開会
議題の選択
議題「持続可能な開発のための教育」を採択した
討議
各国大使による30秒間の討議(スピーチ)や
議論の進行を提案しあう全体交渉が行われた
公式討議
希望した国の大使による2分間の討議が行われた
自由交渉
各国大使が自由に動いて、
交渉した決議案の提案に向けて動き出す
公式討議
先ほどの公式討議で2分間の討議を希望した国のうち、
まだ討議を行っていない大使が討議を行った
決議案の選択
閉会
参加した生徒たちは大使として担当する国のネームタグをつけ、国名のプラカードを持って着席。まずは、アルファベット順に国名が呼ばれる。アフガニスタン、オーストラリア、カナダ、中国、キューバ、フランス、イラン、韓国、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、スウェーデン、シエラレオネ、ティモール、ジンバブエ、イギリス、アメリカ、UAE(アラブ首長国連邦)など、出席国29か国が確認された。
次に、今回の議題「持続可能な開発のための教育」が採択され、公式討議の募集がされる。これは、希望制で1国2分間の公式討議(スピーチ)を大使が順に行うというもの。「プラカードをあげてください」と議長から声がかかると、まずは自国の主張のために多くの国から手が上がった。
今回は清泉女学院の高校3年生が、議長、副議長、書記官を務めた。議長の原さんはすべてが英語で運営される「Pacific Rim International Model United Nations(環太平洋国際模擬国連)」で「HONORABLE MENTION(優良賞)」に選出されたこともあり、今回も議長として英語で議事進行を担当。副議長の小泉さんは日本語で司会進行を補助する。模擬国連の運営を補助する方が会議監督として立ち合ってはいるが、経験を活かした生徒主体のスムーズな進行が印象的だ。
自国の状況、子どもたちの教育の現状、どこが問題で何が必要か、改善するための策、行動計画に取り入れたい提案、そうした多角的に考察された各国の主張を共有するために、まずは1国30秒ずつのスピーチを行う。
主張や提案が明確な国、現状のアピールに終始する国、時間内に主張がまとまらず終了合図の木づちが鳴ってしまう国と様々だが、スピーチでの成功や悔しさを今後に活かすことも生徒たちの成長につながるのだろう。清泉女学院と栄光学園の合同会議であることも、観点や論点の広がりにつながり、刺激になっていた。
29か国の主張の共有ができた後は、今後の進め方の議論へ。円滑に進めるためにどのようにすべきか、意見のある大使がプラカードをあげてそれぞれの主張を述べた。進め方ひとつとっても、自国の意見を発し、他国の意見に対して考えや理由を主張しながらより良い方法を提案していく生徒たちには、1国の大使としての誇りやプライドが感じられる。
最終的には「発展途上国と先進国に分けて議論」「カテゴリーごとに分けて議論」での投票に。その結果、今後の進め方は「カテゴリーごとに分けて議論」に決まり、その議論を自由交渉で進めることも過半数で可決された。
これまでに行われた各国のスピーチやワーキングペーパーの内容を受け、各大使が席を離れて交渉ができる「自由交渉」。教室内を自由に動いて各国の大使と直接やり取りすることができるこの時間では、生徒たちがより活発に交流する姿が見られた。この「自由交渉」の終了時間が決議案の締め切り時間となり、決議案を提出するために必要な提出国6か国、署名国4か国を集めるために、各国が奔走する。交渉によって妥協点を見出したり、お互いの主張を再確認して味方になれるかを考えたりといった貴重な時間。主張内容だけでなく、交渉術やコミュニケーション力も試される。本来なら公式討議を希望した各国の主張をすべて聞き終わってからの決議案提出が望ましいが、この日は時間的に厳しかった。生徒たちがとても熱心なだけに、時間の足りなさは残念だ。
