洛星中学校・高等学校 資金100万を調達してアイデア実装へ!ベンチャービジネス入門講座
洛星中学校・高等学校でアントレプレナーシップ(起業家精神)教育の一環として、2023年より開講されている土曜講座『ベンチャービジネス入門講座』。2期目である今年は、ビジネスアイデアを考えるだけに終わらず、社会実装を目標にした26名の生徒が活動。開発に必要な資金をクラウドファンディングで調達する挑戦にも取り組んでいます。躍進を続けるベンチャービジネス入門講座の現在地について、講座企画者とビジネス実装に取り組む4人の生徒に話をうかがいました。

Interview

「自分の人生を自分で生きるための力を身に付ける」をテーマに
従来の教育の枠を越えた取り組み

洛星高等学校 事務局
土曜講座「ベンチャービジネス入門講座」 責任者
田邊 篤志さん

ユニークな内容が揃う土曜講座の一環としてスタート

― まずは土曜講座『ベンチャービジネス入門』の概要を教えてください。

田邊さん
「自分の人生を自分で生きるための力を身に付ける」をテーマに、高校生が自分の身の回りから課題を探してビジネスアイデアを考える講座です。土曜講座の一環として去年開講され、私が前任の教員から講座を引き継ぎました。

― 土曜講座についても教えてください。

田邊さん
総合的な学習の一環として土曜日に開講されている、高校2年生を対象にした講座です。中でも高校2年生と対象にした土曜講座は、教科授業の延長的な講座がある一方で、大阪大学より専門家を招いての「物理『超電導入門』」、本学教員が得意分野や専門を活かした「教育社会学入門」といった講座など、大学の講義のような講座もたくさんあって面白いです。2学期は全部で13講座あります。生徒が自ら講師役を買って出た「ハイパー数学2.0」という講座も開講されています。生徒は自分の興味のある講座に参加することができ、後期の「ベンチャービジネス入門講座」には26名が参加しています。

― 人気の高い講座なのですね。

田邊さん
ありがたいことに、そうなっています。昨年まではアイデアをアウトプットして、ビジネスアイデアコンテストに参加するのがゴールというよくある授業設計でしたが、コンテストで優勝したとしても、審査員を務める企業が支援者となってアイデアの実装まで手助けしてくれるわけではありません。ならば今年は、学校でアイデアの実装にまでチャレンジしよう、私が本当に面白いと思う従来教育の一線を越えるような内容を志向していこうと考え、講座を企画しました。

昨年までは私や本校教員が講師を務めていたのですが、今年はさまざまなツテを頼りに起業家の方や起業家教育に携わる方々を招き、普段社会人や大学生向けに行われている講演やワークショップを高校生向けにして開催していただいています。

― クラウドファンディングで資金を集めたというのも驚きでした。

田邊さん
実は参考とする成功事例がありました。今年の春に洛星中学校野球部が京都府大会で優勝し、全国大会出場を果たしたのですが、応援団を含めた遠征資金を集めるために、学校として初めてクラウドファンディングに挑戦しました。この時は開始からわずか7日で目標金額を達成することができましたので、ベンチャービジネス入門講座でも資金を集められる可能性が高いと考えたのです。

― 無事、目標金額100万円を達成した秘訣は?

田邊さん
同窓生に取り組みをお知らせしたところ、多くの方がクラウドファンディングに応じてくださったのが大きかったと思います。私自身も洛星2012年度卒業の同窓生であり、たくさんの同窓生がベンチャービジネス入門講座に期待をかけてくれたというのは、大変ありがたいことでした。

― 開発資金が出ることに対する生徒の反応はいかがだったでしょう?

田邊さん
講座の初回に「優秀なアイデアには開発資金を出すよ。100万円を用意する予定です」と告げたら「おお〜〜!」と大盛り上がりでした(笑)。

前期の最後に開催した校内ビジネスプランコンテスト

― 今年のベンチャービジネス入門講座はどのように進んでいますか。

田邊さん
前期は、起業家輩出に取り組む株式会社ガイアックスの吉川佳佑様を招き、基礎的なアントンプレナー教育を行っていただきました。「真のニーズとは何か」といった社会人が学ぶような内容から始まり、身の回りから課題を発見する方法、インタビューによるデータ収集、解決策の考察といった授業です。

さらに前期の最終授業日である9月28日には、学内ビジネスプランコンテストのような位置付けでプレゼン大会を企画。そこに向けた最終ブラッシュアップの機会として、夏休み中には合宿も行いました。

