベート同好会は全国6位!)
各審判は、勝敗とは別に各ステージでのコミュニケーションの要素を評価した「コミュニケーション点」を採点。コミュニケーション点は、立論・質疑・応答・第1反駁・第2反駁のそれぞれについて5段階で採点。その合計をチームのコミュニケーション点とする。
参考:ディベート甲子園(https://nade.jp/koshien)
行けるわけがない!
そう思っていたら予選1位通過で全国大会へ!
そう思っていたら予選1位通過で全国大会へ!
皆さんがディベート同好会に入った理由を教えてください。
- 福島くん
- 明星にディベート同好会ができたのは3年前です。今、11年(高2)の人たちの中に、人望もあって頭も良くて話も上手い僕らにとって憧れの存在のKさんという先輩がいて、その人を中心にディベート同好会ができ、大会にもチャレンジしていました。その先輩たちが9年(中3)のときに、僕たち2人が7年生(中1)でディベート部に入ったのです。先輩たちを含め、立論の書き方や反駁の仕方もよくわかっていない状態でした。
- 原くん
- もともとKさんは自治会(生徒会)の役員で、役員は皆ディベート同好会のメンバーでした。僕たちも委員会の一員で関わりが強かったので、ディベート同好会に誘われました。
- 大黒さん
- 私は、小学校での部活紹介にディベート同好会の創設者の人たちが来てくれたことがきっかけです。中学生になったらすぐ入りました。
- Aくん
- 僕は誰かと話すのが好きだったので、7年のときにディベート同好会に入りました。入ったといっても大会に出るだけで、僕は正式な会員ではなくサッカー部員です(笑)。
今年、明星のディベート同好会はディベート甲子園の全国大会に初出場で
ベスト8入りの大躍進。注目を集めたそうですね。
ベスト8入りの大躍進。注目を集めたそうですね。
- 福島くん
- 予選には先輩も何回か出場していましたが、全国大会まで行けたのは今回が初めてでした。始まりは、今年の春の大会の準備時期に、急にAくんが参加してくれてとても上手だったこと。僕とAくんと別の2人で試合に出たら、初めて試合で1勝できたんです。その時もディベートの戦い方やテクニック的なことは全くわかっていなかったのですが、「もっと頑張ったら、もっと勝てるかも」と思えました。その後、ディベート甲子園の関東予選に向けて準備を始めました。原くんはほとんど活動に参加していなかったのですが、予選前に来てもらったらものすごく上手くなっていたんです。予選に出る予定だった大黒さんが体調不良で出られなくなったこともあって、僕と原くんとAくんの3人で予選に出ました。
今年の「ディベート甲子園」を前にして急にメンバーが揃ったわけですね。
- 福島くん
- 関東予選に参加した20校のうち16校がシード権を持っていて、実績のない明星はシード権がない下位4校のうちの1校でした。僕らはようやく「こうしたら勝てるんだな」と少しだけわかってきたところで、全国大会なんて絶対にいけるわけがないと思っていたんですが、大会の上位常連校にも勝てて最高に嬉しかったです。さらに嬉しかったのが今年は準優勝だった強豪校のディベート部のコーチの方がその対戦を見ていて、「明星ってすごい!」と言って、いろいろアドバイスをしてきてくれたことです。
- 原くん
- 「すごいね、君たち!」と声を掛けてきてくれました(笑)。
- 福島くん
- 最終的には関東の中で最下位に近かった明星が予選を1位通過して、まさかの全国大会初出場。びっくりしました!強豪校のディベート部は本当に強いのですが、コーチの方からのアドバイスはものすごく勉強になって、次の試合からそれを活かすようにしたらどんどん勝てるようになりました。順位表の上位でしか見たことがなかった学校と対等に戦えたんです。
相手の話を理解して自分の言葉で主張をぶつける
明星生の僕らにとっては得意なディベート
明星生の僕らにとっては得意なディベート
アドバイスをもらって、どこが大きく変化したのですか。
- 原くん
