生徒インタビュー
海城高校ディベートチームの軌跡
2024年
- 関東甲信越地区夏季ディベート大会(全国大会予選) 全敗
- 関東甲信越地区中学・高校秋季ディベート大会 2勝1敗/「全日本ディベート連盟(CoDA)賞」受賞
2025年
- 関東甲信越地区中学・高校春季ディベート大会(高校の部) 4位/中学生のみの編成で出場
- 関東甲信越地区夏季ディベート大会(全国大会予選・高校の部) 5位/全国大会出場決定!
- 全国高校ディベート選手権(ディベート甲子園) 3位/初出場校かつ全メンバーが高1生の快挙!「千葉大学学長賞」受賞
2026年
- 関東甲信越地区中学・高校春季ディベート大会(高校の部) 優勝
*取材は2026年春季大会前に行いました。
最初は全敗。
悔しさが活動継続の力に
全国大会の地区予選でもある関東甲信越地区夏季ディベート大会に初めて出場したのは、わずか2年前ですね。
中谷くん
中3の夏の大会で、1勝もできずに大敗しました。次の秋季大会では2勝1敗で5位。高1になる直前の春季大会で4位になり、高1の夏季大会で5位になり、全国大会に出場することができました。
最初は1勝もできなかったチームが、ディベートを続けようと思えた理由は?
児玉くん
中3の夏に全敗したあと、「来年も続けるかどうか」をチームでかなり話し合いました。そのとき、「次の秋季大会でも勝てなければ、本気でやめることも考えよう」と決めたんです。その秋季大会前に他校と練習試合をして初めて勝つことができ、秋季大会でも2勝できました。それで「もう一年頑張ってみよう」となりました。
「勝てる」という手応えが生まれたのでしょうか。
児玉くん
夏の大会と比べると、秋は「ちゃんとディベートの試合になっている」という感覚がありました。少しずつやり方に慣れてきた実感があって、それも続ける理由になったと思います。
春季大会から夏季大会、そして全国大会に出場するまでの間には、どのような努力や変化がありましたか。
中谷くん
本当にいろいろなことが変わりました。まず、論題が発表されたときの全員の熱量がまったく違いました。春休みはほとんどの時間をディベートに使い、朝8時から夕方5時まで集まってリサーチをしていました。
もう一つ大きかったのは、コーチがついたことです。それまでは自分たちだけで活動していましたが、ディベートの基本を教えてもらい、考え方や資料の選び方、時間の使い方などが大きく変わりました。
児玉くん
ディベートに対する向き合い方にも変化がありました。中3の頃は週2回の活動でしたが、高校に入ってからはほぼ毎日。1学期が始まったら、放課後は図書館を回りながら調べ続けるという生活が続きました。みんなの本気度が一段階上がったと思います。
長谷川くん
コーチに教わったことで、それまで何となくやっていたことが論理的に整理されていき、「競技ディベートとはこういうものなんだ」とわかったんです。その理解がチームに広がるにつれて、結果もついてくるようになりました。
中谷くん
最初の夏季大会では、「なぜ負けたのか」がよくわかりませんでしたが、秋季大会以降は「ここが返せなかったから負けたんだ」と分析できるようになり、「どうすれば勝てるか」が少しずつ見えてきたんです。ディベートでは最後にコミュニケーション点という個人評価もつくので、それも自分たちの成長を客観的に振り返る材料になりました。いろいろな評価を受け止めながら成長できたのだと思います。
全国3位。
でも、喜びと悔しさの中に感じる成長
その結果、高1の夏の全国大会で全国3位という結果を残しました。皆さんの中では手応えのある結果でしたか。それとも悔しさのほうが大きかったですか。
児玉くん
うれしさはありました。でも、対戦表を見てもらうとわかるように、目標にしていた学校や、関東甲信越地区の予選で負けた学校には結局勝てませんでした。リベンジできなかったのは悔しかったですね。それと個人的には、東海地区に目標にしていたディベーターがいたので、その人と試合ができなかったのも残念でした。
長谷川くん
