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- 村山 達哉 先生 / ICT教育推進部長 情報科教諭高校時代に情報処理やプログラミングなどの学習を通して情報分野にめざめ、情報科の教員をめざす。商業科、技術科の教員免許も所持。「情報」や「探究」の教材で執筆協力も行う。
― 情報の授業を行う上で、村山先生が大切にされていることは何でしょうか。
村山先生情報の授業においては、“体験”を重視した授業実践を行っています。体験により、「知る」→「理解する」→「活用する」というプロセスを大切にし、「実生活、実社会に活かせるスキル・技術を身につける」ことを理念としています。
授業では、さまざま実習を行いますが、何かひとつでも自分自身でできるようになることで、自分の「好き」や「得意」と出会い、自己肯定感を高めることで、ICT機器を、自己表現や問題解決のツールとして使いこなせるようになってほしいと考えています。
教科情報は、現在の高等部1年生から大学入試の受験科目となりましたが、「情報」の授業で学ぶ内容は、どれも「生きていくために必要」なものばかりなので、生徒には「受験科目」という意識をせず、楽しみながら学習内容が定着できるよう、工夫を凝らした授業を行っていきたいです。
― 貴校は、GIGAスクール構想に先がけ2018年度から1人1台端末を実現されています。
村山先生厳密にいうと、2014年から校内でタブレットの貸し出しをはじめ、2018年から1人1台「Chromebook」の環境をスタートさせました。あらゆる教科において日常的に利用するなかで、生徒の情報活用能力やタイピング能力が自然と培われてきたと感じています。
本校では、大多数の生徒が部活動や委員会に属していて、生徒自身で表計算ソフトを使って出欠やスケジュール管理をしたり、表現系の部活動では自分たちで音源や動画の編集を行ったりするなど、授業だけでなく学園生活全体で、個人端末が活用されているところも大きな特徴です。
― 「情報」の授業のカリキュラムの特徴は?
村山先生本学園では高等部1年、2年の2年間を通して「情報」の授業を行っています。2年間に渡り継続的に学ぶので、じわじわと大学・社会に出ても通用するスキル・技術を「体得」してもらいたいと考えています。新学習指導要領では、他教科との連携がより求められていますが、本校では予てから「教科横断型授業」を学校全体で実践してきています。「情報」の授業においてもさらに「教科横断型授業」の機会を増やし、複眼的な視点で物事を捉えることができるような生徒を育てたいです。
先ほど話に挙がった授業の中で大切にしている「体験」という面では、ここ最近だと、企業からヒューマノイドロボット「NAO」を貸与していただいてPC教室に置き、実際に機器に触れることで、現代のロボット技術について理解するといった機会を設けることもしています。
また、学園内には、ハンドヘルドカメラ・デジタル一眼カメラ・三脚・ジンバル、3Dプリンターや大判プリンター、VR機器・ドローンなどさまざまなICT機器を用意しています。使用については特に制限を設けず、使いたい生徒が自由に使える環境を整えています。例えば、文化祭のクラス企画では、VR技術を用いた出し物や、文化祭の実行委員が学内での支払いにキャッシュレス決済を導入するなど、生徒の発案でたくさんのアイデアが生まれ、学園での学びが活かされているように思います。
― 約170講座から自由に選択できる貴校の「土曜プログラム」では独自の取り組みをされたそうですが、どのような内容なのでしょうか。
村山先生2020年から2年間、高等部1年の土曜プログラムで、「『空中ディスプレイ』に表示するコンテンツ制作」を行いました。空中ディスプレイ<*1>は以前から存在していた技術ですが、コロナ禍で非接触が求められるなか、感染防止に有効な技術として注目を集めています。
まずは生徒たちに空中ディスプレイというモノや仕組みを知ってもらい、企業の方々のご協力のもと、様々な種類の機器を実際に体験し、その後グループに分かれて空中ディスプレイを利活用したコンテンツをつくるプロジェクトを実施しました。
2022年度からは高等部1年の情報の授業の中で、情報デザインの学習の一環としてUI/UXについて考える題材として「空中ディスプレイで操作できる『校内フロアマップ』の作成」実習を実施しています。
<*1>光の反射を利用することで空中に映像を表示させる技術。空中結像技術ともいう。
― 空中ディスプレイを授業に取り入れたのは、貴校が日本で初めてだったとか。