- ディベートでの常識である相手が言っていることのメモの仕方が大きく変わって、ラべリングとナンバリングという技をきちんとやったことによって、相手のメリットやデメリットを潰すことができるようになりました。それが一番大きかったと思います。
- 福島くん
- 相手の話の内容を理解して、それに対して自分の言葉でしっかり自分の主張をぶつけることは明星生の僕らにとっては得意なことでした。そこをコーチの方は、「これがディベートの本質だ」と思ってくださったらしくて、さらにどうすればいいかをアドバイスしてくれました。もともと僕らが持っていたある程度のポテンシャルに、コーチの方が教えてくれた技術が加わったことで、自分たちでも驚くくらい一気に成長したのかなと思います。
普段の明星学園の「なぜ」を考える授業が、ディベート同好会の活躍に影響しているようにも思いますが、皆さんが実感したところはありますか。
- Aくん
- 自分で考える、自分の意見を言うのは普段からしていることなので、今回のディベートの結果にも少なからずつながっている気がします。考えて、意見を言うのは明星生には普通のことです(笑)。
- 原くん
- そもそも明星は教科書を使わないんです。先生が僕らに「これはなぜこうなるんでしょうか?」と問いかけ考えさせるのが、この学校の授業のやり方です。そうすると「え、わからないよ」という人も出てきますけど、そのときは「わからない人はなぜそれがわからないのでしょうか?」と考える。そうやって考えることが自分の頭を動かすことにものすごくつながっていて、最後は「これはこうだから、こうなるんだ」という観点が身につきます。そういう明星の教育は、ディベートをするうえでとても役立ちます。
- 大黒さん
- 強豪校のコーチの方に「明星生の発言や質問がいい」と言われていたのを見て、みんながお互いに意見する明星の授業の方針がディベートに合っているんだなと思いました。質問された時も、質問することを助けるために考える時も「なんでこうなんだろう?」といつものように考えて相手を突いてみたら、相手の弱点だったこともあったんです。
悔しさと嬉しさが入り混じった全国大会
そして出場したディベート甲子園全国大会の感想は?
- Aくん
- とにかく悔しいです。立論のための準備はしてきたのですが、反駁の準備が足りなくて、反駁できるところをしきれなかったと思います。これからはそこをしっかり準備したいです。
- 福島くん
- 僕もかなり悔しかったです。でも、ディベート同好会を作った憧れの先輩のKさんたちが応援に来てくれたことはとても嬉しかったです。ディベートの有名校の人から話しかけられるようになったことも嬉しいです(笑)。
- 原くん
- 自分も他のメンバーも大会で劇的に成長していたし、結果8位まで行けて、コミュニケーション点では6位まで行けたので、もっと上位に行きたかったという悔いはありますが、それよりも嬉しさが上回ります(笑)。全国上位の遠い星のような存在だった学校に手が届いたことも嬉しいです。応援に来てくれたKさんたちも、「誇れる後輩だ!」と言ってくれました。
- 大黒さん
- 私は予選前に体調を崩してしまったので、3人が頑張った全国大会に、私が一緒に出場していいのかな、私が入ることで良い形を壊してしまうのではないかなと心配でしたが出ることになりました。最初、私は質疑を担当する予定でしたが、強豪校のコーチの方に「変えた方がいいのではないか?」と言われて立論に交代して全国大会に出ました。実際、質疑よりも良かったと思います。
- 原くん
- 全国大会の試合の前日に「原くんは質疑を担当しない?」と急に言われて、「できるわけがない!」と怒っていたんです。でも、ディベートは紙を渡して手助けができるので「皆が支援してくれるならやってみる」と言って質疑をやってみたら良い結果になりました(笑)。
- 福島くん
- 確かにうまかった!今までの僕たちの認識だと、反駁や立論は議論の核になるから大事で、質疑はとにかく質問してこっちも答えればいいから楽だと思っていました。質疑が占める重要性がわかっていなかったんです。
ディベート甲子園全国大会にて
ディベートは偏差値より頭の回転や発想が大切!
