田園調布学園中等部・高等部

田園調布学園の「礼法」の授業とは? 建学の精神「捨我精進」を受け継ぎ、自ら考える力を育む

私学的授業
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田園調布学園中等部・高等部 建学の精神が息づく「礼法」の授業 『如是集』から学ぶ、自分と向き合う力
2026年、創立100周年を迎えた田園調布学園。建学の精神「捨我精進」を教育の軸に、探究活動や教科横断型授業、グローバル教育、土曜プログラムなど、多彩な学びや体験を通して、生徒一人ひとりが自分と向き合い、自ら考え、挑戦し続ける力を育んできました。こうした教育活動の土台にあるのが、創立以来受け継がれてきた建学の精神です。
その思いを象徴する授業が、中等部1年生で行われる「礼法」の授業。昨年度から授業内容を刷新し、礼儀や作法を学ぶ時間と、初代校長の川村理助先生の言葉をまとめた『如是集』の一節を8名の先生がそれぞれ取り上げ、生徒が身近な出来事や自身の経験と結び付けながら、自分なりの答えを考える授業を行っています。ココロコミュでは、「礼法」に込められた思いや教育への考え方について、5人の先生にお話を伺いました。

レポート

Report
礼法の授業の様子
礼法の授業の様子

所作を学び、礼儀作法を身につける

礼法の授業では、建学の精神について考える時間とともに、礼儀作法を身につける実技も大切にされています。この日は、第二校舎(創造探究棟)の和作法室で授業が行われました。生徒たちは、靴を脱ぎ、白いソックスに履き替えて和室内へ。授業の初めには、卒業生でもある小林裕子先生から「会釈は指先が畳につくように」「息を整えながらおじぎをすると美しく見えます」と、座礼の一つひとつの所作について丁寧な指導を受けました。

白いソックスを履く理由や和室の上座・下座、敷居を踏まない意味など、作法の背景にある考え方も学びながら、座礼や立礼を繰り返し練習。生徒たちは少し照れながらも、姿勢や動きを意識し、一つひとつの所作を身につけていました。

「正座がつらい」「座礼って意外と難しい」といった素直な声も聞かれましたが、美しい所作を学ぶだけでなく、その意味を知り、自分の行動を見つめ直すことも礼法の大切な学びです。こうした実技と、『如是集』をもとに自ら考える授業、その両方を通して人としての土台を育んでいることが伝わってきました。

先生インタビュー

建学の精神を、今を生きる生徒たちへ

校長 清水豊先生

校長清水 豊先生

Q

礼法の授業は、田園調布学園にとってどのような役割を担う時間なのでしょうか。

清水先生

礼法は、創立者で初代校長の川村理助先生が、建学の精神「捨我精進」を生徒に説いていたことが始まりです。その後、礼法という授業として受け継がれ、長年にわたり礼儀や作法を学ぶ時間として西村弘子先生(前校長・現学園長)が担当されてきました。昨年度からその内容を変え、作法を学ぶ時間と、教員が『如是集』から自分の専門や立場に合わせて一節を選び、今の中等部一年生にも伝わるようにして授業を行う二本立てになりました。

私学には、時代に合わせて変えていくべきものと、変えてはならないものがあります。教育方法は変わっても、創立者がどのような思いで学校をつくり、生徒に何を伝えようとしたのかという根本は変わりません。その思いを今の生徒にもきちんと受け継いでいくことが、礼法の授業の一番大切な役割だと考えています。

礼法・如是集のテキスト
Q

校長先生は、どのようなお話をされているのですか。

清水先生

私は4月の最初の授業を担当しています。そこで伝えるのは、「捨我精進」とは何かということです。難しい言葉ですが、生徒には「今の自分を乗り越えるために一生懸命努力すること」だと話しています。

中高6年間は、自分自身と向き合い、挑戦を続ける時間です。結果ばかりを求めるのではなく、まずは挑戦すること。そして、昨日までの自分を少しずつ超えていくことが大切です。中学受験を経験してきた生徒たちは、どうしても偏差値や順位など、人と比較することに慣れていますが、本当に大切なのは他人との比較ではありません。前の自分と比べて成長できているかどうか。つまり自分自身を基準に考えられるようになってほしいのです。

