帝塚山中学校・高等学校では進学校にもかかわらず部活動に制限を設けず、生徒たちが夢中で活動して文武両立を成し遂げていきます。(部活動の過去の取材記事はコチラ
今回は中学から続けてきたロボット製作で、目標としていた国際大会出場まで頑張り抜いた高校3年生の理科部ロボット班のメンバーを取材。試行錯誤を繰り返しながらも決して折れなかった粘り強さ、受験期の高校3年生になっても目標への前進をあきらめなかった意思の根底には何があるのでしょうか。帝塚山理科部ロボット班の魅力に迫りました。

PROFILE
帝塚山 理科部ロボット班

2008年創部

部員数:約60名(女子部員は約8%)
中学生と高校生でそれぞれ別部室にて活動。ビルダー・プログラマーのチームで全国大会、国際大会出場を目指している。ロボット班に憧れて入学を目指す受験生も多い人気の部活動。

デンマーク国際大会出場チーム
2023年9月にデンマークで開催された国際大会
『WRO Friendship Invitational Tournament』出場
<出場カテゴリー41チーム中総合13位>

*世界33か国から157チームが参加

WRO(World Robot Olympiad)2023JAPAN決勝大会4位

野間(SN)くん[高校3年 男子英数コース/部長・ビルダー]
鵜木皓大(KU)くん[高校3年 男子英数コース/プログラマー]
鵜木雄大(YU)くん[高校3年 男子英数コース/プログラマー]

パナマ国際大会出場チーム
2023年11月にパナマ共和国で開催された国際大会
『WRO Panama 2023』出場
<出場カテゴリー91チーム中12位>

*世界75か国・地域から440チームが参加

WRO(World Robot Olympiad)2023JAPAN決勝大会
ROBO MISSIONエキスパート競技 シニア(高校生)部門 準優勝

佐伯(KS)くん[高校3年 男子英数コース/プログラマー]
税所(NS)くん[高校3年 男子英数コース/プログラマー]
竹内(ST)くん[高校3年 男子英数コース/ビルダー]

WRO(World Robot Olympiad)とは?

2004年に始まった国際的なロボット競技大会。世界中の小学生から高校生までを対象に、科学技術を身近に体験できる場を提供し、創造性と問題解決力を育成することを目的に開催されている。日本では、ロボットを活用したプログラミング教育を通じて子どもたちの科学技術への興味意欲の向上、国際的に活躍する人材の育成、指導者の育成を目的に活動している。
https://wro-association.org/

STUDENTS‘ INTERVIEW
このままでは終われない
高3でも目指した国際大会
今回、デンマークとパナマで行われた国際大会に出場した2チームですが、
出場の経緯を教えてください。
SNくん

僕たちのチーム(TezukayamaNwU)は、去年のWRO全国大会結果が4位で、1位から3位が出場できる国際大会に出場できない悔しい形になってしまいました。それが今年の3月になって全国4位のチームだけが参加できる『WRO Friendship Invitational Tournament』(以下WROフレンドシップ大会)に招待されることになり、デンマークでの国際大会に出場しました。

NSくん

僕たちのチーム(TezukayamaÅ)はWROの全国大会出場を目標に活動してきて高2で引退予定でしたが、高2だった去年はデンマーク大会出場チーム(TezukayamaNwU、以下デンマークチーム)に奈良予選で負け、全国大会に出られませんでした。あまりにも悔しくて最後のチャンスとして高3でもう一度挑戦しようと、今年のWROに挑み全国大会で準優勝を成し遂げました。その結果、全国大会の1位から3位までが参加できるパナマでの国際大会に出場できました。

高2であきらめきれずに、
「絶対に全国大会に出たい!」と行動できたパワーの源は?
KSくん

僕たちは中1からWROの大会に参加していますが一度もデンマークチームに勝ったことがなかったので、負けのままで終わるのが何より悔しくて辞めきれませんでした。実は、僕は当初、高2で辞めたいと言っていたんです(笑)。でも、チームから「一緒にやろう」と言われて、辞めずに最後までやり切りました。その結果、人生で1回しかできないような貴重な経験ができたと思っています。

NSくん

僕も高2で辞めていたら全国大会にかかわることもないまま部活を終えていました。最後まで諦めずに挑戦できて、最終的に国際大会にまで出場できて本当に良かったと思います。

