明星学園アンサンブル部
- 活動日:
- 月・水・金[放課後]、金[朝]、土[自主練習]
- 部員数:
- 61人[現8年7人、9年12人、10年15人、11年12人、12年15人]
練習の積み重ねが生み出す明星アンサンブル
放課後、校内のいちょうのホールに集まってきたアンサンブル部の部員たち。この日は、管楽器と弦楽器がわかれる分奏、パートごとにわけるパート練習などの最後に行われるオーケストラで合奏練習をする日だ。
パートは、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルン、トランペット、トロンボーン、パーカッション、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスに分かれている。今日は卒業式での演奏曲の練習で、当日も指揮をされる岡林先生が指導。まずは、卒業式で伴奏することが伝統になっているという『明星学園行進歌』の練習が始まった。
「ここはダイナミクスで。目の覚める音でお願いします」
「Bの3小節目の最後の8分音符ははねずに普通に演奏してもらっていいですか?」
「入るところ、自信もって!」
「4小節目は後ろ髪引かれずに前へ、前へ」
「さあ、もう一度。ワン、ツー、スリー」
と、少し合奏するたびに一旦止めて、岡林先生から細かな指示を受けるとまた演奏…を繰り返しながら進めていく。演奏が中断されるたびに部員たちは譜面をにらんで注意点を譜面に書き込み、同じパートの先輩・後輩・同輩で質問やアドバイスをし合い、パートごとに確認しながら次の演奏へ向かう。卒業式のあとは定期演奏会、入学式、クラブ紹介と次々発表の場が続くだけに、限られた練習時間に少しでも完成度を高めるための伝統のやり方が部内に確立されているように思えた。
最初は不安定に感じられた音色も、繰り返し演奏するたびに少しずつ音が一つになり、少しずつ分厚さを増していく。仲間と奏でるアンサンブルの中に自分がいる喜びを感じることで、練習の厳しさも乗り越えられるのだろう。本番の演奏では、明星生らしい伸びやかで結束した音色が届きそうだ。
― アンサンブル部への入部理由を教えてください。
保坂さん[11年・副部長・チェロ] 音楽経験はゼロでしたが、友達に誘われてアンサンブル部の見学に来てみたら経験がなくても入れると教えてもらい、そこにいた先輩がすごくいい人で体験させてくれただけでなく、すごくしゃべりやすかったので入部しました。
富澤(あ)さん[11年・部長・コントラバス] 私は小学4年生で小学校にあったクラブに入って金管楽器を始めました。音楽は得意分野だから中高でも続けたかったことと、明星は強いという印象があったので、アンサンブル部に入るために明星に入りました。
波形さん[11年・副部長・トランペット] 私は母親がもともと明星でトランペットを吹いていて、家にトランペットがあったんです。ピアノは習っていたのですが身につかなかったので、中学から何か新しいことしたいと思って、トランペットを始めました。
富澤(み)さん[9年・中学部長・トランペット] 私は小学4年生からクラブ活動でトランペットを始め、中学生になってもトランペットをぜひ続けたいと思っていました。体験に来たらすごく楽しくて、絶対にアンサンブル部でトランペットをやりたいと思いました。
― アンサンブル部の良さは何ですか。
富澤(あ)さん 私もコントラバスの名前を知らなかったのですが、楽器を全く触ったことがない人が楽器を始めたり、触ったことがない楽器の担当になったりということが、この部活では多いんです。そこからプロを目指した人もいるから、すごい部活だと思います。私の担当はコントラバスですが、大きいので持ち運びが一番大変です。ただ、オケの中で土台になる楽器なので、しっかり支えたいとは思っています。弾いているときは、楽しいとしか言いようがありません。
― 保坂さんの担当はチェロですね。
保坂さん 私は弦楽器の音が好きで、その中でも音域や音質が一番キレイだなと思ってチェロを選びました。チェロは、メロディでヴァイオリンと一緒にやることもあれば、管楽器の特殊な動きと一緒に演奏することもあり、コントラバスと一緒にベースを支えることもあって、いろんなことができるから、そこが好きですね。
