学びのモチベーションにつながります。―山下先生―
――豊島岡女子学園では、先輩の話を聞くことで、在校生が今やるべきことや将来を考える機会が多く設けられています。こうしたロールモデルを見せることを大事にされている理由から教えてください。
山下先生:今は女性が社会で活躍する時代ですから、働く女性に仕事内容や働き方を聞ける機会は増えてきました。それは生徒にとって、とてもプラスになりますが、特に卒業生であれば社会で活躍するためにこの学校で何を学んで、何を身につけたのかという話を具体的にしてもらえます。中高時代は社会に出るための土台作りの時間ですが、同じ環境にいた先輩から話を聞くことで、生徒はそれらを参考にして、今何をしたらいいか、これからどう進んでいけばいいかという、学びのモチベーションにつなげていくことができるのです。
――学校に歴史があることもあり、先輩も様々に活躍されています。だからこそできるところも大きいのですか。
山下先生:そうですね。協力してくれる卒業生の職種や環境は本当に様々です。子育てをしながら仕事を頑張っている先輩もいれば、大学卒業時に就いた職業ではなくもう一度大学に行って勉強をし直して今の道が開けたという先輩もいます。
将来に目を向けてもらいたいですね。 ―山下先生―
――中学2・3年では「輝く先輩に学ぶ」と題した講演会が行われますね。
山下先生:そうですね。これは12年ほど前からスタートしました。彼女たちの学年は中学2年で食品メーカーに勤めている先輩、中学3年で経営コンサルタントの先輩にお願いしました。今年は財務省に勤務されている先輩で、毎年卒業生です。先輩がどのように進路を決めて、挫折を味わいながらでも、今楽しく仕事をされている話を聞くと、生徒たちはかなり刺激を受けるようです。
――生徒の皆さんは、「輝く先輩に学ぶ」でどのような影響や刺激を受けましたか。
野島さん:経営コンサルタントの先輩は、英語の大事さを話され、話すときも常に頭の中で日本語を英語に変えることで英語の力をつけていったとおっしゃったんですね。それにはすごく驚きました。
鈴木さん:私は、経営コンサルタントの先輩が仕事先の外国で偶然、同じ外国で活躍している同級生に会ったという話が印象的でした。それまで私の中では日本で仕事をするというイメージしかなかったのですが、世界にも自分の仕事の場があると気づいたんです。自分も日本に閉じこもらず、グローバルに生きられればいいなと思いました。
太田さん:私は中学生のときはあまり進路を考えていなかったのですが、先輩のお話を聞いて、焦って選択肢を1つに絞らなくてもいいんだなと感じました。大学でも、社会に出てからでも、選択肢はあるんだということを知り、じっくり考えようと思いました。
――思い込みやイメージが壊されることが多いんですね。中学生で働く先輩の話を聞く機会を設けられているのは、その意味も大きいのですか。
山下先生:そうですね。中学生のうちから視野を広げて、「こういう考えもあるんだ」「こういう仕事もあるんだ」「こんなところでも活躍できるんだ」と新しい価値観を知り、だから「この大学に行きたい」「この学部に行きたい」と考えて、大学を選んでほしいと思っています。高校生になると「先輩に学ぶ勉強法」で実際の勉強法を聞き、「進学懇談会」で大学に入ったばかりの先輩から進路選択や大学での話を聞きます。その前に社会で活躍している先輩の話を聞いて、気づき、考えて、将来に目を向けてもらいたいですね。
わかりやすいし、やってみようと思えます。―野島さん-
――中学3年では「卒業生インタビュー」が行われますね。
山下先生:このインタビューは、協力してくださるという先輩の皆様すべてにお願いして、就職したばかりの方から60歳代の方までいらっしゃいます。以前は卒業生を問わず社会で働く方にインタビューをしていたのですが、やはり豊島岡での中高時代に大切なことというのは卒業生にしか話せないと考え、卒業生に限定して募ったところ、先輩方が80名近く集まってくださいました。先輩へのインタビュー後には全員がレポートを書き、クラスでそれぞれ発表します。レポートを先輩にも送り、ファイルして廊下にも展示しますから、最終的には全員分の先輩の生き方や仕事内容がわかるようになっています。
――3人はどういう先輩にインタビューしたのですか。
太田さん:私は、英語に興味があったので、翻訳家の先輩にインタビューしました。翻訳家としてのやりがいや大変なところ、具体的なお仕事の内容を聞けたのはとても興味深かったです。その先輩も進路については視野を広げた方がいいとおっしゃったことも自分には響きました。
鈴木さん:私は、幼いときから医学系に興味があり、次第に病理学の研究に興味を抱くようになりました。そこで、病理学に関わっていらっしゃる研究者の先輩にお話を聞きに行きました。親身になって豊島岡の学校生活から、今の研究のことまで詳しく説明していただいて、病理学についてもいろいろ学べました。今でも長期休みごとにその先輩を訪問して、基礎的なことを教えてもらっています。それは貴重な体験だし、モチベーションにもつながっています。
