「英語の小林聖心」と言われて久しく、多くの卒業生たちが中高で培った英語力を活かして国際的に活躍している
小林聖心女子学院中学校・高等学校。近年は各中学校・高等学校がさまざまな形で英語教育を行うなか、同校ではすでに確立された英語教育をさらに深化させ、一歩先を行く指導を実践しています。「英語の小林聖心」と言われる由縁を、先生方の言葉から考えます。
小林聖心女子学院中学校・高等学校
英語科教諭
高橋良子先生/Maire Morimoto先生/坂田正朝先生
「Global Issues」とは?
貧困・人権・ジェンダー・温暖化など世界の諸問題からひとつのテーマを選び、5週間をかけて分析・考察する高校2年の必修授業。英語資料のリーディングやデータ分析、英語でのグループディスカッションや発表を行う。英語学習の集大成としてだけでなく、他教科との横断的な要素を持つほか、小林聖心生として養ってきた世界との向き合い方も問われる授業になる。選択授業だった時代を含めて、20年以上続く小林聖心の伝統ある英語の授業。
坂田先生
本校にはフィリピンをはじめ多くのアジアへの体験学習、高齢者の方や障害をもつ方の施設訪問など、様々な形で国内外の社会の現状を知る機会があります。「Global Issues」は、そのような体験で培った社会に対するものの見方をベースにして、様々なテーマについて英語でアプローチする授業です。授業では今、自分たちが暮らす世界にはどのような問題があり、何が必要とされているかといった現状を把握し学習を進めます。
この授業がきっかけとなって進路決定をする生徒もおり、卒業後に自分の専門分野を生かして社会で活躍する生徒も多いです。
高橋先生
「Global Issues」では、リーディングをする中でテーマを論じるためのキーワードや説明のための英語表現を学び、テーマに対して自分は賛成か反対かということを考えます。生徒たちは英語にもテーマにも奮闘しながら取り組んでいます。また、発表ではポスターセッションもあれば、パワーポイントを使ったプレゼンテーションもあり、どうすれば効果的に自分の意見を伝えられるのかということも考えなければなりません。
Morimoto先生
この学校には、生徒が卒業する時に「こうなっていてほしい」というビジョンがはっきりとあります。「18歳のプロファイル」という学校としてのビジョンを教職員は共有しており、その中には社会への奉仕や、いろんな人との違いの中で協力しながら生きていくといったことが含まれています。英語科としてアプローチできる項目をそこからピックアップし、語学としての英語を身につけるだけではなく、英語を使って人のために働けるようになることを目標にしています。
坂田先生
「Global Issues」ではグループ分けして、それぞれがプレゼンテーションをする機会も設けています。いろいろなテーマを通して社会に対する意識を高めながら自分に何ができるのかを考え、他のグループとシェアをしながら最終的なまとめをプレゼンテーションします。
Morimoto先生
「Global Issues」以外でも、高校2年の英語表現の授業では、プレゼンテーションの学習をします。最初は1人、次はペアというように人数編成を変えたり、パワーポイントを作ったりするなどいろんな方法を使って、様々なテーマに取り組みます。毎回レベルアップしながら1年間学んでいきます。最後は自分で英語のコマーシャルを制作するのですが、毎年すごく盛り上がります。例年、もっと上手に作り上げたいから、もっと時間がほしいという声があがります。
高橋先生
プレゼンテーションなどのアウトプットには、しっかりした語彙力や文法を理解するインプットも必要になってきます。普段、ただ漠然と単語や文法だけを黙々と覚えていても、本当に使いたい時に使えません。インプットしたらすぐにアウトプットするチャンスを与え、使えるようにしていくことが大切なのです。ですので、本校ではアウトプットの機会をたくさん設けています。
タブレットPC 導入
2018年度より1人1台のタブレット型PCを英語授業でも活用。今年度は7年生(中1)と10年生(高1)は個人で所有し、2019年度からは7年生(中1)から11年生(高2)が、2020年度からは全員が個人PCを所有予定。調べ学習、パワーポイント作成、論文制作など多岐にわたって使用する。
高橋先生
オンライン上で行うドリル(※)なら、紙ベースでは見落としてしまうようなこともチェックできます。個別の対応も可能ですから、それぞれが苦手なところに何回も取り組めます。本校では、7年生(中1)の1クラスを3つにわけ、8年生(中2)以降は1クラスを2つにわけて少人数クラスでの英語の授業を行っています。それでも個別対応には限界があるので、PCというツールを上手に使うことによってレベルアップしながら、読む・聞く・書く・話すという英語の4技能の定着を目指しています。