皆さんが考えるディベートの面白さとは何でしょうか。
- Aくん
- 討論をしていく上で穴を作らないというか、どこを突かれるかを予測して、そのために資料を用意するのが面白いです。
- 原くん
- こちらが審判を説得することを言うと、審判団は「うんうん」と首を振ってくれるんです。僕はディベートでのこの審判の反応がたまらないです(笑)。
- 福島くん
- 僕は、ディベートはスポーツと同じような感じかなと思っています。相手校もしゃべることが好きな人たちが集まっているから、一試合終わればかなり打ち解けられます。試合が終わった瞬間「お疲れ様。すごく良かったね。うまかったね」とお互いにたたえ合えて、連絡先の交換もします。何かに一生懸命取り組むと、味方とも相手とも仲良くなれてつながれます。
- 大黒さん
- 論題が特殊で、あまり興味ないものでも突き詰めていくと新しい発見や学びがあります。対戦校によって突いてくる方向性が全然違うので、そこでも新しい学びがあったり、いい刺激になったりする面白さがあります。
- 原くん
- それにディベートは相手校の偏差値がものすごく高くても、こっちが勝てることもあります!偏差値よりも頭の回転や発想が大切なのかなと思います。
- 福島くん
- ディベートに必要なのは、偏差値より豊かな頭の動かし方だと思います。そこは、明星生は鍛えられています(笑)。
練習方法やディベートに対する考え方に変化は出てきましたか。
- 福島くん
- 今回は全国大会でテンションが上がっていた部分もあったから、この自分たちをいつでも安定して発揮できるようにしたいです。そして7年生、8年生をもっと育てて、次の大会につなげていきたい。今年だけだったとか、明星は意外と弱かったんだとは言われたくないんです。来年も中高両方で全国大会に行きたいし、明星をディベートが有名な学校にしたいです。
- 原くん
- 強くなってディベート同好会が明星の主要な部活になりたい!
同好会から部になるために活動を続けているそうですが、最後にディベート同好会に興味がある受験生にメッセージをお願いします。
- 原くん
- とにかくみんな仲良く楽しくやっているので、明星に入ってくる人たちはディベート同好会へどうぞ。
- 福島くん
- 自由にいろいろやりたいから明星に行きたいという人たちにとっては、明星の部活の中でも特に上下関係がなくて、やりたいことができるのがディベート同好会だと思います。
- 大黒さん
- しゃべるのが楽しいとか、新しいことを知りたいという人に入ってほしいです。ディベートを経験したことない人も大丈夫です。
常勝の部活になれるよう日々活動中
授業で「哲学対話」を学ぶ
明星生は集団で何かを考え
話し合うことに慣れている
明星生は集団で何かを考え
話し合うことに慣れている
明星学園中学校 ディベート同好会顧問
社会科教諭 土器屋 真理子先生
社会科教諭 土器屋 真理子先生
土器屋先生は、3年前のディベート同好会発足時から顧問ですか。
- 土器屋先生
- 先ほど生徒の話が出てきた今高校2年生のKさんが8年(中2)のときに、私が社会科の授業でやったディベートを気に入って、「ディベート同好会を作ろう」と黒板に書いて呼びかけていて、「顧問になってください」と言われたことが始まりです。その学年だけの盛り上がりかなと思っていたので了承したら、その後も部員を募集して福島くんと原くんが7年生から入ってきました。
社会科の授業でディベートを取り入れたことには、何かお考えがあったのですか。
- 土器屋先生
- 何か一つのことを集団で考えるのは、授業という空間に適していると思いました。教科書を使って勉強することは家でも塾でもできますが、いろいろな考え持った人が集まっているのが教室。そこで一つのテーマを皆で考えるとなれば、ディベートはなかなか良いのではないかと思ったのです。日本史の授業でディベートを体験していた娘は、普段は家で授業の話なんかしないのに、ディベートをしたときは家でもずっとその話をしていて(笑)。それが印象的で、そんなふうに生徒が興味を持てる授業をしたいと思っていました。
それで中学生にもディベートを導入してみたらやはり楽しいようで、「今度はいつやるの?」と聞いてくるのです。その延長でディベート同好会まで作る生徒が現れて、今に至ります。
そういった授業でのディベートを含め、明星学園の考えることを大切にした日々の授業が、今回のディベート同好会の躍進に活きたと思われますか。
- 土器屋先生