STくん

悔しい気持ちと共に、同じ高3のデンマークチームに負けていられない!とやる気がモチベーションにつながりました。全国大会出場時は、高3で時間が限られていることもあり、このミッションをいつまでにクリアするという計画を立て、かつ効率も重視して、今までより練り上げた練習を行いました。

SNくん

パナマ大会出場チーム(TezukayamaÅ、以下パナマチーム)は、周りから見ていてもものすごく頑張っていました。「このチームが負けることはない」と確信が持てるほどで、これは全国大会でも勝てると思えました。

国際大会に向けては、苦心した点や自信を持てる機会があったのでしょうか。
まずデンマークチームは?
SNくん

僕らも高2で国際大会に行って終わるのが目標でしたが、WRO全国大会での4位が非常に悔しい負け方で、それなら高3までやってやろうと別のカテゴリーで大会に挑戦しようとしていたところでした。

YUくん

それで先に作業を進めていたところ、いきなりデンマーク大会が決まったので両方のロボットを並行して進めることになり、練習も含めてハードでした。プログラマーが2人いるので分担しながらずっと作業を続けました。

パナマチームの国際大会に向けた努力や工夫は?
STくん

日本の運営側が国際大会に行くチームに向けた強化合宿を開いてくれて、そこで国際大会の同じカテゴリーに出る3チームが意見交換や進捗具合を話し合ったことが成長につながりました。僕たちが知らないことや使っていなかった技術があり、学ぶことが多かったです。

機材トラブルで到着が遅れたパナマ国際大会
ピンチを乗り越え全力を尽くした
では、パナマチームが国際大会で受けた刺激や感動を教えてください。
STくん

ロボットという側面からは外れますが、国際大会の会場にはさまざまな服装、言語の人が世界中から集まってきていて、その光景に人生で一番感動しました。大会自体の醍醐味もありましたが、海外の人と交流できたことで自分の世界観が変わりました。

NSくん

国際大会のロボットには、日本では見たことがないような機構やプログラムが反映されていました。それは新たな発見につながる良い体験になったと思います。僕たちのロボットに興味を持ってもらえたことも嬉しかったです。

KSくん

印象的だったのは、本来はパナマまで飛行機で32時間のはずが機材トラブルのために大阪から計70時間ほどかかったことです。コロンビアで足止めされ、開会式にも出られず、現地での練習時間もなくなり、パナマに着いたらいきなり本番というピンチで、大会へのモチベーションを維持するのはかなり難しかったです。強制的な気持ちの切り替えで精一杯でした。

貴重な体験ですが、得たものもありましたか。
KSくん

この世界の厳しさを知りました(笑)。各国のチームは前日に練習時間がありましたが僕たちはその時間がすべてなくなり、交渉してみましたが希望は叶いませんでした。どれだけ努力してきても自分たちの実力を出し切れない状況で勝ち負けが決まることもあると思い知りました。

STくん

でも、他の日本チームは別便で先に会場に到着していて、「本番の会場はこんな感じだよ」といろいろ情報を教えてくれたことがありがたかったです。

パナマチームは最終結果が91位チーム中12位。
これは 満足のいく結果でしたか。
NSくん

当初は確実な速度で満点を目指す計画でしたが、トラブルで会場入りができなかったので予定を変えました。本番のチャンスが3回あるので、確実に調整を終えて点数を取れるようにしました。初めての場所で真っ直ぐ進むことも容易ではないと考え、焦らずに結果を確実に残せるようなプログラムにした結果としては、良いものになったと思います。

STくん

でも、全然満足はしてないです。12位でも悔しいです。

日本とコースや環境が異なるデンマーク大会
状況に左右されずに満点を出せるように努力
では、デンマークチームが国際大会で受けた刺激や感動を教えてください。
SNくん

僕は英語が苦手ですが、とても強いマレーシアのチームがいて「このチームに声をかけたい」と思ったんです。それで英語で話かけたら意外と話が盛り上がって、自分たちの本番も見に来てくれて、自分たちの失敗にもアドバイスをくれました。英語が苦手でもそういう交流ができたことは良かったのですが、他にも聞きたいことはあったのに聞けず、「英語力をつけよう」というのが国際大会に行って一番思ったことです。