中学3年になると、校外のスピーチコンテストへ、たくさんの出場希望者が出てきます。そのスピーチ原稿は生徒と教員でやり取りを繰り返して少しずつ直しながら仕上げていきます。そのときにPCが考えを深めていくためのツールとして活用されるといいと思っています。
(※)例えば先生のPCからオンラインで各生徒のPCへ単語テストを送信し、生徒はPC上で答えを入力します。採点はPCが自動でしてくれます。
外部大会に積極的に出場
ネイティブ教員によるオーラルイングリッシュの授業の充実のほか、外部のスピーチコンテストへも積極的に参加し、プレゼンテーション力を着実につけていく。中学生はスピーチコンテストや暗誦大会、高校生はスピーチコンテストへの出場機会が多い。出場者が多いだけに、校内では発表の練習をする生徒と指導する先生の姿があちこちで見られるのが日常。大会出場を経験した生徒は、英語力が上がるだけではなく、自尊感情も上がり、英語だけではなく学校生活の多くのことに対して積極的になり、さらなるステップアップを目指して様々なことにチャレンジしていくという。
Morimoto先生
年齢によって何に興味があるかが違ってくるので、授業ではいろいろな工夫をしています。中学生は音楽が大好きなので、ジャスティン・ビーバーなど生徒たちの知っている歌を使ったり、カフェのセッティングをしてロールプレイング形式で発表させたりします。発表のテーマも生徒の希望のものにすると、みんないきいきします。そのなかでできるだけ会話のレベルアップをしたいですね。
ただ、楽しいことばかりではなく、リスニングテストやインタビューテストもあります。だから、興味がない生徒も、しっかりやらないといけません。
高橋先生
教科内で連絡しあって、文法の授業で習っていることを意識したオーラルの授業プランを立てています。生徒にとっては、文法の授業で習ったことを使って表現ができ、相手に伝えられた時が語学として一番楽しい瞬間だと思うのです。オーラルのネイティブの先生たちは生徒の文法のレベルも考えながらティーチングプランを練っていますので、そこで生まれる生徒の“達成感”が、次のモチベーションにつながっているのだと思います。
オーラルは「話す・聞く」が中心の科目なので、テストもパフォーマンステストが中心ですが、4技能の向上を考え、短いエッセイなどの「書く」活動も取り入れています。
高橋先生
これまでもGTECで「Reading、Writing、Listening」の3技能のテストを受けていましたが、今年からは「Speaking」のテストも導入しています。外部試験にチャレンジする生徒たちの背中を押せるような体制作りは必要だと考え、夏休みや土曜の午後を利用して、外部から講師を呼んで、希望者を対象に集中講座を始めました。また、今後増えてくるライティングテストのために、年4回講師に来ていただき英語のエッセイの構成についてレクチャーを受けます。その講座では実際のTOEFLの採点で使われているシステムを利用して生徒が書いたエッセイはすぐに採点され、そのときに出されるアドバイスに従って書き直しを行います。
Face to Faceを大事にした指導を
坂田先生
4技能を伸ばすことは大事ですが、その大前提として人と向き合って自分の意見が言える、そういう人を育てたいと思っています。インターネットの発達に伴って遠く離れた外国の方とも簡単にコミュニケーションがとれる時代となっていますが、コンピュータの画面にばかり向かう指導ではなく、Face to Faceを大事にした指導を心掛けています。コンピュータなどのツールばかりに偏りすぎてもダメだと思うので、そこは慎重に推し進めていきたいと思っています。
コミュニケーションをスムーズに
取るための英語教育
高橋先生
現在の英語教育の改革は、心を通わせてお互いの違いを楽しみながら豊かな社会を築いていくことが最終的な目標だと思っています。そのために、授業の中でもただ言葉を覚えさせるだけ、文法を理解させるだけではなく、目の前の相手を大切にする非言語のコミュニケーション力の育成を含む小林聖心らしい英語教育を行っていきたいです。
自分の考えをしっかり伝えられる
英語力
Morimoto先生
将来はロボットが英語や日本語を翻訳するでしょうから英語を話せなくても生きていけるかもしれません。けれど、多様な人と関わることの豊かさを味わったり、また絵画を美しいと感じる心をもち、それを表現できるようになったりすることが大事だと私は思います。それが小林聖心のひとつの考え方で、このことは、どの時代でも通用すると思っています。英語を上手に話せるだけではなく、将来社会に出ていった時に、人としてのそうした感性を大切にして、異なる文化や習慣をもつ人々と豊かに交わっていってほしいと思っています。