― 波形さんはお母さんと同じトランペットを始めてみてどうでしたか。
波形さん トランペットってメジャーな楽器だし、高音だから耳に届く音が多くて目立つし、ごまかせないんです。間違えると落ち込みますが、そこが吹けると部員のみんなから「吹けていたじゃん、すごい!」と言ってもらえるので、そういうところは楽しいです。
でも、私がものすごく練習したのはこの1年です。ずっと先輩に甘えていて、自分が一番上になって責任感が出たんです。私が行かないと後輩が困るし、後輩も私のことを慕ってくれているので、頑張って練習に行こうと思いました。
― その気持ちは、富澤さんや保坂さんにもありましたか。
保坂さん 先輩がいなくなるというのはすごく怖いことでした。うまい先輩がいると、1人抜けただけでも音が変わるし、自分がそれに代わるものにならなきゃというプレッシャーを感じました。その意味では、最高学年になって責任感も意識も変わったかなと思います。
富澤(あ)さん やっぱり今まで見えなかったものが見えました。部全体を一番上から見ないといけないから、嫌われるような存在になってはいけないけど、ちゃんと叱ったり、ダメなことはダメと言えるようにならないといけないなとは思いましたね。それは、今も悩んでいる難しいところです。アンサンブル部は団体の部活ですが、1人が来ないとその音が抜けてしまう。その意味では一人ひとりが大事なんです。それをまとめるのは大変です。
波形さん しかも明星がもともと個性を重視する校風なので、大人数の明星生をまとめるのは特に大変なんです(笑)
保坂さん でも、明星のアンサンブル部はいい意味で上下関係がなく、先輩と後輩の仲が良くて、後輩も先輩に積極的にいろんなことを聞いたりしているのが、音にも出ていると思うんですよね。
部活終了後には、全員が集まって反省会。先生だけでなく、部員からも意見や感想を伝える。
― 楽器の経験がない人は、入部後に先輩に教えてもらうんですよね?
波形さん 先輩が吹いている音色を聴いているだけでも「こういうのがいい音なんだ」と学べるんです。私の2つ上にトランペットで音大に行った先輩がいますが、その人はすぐに隣に来てくれて「こうやって吹いた方がいいよ」と的確に指示をくれました。それは、私が今頑張れている理由になっているのかなと思いますね。だから先輩の存在やアドバイスはすごく大きいです。
保坂さん 私は部活の入部体験をしにきた時に楽器の体験をさせてくれた先輩が私に一番教えてくれた人で、その人に教えてもらっているうちに「こんな人になりたい」という気持ちが強くなりました。まだなれてはいないのですが、そうやって自分が目標にできる先輩がいたことはクラブを続けるうえで大きかったです。
― みなさんが思うアンサンブル部の強み、自慢できるところはそういう先輩との関係ですか。
波形さん 上下の関係もすごく大事だと思うのですが、私は自分と同じ学年の子たちに一番助けられています。他に友達ができなくてもアンサンブル部には友達がいるからいいかと思える一生の友達というか、そういう縁をもらえたのがすごくありがたいです。私たちの学年は特に人数が多いので、演奏をしていない時も他愛のない話をしてずっと笑っているし、演奏になったら聞いたことは全部教えてくれるし、悩みも楽しさもいろんなことを共有できるんです。一緒に入って一緒に卒業する友達ができるのが強みかなと思います。
富澤(あ)さん 明星学園内で比べても外で比べても、仲の良さは一番自慢できる部活だと思います。上下関係がいい意味で厳しくないので、後輩も先輩を慕いやすくて、先輩からも後輩に積極的に声をかけます。学年や楽器に関係なく仲良くできるのは、一番いいところだと思います。
保坂さん 人間関係は広がりますね。夏休みも休日も毎日のように会ってずっと一緒にいるから、他の友達とは違う何かがあるような気がします。離れたくなくなる雰囲気が自然とできてしまうんです。
富澤(み)さん 結局仲がいいという話に戻ってしまいますが、高校と一緒に合同で部活をやれるだけに、その中で「親しき中にも礼儀あり」ということが早くから学べます。
― アンサンブル部に入って、個人的に成長したと思うところは?
