田園調布学園の核「体験」「多様性」を身につけるターム留学

体験を重視した様々な教育活動を通して、能動的に学び、社会と関わり、目標に向かって生き生きと進んでいく女性を育成する田園調布学園中等部・高等部。「国際交流」「土曜プログラム」「体験学習・学習体験旅行」など多様な取り組みを行うことで知られている同学園は今年、国際交流プログラムとして新たにニュージーランドでのターム留学を高等部に設置。当初予定していた参加人数を大きくオーバーするほどの人気を集めている。今回はターム留学を体験した高校1年生3人と、設置に携わった清水豊教頭に詳しい話をうかがった。

ターム留学とは?
タームとは学期のことで、1つの学期まるまる留学する留学形式。田園調布学園ではオークランドにある公立高校のランギトト・カレッジにて、5月から始まる第2ターム(約3ヶ月間)の授業にホームステイをしながら参加する。多文化社会であるニュージーランドで多様な文化をもつ人たちと交流し、様々な体験を通して物の見方を深め、英語力の向上をめざす。

Student's Interview

ターム留学を体験された田園調布学園高校1年生3名
様々な体験を通して、
人と人との違いを理解し、
多様性を知ることができました
[高校1年生3名]
参加したきっかけは?
ちょうどいい長さが決め手

ターム留学を通して学んだことを語る田園調布学園の3名の生徒さん

WAさん 中3の夏休みに参加したカナダでの2週間のホームステイはとても楽しく有意義だったのですが、期間が短すぎたこと、現地の学校で学ぶ体験をしていなかったことから、3ヶ月で現地の授業も受けられるターム留学の参加を希望しました。
NRさん 中3対象のホームステイはクラブの合宿が重なって参加できなかったのですが、一度は海外で生活してみたいと思っていたところ、ターム留学ができることを知りました。来年は受験ですが今年はまだ少し余裕があるし、行くなら今だ!と思いました。
WFさん 私が中1のとき、他校に通っている姉がニュージーランドに留学して、帰国後も現地でできた友達と楽しそうにやり取りしているのを見て、私も高校生になったら留学したいと憧れていました。姉は「英語力が上がった」と自慢していて(笑)、楽しい経験ができて英語力も上がるなんていいなと思ったんです。だからターム留学制度が始まったことを知って、絶対に行きたいと参加を決めました。
留学先はどんな学校?
カレッジの広さと部活の多さにびっくり

留学先のニュージーランドの公立高校のグラウンドと体育館

WFさん 学校の面積がとにかく広いことにびっくりしました。教科ごとに校舎があり、4つのグラウンドと3つの体育館、さらにテニスコートと本格的なスポーツジムもありました。フェンシング部や乗馬部、カヌー部など、日本の高校ではあまり見られない珍しいクラブ活動があったのも面白かったです。留学生も参加できるクラブがいくつかあったので、私はフェンシング部に入りました。
WAさん NRさんと私はバドミントン部に入りました。最初は留学生だけで固まっていたので、日本人と外国人のグループで分かれているような状態でしたが、私たちが早く来て他のグループの分もコートを準備していたら、他のグループの人たちが「ありがとう!」と言ってくれたんです。それをきっかけに、次の練習では他の人たちが私たちのコートの準備をしてくれて、留学が終わりに近づく頃にはコミュニケーションできるようになりました。
どんな授業があった?
選択授業は想像以上にハイレベル!

公立高校のランギトト・カレッジでの授業風景

NRさん ランギトト・カレッジでは数学とESOL(イーソル:English for Speakers of Other Languagesの略。留学生を対象にした、他言語を話す人のための英語の授業)だけが必須科目で、後は選択授業です。私はテキスタイルを選んだのですが、いきなり「ブルゾンを作りますから、まず布を切りましょう」と言われて驚きました。頑張って作ったのですが、ブルゾンの脇に穴が開いてしまって……。でも先生が手伝ってくださったので、最後は何とか完成しました。
WAさん 私は体育を選択していたのですが、入ったクラスはものすごく運動神経がいい人たちばかりで、追いかけっこをしているとあっという間に木に登って逃げ切る人もいるくらいでした。年齢が上の留学生もいましたし、みんな体格が良かったです。最初は日本人だけで固まっていたのですが、他の人たちがオープンにいろいろ話しかけてくれて、みんなとうまく打ち解けることができました。
留学先での刺激
生徒の質問が多くて、先生の取り合いに

