TEACHERS
INTERVIEW
豊島岡女子学園の卒業生であり、
茶道部で講師である先輩方にインタビュー
Profile
八代 晴江先生
豊島岡女子学園茶道部の講師。
豊島岡女子学園を昭和34(1959)年に卒業。
昭和35(1960)年に先代の二木友吉校長から茶道部創部を依頼され、
今日にいたるまで約60年後進の指導に当たられている。
表千家教授。
岩瀬さん、和田さん、鈴木さん、田村さん、松井さん
豊島岡女子学園茶道部の卒業生。
現在は、八代先生とともに講師として茶道部で後輩を指導されている。
指導で一番大事にしているのは“心”
心無いものに良い実は付かない
― 長年にわたる母校の茶道部でのご指導のなかで、八代先生が大切にされているのはどのようなことですか。
八代先生 私が一番大事にしていることは“心“ですね。卒業生にもメッセージとして、「人としての心を失わないように」と言葉を送っています。心無いものに良い実は付きません。野菜を育てるにしても、花を育てるにしても、人を育てるにしても同じです。心無くては、何事も成し得ないと思うんですね。まず人に向き合うとか、物事の対処にあたるとか、そういうことはやはり大切です。
― 八代先生のその想いと共に、卒業生の皆さんが講師として後輩の指導に当たられているわけですね。
岩瀬さん 私は卒業後に八代先生のお宅でお稽古をし直していただき、今に続いています。茶道部にお邪魔して後輩に教えていますが、そこでまた八代先生から指導を受けて、私たちも育ちます。生徒と向き合うことは、身に染みて感じることがたくさんありますし、「時代は変わっているんだな」ということも本当によくわかります。
和田さん 私も高校で茶道部に入りまして、卒業後に先生のお稽古場に通わせていただきました。結婚して子供が小さい時以外ですから、本当に長いです。結婚する前にはお料理を教わり、先生の子育ても見せていただき、そういうすべてが勉強になったと思っています。茶道部の講師は、母校の生徒に教えるということでやっぱり気持ちが違いますね。勉強になることも多く、やらせていただいていることには感謝しています。
八代先生 茶道部での60年を半分にしますと、前の30年と後の30年では生徒が違いますね。今は新入生が入ってきますと黒板に「はい」と書いて、「これ読める?」と聞いています。偏差値の高い生徒たちですから、ひらがなが読めないわけがありません。でも、「うん」と言ってしまって、「はい」と言えるまでに30分はかかります。
前の30年の人たちは、返事をするとか、箸を使うとか、お辞儀をするとかは親が教えてくれましたが、今は講師が教えなければならない。ですから、夏の豊島岡1日体験で小学生に茶席を設けていますが、その場でお母さまたちに「お嬢さんたちがかわいいと思うなら『はい』と返事をさせてください」「人が何か言ったら『こんにちは』と頭を下げるぐらいは教えておいてください」とお願いしています。そうすれば、すぐにお茶の技術が教えられますからと。
鈴木さん 私は高校での部活から茶道を初めました。卒業後に部活に来るようになってから、八代先生が新入生に「はい」の話をされるようになったのですが、こうして話だけで聞くと、恐そうに思われるかもしれません。でも、実際の先生からの話は笑いもあってとても温かいんです。これは生徒たちがいちばんよく知っています。
一能専念を大事に
まともに、まじめに、コツコツと
田村さん 私が茶道部のことで一番頭に浮かぶのは、 “率直に怒られる”ということです。中高生の思春期には、親に言われても反発しがちですが、尊敬している八代先生にズバッと本当のことを言われるとかなり効きます(笑)。私はお茶のことはもちろん、心の姿勢的なことをずっと怒られました。気が利かないし、やることが遅いと。一生懸命やっているつもりなので怒られるとすごくショックでしたが、すべて本当のこと。それを真っ当に怒ってくれるのは、すごく疲れると思います。私は今、生徒に対峙していますが、自分が疲労してなかなか怒ることができません。
八代先生 人を怒るということは褒めるより難しいですよね。怒って伸びる子と、怒らなくても伸びる子がいますから。でも私は嘘がつけない性格だし、本物を教えてあげたいので、ズバッと言います。言葉を服飾物で飾りたてないので、怖いと感じる生徒もいるのかもしれませんね。
田村さん でも、八代先生の教えのすべてが私の中に生きています。卒業してから先生につかせていただくと、先生の裏のご苦労が見えます。それはすごく人生の勉強になっています。
岩瀬さん 八代先生は、怒るときも絶対に特定の個人だけにされないんです。怒る時は全員一緒に。そういう指導やお稽古の仕方は昔からいいなと思っています。「そういうふうにするのがいいのかな」と見ながら覚えてきていますが…この年になってもできないところはいっぱいあります。
松井さん 私は、さっき八代先生がおっしゃっていた本物を教えることへの妥協しない姿勢を、特に社会人になってから、改めて感じるところが多いです。私は今コンサルティングの仕事をしていて、社会人になったときから「プロフェッショナルとして働きましょう」と言われましたが、実践するのはすごく難しいです。私の場合はお客さまにいかに妥協せずにいいサービスをするか。八代先生だったらいかにして本物を教えるか。そのプロとしての姿勢は、八代先生から学ばせていただいています。