野島さん:私はもともと船が好きだったので自衛隊に興味があり、自衛隊関連の仕事をされていた2人の先輩に話を聞きました。1人は自衛隊のお医者様、もう1人は自衛隊で飛行機の整備士をした後に医療系に進まれた方です。自衛隊は特殊な機関なので、インターネットで調べても情報が出てこないことが多いのですが、先輩だから話も聞きやすく、学校生活で役に立ったことなど具体的な話も聞けました。
――やはり自分の学校の先輩の言葉ということで、響いたところも大きいですか。
野島さん:はい。やはり同じ学校の先輩は身近な存在で、学生のときはこういうことをやっていたよと言われるとわかりやすいし、やってみようと思えます。
山下先生:本校では全員に部活が必修なので、先輩・後輩の関わりが深いと思います。生徒は皆、先輩が大好きで、先生より先輩の方が偉いかもしれません(笑)。だから先輩の姿や言葉が、特に効果的なんでしょうね。
さらにリアリティが増します。―鈴木さん-
――高校生で行われる「先輩に学ぶ勉強法」や「進学懇談会」は、どのような内容ですか。
太田さん:講堂で大学1年生になったばかりの先輩方が、具体的な勉強法や対策を順番にお話ししてくださって、そのあと1人ずつに分かれたそれぞれの先輩のところへ個別に話を聞きにいきます。私はスケジュール帳の使い方のお話が印象に残った先輩に、詳しく教えてもらいに行きました。勉強した時間をスケジュール帳に書いて、自分がどのくらい勉強したかを把握するという方法で、それからは私も実践しています。
鈴木さん:「進学懇談会」は中1から参加できますが、私は高校2年の時に参加した「進学懇談会」が印象に残っています。私が進学したい医学部に先輩がどうやって合格され、今どんな勉強をされているかが気になっていたので詳しくうかがいました。他にも、太田さんが言っていたスケジュール帳に時間を書く方法や、数学の勉強法で自分だけの要ノートを作ったというお話もうかがい参考にしました。大学1年の先輩は年齢も近く、内容もさらにリアリティが増すように感じました。
野島さん:私も2人が言っていたスケジュール帳に時間をメモするという先輩のお話が参考になって、実践しています。スケジュール帳を2冊使って、1冊には元から決まっている予定を書き、もう1冊は時間が書いてあるスケジュール帳にしてこの時間に何をやったとメモをするようにしました。そうするとやらなければいけなかったことや、何にどのくらい時間を使ったのか、何に時間をかけすぎているのかが、あとから見てすぐにわかります。
後輩にも伝えていけたらいいなと思います。―太田さん-
――生徒の皆さんは、先輩の良かったところを素直に吸収して活用していくんですね。やはり先輩の具体的な行動や進路に対する考え方を知ることは新鮮で、取り入れたくなってしまうのでしょうか。
野島さん:なります。私は桃李連という阿波踊りのクラブで部長をさせてもらっているのですが、同じように部長をされていた先輩が部活の仕事を家に持ち込まないということをおっしゃっていたんです。電車や休み時間を使っていけば家は勉強に使えるという話を聞いて、同じような学校生活や時間を過ごしてきた先輩でなくては共感できない内容だなと思いました。普段の学校生活でも、特に1学年上の先輩は部活が同じだと忙しさも似ているので、話を聞いて参考にしたり真似をしたりすることが多いです。
山下先生:大学に行ったばかりの先輩は、先生や教材も同じことが多いですから、こういうノートを作ったらいいとか、この問題集はいつ頃から始めたらいいとか、自分が経験したことを具体的に教えてくれます。それは他校を卒業した大学生に聞くよりは、たくさんの良さがあると思いますね。
――様々な分野で活躍される卒業生の先輩方のメッセージを受け取り、ロールモデルとすることで、将来どのように進んでいきたいと思いますか。
野島さん:先輩にいろいろなことを教わったので、私も卒業後は胸を張ってこの学校に戻ってきて、後輩に自分の経験を伝えられるような先輩になりたいです。クラブの部長をやっている中で、人をまとめることが好きだし、そういう力を活かせる仕事につきたいなと思うようになり、今は自衛隊のトップの仕事に興味が強くなっています。そういう自分がやりたい仕事につけるように、先輩の声を思い出しながら毎日頑張りたいと思います。
鈴木さん:私は後輩に「鈴木先輩みたいになりたい」と思ってもらえるような先輩になりたいです。私自身が先輩からいろんなことを教えてもらって今までなかった価値観や考え方を知ったので、後輩にもそういう機会を与えられる存在になれたらと思います。
太田さん:私もようやくやりたいことが見つかり、物作りが面白そうだなと思い始めたので、学校のイベントに積極的に参加して、少しずつやりたいことを具体的にしています。周りの人が明確な将来の夢を持っていると思って焦ってしまいましたが、先輩の話を聞いて新しい考え方や自分なりの方法が見つかったので、私と同じような不安をもつ後輩にもそういう話を伝えていけたらいいなと思います。