生徒一人ひとりが高い目標にチャレンジできる「挑戦する教育」を実践し、難関国公立大学に毎年多くの合格者を送り出す大阪桐蔭中学校高等学校。中でも同校の英語教育においては教員も指導改革に“挑戦”し、アウトプット活動を柱にした授業に転換を図ることで確かな成果を上げています。そうした流れに至った経緯、そしてアウトプット活動がもたらす学習効果などを英語科主任の竹田佳代先生にうかがいました。
大阪桐蔭中学校高等学校
英語科主任/学年主任
英語科主任/学年主任
竹田 佳代 先生
「“リピートアフターミー”の授業を
やめることから始めました」
― 貴校がアウトプットを重視した英語教育を始めたのはいつ頃でしょう?
竹田先生 英語のアウトプット活動に力を入れ始めたのは2009年頃です。それまでは生徒全員が黒板の内容をノートに写して黙々と問題演習に取り組む、いわゆる“オールドファッション”の授業が行われていました。当時は私もそうした指導をしていましたが、次第に少なからず違和感を覚えるようになったんです。
― どのような点に違和感を覚えられたのですか。
竹田先生 英語の授業といえば、生徒が先生の後から発音を繰り返す“リピートアフターミー”の光景を想像される方も多いと思います。そうした指導を行っている時に、ふと、「自分の英語を手本にさせていいのか…」と気の毒な気持ちになりました。
もちろん英語の教員ですから、私自身、日々発音の勉強も練習もしていますが、それでもネイティブのようにはなれません。そこで思い切ってやり方を変えようと決め、生徒全員にMP3プレーヤーを所持させてネイティブの発音をシャドーイングする音声指導に切り替えました。
もちろん英語の教員ですから、私自身、日々発音の勉強も練習もしていますが、それでもネイティブのようにはなれません。そこで思い切ってやり方を変えようと決め、生徒全員にMP3プレーヤーを所持させてネイティブの発音をシャドーイングする音声指導に切り替えました。
― 具体的にどのように取り組まれたのでしょう?
竹田先生 片方の耳にイヤホンを付け、まずネイティブの音声を聞きます。生徒はそれに倣って発音し、イヤホンを付けていないもう片方の耳で自分の音声を確かめます。これがアウトプット活動の最初のチャレンジでしたので、どんな成果が得られるのか正直不安もありました。しかし、英語の授業で必ず数分間、毎回続けていくうちに生徒の発音・英語力はみるみる向上し始めました。
― どういう形で生徒の英語力はアップしましたか。
竹田先生 例えば、英語を苦手に感じる生徒の多くは、まず単語を読むことに苦労します。“speech”という単語で説明しますと、覚える時に「エス、ピー、イー、イー、シー、エイチ……」というように視覚的にアルファベットを追ってしまいがちです。
しかしMP3プレーヤーを使って訓練すれば、音感が刺激され、発音も矯正できるので、苦労していた単語もスムーズに覚えられます。それを繰り返すうちに語彙が増え、リスニング力が強化されるとともに英語を読むスピードも次第に上がっていったのです。こうした効果に私たち教員も手応えを感じ、他のアウトプット活動も積極的に実施していくことになりました。
しかしMP3プレーヤーを使って訓練すれば、音感が刺激され、発音も矯正できるので、苦労していた単語もスムーズに覚えられます。それを繰り返すうちに語彙が増え、リスニング力が強化されるとともに英語を読むスピードも次第に上がっていったのです。こうした効果に私たち教員も手応えを感じ、他のアウトプット活動も積極的に実施していくことになりました。
「定期考査ではスピーキング力も点数化。
生徒のやる気もアップします」
竹田先生 ピクチャーカードを使い、3コマ漫画を生徒自らが英語で説明する練習を中学の授業の冒頭で10分間行っています。これは「英検」の二次面接対策にもなります。
また、校内でスピーチコンテストを実施し、頑張った生徒を評価する取り組みも行っています。みんなの前で発表する機会を設けてあげると生徒は俄然やる気になり、個々のモチベーションアップにもつながります。
また、校内でスピーチコンテストを実施し、頑張った生徒を評価する取り組みも行っています。みんなの前で発表する機会を設けてあげると生徒は俄然やる気になり、個々のモチベーションアップにもつながります。
スピーチコンテスト
中2 英語劇「9月姫」
― “話す”ことにプラスして“表現力”を培う取り組みなどは?
竹田先生 中2になると授業で英語劇を行い、自分の考えを積極的に表現する場を設けています。シナリオは教科書の内容がベースですが、英文をそのまま暗唱するのではなく、生徒たちが自らの発想で台詞を付け足し、オリジナリティのある物語に仕上げます。
私の授業では「ハッピーエンドにする」という決め事だけを指示し、あとは各グループが自由にアレンジします。英語で考えて表現することをみんなが本当に楽しんでいますね。
― ネイティブの先生による英会話の授業などは?