- 私は高校の社会科でいろいろな科目を受け持ち、その中の哲学の科目で「哲学対話」の形をとってみたらどうかと思いました。フランスのマルク・ソーテという哲学者が始めた「哲学対話」に興味があり、堀内先生(前副校長・現全園広報部長)を誘って授業をやってみたら、堀内先生が気に入って「これは中学でも導入したい!」ということで「哲学対話」が中学の必修カリキュラムになりました。
「哲学対話」の授業では、生徒が次々にしゃべり、「私、この授業があってよかった」と泣いてしまうほど突き詰めて話すこともあります。それを見ると、授業というものの本質を感じます。何かを教える、何かを伝えるという授業もありますが、同じ年代のいろいろな人たちが集まって、集団で何かを考え、話し合う授業はとても貴重ではないかと思いました。
そしてディベートは、肯定側があって否定側があってという弁証論的な部分だけを抜き出しているとも言えます。今回、大会に出た生徒たちは7年から「哲学対話」の授業を受けていますから集団で何かを考え話し合うことに慣れていました。
本領を発揮して、今年はディベート甲子園の全国大会に初出場し健闘したわけですね。ディベート甲子園の感想をお願いします。
- 土器屋先生
- 全国からいろいろな学校が集まるディベート大会は、授業でやっているディベートとは違って、早いスピードでしゃべり専門用語もたくさんあって採点基準もよくわからない。少し入り込みにくい世界です。「これはいけた!」と思っても負けることがあって、春に同じ論題で戦ったときは3回試合をして2回連続で負けたので、生徒たちは相当落ち込んでいました。私も負けた理由がよくわからなかったです。
それでもう一度立論を練り直して練習をして関東予選に出たところで、先ほど生徒たちの話に出てきた強豪校弁論部のコーチの方がたまたま明星のディベートをご覧になって大絶賛してくださいました。NADE(全国教室ディベート連盟)の本部の方にも声をかけてくれて、「明星学園は台風の目になるかもしれませんね」とも言われました(笑)。
全国大会では、全国大会常連校に勝ってベスト8に入れました。その試合をコーチの方が分析してくださった時に、明星は論題をしっかり理解して自分たちの言葉で話している。明星は心のこもったスピーチになっていたと評価していただいたことも嬉しかったです。
生徒たちは実戦で伸びていったのでしょうか。
- 土器屋先生
- それはすごくあったと思います。関東予選での原くんは、足がガクガクするほど緊張しながらも立論を担当して、どんどん上手になっていきました。時間内に読み切るために原稿を何とか削ろうと、人に言われるからではなく自分で工夫する様子を見て、成長しているなと思いましたね。でもコーチの方のアドバイスもあって、全国大会では急に原くんが質疑、大黒さんが立論に変わりました。それを判断したのは部長の福島くんで、彼も誰が適しているか、どう円滑に進めるかを考えられるようになっていました。
急な変更を原くんは嫌がっていましたが、最後には納得して上手く質疑をしている姿も頼もしかったです。自分たちで話し合って、工夫して、「こういう風にすればいいんじゃないか」と考える中で、それぞれが成長していったと思います。
そこで土器屋先生は、あえてご指導をされなかったのですか。
- 土器屋先生
- 最初は、「これやってみない?」とか「こういう風にやってみない?」と提案していましたが、途中から生徒が自分たちで考え行動していき別次元になっていったので、ほとんど口出しをしなくなりました。生徒たちが「楽しい!自分たちでやろう!」となっていったのです。ですから私は、遠くの会場まで生徒を連れていったり、合宿をしたいという生徒たちの意向を保護者に伝えて協力や応援してもらったりという役割に徹しました(笑)。
また生徒たちの話を聞いていると、他校との対戦や交流で見えたものもあるように思いました。偏差値ではないという言葉も印象的でした。
- 土器屋先生
- そういう気持ちもあるとは驚きでした(笑)。でも、保護者の方にも言われたのが、関東甲信の地区予選校を見ても、偏差値が高そうな有名校がいっぱいで明星学園は少し異質です(笑)。全国大会に行くと、さらに有名校ばかりでしたが、そういった学校に勝てたことが彼らの自信になったと思います。
今後のディベート同好会の方向性や取り組み方などに変化はありますか。
- 土器屋先生
- 来年は部になることができたらと活動を続けていますが、部になった途端に全国大会に出られないのは嫌なので、後輩を育て継続して活動を続けられるようにしていこうと話しています。今後は中高での全国大会出場を目指したいですね。