近畿大学附属中学校では、近畿大学の各学部や医学部附属病院、各研究施設などと連携して、様々な体験学習を行っています。現場で働く人たちの緊張感あふれる真剣な姿に共感し、中学生には体験できない設備、研究や実験に触れて感動する生徒たち。近畿大学の附属校だからこそ可能な深い体験について、現在体験中の生徒たちと、その成長の様子を見守る先生の言葉から掘り下げます。
野本くん(中学2年 医薬コース) 大橋さん(中学3年 医薬コース) 芳竹先生
➊ 医学部奈良病院見学会 医薬コース1年
➋ 医学部奈良病院看護体験実習 医薬コース3年
➌ 薬学部見学・体験学習 医薬コース1・2年
院長先生や各科の先生方から、医師・薬剤師の役割や具体的な治療内容をうかがう学習講演会や、聴診器やエコー測定体験などによる摸擬診断を、最先端の設備・医療現場で体験する「医学部奈良病院見学会」。看護師と一緒に病棟へ行き、血圧測定・入浴の手伝いなどを体験して、直接入院患者さんたちと触れ合うほか、医師とのカンファレンス(病状検討会)にも参加する「医学部奈良病院看護体験実習」。医療薬学研修センターで軟膏を調合して容器に詰めるなど薬剤師の仕事を体験したり、薬用植物園を見学する「薬学部見学・体験学習」。最先端の医療現場で、患者さんのために協力し合って働くことを体感する中で、生徒たちは医師・薬剤師を目指すために必要なものを知り、医療に従事する厳しさややりがいを理解する。
大橋さん
現場に行って厳しさを知り学習に対する意識が変化
「医学部奈良病院見学会」では、先が小さいピンセットのようになった機械を使って画面を見ながら手術をする(腹腔鏡手術)体験ができたんです。とても難しそうだと思いましたが、実際には医師がその機械を使って人の体内を手術するわけで、大変だなと思いました。でも、現場を見せてもらって一気に現実に近づいて、より医療に携わりたいという気持ちが強くなりました。それに自分が目指したい職業の厳しさがわかったことで、学習に対する意識が大きく変わりました。現地に行って体験することはとても刺激にもなります。
近畿大学医学部に行き、解剖実験室を見学させていただいたり、入院患者さんに提供される昼食を検食させていただいたり、骨の構造について調べたり、病院の深いところまで見せてもらって感激しました。印象的だったのは、シミュレーションラボという、医師が手術の練習をする場所に入らせてもらって、釣り針みたいに曲がった縫合の針をピンセットでつまみながら縫っていったことです。採血時に血管にどうやって針を入れるかなども、模型を使って体験させてもらいました。現場体験をしたことで、医療に強く興味を持つようになったと思います。それに本校医薬コースで学んだ先輩から直接話を聞けたことはとても貴重な経験で、そこから学ぶことがいっぱいありました。
Science and Technology
サイエンス アンド テクノロジー
理工学部実験実習
➊ エネルギーふしぎ体験
全コース1年
原子力研究所の協力により、エネルギーの歴史や現在・未来について楽しい実験を通して学ぶ。
➋ 理工学部実験実習
英数コース アドバンスト1年
理工学部の学生と共に、物理・化学・生物の3分野に分かれて、教科書に出てくるテーマを中心に本格的な装置や機材を使って実験実習を行う。
➌ 夢サイエンス
英数コース プログレス3年
中学校の理科室では行えない複雑な実験や、身近な現象をテーマとした実験を、はじめてつかう器具や装置に用いながら行う。
➍ 原子力研究所見学
全コース希望者
放射線についての知識や原子炉の仕組みを学ぶ。身の周りの放射線の測定体験などを通して、放射線についての正しい知識を知り、平和利用を考える。