竹田先生 英会話の授業は、2017年から「OST(オンライン・スピーキング・トレーニング)」を導入しました。現在は中2から高2まで実施しています。パソコンを通して海外にいるネイティブの先生と対話をするのですが、授業の30分間、生徒は常に英語をしゃべらないといけません。年間を通して見れば相当な時間数の英会話をこなしていることになります。
― 培ったスピーキング力はどのように評価するのですか。
竹田先生 本校では年に5回の定期考査を実施していますが、英語は「筆記」「リスニング」「スピーキング」の3つで実力をはかります。過去の定期考査は筆記とリスニングしか行っていませんでしたが、アウトプット活動に力を入れた英語教育を実施している以上、スピーキングも同様に点数化してあげるのは当たり前だと考え、2014年から実施に至りました。
筆記は苦手だけどスピーキングは得意という生徒もいますから、そういう生徒は「自分の得意なことを認めてもらおう!」と高いモチベーションで定期考査に挑んでいます。
「生徒を高い目標に導くには、
教員が挑戦しないと何も始まりません」
― 高校のアウトプット活動について教えてください。
竹田先生 高校でのアウトプット活動はライティングが中心です。スピーキングのみならず、英語4技能の中ではライティングも重要なアウトプットの要素ですから、中学時代に培った話す力を高校からは正確につづれるように、かつ、論理的思考力をもってロジカルに書くことができるように指導していきます。
― ライティング力の強化は大学受験を見据えてのことでしょうか。
竹田先生 そこはもちろん意識しています。新しい大学入試では民間の英語試験を活用する方針が示されています。本校もそれに対応するために「英検」と「GTEC」の対策に力を入れています。
特に「GTEC」はエッセイライティングの能力が問われますので、本校では受検直前期になると、速読トレーニング、スキャニングに加え、エッセイライティングの練習を何度も何度も繰り返し、アウトプット力の強化を徹底します。
特に「GTEC」はエッセイライティングの能力が問われますので、本校では受検直前期になると、速読トレーニング、スキャニングに加え、エッセイライティングの練習を何度も何度も繰り返し、アウトプット力の強化を徹底します。
GTECライティング指導
― 貴校がアウトプット活動を英語教育の柱にできた一番の理由は?
竹田先生 私が感じてきたことでお話ししますと、旧来のインプット中心の授業を受けていた生徒は本当につまらなさそうでした。こちらが申し訳なく思うほどです(笑)。そうなると、同じ人間ですから教員だってつまらない…。この悪循環を変えなければと感じたのがアウトプット活動への一歩を踏み出せた大きな理由だと思っています。
私は旧来の英語教育を受けてきた人間です。大学入学後、留学先でアウトプットがまったくできず、高校までに受けた教育と現実とのギャップを痛感しました。そんな経験があるから教え子たちには同じ轍を踏ませたくない。その気持ちが根底にあるのかもしれません。
私は旧来の英語教育を受けてきた人間です。大学入学後、留学先でアウトプットがまったくできず、高校までに受けた教育と現実とのギャップを痛感しました。そんな経験があるから教え子たちには同じ轍を踏ませたくない。その気持ちが根底にあるのかもしれません。
― 今後、貴校のアウトプット活動はどう進化していくのでしょう?
竹田先生 次に挑戦してみたいと思っているのは、英語を他教科とリンクさせたプレゼンテーション(パワーポイント利用)です。例えば、数学が得意な生徒だったら「その教科が好き!」というモチベーションを活かせるので、証明の問題を英語で発表してみるのも面白いかもしれません。他にも理科が好きな生徒は、夏休みの自由研究を英語で発表するように挑戦させてみる。こうしたチャレンジがきっかけで、英語力向上は言うまでもなく、パソコンのスキルを含めた個々の新しい能力の向上が期待できると思います。
個人的には中2で一度実施したいと思いますが、もし失敗したらそれはそれで構いません(笑)。まずは挑戦しないと何も始まりませんし、私だけでなく本校の教員は全員がそうした情熱を持って、日々生徒のモチベーションを高める努力をしているから、きっとサポートしてもらえるはず。生徒も私たち教員も「挑戦する教育」の実践を楽しんでいます。それが本校の素晴らしさだと感じています。
個人的には中2で一度実施したいと思いますが、もし失敗したらそれはそれで構いません(笑)。まずは挑戦しないと何も始まりませんし、私だけでなく本校の教員は全員がそうした情熱を持って、日々生徒のモチベーションを高める努力をしているから、きっとサポートしてもらえるはず。生徒も私たち教員も「挑戦する教育」の実践を楽しんでいます。それが本校の素晴らしさだと感じています。