僕たちは肯定側と否定側でメンバーを分けていて、僕と白石くんは否定側です。ただ全国大会では否定側の試合は予選リーグの2試合だけで、決勝トーナメントはすべて肯定側で戦うことになりました。僕たちは「肯定側、頑張れ!」という気持ちで見ていましたが、試合を重ねて勝ち上がるのは、見ていても気持ちよかったですね。今年の論題は肯定側が不利だと言われていたので、その中で勝ち上がる姿を見て、自分たちの成長も感じました。
中谷くん
反省点を挙げようと思えばいくらでもあります。ただ、もともとの目標は「全国大会に出ること」で、出場が決まったときは思わず泣いてしまうほど嬉しかったんです。そんな僕らが準決勝まで進んだので、チーム全員が「もしかしたら全国1位になれるかもしれない」と思っていましたね(笑)。だからこそ最後は、喜びより悔しさの方が大きかったです。
「面白そう」から始まった挑戦
そもそも皆さんがディベートチームに参加したきっかけを教えてください。
長谷川くん
海城独自の授業『社会Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ』でディベートを経験したことがきっかけです。その後、今日は来ていない友人が「ディベートをやろう」と声を掛けてくれて、『KSプロジェクト』として活動が始まり、僕も軽い気持ちで参加しました。もともと模擬国連をやっていたので、当時はディベートもそれに近いものだと思っていて、気軽に挑戦できたんです。
中谷くん
参加理由は大きく2つあります。1つは、幼稚園の頃からとにかく話すことが好きだったこと。ディベートに誘われたとき、「これは自分の天職だ」と思いました。“Theしゃべるスポーツ”ですから(笑)。もう1つは、勝ち負けがはっきりする世界が好きなこと。運動が好きで中学はバスケットボール部、高校はバドミントン部に所属していますが、ディベートも勝敗が明確に出る競技なので、そこに惹かれました。
加藤くん
中3の秋、中谷くんに誘われて参加しました。ちょうど部活を引退したタイミングで、「やってみようかな」と思ったのがきっかけです。
岡田くん
中3の1月頃、児玉くんがやっているのを見て興味を持ちました。もともと早口で話すのが得意なので、それを活かせるなら面白そうだと思いました。
児玉くん
僕は、校舎に掲げられる垂れ幕に名前が載ったり、表彰されたりすることに憧れがありました(笑)。せっかく誘われたし、このメンバーにはディベートを始める前からの友達も多く、みんな話すのがうまいことも知っていたので、頑張ってみようと思いました。
白石くん
僕も模擬国連の活動で議論する機会が多く、ディベートにも興味を持ちました。スタイルは違いますが、議論そのものが好きで参加しました。
考えが広がる、議論の面白さ
ディベートの面白さはどんなところですか。
白石くん
テーマごとに、自分たちで議論を組み立てていくところです。いわば自分たちの“子ども”のような議論を作り、それを相手とぶつけ合わせるんです。僕は、リサーチ自体はそれほど得意ではないですが、いろいろな資料を読み、引用できそうな説得力のある根拠を探したり、議論をより洗練させたりしていく作業が楽しいです。
児玉くん
面白さは大きく2つあります。1つは、準備やリサーチをみんなでわいわいやりながら進める時間。もう1つは、僕が担当している質疑というポジションの面白さです。同じ内容の質問でも選手によってぶつけ方や視点がまったく違い、地方大会でうまいディベーターを見ると「この人すごいな」と思うことも多いんです。そこから学べるのもディベートの面白さです。
岡田くん
僕も仲間と議論する時間が楽しいです。試合では冒頭に展開される立論を担当しているので、後半の反駁は見る立場になるのですが、「この展開ならこう返すのか」とチームのメンバーから学ぶことも多く、試合を重ねるほど理解が深まるのが面白いです。
加藤くん
個人的には、ゲームに近い感覚で向かえる面白さがあります。準備の段階で「相手がこう来たらこう返そう」と考えるときはすごく集中していて、その感覚がゲームに似ています。試合中は瞬時の判断も必要になるので、スポーツに近い部分もあります。
中谷くん
ディベートは、論題が発表されてから大会まで半年ほど、同じテーマで議論を深めていきます。例えば2月に論題が出ると、春に出てくる議論と、夏に出てくる議論はまったく違います。強い議論が生まれると、それに対する対策が出てきて、さらに新しい議論が生まれます。その繰り返しで「どこを突けば勝てるか」を突き詰めていく。そこが確かにゲームのようで面白いです。