中学1年で行った「エネルギーふしぎ体験」では灯りや電気の作り方を学びました。一番記憶に残っているのは、原子力研究所内にある実験用の小さい原子炉に行って、その中を見せてもらったことです。自然にある放射線を測って、放射線の有効活用や正しい知識を知ることもできました。やはり自分で見て触ったものだと印象にも残るし、そこから興味も広がります。近畿大学と連携しているからこそ、こうした特別な体験がいろいろできるのはいいなと思います。
芳竹先生
授業での学びとは違う刺激と観点から吸収
英数コースアドバンストの1年生の「理工学部実験実習」は、理工学部の中で将来教師になりたいという大学生が、中学校ではできない実験なども取り上げて、模擬授業をする場になっています。アドバンストの生徒たちにとっては、身近な大学生に教えてもらえる面白い授業で、勉強への興味関心が湧くと同時に、「大学ってどんなところですか?」と聞ける貴重な機会でもあり、先輩と楽しく交流する時間にもなっています。
英数コースプログレスの3年生の「夢サイエンス」は、大学の先生に中学校ではできないような実験をさせてもらい、生徒に科学への興味関心を与えていくことがテーマです。プログレスの生徒は近畿大学へ行く生徒が非常に多く、実際に理工学部で研究をしていきたいという思いを持ってもらうための実験を取り入れています。
どちらも学校の授業とは違った観点からの刺激があり、吸収できるものがいっぱいあると思います。
➊ 生物理工学部実験実習
英数コースアドバンスト2年
バイオテクノロジーの最先端技術をテーマにした講演会、実際の医療機器を使っての模擬体験(心臓手術シミュレータ)やDNAを取り出す実習などを行う。世界の最先端の理論と技術が融合したバイオテクノロジー技術の現場に触れ、生徒は将来の目標を見つける手掛かりにする。
➋ 南紀体験学習
英数コース プログレス2年希望者
近畿大学の養殖技術がわかる「いけす」を見学したりたり、マグロの生態などについての講演会を聞いて、最先端の科学技術や生命の不思議に触れる。他にも串本海中公園での海洋観察や世界遺産に認定されている熊野古道の散策など、南紀の自然・風土・文化を学ぶ。
「南紀体験学習」では、クロマグロや稚魚を見て、エサやりも見ました。講演会でクロマグロの完全養殖ができるようになるまで30年以上の長い時間がかかったと話されていて、その苦労や一生懸命やってきたことに感動しました。近大マグロの完全養殖については成功したことばかりが注目されていますが、どんなことも成功までには努力やあきらめない気持ちが大切だということを知りました。
芳竹先生
社会貢献の意味を一生懸命頑張る人の姿から感じ取ってほしい
どの研究もそうですが、思いついてすぐに成功することはありません。近畿大学は、基本理念が実学教育ですので、総合大学として社会に役立つ様々な研究をしています。クロマグロの完全養殖も、すべての研究機関があきらめてしまった中で、唯一近畿大学だけが成功を信じて研究を続けてきた成果なのです。そういう粘り強い努力が実を結ぶこと、それが社会貢献につながることを、一生懸命頑張っている人の姿を見て感じ取ってほしい。それは体験授業全体のコンセプトです。
Global
グローバル
E-Challenge 全コース2・3年希望者
“英語の遊び場”をコンセプトにした近畿大学英語村=e-cubeで、様々な英語圏の国から来日したネイティブスタッフとゲームや工作・スポーツなどのアクティビティを通して自然に英会話。英語漬けの環境で、楽しみながら英語力やコミュニケーション力を身につける。
大橋さん
英語への意識が変わったE-Challenge
私は小学校1年生の時から英会話を習っていて、将来も英語を仕事に役立てたいと思っています。英語への興味が強いので、英語研究部にも入っていて、2年生では近畿大学英語村e-cubeでの「E-Challenge」にすべて参加しました。「E-Challenge」では、グループに1人ずつネイティブのスタッフの方がついてくれて、英語でコミュニケーションをとりながらクイズや工作などに挑戦します。e-cubeでは、日本語を話してはいけないので最初は緊張しますが、スタッフの方たちが親切で優しいので楽しくて、次第に英語に対する恐れがなくなります。
