棚の分類項目は、できる限り生徒の興味に近いわかりやすい言葉になっている。「遊園地(ディズニーランド)」や「イヌの飼い方」など、他では見ないサインがいっぱい。生徒の興味ある分野がどんどん広がっていくため、サッカーや野球関連本がそれぞれ棚1つを占める。生徒の知りたい需要に応じて供給する蔵書が、清教リブラリアの最大の特長。
中学1年生が図書館に慣れるため、設置されているのが約2000冊の「すくど文庫」。また、各教室の学級文庫「すくどの本」は、本を学校図書館から出張させて身近な教室に置く取り組み。生徒を刺激するこの文庫がきっかけになり、生徒は図書館へ足を運ぶ。
※すくど…清教学園がある河内長野周辺の方言で、松葉の枯れ葉のこと。昔、かまどのたきつけとして「すくど」を使っていた。清教学園の前身の夜間学校の生徒たちが、学校を創るための資金集めに山からすくどを集めて売り献金をした、というエピソードから命名された。
― 清教リブラリアの良さを教えてください。
Sくん(中学2年) 6万冊を超える本があることだと思います。どんなジャンルも満遍なく本がありますが、僕は特に小説をよく読んでいます。毎日図書館に来て、次はどれを読もうか探します。大体、1年で120~130冊くらい読んでいます。
Mさん(中学2年) 私は、新しい本やお気に入りの本を自分で見つけられるところが気に入っています。冊数が多くても整理されているので、本を見つけやすいんです。私は歴史が好きで、特に戦国時代や幕末の分野の棚にはよく行きます。私も1年間に120冊、多い時で150冊くらい読みますね。早い時は1日に1冊文庫本を読む時もあります。
Kさん(中学1年) この図書館には、有名な作家からあまり名前の知られていない作家までたくさんの作品があります。見たこともなかった本がいっぱいあることで、新たな好きな本が見つけられるところがいいなと思います。私はタイトルに惹かれて読むことが多く、中学に入ってからの1年でいろいろな本に出会えました。私も年間100冊以上は読んでいます。
Nくん(中学1年) 僕も興味をそそられる本がたくさんあることが気に入っています。この学校の本は厳選されていて、僕らが読んでみようかなと思うものが多いんです。もともと僕はそこに惹かれてこの学校に入りました。だから今は興味を持った本を、1日1冊のペースで読んでいます。
― 本の棚には先輩たちの総合学習で制作した作品がありました。皆さんも参考にしているのですか。
Sくん 総合の授業で活用しています。先輩方の知恵が凝縮されているので、有益でありがたいですね。自分の探究のテーマに合わせたものも見てみました。
Mさん 知っている先輩の名前を見つけて、この先輩はこういう分野に興味を持ってここまで調べられたんだ!とわかると面白いです。最初はびっくりしました。楽器のレポートも多く、私はフルートをやっているので先輩のレポートを読みました。
Nくん 先輩の本は必要な情報だけがまとめてあるので、本より読みやすいと思います。
コ>中学1年生の総合学習ではどのようなことに挑戦したのですか。
Sくん 自分が普段お世話になっているのですが、感謝の気持ちが伝えられない人に手紙を送りました。手紙を送る前に関連した本を読んで、その内容を書くんです。僕は生協の配達の方に手紙を書いたのですが、生協についての本がなかったので、配達業者の本を借りて読みました。
Mさん 私は東京大学の資料編纂所の山本先生に手紙を送りました。歴史小説にお名前がよく出てきたので、ネットで調べたり、リブラリアでその先生の名前を検索して他の本を読んだりしました。
Kさん 私は、年代ごとに発売されたゲームについて書いてある本を読み、ゲーム会社のカプコンに手紙を送りました。この学校でしかできないことをしているので、楽しいです。
Nくん 僕は、コンビニの仕組みの本を読み、コンビニに感謝の手紙を送りました。こういう授業はとても楽しいです。押し付けられている感がありません。
― 中2になると、新書による「おためし読書」(※)があるそうですね。回ってきた中から新書を読んでみた感想は?