試験でも、「平均点を超えられたから良かった」ではなく、「前回より理解が深まったか」「努力した結果、成長できたか」という視点を持てるようになれば、本当の意味での自分の成長を実感できるようになります。だから私は、「中高6年間は、自分と向き合い、自分を超える時間にしてください」と、生徒たちに伝えています。

Q

そうした考えをもとに行われる礼法の授業は、貴校で積極的に取り組まれている探究活動や国際交流など、現在の教育にもつながっていますか。

清水先生

そう思います。本校では探究や教科横断型の授業、国際交流などさまざまな教育に取り組みますが、それぞれが独立しているわけではありません。「こういう生徒を育てたい」という建学の精神があり、その実現のために探究や国際交流がある。その一本の軸を大切にしています。

学校説明会でも、私は必ず建学の精神からお話しします。新しい教育も、その土台となる考え方があって初めて意味を持つからです。これから時代が変わり、教育も変わっていくでしょう。将来がどうなるかは誰にもわかりません。だからこそ、変化に対応できる土台を育てることが何より大切だと思っています。

Q

礼法の授業では、生徒一人ひとりの振り返りにも目を通されるそうですね。

清水先生

毎年、新入生全員の振り返りを読み、一人ひとりにコメントを書いて返しています。「難しくてよくわからなかった」と率直に書く生徒もいますし、自分なりに深く考えたことを書いてくれる生徒もいます。でも、それでいいと思っています。なぜならこの授業は、その場ですべてを理解してもらうためのものではなく、生徒それぞれに理解のタイミングがあるからです。

Q

AIが身近になった今だからこそ、礼法の授業に期待することはありますか。

清水先生

今はAIに聞けば、すぐに答えが返ってくる時代です。授業もわかりやすく説明することが求められますが、それだけでいいのだろうかと思うことがあります。時には、すぐに答えが出ない問いについて、自分で悩み、考え続ける時間も必要ではないでしょうか。礼法は、まさにそういう授業です。最初はよくわからなくても、自分なりに考え続ける。その積み重ねが、生徒の成長につながると思っています。

Q

礼法では作法も学びます。今の時代だからこそ、その意味は大きいのでしょうか。

清水先生

今だからこそ「型」を学ぶことが大切だと思います。社会が以前より自由になったのは良いことですが、一方で礼儀や作法を学ぶ機会は少なくなっています。だからこそ、学校で一度は「こういう場では、このように振る舞う」という基本を身につけてほしいのです。

学校生活を、多少窮屈に感じることもあるかもしれません。しかし、公私を切り替える感覚や、場に応じた振る舞いは、社会に出てから必ず役立ちます。海外でも、伝統ある学校ほど礼儀や服装を大切にしています。国際社会で活躍するためにも、自分の国の文化や礼儀を理解していることは大きな力になると思っています。

Q

最後に、校長先生が感じる田園調布学園の魅力を教えてください。

清水先生

一番の魅力は、生徒たちの優しさです。建学の精神は、授業で学ぶだけでは身につきません。日々の学校生活の中で、友達を思いやり、人を大切にする経験を積み重ねることで、少しずつ育まれていくものだと思います。

教育の形はこれからも変わっていくでしょうが、創立者が大切にしてきた「捨我精進」の精神だけは、これからも変わることなく受け継いでいきたい。建学の精神という揺るがない土台があるからこそ、新しい教育にも挑戦できる。それが田園調布学園らしさだと思います。

先生インタビュー

『如是集』を、自分事として考える授業

教頭 兼子尚美先生

教頭兼子 尚美先生

Q

礼法のテキストを一新された経緯を教えてください。

兼子先生

礼法は、本校の教育の土台を伝える、特別な教科です。私学には、それぞれ教育の根幹となる考え方があり、宗教を教育の柱としている学校もありますが、本校には宗教的なバックボーンはありません。その代わりに、本校の教育の根幹となっているのが、建学の精神「捨我精進」で、その考え方がまとめられたものが『如是集』です。