最終的に、議場にはUAE・イラン・韓国の3つの決議案(DR)が提出された。各決議案の提案内容を確認するために、提出国6か国の国名、署名国4か国の国名、各決議案の提案内容が読み上げられ、全員に内容が共有される。さらに1国ずつ返答する点呼投票による多数決で決議案が採択され、まずはUAEの決議案1から投票。結果は賛成13か国、反対12か国、棄権4か国で決議案1が採択され、全員の拍手とともに議会は終了した。
その後は、会議講評と表彰式。運営者の高3生から「悔しい思いもあるかと思いますが、今日をきっかけに他の模擬国連にも参加してほしい」「いろんなことを考えて会議に臨んでくれてうれしかった」「海外の模擬国連にもぜひ参加してほしい」といった講評と応援メッセージもあった。確かに今日の議論の様子を見ていると、「模擬国連」という多くのチャンスを得るほどに、考察力や対応力が育まれそうだ。見学だけの生徒もいたが、模擬国連の仕組みを知り、必死で努力する姿を見たことで大きな刺激を受けたのではないだろうか。
最優秀賞はUAE、優秀賞はイラン、優良賞はシエラレオネ。各国の大使が表彰され、「第6回清泉模擬国連」は閉会した。
全員自主参加であることが 本校の良さ
― 6回目の清泉模擬国連とのことですが、白熱した世界で驚きました。
野村先生 熱心にやってくれる生徒ばかりが集まっています。こちらも応援のしがいがありますね。強制になると渋々参加する生徒も出てくるでしょうが、今日の生徒も全員が自主参加です。そこは本校の良いところです。だんだんと人数が増えてきて、最近では今日のように40人程度の規模が通常になっています。
― 清泉模擬国連が始まったきっかけは?
野村先生 私の前任の先生が他校からの招待をうけて参加されて、そこから校内でも急に盛り上がっていったようです。私は去年から本校に来まして、それまでの学校でも模擬国連の生徒の後押しをずっとやっていました。本校でもどんどん進めてほしいと要望があったので、去年から一気に拡大させていったんです。私が担当したのは第3回からです。
― 模擬国連に取り組む良さを、どのような点に感じられていますか。
野村先生 社会的な関心を持っているけれどもそれをどう結びつけたらいいのか、何をどう調べたらもっと深められるのか、と思っている生徒はたくさんいると思うのです。その本来持っている知的好奇心をうまくくすぐる機会、それが模擬国連だと思っています。リサーチを事前にたくさんしなければならないのですが、そこで英語の資料にも当たらざるを得ませんし、大会によっては英語でスピーチをすることもあるので、語学力を身につけたいと考えるきっかけになります。また、どうしても発展途上国の話が出てくるのでボランティアに興味を持つこともあります。そういったことに関心がある生徒たちを刺激するには、もってこいの機会だと思います。
― さらに、生徒たちの主体性が感じられる場でもありますね。
野村先生 そうですね。こちらから「模擬国連に出なさい」ということは絶対に言いません。その代わりに参加した生徒に対しては、できるだけ満足してもらいたいし、リピーターになってもらいたいと思うので、良かったところをどんどん言って、「そうか、次はもっとこれを調べて、もっとこういう発言をすればいいんだ」と前向きな振り返りができるような雰囲気づくりはしています。
― 今日の議題は「持続可能な開発のための教育」でしたが、議題は毎回違うのですか。
野村先生 はい。一昨年取り上げた議題をもう1回扱うということは模擬国連ではよくあることですが、本校では春と秋で議題は基本的に変えています。
― 4月に行われた第5回は初級者向けということでしたが、雰囲気は全く違いますか。
野村先生 第5回は「国連カフェ」という世界の人が来てくれるようなカフェのメニューを考えましょうというもので、あまり堅くない議題でした。事前の下調べもそこまで必要がないような設定で、宗教的なタブーや民族的な好みなども踏まえながら、世界の人に食べてもらえるものを考えました。テーマとしては模擬国連ではメジャーなものです。初心者向けで入りやすく、興味を持った生徒がとりあえず1回参加してみようかなと思えるような形の回にしました。
社会で活躍するための 技術も度胸も付けられる
― 模擬国連の仕組みのなかで、先生が生徒の成長に繋がっていると思われる部分は?
