男子部 中学2年 音楽授業
中学2年生・男子部の音楽の授業。男子だけのクラスということもあり、生徒たちは恥ずかしがることなく、のびのびと授業を受けていました。この日は、学年末で授業が進度に余裕があるということで、教科書の課題曲ではなく、先生が選んだ「島唄」に挑戦。ストレッチや肩ほぐしで体をリラックスさせ、発生の準備を整えます。先生の声かけに合わせ、生徒たちは自然に体を動かしていました。
歌い始めると、1時間目とは思えないほどの声量。ゆったりとした沖縄の旋律に乗って、教室いっぱいに歌声が広がっていました。
先生インタビュー
國學院大學久我山中学高等学校
芸術科主任 和田伸夫 先生
応用力をつける
そして固定観念を崩すことを大切に
国学院大学久我山中高の芸術科で育てたい力とは、何だとお考えですか。
和田先生
本校は進学実績、いわゆる“出口”を大切にする学校です。その中で芸術科がどう貢献できるかは常に考えています。直接大学受験に結びつく教科ではありませんが、実は毎年1、2名は芸術系大学へ進学する生徒もいます。そのサポートをするのが芸術科の役目です。
久我山生の特徴として強く感じるのは、「努力を才能に変える力」です。本校の生徒は、最初から突出した才能を持っているというより、努力を積み重ねる中で力を伸ばしていくタイプが多い。美術の授業では、毎年クラスで1、2名の作品を「参考作品」として紹介しますが、選ばれる生徒に共通するのは、粘り強く努力を重ね一つの作品に向き合う姿勢だと感じます。本校の実践目標の一つに「たゆまざる努力に自らを鍛え たくましく生きよう」という言葉がありますが、その姿勢は芸術科でも確かに育ち、他教科にも影響していくと感じます。
指導において、特に大切にされている点はありますか。
和田先生
最も重要視しているのは「応用力」をつけること。そして、「固定観念を崩すこと」です。例えば、生徒たちには絵の具は筆で使うもの、という思い込みがあります。でも、「筆ではなく、スポンジでも、指でも、ラップでもいいんだよ」と伝えると、生徒は驚いて「いいんですか?」と聞いてきます。本校の生徒は真面目ですから、「こうでなければならない」という意識が強めなのです。
しかし、その固定観念を少し崩すことで、「別のやり方がある」という発想が芽生えます。これは美術に限らず、数学など他教科でも生きる「応用力」です。急に大胆になったり、方法を変えたりする必要はありませんが、「そういう考え方もある」「別の方法もある」と知ることが大切で、その結果、生徒がより創造的になっていくのではないかと思っています。
そういった考えのもと指導される中で、印象に残っている生徒はいますか。
和田先生
東京藝術大学に現役合格した女子生徒がいます。中1の写生会の時から「参考作品」に選ばれるような繊細な描写力を持っていました。ただ、上手いから合格するわけではありません。彼女には常に学びを吸収しようとする柔軟性がありました。固定観念にとらわれず、自分の表現を広げていける生徒でした。
もう一人、忘れられない男子生徒がいます。中2の時に私が彼の作品を「参考作品」として紹介しました。独特の色使いが印象的だったのです。のちに私が担任を務めた際、保護者の方から「あの経験が自信になったようです」とうかがいました。普段は目立たない生徒でしたが、自分の作品が認められたことが彼の背中を押していたのだと知りました。芸術科は、成績表には表れにくい“自信”を育てる教科でもあるのだと、改めて実感しました。
同時に、生真面目な生徒の中にある柔軟性を引き出す役割も担っていると感じます。本校の生徒は真面目で、やや思考が硬くなりがちな傾向があります。だからこそ、「別のやり方があっていい」というメッセージを伝え続けたいのです。学習面でも、物事の背景を考えたり、自分なりの意見を持ったり、その先の展開を想像したりする力につながってほしいと思っています。