私自身が改めて『如是集』を読み返した際、その言葉の一つひとつに大きな力があることを実感しました。生き方や行動指針として、今の時代にも十分通用する内容ばかりです。一方で、教員も実は『如是集』を十分読み込んでいるわけではないことに気付きました。

そこで礼法の授業を刷新するにあたり、一人だけが教えるのではなく、それぞれの教員が心に響いた『如是集』の言葉を選び、自分の専門や立場から伝える授業にしたらどうだろうと考えました。こうして、『如是集』を現代の中等部1年生にもわかる言葉で読み解き、自分自身に置き換えて考えられる教材として、新しい礼法のテキストを作成することになりました。作法の時間もこれまでどおり大切にしながら、各先生の「考えてみよう」を加えた二部構成にしたのが現在の礼法のテキストです。

礼法のテキスト
Q

授業は、講義だけでなく、生徒に「考えてみよう」と問いかけているのがいいですね。

兼子先生

『如是集』は、大人になって読み返すと深く理解できる言葉が多く、中等部1年生には少し難しい内容もあります。だからこそ、ただ読んで終わるのではなく、自分の体験と結び付けながら考えてほしいと思いました。

私が担当する授業では、『如是集』の

事に精進して居(い)ると無限の妙案(みょうあん)が湧(わ)いて来る。事実に即しての考案であるから、外(はず)れっこはない

という言葉を取り上げました。私は、この「事実」という言葉を、自分自身の体験を指していると解釈しています。「事実に即しての考案」は実際に経験し、自分で考え工夫した本質的なものであるという意味だと受け止めました。

そこで授業では、生徒たちから出された困り事の「朝なかなか起きられない」「ついスマートフォンを見過ぎてしまう」といった、生徒たちにとって身近な出来事を題材にして、うまくいかなかった経験も共有しながら、「では次はどうすればいいのか」をみんなで考えます。その後に改めて『如是集』を読むと、「こういうことだったのか」と、自分の体験と結び付けて理解できる生徒が多くいます。ただ読むだけではなく、自分事として受け止められることが大切なのだと思います。

Q

新しい礼法になって感じる変化はありますか。

兼子先生

教員にとっても、大きな学びになりました。教員研修でも扱い、『如是集』を改めて丁寧に読み直した先生は多かったと思いますし、それぞれが違う言葉を選び、違う視点から伝えることで、生徒が『如是集』に触れる機会も大きく増えました。

また、文章そのものも、中等部1年生が読みやすいように表記を整理したり、現代の言葉で理解しやすくしたりする工夫をしています。『如是集』の言葉がわからなければ、その先を考えることはできませんから、国語科の視点も生かしながら新しいテキストを作りました。

Q

今後の礼法で大切にしていきたいことは何でしょうか。

兼子先生

本校には、自分で考え、自分を振り返り、自分なりの判断ができる生徒が多いと感じています。私はよく「芯のある生徒」という言い方をするのですが、その芯を育てる土台になるのが礼法をはじめとした授業です。もちろん、時代や生徒が変われば教材も変わります。15年前の中学生と今の中学生では、伝え方も題材も違います。教えの本質は変えずに、その時代の生徒に合わせて伝え方や教材を工夫し続けることが大切だと考えています。

「捨我精進」という言葉は、どうしても厳しくストイックな印象を持たれがちです。でも、生徒には「自分を捨てるのではなく、自分を生かすために努力することなんだよ」と伝えています。そのためには、自分の体験と重ねながら考えられる時間と教材が必要です。礼法は、そのきっかけを与えてくれる大切な授業だと思っています。

Q

最後に、兼子先生が感じる田園調布学園の魅力を教えてください。

兼子先生

本校の魅力は、人としての考え方や行動の土台を大切に育てていることです。その土台を身につけた上で、生徒一人ひとりが自分らしい考え方や個性を育んでいける環境があります。

同じ体験をしても、感じ方や受け止め方は一人ひとり違います。その違いを大切にしながら、自分なりの芯を育てていけることが、本校らしさだと思います。礼法は、その土台となる考え方に触れ、自分自身の体験を通して、自分の芯を育てていく時間です。建学の精神を受け継ぎながらも、生徒や時代に合わせて進化させていけることも、本校ならではの魅力だと感じています。