波形さん 変わったのは変わりました。うまく言葉にできないけど……私、問題児だったんです。あまりにも部活に来ないから先輩が迎えに来てくれたり、「待ってるよ」と写真を送ってくれたりしているのに、全然部活に行かなくて。だけど、続けていくうちに、さぼっていた時間がもったいなくなるほど大切な時間だったって感じるようになりました。後輩ができ、甘やかすだけじゃなくてちゃんと叱ってくれる同い年とか先輩がいたことで人間的に成長できたし、コミュニケーション力も高まりました。まとめて言うと大人になりました(笑)。
富澤(あ)さん 私は、音楽に対する目が変わったと思います。細かい楽譜の意味やドイツ語で書かれてある音楽用語をちゃんと意識するようになりました。中学生くらいまでは楽譜通りに弾ければそれでOKでしたが、アンサンブル部で周りを見るようになり、今は「本当に音楽が好き」という気持ちが強くなりました。
保坂さん 私は何かを1人でするとか、自分が頑張らないと周りの足を引っ張る状況に置かれることがなかったんです。でも、アンサンブル部に入ったら周りを見なければいけないし、「この子ってどういう子かな」「どういう風に教えたらいいかな」と人の気持ちを考えるようになりました。楽器を何も知らないところから入りましたが、気づいたら本当にいろんな見方が変わっていて、街で楽器のケースを持っている人がいたら気になるし、プロの演奏会ではいろんな楽器の魅力を知ることができるようになって、世界が広がったと思います。
富澤(み)さん 私は今、アンサンブル部は3年目ですがトランペット歴は6年目です。小学校の時と同じ3年間なのに、内容は中学の方がすごく濃いんです。練習量も増え、同じ楽器を吹いていても「今日はすごい音が出るな」とか「今日はあんまり音が出ないな」とわかるようになりました。それに調子が良くなるためには練習以外にどういうことをしたらいいかとか、トランペットに対する考え方も小学生の時とは比べ物にならないくらい変わったと思います。
― では、最後に今日の話を聞いて明星学園のアンサンブル部に興味を持った小学生に一言お願いします。
保坂さん 楽器の経験がゼロでも楽しくなれるし、自分の悩みやわからないところを同年代にも先輩にも聞けるアットホームな部活です。
富澤(あ)さん 中学は吹奏楽部が多く、オーケストラをやっている学校は少ないと思うのですが、弦楽器がいるだけで迫力が違います。アンサンブル部に入ると、吹奏楽部とは違った世界が見られると思います。
波形さん 私は入って良かったし、この5年間続けてきて良かったです。やっぱり新しいことをしてほしいですね。入る前からつまらなそうと決めつけないで、とりあえず見学に来てほしいです。続けていたら絶対に報われるし、すごく達成感のある部活です。入らないと見えない景色を見てほしいです。
富澤(み)さん 音楽には歌詞がついている音楽もありますが、オーケストラには歌詞がついていません。でも楽器から出る音で、感動できるんです。私は、音で人の感情を動かせるというのはすごいなと思っています。音楽に興味がなくても人間関係が楽しいから部活に来るという人もいると思いますが、音楽をやっているからこその気づきは、この部に入れば何かしら絶対あると思うんです。アンサンブル部ならではの音楽の楽しさも知ってもらうことができると思うし、自分の居場所にもなると思うので、ちょっとでも興味があったらぜひ入ってほしいですね。
― アンサンブル部の活動内容から教えてください。
天野先生 卒業式、入学式などの式典や新入生へのアピール演奏が中高それぞれであり、秋以降に文化祭などたくさんの本番があります。興味深いのは、全国のオーケストラ団体が集まるオーケストラフェスタです。吹奏楽部は多いのですが、オーケストラのある学校は少なく、全国各地から集まり、明星学園は第1回から出場しています。
― アンサンブル部の歴史は古いのですか。
天野先生 私は7年前にこの学校に赴任したときから顧問をしていますが、その前に長く顧問をされていた先生がいらっしゃいました。最初はリコーダーのアンサンブルから始まったそうです。定期演奏会が今年第53回ですから、結構歴史のあるクラブだと思います。
― 天野先生はオーケストラのご経験が?