※「おためし読書」は子どもと本との出会いのために工夫された、清教学園オリジナルの授業方法。中2の場合、生徒の間を新書が10冊ずつ回り、そこから生徒自身が選んで読む。
Sくん あまり知らない分野の本ばかりが回ってくる時もあるんです。そういう時は新しい分野を広げるきっかけになります。そうやって読んだ心理学の新書がおもしろかったです。
Mさん 私は歴史が好きなので文系の本ばかり読んでいたのですが、回ってきた数学の新書を読んで、意外に数学もおもしろいなと思いました。自分が普段読まない本を手に取ることができて、新しい発見があります。
他にも中2は「清教学園筆箱大調査」というのをやっています。筆箱の中身のデータを取って、エクセルでグラフにします。それをもとに夏休みは1人でデータを取ってグラフを作りレポートにします。私は住んでいる家とペットについて調べました。
Sくん 僕は清教生が読んでいる本の冊数と、全国の中学生が読んでいる冊数の違いを調べました。清教生は圧倒的に冊数が多かったですね。
― 1人で調査してレポートにしていくことにはどんな面白さがありますか。
Sくん 自分で一から学ぶのは楽しいです。大変ですが、自分の好きな分野ならずっとやり続ける自信があります。自分で本を探すという力も、入学当時よりも何倍もついたと思います。
Mさん 自分の好きな分野を調べるのは楽しいし、自分で調べようと思っても部活で忙しかったりするので、授業でできるのも助かります。
― 読書好きな皆さんが思う、本を読むことのすばらしさは何でしょうか。
Sくん 自分が知らない情報を知れることが、本の魅力だと思います。インターネットは嘘か本当かよくわからない情報もたまに入っていますが、本は基本的に選ばれた情報しか載っていないので、そこがインターネットとの大きな違いです。
Mさん 本を読んでいたら読むスピードが速くなるので、文章問題も速く読め、問題を解く時間が増えたりします。主人公の気持ちも考えるので、国語の気持ちを考える問題の点数も上がると思いますね。自分の中に新しい情報が入ってくるのはいいことだし、友達に「どんな本?」と聞かれて、「こういう本」と説明できるのも楽しいです。
Kさん 現実にはないようなことが書かれている本もたくさんあって、想像力が膨らんでいいなと思います。
Nくん 本は自分だけの世界に入ることができるので、誰にも邪魔されないところがいいと思います。
Students’ recommend books
●宗田理さんの「ぼくら」シリーズの『ぼくらの七日間戦争』(角川つばさ文庫)がいいです。作者の管理教育に対する批判が自分の心情とマッチしていて惹かれます。
●『探偵チームKZ事件ノート』(文:住滝良・原作:藤本ひとみ/講談社)というシリーズです。探偵チームが、1話で1つずつ事件を解決していきます。グループで事件を解決していくところにどんどん引き込まれます。
●私は越水利江子さんの『忍剣花百姫伝』(ポプラ社)というシリーズです。水曜日は部活動がないので友達と図書館で片っ端から文庫本の題名を見ていて、その時に見つけて読みました。主人公の花百姫は男装をしていて、仲間と一緒に敵を倒しにいきます。最後まで読み切った時にはすごく感動します。
●ひとつは青柳碧人さんの『判決はCMのあとで』(角川書店)。司法や裁判の人気が落ちてしまって、それを解決するためにテレビ番組のひとつに設定され、主人公が民間人の代表で選ばれて殺人事件を推理していくという話が、斬新な発想だと思いました。もうひとつが、渡航さんの『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』(小学館)。高校2年生の主人公の言葉の言い回しがすごくレベルが高いというか、普通の高校生は使わない言葉がいろいろ出て来て面白いです。
Profile 片岡則夫先生 |
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2007年、同校の探究科で指導するため神奈川県から赴任。 学園図書館の清教リブラリアに携わると、貸し出し数が10倍に! もとは理科(生物)教諭だが現在は探究科教諭であり学校図書館リブラリア館長。 著書として『「学べる学校図書館」をつくるブックカタログ&データ集』シリーズ、『中高生からの論文入門』等がある。 |
図書館は来る人間に、
「こんな人間になりなさい」なんて決めない
― 清教学園のように総合学習と図書館がうまくタッグを組めることは理想ですが、なかなか難しいのではないでしょうか。
片岡先生 そうですね。僕自身、探究学習をやるということで11年前に清教学園に参りましたので、図書館づくりからはじめました。図書館で探究学習をするには、本が行きわたらないと始まらないんです。そこで、蔵書をちゃんと作ろうということで、「何年経った本は原則捨てる」という廃棄基準を、職員会議でまず通しました。背表紙の黄ばんだ本は、かえって生徒を遠ざけますから。当初2万4000冊くらいあった蔵書のうち、何千冊かを別の場所に移すとか廃棄をしました。