緊張がなくなると、今まで習ったフレーズがすっと出てきて使えるんです。普段の生活で英語だけで話すことはないので、こういう場が大学にあることが「すごいな」と思いました。それに「E-Challenge」で「これはどうやって話せばいいんだろう?」と困った体験をしたから、その後の授業では使えるフレーズを見つけたり、こういえば良かったんだなと気づいたりすることが増え、さらに英語の授業に集中するようになりました。週1回の英会話の授業でも、ネイティブの先生と積極的に話すようにしています。4年生のオーストラリア語学研修にも、ぜひ参加したいと思っています。
近畿大学と連携した
体験学習を通して
大橋さん
憧れていただけより
頑張れる
私は2年で近畿大学医学部での体験実習に行った時に、外科医の仕事内容を知り衝撃を受けました。以前は小児科医になりたいと思っていましたが、専門的に人を治療する外科医になりたいという気持ちが強くなったんです。同時にとても厳しい世界だということもわかったので不安はありますが、何も知らずに憧れていたときよりも頑張れます。
野本くん
現場で実際に見て触れることで見えてくる目標
僕はまだ将来について考えている途中なのですが、体験学習を通してしっかりと将来を考えたいと思います。近畿大学にはとてもたくさんの学部・学科があって、そこで行われている研究は世界レベルです。そんな大学の附属中学で学んでいる僕たちは、すごく特別なことをさせてもらっていると感じています。現場で実際に見て触れることで、興味やモチベーションにつながっていき、目標が見えてくる気がしています。
体験学習について
芳竹先生
自分自身の人生を
デザインしていく
能力を持つ人に
昨今、キャリア教育の重要性が指摘されています。本校では単に職業教育を行うのではなく、職業の背景にあるそれぞれの人の思い、成功に導くための労力や苦労を大学の研究施設に行って直接聞き、生徒の大きな刺激にすることが大切だと考えています。自分の未来を考え、自分の未来をデザインする事ができる能力を養うことが、本校の目指すキャリアデザイン教育なのです。
AIの進化によって今ある仕事の半分は変わると言われています。今ある仕事の内容を具体的に教えることも大切ですが、仕事の根本に眠っている努力や苦労や思いをしっかり伝えたうえで、自分の職業を考えていくことが必要だと考えました。仕事の種類の枠を超えたところで社会に貢献するとは何なのか、人としてできることは何なのかをしっかり考えてほしいのです。
本物に触れることで21世紀型思考力を育成
2020年度に大学入試制度改革が行われます。「創造力」「総合力」を身につけた21世紀型の新しい人間を育成するためです。本校では、様々なものを現場で実際に見せて、本物に触れることで自分自身の将来を考えさせていくことを選択しました。体験授業を通して、生徒たちは大きく変わります。多感な中学の時期に多くの本物に出会うことで、感受性が豊かに育ちます。感受性が豊かになると学びへの接し方が変わります。知識・情報を得る。その知識・情報を自分の中で整理する。時には友達とディスカッションしながら一つの考えをまとめ、自分の言葉として発信する。それが生徒たちの変わるきっかけであり、本校のキャリアデザイン教育の根本です。生徒たちは変化しながら、学習に対しても少しずつ前に進もうとしますし、自分の夢を叶えるために頑張っていこうとします。
体験授業を通して大学での学びを知り、実学教育に根ざした近畿大学の研究に触れる。そんな体験の中から、学ぶことの意味や学び続けることの意義を強く感じ取ってくれることでしょう。自ら学ぶことを知った生徒たちの潜在能力は計り知れないものがあります。生徒たちの中に眠る学びの力を呼び覚ますために、体験授業は大きな役割を果たしています。