創立以来の「個性尊重」「自由平等」「自主自立」という教育理念を基に、子どもたちの感性を愛しみ育てる明星学園中学校。その理念やモットーで育まれた生徒たちは、どのように個性を伸ばし、学園卒業後はその感性をどのように活かしているのでしょうか。今回は明星学園らしさを体現している卒業生4人に集まってもらい、彼らが大好きだった明星学園を振り返りながら、だからこそある今の自分について語ってもらいました。
政治経済学部
経済学科 3年
音楽学部
楽理科 4年
文学部
初等教育学科 4年
大学では、理科の実験を教えることが強い先生を育てるゼミに入っています。畑のサークルに参加して「水かけ菜」という富士山の湧水で育つ伝統野菜も作っていますよ。都留・水みず探検隊にも入っていて…と、とにかく楽しい毎日です。興味のあることしかやっていません(笑)。
※かいぼり…池や沼の水をくみ出して泥をさらい、魚などの生物を獲り、天日に干すこと。
グローバル教養学部
グローバル教養学科 4年
Interview インタビュー
明星は、変=「ダメ」
じゃなくて、
変=「かっこいい」
という世界
― 皆さんの話を聞いていると、好きなものや興味あるものを突き詰めていくパワーがすごいですね。明星学園の同級生たちもこんな感じですか。
みんな、自分の好きなことしかやってないですね(笑)。
だから、この4人も明星らしいと思います。学校を行かなきゃいけない場所じゃなくて、自分が使う場所にしているところが明星らしい(笑)。
― 明星学園での生活を振り返ったときに、今の自分たちにつながっていると思うエピソードを教えてください。
私たちが何かをやりたいときに、先生はあまり指導しないで、放っておいてくれるんです。友達同士も、変わったことをやっている子を目のかたきにしないで、「そういうのもありだね」って言える。明星では、それぞれにいろんな価値観があることを、お互いが認め合えるんです。「1人でなんかやっているな」って子がいたら、こっちはこっちで楽しくする。そして戻ってきたらまた一緒に楽しむし、1人のときに面白い発見があったなら教えてもらおうと考えます。みんな自分のことが大好きなんですが、それは周りが自分を認めてくれるからだったのかなと思います。
明星は、変=「ダメ」じゃなくて、変=「かっこいい」という世界でした。
子どもは天井知らず
ってことを、
先生が信じて
くれている
― その世界は、どうやってできていくのですか。
先生が、露骨に何かを言うわけではなくて、毎日の生活の中で自然とそういう空気ができていったんだと思いますね。
僕が覚えているのは、小学校のときの「ごんぎつね」を読む授業。先生が1行1行に「これはどういうことだと思いますか?」と聞いてくれるんです。答えたくて必死で手をあげて、「これはこうだと思います」とか単純なことを何回言っても、先生は絶対に否定しない。1行ずつ、答える人がいなくなるまで答えさせてくれて、その内容よりも発言することを肯定し続けくれたんです。だから僕らには発言することへの恐れとか、「間違えたらどうしよう」なんて発想は生まれなかった。今、この年齢になってわかるのは、先生にとってそのやり方は授業スケジュールがすごく狂うわけじゃないですか。それでも、その方法で授業をやってくれたのは先生の強さだし、先生と生徒の信頼感がすごく大きかったなと思います。
子どもは天井知らずってことを、先生が信じてくれているんです。そして、そのまま置いといてくれるから、子どもは自分が「やりたい」と思ったら、楽しく進めていけるんです。私は、中学校の数学で100までの素数を見つけるということを授業でやったときに、「100以降は何だろう?」と思ったので、自分で調べたことを先生に見せに行ったんです。そしたら先生が、「香帆は、数学の天才だ!」って言ってくれて(笑)。すごくほめてもらったので、「私、天才なんだ」と自信をつけました。
僕は、小学生のころの「みーつけた」っていうのが忘れられないですね。たぶん、僕が「みーつけた」の最初なんです。松ぼっくりと松ぼっくりの間に葉っぱを挿して橋みたいにして先生に持っていったら、「これを発表しましょう」となって、そこから毎朝小学校で誰かが見つけたものを発表するようになったんです。
「みーつけた」はヤバイです。大好き! 今でも自分のエッセイを「みーつけた」の要領で書いてますから。「みーつけた」は、目線を変えてくれて、いつもの風景が全く違って見えるんです。