先生インタビュー

ルールやマナーから、
自分の役割を考える

生徒支援部長 長島和彦先生

生徒支援部長長島 和彦先生

Q

長島先生は「礼法」の授業でどのようなお話をされているのでしょうか。

長島先生

私は生徒支援部長として、校則だけでなく、社会の中でのルールやマナーについて話をしています。私が『如是集』から選んだのは、

自分の権利は主張しない、けれど他人の権利は十分に尊重する。他人の義務は強要しない、けれど自分の義務は確実に履行(りこう)する。かかる人々によって社会が組織せられた時、各人(かくじん)の権利は十分に伸び、各人の義務はすらすらと行われる

という一節です。この授業では「社会の一員としての自分を考える。~ルールやマナーは何のためにあるのか~」をテーマに、「自分のことばかり考えるのではなく、周囲を思いやり、自分の役割を責任を持って果たすこと」の大切さを伝えています。

Q

中学生に身近なルールやマナーで考えてもらうわけですか。

長島先生

例えば交通マナーや公共交通機関での振る舞い、道の歩き方など、みんなが気持ちよく生活できるために、日常生活の中で求められる行動について考えてもらいます。「マナーを守りましょう」と伝えるだけではなく、自分の行動を振り返り、「良い行動とは何か」「反対に、どんな行動が周囲に迷惑をかけるのか」を考え、自分は今どのように行動できているのかを見つめ直すことが大きな目的です。

Q

礼法のオリジナル教材では、『如是集』に書かれていることと反対の態度を考えさせる問いになっていることが興味深いです。

長島先生

良い行動は何となくイメージできても、悪い行動のほうが具体例を挙げやすいのです。「これはだめだよね」という意見は、生徒からたくさん出てきます。しかし、そこで終わりではなく、「では自分は本当にそれができているかな」と考えることが大切です。エスカレーターを逆走する、といった極端な例も出てきて盛り上がりますが、自分自身を振り返るところまでつなげたいと思っています。

また、「自分の義務は確実に履行する」ということに関しては、自分がクラスや学園の一員としてどのような役割を担い、どのような行動をとるべきかを考えます。自分の行動が周囲に与える影響を考え、クラスや学年が一体感をもてるように1年間を過ごしてもらいたいと話しています。

授業では、一方的に話を聞くだけではなく、生徒自身が考え、発言する時間をできるだけ多くしています。それは礼法だけではなく、どの教科においても大切にしたいことですね。

Q

礼法の授業は、田園調布学園にとってどのような意味を持つと思いますか。

長島先生

礼法は建学の精神を学ぶ時間ですが、その考え方は礼法だけで終わるものではありません。クラブ活動や委員会活動、行事、もちろん普段の授業も含めて学校生活のあらゆる場面につながっています。

たとえば体育祭では、自分たちが楽しむだけでなく、対戦相手や審判、運営する生徒への感謝を忘れないこと。他学年の発表にも拍手を送り、学校の外では近隣の方への配慮もすること。そうした一つひとつの行動が、建学の精神につながっていますから、中学1年時に全員がこの授業を受けることができるのは、意義深いと思います。今回、さまざまな立場の先生がリレー形式で話すことになりましたが、生徒が多様な視点に触れられることも今の礼法の良さです。

Q

田園調布学園の魅力はどこにあると感じますか。

長島先生

生徒も教員も勤勉で、一生懸命頑張ろうという雰囲気があることです。勉強でも部活動でも行事でも、「頑張りたい」という気持ちを持つ生徒が多いと感じます。その気持ちを後押しできる環境が、この学校にはあると思います。少し背中を押すだけで大きく成長する生徒がたくさんいます。一人ひとりが自分の「頑張れるもの」を見つけ、その力を伸ばしていける。そして、周囲を思いやりながら社会の中で成長していける生徒を育てられる。それが、本校の魅力だと思っています。