合宿は、せっかくなら非日常の空間でと、禅が好きだったApple創業者のスティーブ・ジョブズにちなんで日本最大の禅寺である妙心寺の中にある壽聖院さまを2日間借り切ることにしました。これも同窓生のご縁があって実現したことです。この夏合宿には、起業家の方も3名ご参加いただき、座禅を交えながら生徒たちはアイデアをブラッシュアップしていきました。

― 9月のプレゼン大会はどのように行ったのですか。

田邊さん
審査員として起業家や起業支援家の方々、京都市の方、金融機関の支店長などに参加いただき、資金を渡すにふさわしいアイデアを選んでいただきました。

受賞したビジネスアイデア
予算50万円 第1位
タスクマイニングを利用したe-sportsの技術向上アドバイスを行うAIサービス
予算30万円 第2位
少数言語の習得マッチングサービス
予算10万円 第3位
スタンプラリー等に特化したルート最適化サービス
予算10万円 第4位
あえて不便なSNS、交換日記サービス
― AIやネット通信を活用したサービスのアイデアが多かったのですね。

田邊さん
そうですね。「京都駅でのかくれんぼ大会」など、サービス系以外にも様々な面白いアイデアもあったのですが、残念ながら受賞には至りませんでした。またアプリという形でサービスを実現するアイデアが全体的に多かったことを踏まえて、後期はUI/UXデザインや、今話題の生成AIやノーコードの技術を活用してサイトやアプリを制作する方法を学ぶ授業を開催しています。

― 実装に向けた準備が着々と進んでいるのですね。最後に、今後の展望や生徒への期待をお願いします。

田邊さん
これから生徒たちはたくさんの挫折を経験しながら、アイデアの実装に取り組んでいくと思います。僕らは外部のビジネスアイデアコンテストにも挑戦しているのですが、プレゼン大会で資金を獲得した4名のうち2名が、リクルート社が主催する「高校生Ring2024」のセミファイナリストに残りました。来年2月が決勝大会なので、ぜひ彼らにはファイナリストになって、サービスを実装した形で決戦に臨んでもらい、洛星の名を世に知らしめてほしいと期待しています。さらに将来的には、大学生や社会人になってから改めてビジネス展開までを行う生徒が出てきても面白いなと思います。

ベンチャービジネス入門講座のゴールは起業家になることではありません。当校の生徒は、難関大学や医学部への進学が多いですが、“なんとなく…” “誰かに言われたから…”と漫然と進路をきめるのではなく、自分の意思で、進学先、更にその後の人生設計を決められる生徒になってほしい。それが「自分の人生を自分で生きるための力を身に付ける」ということだと思うのです。

生成AIが発達したことで、ある程度の解決策をAIが示せる時代になりました。ですがそれを実行するのは人間にしかできませんし、新しいアイデアの発想や最先端の研究ができるのも人間の力です。この講座での体験を通じて生徒には、深い興味関心を抱く好奇心と、解決に突き進む行動力を身につけてほしい。そして自分の人生を生きてほしいと考えています。

Pick UP!後期授業

12/7に開催されたNoCodeCamp 宮崎 翼氏によるノーコード開発の授業。生成AIやノーコードアプリを活用することで、プログラム言語などの専門知識がない高校生でも簡単・スピーディにWebサイトやアプリケーションを制作できることを紹介。大切なのはどんなサービスを作りたいかの発想と設計であることだと説明し、「サービス概要、目的、ターゲット、競合サービス」を洗い出すワークショップを行った。

Students Interview

好きを突き詰める個性が、ユニークなアイデアの発露に!
– 資金を獲得した4人のコメントを紹介 –

Mくん

ビジネスアイデア
タスクマイニングを利用したe-sportsの技術向上アドバイスを行うAIサービス
概要
AIが自分より上手い人のプレイを分析し、オンラインゲームの技術向上をアドバイスしてくれるサービス。タスクマイニングというタイピングやスクロールといったPC操作に着目して作業最適化や効率化をめざす技術を参考に発想した。

ゲームが好きで、FPSというシューティングゲームでの対戦を楽しんでいます。ただ、なかなか上達せず友達に差をつけられたのがきっかけで、プロのプレイ動画を分析するようになりました。結構大変な作業だったので、それをAIに任せられたら、というのが発想の原点です。

プレゼン大会で1位を取れた理由は、Notionという起業家向けのサービスを使って自分のビジネスアイデアを紹介するページを作って、アンケートを募るという、みんなより一歩先の行動を取ったからだと思います。実は既に「使ってみたい」という反応も得られています。