ちょっとした自分の発見や気づきに、先生が「あなたしか見つけられなかった」と言ってくれて、価値を認めてくれるんです。そして「私しかいない」「天才だ」と思わせてくれる(笑)。
明星では、
自分らしさを
育てるとき
1人っきりにならない
― 小池さんは帰国子女で明星中に入って、何か違いを感じたところはありましたか。
公立小学校になじめなかったんです。「違う」と言って仲間外れにされたので、中学受験を決めました。だから、明星は違うことがOKであることがすごくうれしくて。すぐに溶け込んでいました。
― 垂井くんは、高校から他の学校に進んだわけですが。
いやあ、しんどかったですね。特殊な学校で音楽科があって、3年間同じクラスなんです。その中で、僕1人だけみんながうたっている歌を歌えなかったし、「小さく前へならえ」の意味がわからなかったんですよ。「前へならえ」も明星にはなかったけど、それは何となくわかったんです。でも、「小さくって何だろう?」と思って(笑)。
それに小学校の頃から文字を書くということをやっていたのに、高校に入ってそういう自分の個性を出したら、「出さない方がいい」という空気が学校の中にすごくあって…。それで、学校になじめなくなりました。でも、そのおかげで、明星で何を学んだかを整理できたんですけどね。
― 整理できた明星で学んだことって?
高校では、他人と比較することでしか、自分の色を見つけられない状況だったんです。自分の方が優れていると思う手段として、他人は自分より優れていないと考えるほかない。自分の色を見つけるために、他の色は違うと思うしかない。だけど明星では、自分の色も見つけさせてくれると同時に、世界にはこんなにたくさん別の色があるということを肯定しよう!という両輪があって、自分らしさを育てるとき1人っきりにならないんです。孤独な時間はみんなそれぞれにあるけれど、どんな人でも輝ける一瞬があって、周りはその一瞬を取り上げて「お前はかっこいい」と言える“世界の色の多さ”がある。
それが外にはなかったです。明星はすごいと思います。身にしみてわかりました。
確かに! やっぱり明星は小・中がすごくてそこで作られるんです。好きなことや、やりたいことをやらせてもらえることが大きいですね。明星は自由を謳っていて、自分で何がいいか悪いかをちゃんと考えて行動したら、先生たちが認めてくれて、ちゃんと自由を勝ち取れるんです。
― だからこそ、行動できるのかもしれませんね。
そうですね。自分を信じているし、「やりたい」と思ったらきっとできると思えるんです。そういう自信は明星でつきました。例えば、私の場合は「自然が好きだな」と思っていて、かいぼり隊の募集を聞けば、「じゃあ参加しよう」と行動できました。情報が入ってくるだけで、1人で走っていけるんです。
好きだから
取り組んで、
幸せな気持ちに
なって生きる
― 皆さんは自分が選んだ自分の行きたい大学に進んでいますが、そういった環境で学んできて、受験勉強とか、進学とかにおいて、自分たちが受けてきた学びのギャップみたいなものを感じたりしましたか。
ギャップになるのかわかりませんが、大学の授業で60人ぐらいを対象にした「理科が得意な人は○をつけてください」というアンケートがあったんです。集計したら○をつけたのは私1人だけでした。それで、隣にいた理科ができる子に〇をつけなかった理由を聞いたら「化学は点数がとれるけど、あとはとれないから」って言われて、「点数が取れないと得意って言っちゃいけないんだ!」って思ったんです(笑)。でも、私は理科が好きだから得意だと思っているし、そういう点数や知識の有無だけを基準に考えて生きるのと、好きだから取り組んで幸せな気持ちになって生きるのとでは全然違うと思いました。
私は、点数だけがすべてじゃないということが、明星と他とのギャップかなと思います。世間では偏差値がいくつだからとかよく言われるけど、大学を決めるときも私にとってはそこがすべてではなかったです。だから、大学も点数で決められるのが嫌で、全部自己推薦で受けることにしました。大学選びも、明星の先生と話をして自分に一番合っていると思える大学を探したんです。
もちろん偏差値をゲーム感覚で楽しむ子も明星にいます。でも、そうじゃない子もちゃんと生きていくんです。
― 大学に入ると違いを感じることも出てくるんですね。