長谷川くん
僕も岡田くんと同じく立論を担当していて、僕らの勝負は試合中よりも準備期間にあると感じています。ディベートは時間がきっちり決まっているので、その中で多くの情報をわかりやすく伝えなければなりません。原稿を書くときは「どんな言葉なら審判に伝わりやすいか」「自分が言いやすいか」をじっくり考えます。その、言葉を一つひとつ選びながら組み立てていく作業が、僕にとっては面白い。全力で言葉を組み合わせています。
ディベートで伸びたのは
「読む力」「考える力」「伝える力」
ディベートに取り組んで、自分自身の成長や変化はありましたか。
長谷川くん
勉強面では国語力が上がりました。ディベートでは資料をたくさん読み、人の話もよく聞くので、語彙が増え、長い文章の要点をつかむ力がつきました。以前より文章も読みやすくなったと思います。さらに、議論を整理する力もつきました。模擬国連などで複雑な議論になっても、論点ごとに整理して考えられます。
中谷くん
今は「多様性」という言葉がよく使われますが、僕にはそれをあらゆる場面で使うことには抵抗があって、何でも「どちらもいい」とするだけでは議論が進まないと思うんです。もともとは少し反骨精神のような気持ちからそう考えていたのですが、ディベートは最終的に白黒をつけるゲームなので、「どちらがよりメリットを生むのか」を論理的に考え、その過程でなぜ自分がそう感じるのかまで、整理できるようになりました。物事をはっきり考える力がついたと思います。
加藤くん
僕はディベートをゲームとして楽しんでいるので、あまり深い意味や影響は考えていないのですが、強いて挙げると、資料を探すために図書館へ行くことが増え、一時期はほぼ毎日のように通っていました。その結果、都立図書館の上の階に「有栖川食堂」というおいしい食堂があることを知りました。それは、ディベートを始めて図書館通いしなければ見つけられなかったことです(笑)。
岡田くん
資料を組み合わせて議論を作るので、論理的に考える力は確実についたと思います。試合の中で特にそれを実感します。
児玉くん
僕は、結果だけで物事を判断しなくなりました。例えば「この実験で何%という結果が出た」と書かれていても、その実験がどんな方法で行われたのかまで確認するようになりました。今はニュースや新聞を見るときも、「この結果や値はどんな条件で出たのか」と、その背景にも目を向けるようになったと思います。
白石くん
以前は「何か違う」と感じても説明できないことが多かったのですが、今は言葉で説明できるようになりました。相手の主張を理解しながら議論する力がついたと思います。
では最後に、海城で学んでいるからこそディベートに役立ったことはありますか。
長谷川くん
生徒全体のレベルが高いことは大きいと思います。よく考える人や意識の高い人が多いので、「ディベートをやってみよう」となったときに「面白そう」と一緒に挑戦してくれる仲間がすぐに集まりました。そういう環境は海城ならではだと思います。
児玉くん
国語の授業でも、文章を読んで班で考えたり発表したりすることが多く、先生からかなり深く質問されることもあります。自分の考えを整理して説明する機会や、「なぜそう考えたのか」を考える機会が多いことは、ディベートにもつながっていると思います。
白石くん
海城はレポート課題が多いと思います。社会だけでなく、いろいろな教科で自分の考えを文章にまとめます。僕は第一反駁を担当していますが、台本を書くときに文章を読みやすくまとめる力が役立ちました。
加藤くん
特に社会のレポートは大きいと思います。資料の引用の仕方や扱い方について厳しく指導されるので、それはディベートにも影響していると思います。
岡田くん
海城の入試の社会は、かなりの長文や多くの資料を読ませる問題が出題されるので、情報を読み取る力が必要になります。入学後もレポートで論文を引用したり、取材をして専門家の意見を聞いたりするので、そうした経験はディベートだけでなく、他の活動にも生きていると思います。
海城ディベートチーム
今後の目標
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長谷川くん
非認知能力を鍛える!