先生インタビュー

一歩一歩の積み重ねが、
進路につながる

進路支援部長 村越真紀子先生

進路支援部長村越 真紀子先生

Q

村越先生は、礼法のテキストに『如是集』から2つの文章を選ばれていますね。

村越先生

『如是集』には、人生の目標について書かれた文章がいくつかあります。その中から2つの文章(*)を取り上げて、「将来の夢をかなえるために~目標の定め方~」というテーマで授業を行いました。

進路支援部では、中高6年間を通して、自分を知り、自分の得意なことや興味・関心のあることから将来の進路へとつなげるキャリアガイダンスを行っています。そのスタートとなる中学1年では、まず目標を持ち、その目標に向かってどう向き合えばいいのかを考えてほしいと思いました。

文章1

高き目標を望みつつ、せかず急がず中止せず、脚跟下(きゃくこんか)の一段一段を丹念に登り行く。之(これ)を人生という。目標には到達せざるが好(よ)し。到達すれば人生の終息となる。目標は人生に方向を示すための指針にして、到達せんがためのものにあらず。

文章2

まだかまだかと頂上ばかり望んで山を登る者は、多くは頂上に達しない先に弱り果てゝしまう。これに反してよく足元に気をつけ、一歩一歩を踏みしめつつ順序よく進むものは、容易(たやす)く頂上に到達する。人生の登山者も此(こ)の一歩一歩を積む覚悟が肝要(かんよう)である。

Q

礼法の授業は、どのように進められるのでしょうか。

村越先生

『如是集』から選んだ一つ目の文章では、目標を実現するには、日々の積み重ねが大切であることを学びます。そこで、中学入学後に立てた目標や取り組んできたことを振り返り、目標を持つことで自分の行動や気持ちがどのように変わったのかを考える時間にしています。

『如是集』の二つ目の言葉へ移る前には、本校の卒業生を紹介し、どのように進路を決めていったのかを話します。学校生活でのさまざまな経験が、進路選択につながることを伝えたいからです。

その上で、二つ目の文章を取り上げます。目標へ向かう歩みを「山登り」に例えた内容で、とてもイメージしやすい文章です。そこで、この文章をヒントにして、自分が目標に向かっていくイメージを文章とイラストで表現してもらっています。最後は、それぞれの作品をクラスで発表します。

Q

イラストで表現するのは面白いですね。

村越先生

山を一歩ずつ登る姿を描く生徒もいれば、広い海で宝物を一つずつ見つけていく様子を描く生徒もいます。どの作品からも、目標に向かうためには一つひとつの物事に丁寧に取り組むことが大切だという考え方が伝わってきます。それぞれが自分なりのイメージで将来を思い描いてくれたことが、とても印象に残りました。卒業生の話への反応もとても良く、「学校生活での経験が将来につながる」と実感してくれたようです。

Q

中等部1年生の段階で進路について考えることには、どのような意味がありますか。

村越先生

中等部1年生の時点では、6年後やその先の自分を、具体的にイメージすることは難しいと思います。だからこそ、まずは目の前のことに思い切り取り組み、学校生活を楽しんでほしいのです。その積み重ねが、自分の力になり、新しい興味や可能性につながっていきます。今取り組んでいることが、将来につながっていると気づいてもらえたらうれしいですね。

Q

建学の精神を大切にしながら、そのうえで探究活動など新しい教育を行う田園調布学園らしさについては、どのように考えられていますか。

村越先生

本校では、探究活動をはじめ、さまざまな新しい学びに取り組みますが、その根底にあるのは「豊かな人生を歩んでほしい」という願いです。礼法も探究も受験も、それぞれが独立したものではありません。生徒が目標を持ち、多様な経験を積み重ねながら成長していく、その土台に建学の精神があります。だからこそ本校では、結果だけでなく、その過程を大切にしています。

Q

村越先生が思う田園調布学園の魅力を教えてください。

村越先生

本校の生徒は、とても素直です。新しいことにも「まずやってみよう」という気持ちで前向きに取り組む生徒が多いと感じています。本校が大切にしている「三つの心」の一つが「素直な心」であり、その素直さを育みながら、担任だけでなくさまざまな教員が関わり、一人ひとりの成長を支えていることが本校の魅力です。