八代先生 茶道部の部室は、先代の二木友吉校長が「これから先は畳に座ることを知らない子供が出てくる。襖を開け立てすることも知らない。人の目を見て話を聞くことができない子が多くなるから」と先を読まれて作ってくださったんですね。いい加減なことはしないというのが、二木先生の教育の理念ですから、和室は和室らしく、茶室は茶室の形態をきちっと出していて、あの場所を活かさないと申し訳ないなという気があります。
二木先生は「一能専念」ということを非常に大事にされていました。「一能専念」とは、人間誰しも自分の心の隅に、心惹かれるものが何かあるはずで、それを早く見つけて、それに向かって、いい指導者を求めるということ。それを生徒たちにも早く見つけてもらいたいですね。1人では何もできないけれども、人に助けてもらったり、自分が助けられるようになるには、やっぱりまともに、まじめに、コツコツとやらなければならないということを伝えています。
怖いもの知らず
豊島岡気質を活かしてほしい
― 卒業生の皆さんだからわかる、豊島岡女子学園ならではの学びの良さが受け継がれていますね。
八代先生 私もここの卒業生ですが、人生は勉強だけではない、その他のことも勉強になるんだという考え方の学校で、人間形成の一番基になる中高の時代に、非常にいい環境の下で育て上げて、面倒を見てくださったことには感謝しています。さっきもこの人たちと話していたのですが、豊島岡には「どんなふうになるかわからないけれど、やってみるか」という怖いもの知らずの人が多いんです。そういう豊島岡気質をぜひ活かしていってほしいですね。
松井さん 私も在学中、“自分”を持っている子が多いなと思っていました。人がこれをやっているからこれをするではなくて、自分がこれをやりたいからこれをやるんだと、自分で考えて決めて行動に移すという友達が周りに多かったと思います。それは卒業してから友達の話を聞いても、すごく刺激を受けるところです。
田村さん 今、松井先輩がおっしゃったことがまさしくそうだなと思います。みんな自分自身を持っているからこそ、他人がやっていることを認めることができるのかなと感じます。他人が別のことをやっていて自分と違っていても、その価値を認めて、つきあっていける人が豊島岡には多い気がします。
和田さん 豊島岡の魂といえるかどうかわからないのですが、高校から茶道部に3年間いて、先生がお稽古を続けてくださったので、そのままお稽古を続ける人が同期に8人いて、そのうち6人が未だにお付き合いをしているんです。そういう環境の学校だったことに感謝しています。
岩瀬さん 私もそうですね。同じ学年や前後、みんなが姉妹みたいになって、ずっと一緒です。それを築き上げてくれたのがこの学校であり、茶道部であり、先生ですね。学校に来ても後輩から刺激をもらって、「自分ももう少し何かしなくちゃいけない」と思えます。
鈴木さん 八代先生という大先輩から、自分が知っている中1生まで、豊島岡の茶道部が連綿と続いているのはすごいなと思っています。学校で部活を3年間やったことが、上は80歳、下は12歳を通じ合っている気持ちにさせるんです。仲の良い友達とか、気心の知れた人はどこにでもいるけれども、これだけ世代を越えてずっとつながっている関係はここにしかありません。それぞれ価値のあるものがあるだろうけれど、これは自分たちにしかない宝物だし、こんな宝物を持っている人はなかなかいないのではないかと思います。
STUDENTS
INTERVIEW
豊島岡女子学園の茶道部部員にインタビュー
先輩は姉、後輩は妹、先生方はまさに母
― 歴史ある茶道部の雰囲気や楽しさ・厳しさを教えてください。
Sさん 私にとっての部活の楽しさは、2つあります。1つ目は、純粋に茶道を学ぶことがものすごく楽しいということです。茶道部に入ったきっかけが、以前海外に住んでいた時に、日本に興味がある友だちから茶道について聞かれても自分は何も答えられなかったからで、自分は日本人なのに何も知らないと自覚して、いろいろ深く学んでみたいと思って入ったんです。だから今は、純粋に茶道を学べることがとても楽しいです。2つ目は茶道から少し外れてしまうのですが、この部活は学年を越えての交流がとてもたくさんあるので、先輩からいろいろなことを教えていただいて、それを後輩に受け継いでいくことが、茶道部の楽しさかなと思っています。
― 講師の先生方も卒業生が多いそうですが、他にもいろいろな交流があるのですか。
Sさん 例えば、新入生を指導するのは高校2年生の仕事と決まっていて、自分が中1だった頃に先輩に教えていただいたことを今度は自分が教えます。ちょうど今、中1を指導しながら「ああ、先輩からこういうことを教わったな」というのを思い出しながら、後輩に教えていて、後輩がそれを吸収してくれるのを見るとすごくうれしいです。
― Tさんが思う茶道部の魅力は?