減らすと、おもしろいことに「本が増えた」と生徒も先生も言うんです。目に入ってくる情報量が増えるんですね。そこから予算を増額要求して本をちゃんと買うようにしました。10年かかりましたが、その間に探究学習が軌道に乗って、貸し出し冊数は増えてきました。現在は中学生ひとりあたり年間40数冊前後です。いまでは、この図書館があるから本校に入りたい、という生徒も結構います。
― この図書館は「この分野に強い」という蔵書ではないのですね。
片岡先生 強みは、「生徒の興味に強い」ということです。生徒には個々に読みたい本と、学びたい知識が当然あります。そうした好みや関心に合わせて、先生のフィルターを通したよい本をそろえたい、と思っています。
今でも覚えていますが11年前のことです。「バレエの本はありますか?」と聞かれ、当時図書館にはバレエの本は1冊しかなかったんです。興味に即してレポートも書かせるのに、それではだめだろうと、リクエストがあれば選書して買うようにしました。それを繰り返していくうちに、今のような本棚になったんです。
僕がこういう図書館を作ろうと思ったわけではないんです。生徒が指さす方向に向けて本を買っているうちに、結果として想像していたような図書館になったんです。「図書館は成長する有機体」といいますが、生徒の興味の光を浴びて、枝葉を伸ばしてきたのですね。
― 想像していたような図書館とは?
片岡先生 「なんでも学べる学校図書館」ですね。「教育は先回りしない」という考え方を、私はもっています。本校は「賜物を生かす」をモットーにしていますが、神様が与えてくださる賜物を「君にはこれだよ」と決めつけてはなりません。それでは自分で賜物を探し、試行錯誤する機会を生徒から奪ってしまうからです。「君は何が学びたいの?」と問われて、答えて学んでみる。それを繰り返す中で自分の中に隠れていた賜物を見定めていこう、それが基本的な発想です。
もちろん図書館や探究の授業で、論文の書き方は教えます。でも、こういうものを勉強して、「こんな人間になってほしい」とは考えません。「図書館の自由」という考え方がありますが、図書館は来るひとに、「こんな人間になりなさい」なんて決めつけませんよね。100人いれば100通りの本の使い方があるはずで、その図書館的な教育の在り方と「賜物を生かす」清教学園の教育の考え方が非常に合ったんです。
ふりかえって、ふだん学校では「英語」の時間は英語を教え、「国語」の時間は国語(日本語)を教えます。でも、「総合的な学習の時間」は、「総合」を教えませんね。むしろ、生徒が総合的に学習するプロセスが目的なのです。それぞれの学習の道のりが充実していれば、そんなに間違ったところにいかないと思っています。
「どうしたいのか?」を問い、答える。
その繰り返しが大切
― だからこそ、必要で大切な学習なんですね。
片岡先生 図書館もコンピューターもカメラも全部「道具」だと思っているんです。道具を使って何を作るか、どこに行くかは本人次第です。教師も図書館のスタッフもそれを手助けすればいいんです。なぜって、彼らは大学進学時に学部や学科を選ばなければいけないし、就職する時もどこかを自分で選ばなければならないからです。その時になって、初めて何がしたいかを考えたり、適正検査を受けたりしていては遅いんです。
だから、中1から「何を学びたいのか、どう学びたいのか、なぜ学びたいのか」の問いを繰り返します。そのなかで「自分はいったい何者なのか」を考える先に、進路もうっすらと見えてくると思うのです。
― 総合学習室では、放課後に多くの生徒が残って「図書館を使って調べる学習コンクール」に向けて作品を作っていましたが、なぜ生徒はそこに価値を見出し、努力しているのでしょうか。
片岡先生 コンクールへの参加は自由なのです。しかし、論文を書きながらおもしろい世界に気がついてしまうのです。すると、こちらの高めの要求を受け入れ、自分で自分のハードルを上げていく、そんな状況が生じます。
中3で事実と意見を区別し、出典を示し、テーマを立てて答える、そんな論文を書くなんて、正直無茶な話だと思います。ただ、1クラスの1/4くらいの生徒は、「しまった! これはおもしろい!」と気がつくんです。そうすると自分の沽券・プライドにかけて「これをやらなきゃ自分が許せない」という構えをとるようになるんですね。
実は私自身も大学の卒業研究でそういう経験をしてきました。自分でテーマを決める面白さを感じ、寝なくても平気な学びが自分の芯を作ってきたと思うのです。その意味で、際限なく頑張る生徒たちの手助けをしたいと思っています。
「こんな人間になりたい」
「こんなことを学びたい」
という志の手助けをしたい
― 清教リブラリアは、Twitterでも活発に発信していますが、生徒の活動も盛んですね。「本をつなげるプロジェクト」「ビブリオバトル」「出張のおはなし会」のほか、有志の探究学習「清教アカデミカ」も始まりました。アウトプットで培われる力も大きいと?