野村先生 面白さとしては毎回新しい話題、新しい国を担当するので、ものの見方が確実に広がっていくところです。そして会議への参加経験が多くなれば多くなるほど、組み立てはうまくなってくるし、スピーチのツボもしっかりと押さえて堂々といい話ができていきますから、取り組むたびに生徒自身の成長が感じられるところも面白いですね。
最近は、やりたい生徒が増えていますし、熱心な子が何人かいることでの波及効果が大きくなってきました。特に女子中高生は縦や横の影響をすごく受けますので、参加する生徒の層もじわじわと拡大しています。
― 学外での模擬国連への参加も、今日のように他校と合同会議として開催するのも、それぞれ成長があるのですか。
野村先生 そうですね。内輪だけではやはり限界があるんです。各校で小さな大会が開かれていますから、他校での模擬国連に参加させていただくこともあります。ただ、学内の模擬国連でこれだけの人数が集まっているのは、なかなかないことだと思います。あえて1人で自分のスケールアップのために参加する生徒もいて、学内でも学外でも続けていくと、だんだんそういう生徒が芽を出してくれるのです。
そういう生徒がいると、周りは「あの子すごいな」と絶対に思って憧れも生まれます。模擬国連の日は、友達も先輩・後輩も関係なく、その国の大使になりきってやる日だと伝えているんです。中2、中3である程度の参加回数がある生徒もいれば、高2で1回目という生徒もいますからヤル気さえあれば良い世界です。だから、「誰でも来たい時に来てください」と自主性に任せていて、長い目で見ればその方が校内に広がっていくと私は思っています。
― みんなの前で意見を主張できるとか、質問されたらすぐに答えられるとか、そういうところも鍛えられそうですね。
野村先生 そうですね。やはり卒業後に社会で活躍できる人になってほしいので、その技術も度胸も付けられることには意味があると感じます。
― 海外の模擬国連にも参加されていますね。
野村先生 春休みに、タイのバンコクで開かれた完全に英語だけで行う模擬国連に生徒を連れて行きました。その内容の壁の厚さに跳ね返された生徒もいましたが、貴重な機会だったと思いますから、行きたい生徒がある程度集まれば、今後も連れていきたいと思っています。そうした機会を得ると参加した生徒たちの次の目標も高くなっていきますから。11月にはUAEのアブダビにも遠征に行きます。
― 体験した生徒たちの進路にも影響は出てきていますか。
野村先生 国際関係学部に行きたいとか、政治に興味を持ったといった話は出ていますね。低学年から模擬国連に参加している生徒たちの中には、何かの形で発展途上国に貢献したいとか考える生徒は間違いなく出てきてくれるだろうなとは思っています。それはこれからの楽しみです。
― 先生としても今後の挑戦はありますか。
野村先生 校内でも100?200人の「やりたい」という生徒が出てくるようにしていきたいですね。今日は40人ですが、これまで参加して、今回は出ていない生徒も20~30人いるので、70~80人の生徒が今、関心をもってくれている状態です。そういう生徒が常に出てきてくれればと思います。
私はもともと国際問題に興味があって、将来はそういう国際的な仕事に就きたいと思っていたので、中学3年から模擬国連に参加しました。英語が好きなのですが、日本では英語を使う機会があまりないので、模擬国連で英語を使う機会を得ようと思ったこともきっかけのひとつです。参加すると、いろんな大使と話し合ってすごく刺激されて、「もっと自分も頑張ろう、次はもっと喋れるようになろう」と思うようになり、いろんな模擬国連に参加していきました。英語ももっと話せるようになりたいと思い、勉強を頑張り、自分から話す場に参加するようになりました。
模擬国連では、ひとりの力だけではなく、全員の力があってこそ、国際問題に対処できるということを学びました。自分の担当国の立場を明確にすることは必要ですが、自分の国に経済力があっても、自分の国だけでは解決できない問題がたくさんあって、資源や財力がない国とも一緒に協力できないと問題は解決しないんです。
模擬国連に参加することで、絶対に成長できるとは思います。ただ、そのためには英語力をつけることが必要だし、どんなに相手に反対されても自分の信念を貫き通すという忍耐強さも大事になってきます。でも、この貴重な体験を活かして、将来は英語を使って誰かと交渉するような仕事に就きたいと思っています。