YUくん

大会本番前の練習で、コースや環境が全く違い、最後までうまくいかず焦りました。同じ材質でもコースの質感が日本製とは全く異なるんです。でも、最初からうまく走らせている国もあって、本番の対応力が必要だと実感しました。

KUくん

僕たちのチームは身長が低い方ですが、外国の人たちがとにかく背が高くて圧倒され、集合するときは急いで前方を陣取るようにしました(笑)。他のチームには日本のアニメ文化や日本自体が好きという人が多くて、日本の強みも感じました。

デンマークチームは41チーム中総合13位でした。
この結果に対しては?
SNくん

僕たちのチームは本番3回のうち1回目から満点に近い点数を取れたので、2回目は速度を遅くして満点を取れるようにしたらミスをしてしまい、3回目も同様で満点は取れませんでした。どんな状況でも満点を取れるようになる重要性を感じました。

YUくん

練習では満点を取っていましたが、本番を失敗すると結果は厳しくなってきます。本番が一度きりだからこそ対応力が必要だと思いました。

KUくん

僕は満足しています。2回目も失敗はしましたが、最大限の挑戦はできたと思います。

男子心をくぐるロボット製作
工学部を経てさらなる飛躍を目指す
国際大会に出場したからこそ、見えたものはありますか。
STくん

僕は小学生の時からロボット製作をやっていて、「世界を目指したい」と思ってロボット班がある帝塚山中に来ました。中1から高2まで全然うまくいかず、高3でやっと自分の夢が叶えられたので、僕自身は「でかいことを成し遂げた」という達成感が強いです。

SNくん

僕が帝塚山のロボット班に入った理由は、6つ離れた兄がこの部活で世界5位という結果を残していて、それを超えてやろう!と思ったからです。でも結局はWROのフレンドシップ大会の13位。世界5位には勝てなくて大きな悔しさを感じました。同時に自分が国際大会に行けたことで、世界はこんなに厳しくて、強い人がいっぱいいて、環境も全く違う。その世界での5位のすごさを感じました。

高3になっても部活を続ける希少メンバーの皆さんが思うロボット製作の面白さ、夢中にさせる理由は?また、進路や将来につなげる予定があればその内容もお願いします。
STくん

僕は昔からレゴが大好きで、そこからいろいろ機会があって今に繋がっています。シャーペンを分解しすることが楽しかったりしますが、それを応用させた結果がロボットです。そういうところに男子心をくすぐられてしまいます。たまりません!(笑)。
今、工学部を目指していて、今まで自分が大会に勝つためにロボット製作にかけてきた技術を使って、将来は人の役に立つロボットを作りたいです。

NSくん

活動を通して気づいたことは、バラバラのパーツから一つのロボットができて、自分が組んだプログラム通りにロボットが動く時の喜びは計り知れないということです。大会もあって、各ミッションをクリアするためにどうやってロボットを作ってプログラミングをすればいいのかを考えるのが楽しくて仕方がありません(笑)。
僕は高校に入ってから主にプログラミングをやってきました。同じ動きをさせるプログラムでも、別の方法がたくさんあって、アルゴリズムは人によってもバラバラだということを知りました。将来はソフトウェア開発や研究をしたいと思っています。

KSくん

プログラミング担当なので、同じ直進でもプログラムには違いがあることを知り、学年が上がるごとにより効果的なプログラムを作れるようになったことが楽しかったです。僕は大学に行ったら工学部に入る予定でロボットにも関わりたいですが、中高で一つの大会に向けて最後までやりきった経験を活かして、今度は鳥人間コンテストに出場したいです。

KUくん

プログラムを書いてロボットを動かして、失敗したら改善点を考えてプログラムを書き直して少し良くなる。これを何回も繰り返すことによって、全体的なミッションクリアにつながって、目標である大会でも結果を残すという達成感。それが楽しく、意味があるのかなと思います。
僕はプログラマーとしてやってきたので、大学では機械と人が使うインターフェースや制御に応用する情報系のことを学びたいです。

YUくん

僕も小学校からロボットをさわっていたのですが、中学に入ってロボットのギミックとプログラムを掛け合わせたらさらに応用が効くようになりました。そこからずっと続けてきて、未だに興味は尽きません。僕は工学部に行って、その後は自立する介護系のロボットを作りたいと思っています。