留学先のニュージーランドの高校の先生と、ターム留学に参加されたNRさん

NRさん 授業中にわからないことがあるとみんな積極的に質問します。日本だと「授業の流れを止めてしまうから」と気を遣う人も多いと思いますが、ニュージーランドでは良い意味で誰もそんな気遣いをしません。私が入っていたクラスでは60分の授業のうち前半の30分を授業、後半の30分を生徒たちが問題を解く時間に当てていて、その時間に生徒が先生を呼び止めて質問するので、まるで先生の取り合いでした。海外では何も質問しない人、意見を言わない人は「わかっていない人」として認識されてしまうんです。それがわかってからは、上手に英語が話せなくても疑問や意見はきちんと伝えるように心がけました。
ターム留学を通しての変化・印象
いろいろな体験を通して多様性を知った

いろいろな国の留学生との交流の様子

WFさん 現地の人たちをはじめいろいろな国の留学生に出会い、文化について学び、多様性について知ることができました。ニュージーランドは人種の幅が広く、アジア系ニュージーランド人が意外と多いのですが、日本では国籍について話したがらない人もいるのに、ニュージーランドではみんなオープンにしていて、周りもそれを受け入れていることが印象的でした。
NRさん 留学中に何度も「英語でどう表現したらいいかわからない」と、もどかしい思いをしました。自分の言いたいことを細かいところまできちんと伝えられるように、もっと英語力をつけたいと思うようになりました。
WAさん 海外で生活してみると、いろいろな国の人たちとの触れ合いを通し、似ているところと同時に違っているところもわかります。留学してみて、人と人、国と国の「違い」を知ることも理解の1つだと考えるようになりました。
後輩へのアドバイス
語彙は多ければ多いほど良い

園調布学園の英語の授業風景

WFさん 留学中、英語の語彙は多ければ多いほど良いと実感したので、中3までに習った単語は全て覚えておくことを勧めたいです。田園調布学園は中高一貫校なので、高校で習う英単語を中3で先取りして習います。それらの単語をしっかり使えたら、話す内容の幅はかなり広がるはずです。
NRさん 熟語をできるだけたくさん覚えてください。数学の授業で、先生がたびたび「make sense?」(意味はわかる?)という熟語を使われたのですが、熟語は単語の組み合わせではなく英語独特の表現なので、それぞれの単語の意味を知っていても意図がつかめない場合がほとんどです。だから熟語を知っていたら、さっと理解できることが増えるのではないかと思います。