こうした働きかけを、この多感な時期に行わなければ、生徒の思考はますます固定化してしまいます。もちろん、実際に行動に移すかどうかは生徒自身の選択ですが、そのきっかけを示すことが、芸術科の大切な役割なのではないかと考えています。
確かに芸術科には芸術科ならではの役割がありますね。
和田先生
別の解釈としては、勉強で忙しい中で、一息つける時間が芸術科でもあります。ただし、息抜きだけの時間ではありません。力を抜きながらも、作品としっかり向き合い、最後まで仕上げる。その両立が大切です。
私は授業で、強制的にならないようにということは心がけていますが、道具の扱いなど基本的なことは厳しく指導します。安心して挑戦できる環境を整えた上で、生徒が自分のペースで芸術と向き合え、少しでも癒しの時間になればと思っています。
理想は芸術と科学の横断
レオナルド・ダ・ヴィンチたれ
芸術科において、男女別学ならではの違いはありますか。
和田先生
傾向として、女子は丁寧で完成度が高く、男子は自由度が高い印象ですね。男子は友人の作品を見に行くなど、良い意味で「抜け感」もあります(笑)。その雰囲気が、のびのびとした表現につながるのかもしれません。別学だからこそ、それぞれの成長過程を丁寧に見られるという良さも感じます。
国学院久我山ならではの芸術的な取り組みは?
和田先生
女子部の「クラス対抗合唱会」、そして高2の「修了制作展」や「修了演奏会」です。「修了制作展」では、自分でテーマを設定し、学習センターに展示します。「修了演奏会」では、スポーツ選抜クラスの生徒がピアノを披露することもあり、担任の先生が「こんな一面があったのか」と驚くこともあります。その意味でも芸術科は、生徒の“別の顔”を可視化する場になっています。それは他教科の先生方にとっても意味のあることだと思いますし、芸術科としての喜びでもありますね。
芸術科は自ら表現する、体験するという良さがありますが、その意味での価値も感じられますか。
和田先生
芸術作品は時代の精神を映します。例えばピカソやゴッホの作品には、その時代の価値観や葛藤が表れています。それは生徒の作品も同じです。学年ごとに、年ごとに、確実に雰囲気は違い、家庭環境や社会背景が無意識のうちに表現ににじみ出てきます。私がよく生徒たちに話すのは、「今の君たちだからこそ描けるものがある」ということ。その自覚を持ってほしいのです。単なる作品ではなく、自分の内面の表れなのだと気づくことが、自己理解にもつながると思います。
今日の音楽の授業では教科書以外の曲も扱われていましたが、あのような取り組みはよくあるのですか。
和田先生
そこは私学の良さの一つだと思います。必ずしもマニュアル通りでなくてもよい、という柔軟さがあります。本校の芸術科には大切にしている指針と伝統があり、その枠組みは守ります。ただ、その中での進め方については比較的自由度が高いことが芸術科の特徴で、「型にはまりすぎなくていい」ということが受け継がれてきました。授業では、導入とまとめといった骨格は大切にしますが、途中の展開は担当者の責任のもとで工夫しています。
もちろん教科書を基盤にしながらも、そこから大きく逸脱しない範囲で、生徒の思考や表現を広げることを意識しています。オンライン授業になることもありますので、その状況に応じた方法も取り入れています。大切なのは、形式よりも学びの質です。教科書を土台としながら、より深く考えさせる授業を心がけています。
最後に、芸術科の今後の挑戦について教えてください。
和田先生
芸術科を、他教科とつながる「核」にしたいと思っています。理科の植物スケッチと連携したり、体育のダンスと美術作品を結びつけたり、数学や英語とつながる可能性もあるはずです。理想は「レオナルド・ダ・ヴィンチたれ」。芸術と科学を横断する視点です。
本校には教養講座という取り組みがあり、教科を越えた学びが可能です。そこに芸術科が橋渡し役として関われたら面白いと考えています。芸術は周辺ではなく、思考を広げる中心になり得る教科です。限られた授業数の中でも、生徒の柔軟性と応用力を育てる存在であり続けたいと思います。








