[授業概要]
中等部3年生の卒業制作として、グループでプログラミング動画の作成に挑戦。
中3地学で学んだ地球とそれを取り巻く宇宙の大きさや歴史、そこで起きている様々な現象や自然の素晴らしさや大きさを伝えるために、美術の授業でプログラミングアプリを使用してデジタル上で自由に表現する。
動画はチームごとに制作。プログラミングアプリ「ビスケット」を使って直感的に制作していく。ノートパソコンを見せ合ったり、パソコンの周りに集まったりしながら、チームで意見を出し合い自由に制作をしていく様子は、他にはあまりない貴重な授業風景だ。それぞれのアイデアやデザインを組み合わせて作品を作っていくと、生徒たちの興奮が教室を包んだ。
作った動画をチームごとに発表。作品を見せつつ、その意図を解説していく。「地球のロマンをプログラミングで表現しよう」というテーマでありながらも、各チームで表現が違っていることが興味深く、作品を表示するたびに生徒から歓声があがった。真剣に解説を聞き、発表のたびにしっかり鑑賞レポートも作成。共同作品を作り上げる喜びと手ごたえを、生徒たちは感じたことだろう。
― 中等部3年の美術と理科がコラボレーションした授業は、どういった経緯で始まったのでしょうか。
長峰先生 理科の教員から美術と理科で何かできないかという相談があり、一緒に考えました。実際の授業をイメージすると、ツールの解説にそれほど時間はさけそうになかったので、「ビスケット」というアプリを使用しました。このアプリは、幼稚園児から小学生も使える簡単なアプリですが、多くの生徒にとっては初めてのプログラミングでもあり、感覚的に操作できてよかったと思います。
― かなり複雑なものを作っているように見えたのですが、太陽などのオブジェクトをイラスト的に描いて、それを自由に動かす感じでしょうか。
長峰先生 そうですね。描いたものを保存して、次のコマに動いた後の図を入れます。例えば、ゆっくり動かすなら少しだけ前に出してあげるとゆっくり動くというふうに、とても単純にできるんです。
― シンプルですが、出来上がったものは複雑に動いているように見えました。
長峰先生 自分が描いたものが動いているというのが生徒は嬉しかったみたいです。動きにこだわりすぎて、最終的に理科の内容が反映されないのではないかと心配したのですが、しっかり組み込まれていましたね。
― 理科の要素は、どうやって織り込ませるように指導されたのですか。
長峰先生 初めに簡易的なマインドマップを書かせました。理科の教員も一緒に周りながら、クラスで一斉に理科の要素を中心にしたマインドマップをつくり、そこから広げて作品のテーマを見つけていきました。
― 美術と理科の組み合わせにすることには、どういった狙いが?
長峰先生 狙いは、想像力を伸ばしていってほしいということですね。どうしても周りの目を気にして表現してしまう生徒が多いです。「先生、これはやってもいいかな?」「これはダメだよね」みたいな聞き方をする生徒がすごく多い。今までの美術でやってきたものと全然違う初めてのものをやることで、自分の殻を破れるのではないかと思いました。
― 今回は、どれだけ人と違うことをするかというのを必死にやっているように見えました。生徒にとって初めてのことになるから自由になれたということですね。
長峰先生 アプリを使って簡単にできることが、ひとつ自由になれた理由としてあったかなと思います。
― 授業を進める上で工夫されたところはありますか。
長峰先生 普段の授業も同じですが、否定しないようにしています。小さい意見でも何かが出てきたら「それおもしろいね!」と言って相談しながら膨らませていくことは気を付けているところです。今回は遊びの要素もあり、ふざけることで気が付くこともたくさんありました。「宇宙の遠距離恋愛」というテーマを考えた班がありましたが、とても面白いと思うんですね。みんなが注目するし、ユーモアもあります。
宇宙の遠距離恋愛
― 今日の授業の手応えは?
長峰先生 楽しんでくれていたことが良かったですね。デジタル表現の入口なので、「ああ難しかった」という印象を持たれるよりは「おもしろかった」と言ってくれた方が成功かなと思います。実は今回、生徒がこんなに乗ってきてくれるとは思っていませんでした。プログラミングをもっとやりたいという生徒もたくさんいたと思います。
― 得意な子と苦手な子に分かれてもおかしくないと思っていたのですが、他の子と協力し合ってフォローし合う感じでしたね。
長峰先生 本校の生徒はそういう傾向があって、チームワークが取れている感じはもともとあります。
― 想像力を伸ばすという当初の目的に対しても手応えがありましたか。
長峰先生 ありましたね。一番やりたかったことは、美術は美術、理科は理科と別れてしまうのではなく、例えば宇宙とか火山とかいろいろありますが解明されていない謎がたくさんあることにファンタジーを感じてもらいたいということです。「どうなっているんだろう? おもしろいな。こうだったらいいな」という想像がいっぱい出てきた方が、「もっと勉強してみよう。もっと研究してみよう」につながるだろうし、そういう想像力を膨らませて、さらなる研究・探求心につなげてほしいと思います。
― 想像力を伸ばすというのは、解明されていないことに想像力を膨らませて、いろんなものに興味を持ってほしいということですか。
長峰先生 そうですね。研究や探求につながるというのもあるだろうし、新しい表現にもつながるといいなと思っています。今はインスタグラムだったりTikTokだったりデジタル上で簡単に表現ができます。生徒の方が簡単にチャレンジできる時代なので、美術作品とまでいかなかったとしても、「私はこの感じが好きだな」という表現の端っこだけでもかじってもらいたかったんです。
― 今日の授業のような表現ができるようになったら、生徒の世界が変わってくるでしょうね。
長峰先生 プログラミング動画のコンクールもありますし、YouTubeにアップすることもできます。今後コンピュータに仕事を奪われると言われていますが、これは人がコンピュータに教えないとできないので、自分自身がメインです。自分が考えたり表現したりすることでコンピュータは動くのだから、「コンピュータではなくてみんなの時代なんだよ」と遠回しに言いたかったです。
― 生徒たちには、今回のような授業を今後どのように活かしてほしいですか。
長峰先生 一番直近でやってもらいたいと思うのは、なでしこ祭(文化祭)で活かしてもらいたいです。本校のなでしこ祭は模造紙に書いたり、段ボールで作ったりが多いのですが、例えば簡単に使えるアプリを使って一緒に何かを作ることもできるだろうし、部活の発表でちょっとおもしろい動画を作って流したりもできます。ちょっとの工夫でこんなこともできるというヒントにしてくれたらいいなと思っています。将来的にも進路選びにおいて表現や探求につなげて、「こういうことがおもしろいな」と突き詰めていく入口になったらいいですね。
今回の授業が行われた第二校舎「創造探究棟」は、「つくる・つなぐ」をコンセプトにした工夫がいっぱいの実習棟。選択教室や美術室・調理室などの実技科目教室など多彩な教室が揃い、教科横断型の授業も積極的に導入されています。