僕、大学では評価を気にしていません。どうしても単位を埋めるためにやりたくない授業を取らないといけないんですけど、そういうのはだいたい評価が低い。でも、やりたいものはやりたいものでちゃんとやっているので、それでいいんです。結局、自分次第なんですよね。
僕は正直揺らぎましたよ(笑)。外に出ようとしていたから、ずっと塾にも行っていて、知識を頭に入れるやり方が効率的だし、カッコいいと思っていたんです。でも、僕自身は物忘れが激しいし、読んだことをすぐに忘れてしまう(笑)。だから、自分は知識でやるタイプではなく、普段は忘れてしまってもしかるべきときに忘れたことが出てくるような柔軟性や即興性を持てたほうがいいなと思うようになったんです。知識ばっかりだと、自分が楽しくないことに気づいたんですよね。
自分が好きな
ことや正しいと
思えることを
ちゃんと言える
― 皆、悩みながらも自分の道を進んでいますね。皆さんには、明星で育ったからこその強さがあるような気がしますが、どうでしょうか。
僕は、明星で、自分が好きなことや正しいと思えることをちゃんと言えるってことを身につけた気がします。これは先生との距離が近かったってこともあると思いますね。そもそも先生をあだ名で呼んでいる学校なので(笑)。先生にも自分の意見を言えましたし、「ここは絶対違うと思います」とかいろいろ意見を出して、それに向き合ってもらってきたので、それは強さになっていると思います。
周りがこうしているから自分もこうしなきゃいけない、というのが全くないんです。周りの目を気にしないで自分のやりたいことを貫けますね。大学を選ぶうえでも偏差値が高い大学とか、名前が知れている大学とか、全然気にせずに、自分が選んで気に入った大学に行きたいと言えた。留学先も先生たちのおすすめよりも、自分のやりたいことを優先して決めました。これから就職活動をしていく中でも、ネームバリューは気にしないでやっていこうと思っています。
僕は周囲の評価で人を判断しない強さがあると思います。僕にはいろんな友達がいて、その中には一概に世間的にはうまくいっていなかったりする人も多く、周りからいろいろ言われますけど、僕はその人の良いところを知っていて、「こいつはこういうところがあって、だからものすごくイカしてる」と確信できるし、付き合っていくことに迷わないです。自分と仲良くしてくれる人を僕はものすごくかっこいいと思ってます。その人の良さを自分で確信できる。それは強さかなと思いますね。
私は、自分に素直でいれて、自分を認められるところが明星で育ったかなと思います。目立たなくても自分が好きなことをやっていれば、自分自身をどんどん好きになっていくし、きっと周りも楽しくやってくれる。それが一番大事なんだなって思っています。
― では、今後についての考えを教えてもらえますか。
まずは、技術を生かして世界で通用するビジネスをしている会社に入って基礎的な力を身につけようと思っています。会社の大きさに関係なく、世界に通用するようなことをやっている会社に入りたいです。その後、海外に行って、再就職をしようかなと思います。
僕は、これから環境経済学のゼミが始まるので、それが楽しみです。これから1年頑張って、本当に面白いとなれば院にも行って、環境経済学を突き詰めていきたいと思っています。
実は3年の後期はほぼ学校に行かず、学内外の舞台の総監督を務めたり、放送会社の音楽番組の制作にかかわったりして、半ば就職活動のようにバイトをしていたんです。でも、やっぱり自分は文字を書いて生きていこうと思ったので、今後は東京大学の教養学部に行きながら、小説を執筆したいと思っています。僕は自分の書く小説は革新的に面白いと思っているのでそれを続けつつ、続けるためのインプットとして学問を学ぶという、その両輪で行きたいのですが…、先は見えません(笑)。
私は教員免許を取るので、明星に教育実習に来ます。生徒を見守れて、大人になったときに「すごくありがたかったな」ってわかってもらえるような先生になれたら最高だなと思っています。明星での山登りで大雨になったときに、私の靴がボロボロになって、足を上げると靴下が見える状態になったんです。でも私は「最高に楽しい!」と思いながら、みんなとはぐれて1人で山を降りてきました。そうしたら、実は私の後ろを先生がひっそり見守りながらついてくれていたらしくて。それをあとから聞いて、本当に感謝しました。やっぱり子どもには未来があるし、できるだけ子どもの自由な場所を大人が作っていけたらいいなと思います。だから、先生じゃなくても、そういう見守れる大人になりたいです。