ターム留学写真集


Teacher's Interview

田園調布学園高等部のターム留学について語る清水豊教頭
中等部のホームステイから、
レベルアップした
高等部のターム留学
[清水豊 教頭]
今回、高等部で新しく設置されたニュージーランドでのターム留学ですが、設置の狙いについて教えてください。
清水先生 中等部には中3を対象にした「海外ホームステイ(カナダ・オーストラリアの2コース) というプログラムがずっとあるのですが、高等部には設置されておらず、その先につながるプログラムが欲しいと思っていました。そこで高1・2を対象にしたターム留学を開設し、初回である今年は9名が参加しました。
中3の留学コースとはどう違うのでしょうか。
清水先生 まず期間が違います。中等部のホームステイは2週間で、ターム留学は3ヶ月です。2週間では、英語での会話やホストファミリーとの触れ合いが楽しくなってきた頃に帰らなければならないので、「もっと長くいたかった」という生徒が多かったのです。2週間の次にチャレンジする期間として3ヶ月という長さが適切だと考えたこと、そして3ヶ月なら留学へのハードルが低いと考えました。ターム留学はホームステイだけでなく、現地の学校で授業を受ける点も大きく違います。
現地での受け入れ校にランギトト・カレッジを選ばれた理由について教えてください。
ニュージーランドのオークランドにあるランギトト・カレッジ
清水先生 全校生徒が約3,000名とかなり規模が大きく先進的な教育を行っている優秀な学校で、ニュージーランドのモデル校にもなっています。選択授業は芸術や音楽などの分野もあり、非常にレベルが高く本格的です。留学生が履修できる選択科目もあるので、本学園の生徒も体育や芸術などの選択授業に参加したところ、かなり難易度の高いことをやっていてびっくりしていました。
現地での生活を楽しむための 出発前後の万全サポート
留学する前は、どのようなフォローをされているのですか。
ランギトト・カレッジの売店の様子
清水先生 本学園の教員とともに、留学の際にご協力いただいている外部の団体の方々と全3回の事前研修を行います。ホームステイや現地での高校生活について「こんな場合はどうすべきか」をケーススタディで教えています。
研修後はすぐ現地の学校で授業を受けるのですか。
清水先生 現地校で授業を受ける前に、まず語学研修とオリエンテーションを行います。なぜなら現地校は基本的に授業が選択制なので、共通の科目を選択しない限り留学生同士でも校内ではあまり会わないわけです。留学していきなり個別に動く状況になると生活に慣れるまでが大変なので、最初の一週間は全員でオークランドにある語学学校で語学研修を行っています。英語だけでなく、例えば銀行の利用方法など、現地での生活についても学びます。
それだけ準備をしていけば、生徒の皆さんも安心されるのではないですか。
清水先生 さらに留学中、月1回を目安に生徒からレポートを提出してもらい、困ったことはないかリサーチしています。生徒の悩みや困っていることについては、私たちはもちろん現地にいらっしゃる外部コーディネーターの方も親身になって対応してくださいます。生徒たちは何か問題があったらまず自分で考え、それからコーディネーターの方と相談して現地で何とか解決しようと頑張ります。少々ハードかもしれませんが、そういう体験をすることも大切だと思います。
熱意と英語力を柱に 体験を通して能力を伸ばす生徒たち
ターム留学への参加に関して、選抜はどのようにされているのですか。
ターム留学に応募された田園調布学園高等部の9名の生徒さん
清水先生 基本は本人の熱意ですが、それに加えて英語が留学に必要なレベルに達しているか確認するために、英語で作成した志望理由を提出してもらっています。これに加えて、学校長による面接も行います。中3のホームステイは2週間という短い期間なので、「行きたい」という強い気持ちが第一ですが、3ヶ月という期間になるターム留学では英検準2級程度の英語力がほしいですね。今回は参加人数を5人くらいに絞る予定でしたが、応募してきた9人がとても良かったので全員に参加してもらいました。
全員が学校の求めるレベルに達していたのですね。
清水先生 はい。英語力が重要であると同時に、普段の学校での生活がきちんとできていることも重要です。現地でも宿題やテストがありますから、それらに対応しなければいけません。また今回参加した9人は、もともと意欲という点で優れていましたが、留学を経験してさらに自立して自己表現する力を磨いて帰ってきました。
確かに、自己表現力は海外で必須だと言われています。
ニュージーランドのランギトト・カレッジで短期留学を終えられた田園調布学園高等部の生徒さん
清水先生 留学前の面接では、行きたいという強い気持ちはあるものの言葉でうまく伝えられず戸惑っていた生徒が、帰国後の面接では自分の意見や思いをはきはきと表現するようになっています。
今回の内容を踏まえて、次回から変えていきたい点などはありますか。
清水先生 次回はランギトト・カレッジの他にもう1校、新たに女子校の受け入れ先を探し、共学と女子校の2校から選択できる形式を予定しています。さらにターム留学から帰ってきた生徒たちの英語力をサポートしていきたいと考えています。せっかく進歩した英語力をキープするため、ネイティブの教員を中心にその生徒たちに特別な課題を出す、個別指導を行うなどの方法を考えています。
ターム留学での体験で 多様性を学んで能力の幅を広げてほしい
今後の国際交流の展開についてどのようにお考えですか。
清水先生 多くの私立中高が英語と国際交流プログラムの充実をアピールポイントにしていますし、ニュージーランドへのターム留学を行っている学校もかなり増えています。そういった流れの中で、本学園独自の国際交流の取り組みを行うのはとても難しいことです。しかし留学をはじめとする国際交流やその他の取り組みを単に「プログラム」としてではなく、田園調布学園全体を作っている「システムの1つ」として捉えている点が、本学園の独自性だと考えています。
それはどういうことでしょう?
清水先生 国際交流プログラムの他にも、本学園は多くの取り組みを行っています。それらの根本にあるのは、本学園の核と考えている「体験する」「多様性を知る」ことの大切さを生徒に伝えたいという想いです。今回のターム留学についても、単に「世の中の流れに遅れないように、国際交流を強化していこう」という意識で行っているわけではありません。
ニュージーランドのホームステイ先のご家族との記念写真
各プログラムは、たくさんある取り組みの中の1つに過ぎないのではなく、
学園の核となっている大切な要素ということですね。
清水先生 そうです。私は本学園に赴任してから、「様々なプログラムや取り組みを全て取り去ったとき、田園調布学園には何が残るのか」ということをずっと考え続けています。そういう発想がないと、おそらく今後、他校と差別化できないのではないかと思っているからです。そこで出てきたのが体験重視と多様性の受容です。実際に自分で体験し、いろいろな人と触れ合い、世界には様々な文化が存在することを知った上で、自らの興味ややりたいことを追及してほしいですね。
国際交流の各プログラムは、そういったことを学ぶために非常に役立ちそうですね。
清水先生 生徒たちにはいろんなプログラムを体験する中で、「面白いな」と思う対象をたくさん見つけてほしいと思っています。これからも「このプログラムは本学園が育てていきたいと思っているような生徒を育成するために必要かどうか」をしっかり見極めた上で、取り組みを展開していきたいと考えています。