天野先生 私はピアノが専攻だったので、明星に来て初めてスコアを見て「なんだ?これは?」となりました。そのぶん初めて楽器に触れる生徒たちの気持ちは、よくわかりますね。スコアに書いてある音と実際に出る音が違うんですよ。最初は意味がわかりませんでした(笑)。
― 新入生は初心者が多いと思いますが、先輩が指導していくそうですね。
天野先生 明星は上下関係がゆるやかなクラブが多く、アンサンブル部も先輩のことを「〇〇ちゃん」と呼んでいますが、その先輩たちがしっかりと後輩の面倒を見てくれます。自分たちも先輩に教えてもらったということが大きいと思います。そして、学期に1回、各パートにプロの演奏家の方がトレーナーとしてレッスンに来てくださります。弦楽器は管楽器に比べて難しいので、弦楽器には日常的に来てくださるトレーナーさんが中心になって指導していただきます。
― アンサンブル部は部員数も必要ですし、部員同士の雰囲気も音に表れるかと思います。天野先生が顧問として大事にされていることは何でしょうか。
天野先生 パートがたくさん分かれているので、「自分1人ぐらい欠けても大したことはないだろう」と思う部分も生徒にはあるのかなと思うのですが、そうではなくて、どんなに吹けたり、弾けたりができなくても、自分はその曲を作っている一員なんだという意識を生徒たちに持っていてほしいなと思っています。私自身はピアノという1人でも完結する楽器でずっとやってきましたが、大勢で作る音楽だからこその醍醐味って絶対にあるはずなんです。1人じゃできないことってあるんです。
楽器数の多さや、弦楽器を聴いているとうっとりさせてくれたり、管楽器と一つになった力強さだったりは、吹奏楽にはないオーケストラの魅力だと思いますね。だから入部してもすぐには、特に弦楽器はきれいな音が出せるまで時間がかかりますが、その音が出るまでの期間にどれだけ辛抱して根気強く頑張れるかが大事になってくるのかなと思います。そこを超えてしまえば「ああ、楽しい」となるはずです。だから、1日のどんなに短い時間でもいいから楽器を触ろうとは言っています。その方が絶対に上手になります。
― 天野先生がアンサンブル部の部員たちを見ていて、一番成長を感じるのはどんなところですか。
天野先生 最初に7年生で入ったときに全然吹けたり弾いたりができなかった生徒が、最上級生になってソロを吹いたり弾いているのを見ると、「ああ、成長したな」と思いますね。それに人数が多い中でお互いに良い形で刺激をし合って伸びていく部分は大きいと感じます。競争するクラブではないのですが、同じ学年や後輩が上手になって「やばい」と思って刺激を受けて練習を頑張ることは実際多く、そういう姿にも成長を感じます。
― 練習中に指揮をされている岡林先生に、意見をしている姿も印象的でした。
天野先生 そこは確かに明星特有かもしれないですね。物おじせずに意見を言います。私も生徒からの意見を聞いたり、「わかりづらい」と言われれば直すよう努力します。生徒自身もインターネットで調べたり、Youtubeでプロの方の演奏を見たり、聴いたりしています。
― 部員と先生のコミュニケーションも大切ですね。
天野先生 パート内の悩み事がそれぞれあるので、パートリーダー会議を去年から始めて、教師も必ず参加します。そこで今の部活の問題点ややるべきことを固めて全体に落とすんです。日常の些細な悩みから大きな悩みまでいろいろありますが、抱え込んでしまうとよくないし、持ち寄ることで違う角度からアドバイスを受けると「あ、そうか」と思うんですね。他にも部長・副部長とコンサートミストレス、管楽器のセクションリーダーとの幹部会議も行います。アンサンブル部ですからコミュニケーションをしっかりとって、音の調和として表現していきたいですね。