村山先生
情報の授業では、同様のコンテンツ制作として「スマホアプリ制作」や「スマホアプリのプロトタイピング」などが挙げられると思います。スマホアプリに関して言えば、まず問題解決のアイデアとして考えた場合、すでに世の中には様々なコンテンツがあふれており、何を学習目的とするかにもよりますが、コンテンツの中身やインターフェイスについて考えていくと、どうしても既存のアプリケーションに寄ってしまうこともあります。「今までにないものを創造的に考えて、つくる」となると、なかなか難しいものです。
その点、空中ディスプレイは現時点では実用化されているシーンが限られていることもあり、生徒たちが“ゼロベース”でコンテンツを考えやすく、講座を始めた時期が、ちょうどコロナショックとも重なったこともあり、「非接触」という特性が生徒にとっても自分事として考えやすいのではないかと思い、授業に取り入れたのが、きっかけのひとつです。
土曜日に実施している講座で行った際には、「手が汚れやすい料理のときに利用できるものを」「映画館での発券機を空中ディスプレイで行えれば」など、生徒たちからさまざまなアイデアが生まれ、グループごとにコンテンツの制作を行いました。
― 今後の情報教育において取り組んでいきたいことや、目標について教えてください。
村山先生「情報」は、日進月歩の勢いで進歩・進化していく分野です。今後も自身のアンテナを常に張り、あらゆるものを情報源としながら知識を高めて、授業で扱うプリント教材や取り上げる技術・テーマについても常にアップデートしていきたいです。ジャンル的には、空中ディスプレイの次に、仮想通貨やNFT、Web3関連が気になっています。
これからの時代を生き抜く生徒たちにとって必要だと思われる“ICTの今(最前線)”を授業を通して体験させながら、引き続き新しいことにチャレンジしていきたいです。
― お二人は、中等部2年生から個人所有のICT端末を使っているのですね。
NKさん授業で使うことが多く、個人端末は校内で常に持ち歩いています。先生から配付された資料を自分の手元で確認したり、発表の際には友人と教材を共有したり、教室前方のスクリーンに学習内容を投影したり、自分の端末が手元にあると何かと学習しやすいです。個人端末以外のパソコンも学校で貸し出してくれるので、目的に応じて使い分けることができます。
YKさん毎日持ち歩いて使っているうちに、個人の端末は自分にとって、筆記用具のような存在になっています。授業だけでなく、部活動で使うことも多いです。
― 部活動ではどのように個人端末を使っているのですか。
NKさん私はバトン部で、練習中の動きをタブレットで撮影して家に帰ってから復習するのに加えて、Googleドキュメントを使って練習メニューやスケジュールを部員と共有しています。使い方でわからないことがあればインターネットで調べたり、先生に直接聞いたりしています。
YKさん私はミュージカル研究部で部長をしています。学校では様々な貸し出し機器があるのですが、部活動ではBluetoothスピーカーを借りて、それを個人端末と接続して部活中に音楽を流しています。個人端末はBYODでMacbook Airを使っているのですが、曲、練習動画、台本、写真などをGoogleDrive上で共有したり、活動の過程で購入した備品などはGoogleスプレッドシートで会計管理をしたりと、幅広く使っています。
― YKさんは「土曜プログラム」の空中ディスプレイ講座を受講したそうですね。感想を聞かせください。
YKさん空中ディスプレイは、講座で受講するまで「使いづらいのかな」という先入観があったのですが、実際に体験すると「触った」という感触はないものの老若男女だれもが使いやすいと感じました。仕組みも、想像していたよりもすごく簡単。実際に体験することで、さまざまな気づきがありました。
コンテンツ制作では、同じ班のメンバーと話し合い、海外旅行先として人気のハワイの空港や駅など観光客が多く集まる場に設置することを想定した「観光客向けのガイドマップ」のコンテンツを制作しました。
― 「情報」の授業や、校内のICT環境について思うことを教えてください。
NKさん社会人になったら必要となる技術を高校生のうちから本格的に教わることができるのが良いと思います。情報の授業はPC教室で受けるのですが、PC教室にはMacBookがあり、それだけでも授業のモチベーションもあがりますね。
YKさん日常生活ではなかなかさわることのできないICT機器や設備など、充実した環境の中で学べることを誇りに思っています。