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中谷くん
全国一位!
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加藤くん
できる限り前を向いて!
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岡田くん
自分が成長することが大切!
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児玉くん
目標だったディベータ―に追いつく!
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白石くん
議論することを楽しみたい!
先生インタビュー
生徒たちの挑戦する精神がチームを育てた
ディベートが生んだ“自力走行の学び”
海城中学高等学校
社会科教諭 渡邊伸弘先生
生徒主体で始まった
競技ディベートへの挑戦
本来、本校独自のKSプロジェクトとは、教員側から自らの専門性を生かして課外での高度な学びの場を生徒たちに提供するものなのですが、このディベートは少し異なり、生徒たちからの「ディベートの大会に出たい」という相談から始まりました。
話が持ち上がったのは、中3の地区大会直前の2024年5月。社会の授業でディベートを扱ったこともあり、生徒たちから「顧問になってほしい」と頼まれたのですが、大会の申し込み締め切りまで数日しかない状況で、競技ディベートの指導経験者も校内にはいません。教室ディベートと競技ディベートはまったく別物ですから、どこまでできるのか正直わからず、最初は保留にしました。それでも、生徒たちの「どうしても挑戦したい」という強い思いに背中を押される形で活動をスタートさせました。
自分たちで考えて
自分たちで学びを深める形を大切に
最初の大会は、やはり全敗でした。海城の名前を背負って一勝もできなかったことは、彼らにとって相当悔しい経験だったと思います。ただ、それが彼らの意識を大きく変えました。負けた理由を徹底的に知ろうとするようになったのです。特に印象的だったのは、試合直後の姿勢です。彼らは必ず審判のもとへ行き、「なぜ負けたのか」「どこが弱かったのか」と時間が許す限りアドバイスを求めていました。オンラインの練習試合でも同じです。得られた助言を持ち帰り、自分たちで調べ、議論し、次の試合で試してみる。全国大会の動画を見て話し方や構成を研究するなど、すべて自分たちで学びを深めていきました。
その結果、中3の秋季大会では初勝利を挙げ、上位に入るまでになりました。その取り組みを見た連盟の方からコーチ紹介の声をかけていただき、必要に応じてメールで助言をいただく形のサポートを依頼することとしました。このKSプロジェクトはあくまで生徒主体の挑戦です。コーチにも求められたときだけ助言をいただく形でお願いし、生徒たちが自分たちで考えながら進めていくスタイルを大切にしました。
春からは高校生の大会に挑戦し、夏には全国大会で3位という結果を残しましたが、活動の中心はあくまで生徒たちです。私は放課後に活動できる教室を確保する程度で、実際の議論や研究はすべて彼らが主体となって進めていました。いわば“自力走行”のプロジェクトです。
挑戦する経験が
生徒を大きく成長させる
この活動を見ていて感じるのは、「やらされていない強さ」です。自分たちの知的好奇心から始めた挑戦だからこそ、負けた悔しさが次の原動力になります。もし部活動として与えられた活動だったら、途中で生徒同士や顧問との間に温度差が生まれていたかもしれません。彼らは大会が終わるたびに、続けるかどうかも自分たちで話し合って決めています。私は「続けるならサポートするよ」と伝えるだけです。
その姿を見て、今では後輩たちも「自分たちもやってみたい」と集まり始めました。中学生のチームも生まれ、すでに大会に挑戦(*)しています。高校生たちは自然に後輩を受け入れ、この活動を次につなげようとしています。
仲間に声をかければ、自然と人が集まる。そうした環境は、海城らしさの一つです。生徒たちが自分の興味から挑戦を始め、教師がほどよい距離感で向き合い、それが新しい活動として広がっていく。今回のディベートチームは、その一つの象徴だと感じています。
*第29回関東甲信越地区中学・高校秋季ディベート大会にて、「中学ディベート」のメンバーが準優勝