片岡先生 力は外に現れますが、それには「原因」があります。たとえば、鼻水や熱やくしゃみが出るのは、風邪の菌に感染したのが原因です。それとおなじような因果関係が能力にはあるのではないでしょうか。変なたとえですが、まずは風邪菌に感染してしまえば、つまり「自分はこんな人間になりたい」「こんなことを学びたい」という志を持って学んでしまえば、自ずと風邪の症状のように、能力は現れてくるのです。
逆に、風邪もひいていないのに鼻水や熱やくしゃみを出せ、と言ってもこれは無理です。同様に、志や動機がないのに、能力を高めようとしても限界があるのです。だから、外に出てくる力ばかりに注目して、原因と結果が逆転しないよう注意しなければなりません。
子どもの中に「自分は大学でこんなことを学びたい」「あの先生のもとで学びたい」というような志を作る手伝いを、授業を通じてしたいのです。あるいは「本を読んで学ぶ必要がある。世界は学ぶに値するから」といった学習観・世界観を育みたいと思います。探究学習をしたからといって、皆が一斉にやる気が出るほど、ことは簡単ではありません。しかし、基本はそうありたいと思います。正解を一番早く探り出して、人を押しのけてなるのが「勝ち組」だ、と世の中考えがちです。しかし、本当に自分の人生に勝ちたいと思ったら、自分がやりたいものに対して感性を磨いて、なりふり構わず楽しく学んでほしいです。ちなみに、楽しく学ぶと不思議に志を同じくする人との出会いがあります。その入り口がフィールドワークだと思っています。
有志の探究活動「清教アカデミカ」の参加者募集告知。リブラリア発信でさまざまな取り組みが活発に行われている。
― そうやって自分の行動が形になっていくことを実感するんですね。
片岡先生 卒業論文やフィールドワークがすぐに就職や進路につながるほど、ことは簡単ではありません。しかし「あの時あんなことやれたよね」という経験や自信があるのと、ないのとでは違います。なにより、叩くと世の中、「扉」を結構開いてくれる。それを実感できるのがなによりです。
ひるがえって、生徒たちは、学校と家庭とその周囲だけで、ふだん生きています。そんな彼らが、どこかに足を運んで、頭を下げて、人の話を伺ってくるのです。中・高校生の時に大人の世界、社会を覗くことには、強烈なインパクトがあります。そんな経験をすることは本当に大事だな、と思いますね。
Teacher’s recommend book
なんでも「学べる学校図書館」をつくるブックカタログ&データ集
片岡則夫編著(少年写真新聞社)
この本は全国の学校図書館を応援するつもりで、スタッフと一緒に書きました。本校の生徒が11年間で2000人以上、卒業研究のレポートを書いています。そのレポートのテーマをランキングにして紹介しています。「何でも学べる学校図書館」ができるよ!という本なんです。調査の結果、中学生が興味を示す分野はそれほど多くはなく、1000種類程度ということがわかりました。図書館に比べればこれは狭い世界です。ランキングの第1位は「睡眠」、次は「自動車」です。つまり眠りと自動車の本は、迷わず買った方がいいのです。この本では「子どもたちはこんなことを学びたがっています」という分野を、ランキング順にチャートにしてあります。また、分野ごとにブックリストをつけました。
中高生からの論文入門
小笠原喜康/片岡則夫 著(講談社)
こちらの本は2019年の1月に出た、講談社現代新書の一冊です。論文本で有名な小笠原喜康先生との共著で、中高校生を対象にした論文作成の入門書です。新しい指導要領を待つまでもなく、たくさんの中学と高校で論文を書く授業が行われています。その中でも、問題になるのがテーマ設定や、論文としての書式ですが、それらの初歩をわかりやすく伝えたいと思って書きました。
https://gendai.ismedia.jp/list/books/gendai-shinsho/9784065144152