今後は田邊さんの人脈でゲーム会社の方に相談できることになったので、アイデアをブラッシュアップして実装につなげたうえで、高校生Ringのファイナルに臨みたいです。ただ50万円の資金では本格的なシューティングゲーム分析AI実装は厳しいため、比較的分析のしやすいオンラインオセロから、スモールスタートで進める計画です。洛星には全国大会常連のロボット研究部があるので、協力をお願いして一緒に開発できればと思っています。

Uくん

ビジネスアイデア
少数言語の習得マッチングサービス
概要
アイヌ語や琉球諸語をはじめとする少数言語を、話者とのオンライン会話を通じて習得をめざすサービス。少数言語や文化の保護とともに、文化資料としてのアーカイブにもつなげることも検討。

もともと言語を学ぶのが好きで、沖縄に住む知人の祖母が話す琉球語が全くわからなかったことがきっかけで、少数言語に興味を持つようになりました。琉球語を独学するなかで、世界中で少数民族の言語がなくなりつつあることを知り、どうにかしたいと思うようになったのが中3の頃です。解決策がわからなくて悩んでいたのですが、ベンチャービジネス入門講座を受講したことがブレイクスルーになりました。プレゼン大会で2位を受賞できたのは、最初に琉球語の1つ与那国語で喋ったのがインパクトになったのではないかと思います。

ベンチャービジネス入門講座は、自分の夢を実現するために周りの人が協力してくれる場所で、起業家や投資家のアドバイスをもらいながらどんどん実現に向けて形にできることに魅力を感じています。そもそも洛星自体が生徒のやりたいことに対して勉強以外でもサポートしてくれる学校です。

資金30万円の使い道は、まず少数言語が残る沖縄諸島を訪ねて現状をリサーチし、話者とのネットワーク構築に活用したいと思います。同時に配信活動にも力をいれ、少数言語といえば僕だと知られるような存在になりたいと思っています。

Kくん

ビジネスアイデア
スタンプラリー等に特化したルート最適化サービス
概要
鉄道の駅ごとにあるスタンプの収集や聖地巡礼を効率的に行うための、ルート最適化サービスの開発をめざす。

僕はアイドルと鉄道が好きで、夏休みに乃木坂46の愛知公演に合わせて開催されたスタンプラリーに出かけたのが、このアイデアを思いつくきっかけになりました。

名古屋鉄道沿線内に32箇所設けられたスポットを巡ると、乃木坂46のオリジナルデジタルスタンプが手に入るという企画だったのですが、僕はお小遣いが無いので、日帰りで収集しようと計画。でもトラブル続きで21箇所しか回れなかったんです。悔しい思いをした時に、このアイデアが降ってきました。

今のGoogleMAPなどのサービスでは、複数の経由地を効率的に回る検索はできません。そのGoogleにできないことを予算10万円でやるのは難しいので、実装に向けては京都の市バスなどを対象に、本数は少ないけれど穴場スポットが多い路線など、身近なところにから取り組んでみようと思っています。

この講座に入って成長したと思うのは、自分の打たれ弱いメンタルが改善されたこと。また個人的にローカル線が廃線になることが問題だと思っているので、そうした社会問題にも関われる社会人になりたいです。

Tくん

ビジネスアイデア
あえて不便なSNS、交換日記サービス
概要
オンラインの交換日記サービス。24時間経たないと読めない、既読機能がないなど、あえて機能を制限した設計が特徴。既存のSNSへのカウンターカルチャーとして、不便にすることでコミュニケーションを楽しもうという発想のサービス。

僕は、実は別の土曜講座を希望していました。そのため最初はビジネスアイデアと言われても難しく、夏合宿でもアイデアが出なかったんです。座禅で「頭の中を無にして」と言われても、4秒で失敗する感じで過ごしていました。

でも自分の身近な課題に立ち返り、プレゼン大会の直前にLINEで講座の仲間とやりとりをしていたときに思いついたのがこのアイデアです。そもそも僕はSNSがあまり好きではなく、既読がついたり、位置情報を共有したりするようなアプリを使いたくないタイプ。「昔からある交換日記程度のアナログさで仲良くしたらいいのでは」と考えました。

プレゼン大会ではまさかのトップバッターでしたが、開き直って想いをぶつけたのが3位入賞につながったのかなと思います。今後は予算を使ってできるところまで実装したいと考えています。仕組みとしては比較的難しいものではないと思うし、この講座のすごいところは100万円という開発資金を生徒が使えるというところだと思うので頑張ります。

洛星は、尖ったりはみ出したりしている生徒が多い学校だと思っています。みんながはみ出ているから自分も安心してはみ出せるし、どんな人に対しても寛容な環境があります。そこが居心地のいい学校です。