中等部1年で建学の精神に触れ、多様な活動や体験を通して自分の目標を見つけていく。その過程を学校全体で支えていけることが、本校らしさだと思っています。

先生インタビュー

情報と向き合い、自分で考える力を育む

ICT教育推進部長 村山達哉先生

ICT教育推進部長村山 達哉先生

Q

ICT教育推進部長として、『如是集』をどのようなテーマで生徒に伝えられているのでしょうか。

村山先生

私はICT教育推進部として、『如是集』の

思い込んだ思想以外に心を転じ得ない者は、精神的動脈硬化症に罹った老人です。己の意思と違っても、反対も亦真理と、凡て(すべて)を包容し得る者は、精神上の若人です

を選び、「情報との出会い方・向き合い方」というテーマに授業を行っています。

私は、今の時代だからこそ、多角的に物事を見ることが大切だと思っています。例えば、動画配信サービスやSNSでは、自分の興味に合わせた情報が表示されることが多くありますが、そのような中で生活していくからこそ、いろいろな人の意見を聞き、異なる価値観に目を向けることで、自分の考え方が柔軟になったり、視野が広くなったりします。そうした視点を、中学1年生のうちから持ってほしいと思いました。

Q

授業ではどのような流れで生徒に考えてもらうのですか。

村山先生

最初に、『如是集』の言葉を自分ごととして捉えられるように、自分なりの言葉に言い換えてもらいます。「なぜ川村先生はこのようなことを言っているのだろうか」と考え、その内容をクラスで共有します。

その後、普段私たちはどこから情報を得ているかを考え、情報はスマートフォンやインターネットだけでなく、家族や友達、テレビなど、いろいろなところから得ていることに気づいてもらいます。能動的に自分から取りに行く情報もあれば、知らないうちに受け取っている情報があることも考えていきます。

その一例として「フィルターバブル」という現象を取り上げ、特定の情報源に偏ると自分が見たい情報ばかりに囲まれ、考え方が一方向に固まってしまう危険性があることを伝えます。さらに、トランプ大統領選を題材にしたフェイクニュースなど、実社会の事例も紹介しながら、情報を鵜呑みにせず、多様な視点から物事を見ることの大切さについて考えます。

Q

このテーマを中等部1年生の礼法で学ぶことには、どのような意味があると思われますか。

村山先生

こうした考え方は、一度聞いただけで身につくものではありません。学校生活のいろいろな場面で繰り返し触れることで、少しずつ育まれていくものではないでしょうか。特に私は中学入学直後の5月に礼法の授業を担当しますから、仲の良い友達だけでなく、さまざまな人と関わり、多様な考え方に触れてほしいと思っています。

『如是集』の言葉には、正解があるわけではありません。どのように解釈するかは人それぞれでいいと思いますから、私は私なりの解釈を示しますし、生徒も自分の経験と重ねながら自分の言葉で語ってくれることを大切にしています。

Q

探究学習やICT教育などの新しい学びと、建学の精神はつながっているのでしょうか。

村山先生

私は別々のものだと考えていません。建学の精神が根底にあり、その延長線上に、教科横断型授業や探究学習、ICT教育などの学びがあると考えています。これから新しいことに取り組むときも、それらは一本の筋でつながっていると思います。

本校の建学の精神である「捨我精進」は、「他人(ひと)よかれ」、つまり自分のことよりも人のためを思って行動するという考え方で、本校ではそれが「生徒よかれ」という姿勢として表れています。教員にとって手間や労力がかかることであっても、生徒が新しい視点を得たり、理解を深められたりするのであれば、それは「捨我精進」の考え方とつながっているのだと思います。

Q

村山先生が感じる田園調布学園の良さを教えてください。

村山先生

本校では、新しい取り組みを始めるときに手間や時間がかかっても、「それは生徒のためになるのか」という一点さえ揺るがなければ、周りの先生方も背中を押してくれる雰囲気があります。このような礼法の取り組みや先端技術を取り入れたり、教科の枠を越えた授業に挑戦できたりするのも、その雰囲気のおかげです。理屈より先に、生徒のために動ける環境がある。それが、私が日々感じている田園調布学園らしさです。

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