SNくん

僕は中2の頃にロボット製作が楽しくないと思って悩みましたが、奈良大会で「こんなロボットを高校生になったら作りたい」と思えるロボットを見て感動して、自分もそんなロボットを作りたいと目標を持って続けてきました。人に認めてもらえるロボットが作るのが楽しくて、それが面白さです。僕も工学部に行って、自立型の医療支援ロボットを将来は作りたいです。

TezukayamaNwU(デンマークチーム)のロボット
TezukayamaÅ(パナマチーム)のロボット
技術力も精神力も強くなるロボット班
最後に、理科部ロボット班に憧れる後輩たちへ
先輩からのメッセージをお願いします。
SNくん

この部活は関西ではかなり強い部活です。先生にロボットの作り方を教わるのではなく、先輩から後輩に知識が受け継がれ、先輩が作ってきたロボットを参考にして自分たちでも作っていきます。やる気があって、大会に出て勝ちたい、ロボットの知識をもっとつけたいと思うなら、このロボット班でその力をつけてください。

YUくん

ロボット班は部活としてはかなりハードなので、6年間続けたら相当な忍耐力がつけられます。また、大会で実走させる時は相当緊張しますからこの緊張感に慣れれば並大抵の緊張が苦ではなくなります。精神力が鍛えられる部活です。

KUくん

帝塚山には全国的に見てもハイレベルなものが揃っています。そこが強さになっていると思います。

KSくん

ロボット活動は全国大会だけではなく、国際大会まで行ける可能性があることが魅力です。

NSくん

入部してすぐに全国大会や国際大会に出られるわけではありません。全力でロボットを作っても予選敗退もあります。それでも諦めずに反省点を次に活かし続けることが大事な部活です。

STくん

ロボット班は先輩から教えてもらって学ぶこと、受け継いでいくことが多く、部活の雰囲気もとても良いです。高2以降の後輩も強くてできる子が多く、色々なことを学べ、教えてもらえると思います。ぜひ入部をお待ちしております!

理科部ロボット班顧問 八尋博士先生

大学の理工系学部での対応力
粘り強さと試行錯誤する力をつけてほしい

ロボット班は男子英数コースにスーパー理系選抜クラスを設置した際、「面白そうだな」と思って2008年に立ち上げました。私自身のモチベーションとしては、大学の工学部で必要な力は教科書の勉強だけではありませんから、実際に自分でものづくり体験をして理工系で必要な力を備えたうえで、理工系の学部に進んでほしいという思いです。活動において大切にしているのは粘り強さ。そして思考錯誤する力をつけてほしいと思っています。

当初は私がロボットの製作方法を教えていましたが、徐々に生徒同士が見て学ぶようになりました。先輩が作っているのを見て、自分のロボットに応用していく。一緒の空間で製作していくことで良い相互効果が生まれています。

国際大会に出場した高3生の6人には感心しています。昨年悔しい思いをした2チームで、デンマークチームは全国大会で唯一当日課される新しいミッションに挑戦をしたにも関わらず4位だった悔しさがあったでしょう。パナマチームはずっとライバルチームが目の前にいて、「何とか全国大会に行きたい」と頑張っていました。負けても粘り強くチャレンジする、その意味では偉かったと思います。パナマへの飛行機の遅れだけでなく、時差も14時間あるなかで、自分たちの精神的バランスを保ちながら戦いました。行ってみないとわからない環境で12位はよく頑張ったと思います。
ただ、ロボット班に憧れて帝塚山に入学することを私はおすすめしません。なぜなら毎年30名ほど入部しますが、高校生まで続けるのは5、6名です。たくさんのチームが出場する中で、勝てるのは1チーム。継続のためのモチベーション維持はなかなか難しいものがあります。高3の部員たちも話していましたが、「ロボットが好きで楽しい」だけでは続けられない厳しさがあるのもロボット班です。顧問としては「せっかくやるからには徹底的にやりなさい」という立場ですから、その意味でも中途半端では続けられません。

国際大会を目指して頑張ることは素晴らしいですが、ロボット班として部員の成長を感じるのは、彼らが大学に行って、社会人になって世の役に立ったとき。そこまでいけば活動の意味があるように思います。 今後のロボット班としては、女子生徒を増やしたいですね。どうしても男子が多いのですが、理工系で世の中の役に立つ女子を育てるためにソフトウェア寄りのプログラミングなどにも取り組んでいきたいです。