Tさん 茶道部は新入生歓迎会などで「アットホームな部活ですよ」ということをアピールするのですが、私が5年間茶道部にいて感じるのは、アットホームが単なる例えではなく、まさにそのものです。私個人の考えですが、先輩は姉、後輩は妹で、先生方はまさに母という感じなんです。家族のような場所でこうして学べることが、茶道部の魅力だと思います。確かに厳しさもありますが、家族のような温かい厳しさや接し方をされているのがとても嬉しいです。先輩も優しくて、後輩とも仲良くなれて。自分を解放できる場所ですね。
Kさん 私も茶道部は家族みたいに感じていますが、勉強が大変なときは行きたくないなと思う時もあるんです。でも、来れば絶対に楽しい。リフレッシュできるし、頑張ろうと思えて「来て良かったな」と思えます。そこがすごく好きです。
先生や先輩の指導のもと、ていねいに、きっちりとお点前を。
謙虚な気持ちを忘れず
日本の伝統を引き継ぐ自覚と責任感を
― 先輩であり、講師を60年以上務められている八代先生のおかげで茶道部があるわけですが、皆さんが先生から教えていただいたのはどのようなことですか。
Sさん 一番学んだものは、茶道に対する心構えだと思います。八代先生に直接うかがった言葉というよりは、先生の私たち生徒への態度だったり、教え方だったりを見て思ったことです。
茶道と向き合う時に私は、2つの姿勢をすごく大切にしています。一つ目は、自分はまだ茶道については全然知らないということ。高校2年生で5年も茶道をやってきて、後輩の指導もするという立場にありますが、茶道はものすごく歴史が長いものですし、先生方は何十年もかけて学んでいらっしゃいます。それに比べて自分はまだまだ知らない。だから、謙虚な気持ちを忘れずにいることを大切にしています。それと同時に、日本の伝統を引き継いでいくのは自分たちだという自覚と責任感も大切だと思っています。そうした心構えを先生方から自分がしっかり学んで、それを後の世代に伝えていく必要があると思うんです。
Tさん 私は八代先生から、何事からも学べるという楽しさを教えていただいたと思っています。入部当時、私は何でもいいから知りたくて、八代先生に「広間にあるお軸に何が書いてあるんですか」と質問したんです。そこに書いてあったのが、「本来無一物」という言葉で、「今、自分が当たり前に持っているようなものでも本当は何もなかった。他の人の協力があって得たものなんだ」という意味だと教えていただきました。それは今、私の原点になっています。そういったことを、ふとした質問から学べて、毎日に活かしていけるんです。
― 八代先生も大切にしているのは、人としての心だとおっしゃっていました。
Tさん 茶道の話から道徳的な話までいろいろ教えていただけて、そこから学べます。OGの先輩方も私たちの前で八代先生に質問して、新しいことを知るという姿を見せてくれるので、何歳になっても学びは終わらないということを自覚させてくれる場になっています。
― お手本が近くにあるんですね。
Kさん 私は母から「茶道部に入ってからよく気づくようになったね」と言われ、祖母の家に行っても「ありがとう」と言われる回数が前より増えたと思っています。それは先生方が「こういう時に、こういうことをしてくれるとうれしいよね」と教えてくださるところから、学んでいるのかなと思っています。先生方の教えは、今の生活にも役に立つし、きっと大人になっていろんな人と関わるようになってからも役立つものです。
― 皆さんも受け継いだものを後輩たちに引き継いでいくわけですが、そこで気を付けていることはありますか。
Sさん 後輩たちも今後教える立場になっていくので、今度は自分が任されるんだという気持ちを持って、今いろいろなことを学んでほしいと思っています。私自身も、茶道部に5年もいると馴れが出てしまって、「これぐらいわかるよね」という気持ちがどうしても出てきてしまいますが、茶道については何も知らない中学1年生に、初心にかえって寄り添ってあげるということを大事にするようにしています。
Tさん 私も「茶道部の伝統を受け継がなければいけない」ではなく、後輩に「受け継ぎたい」「もっと知りたい」という気持ちを持ってもらいたいと思っています。自分も先輩方から教わって今この立場になって、もっと後輩にこの動きの本当の意味を知ってほしい、このお道具を見てほしいみたいな気持ちがあるんですね。伝統を受け継ぐことは義務ではなくて、多くの人たちに伝えたいという思いから成り立っているものなんだよ、ということを後輩たちに伝えたいと思っています。
― Kさんは高1生で、2人とはまた見え方が違うのでしょうか。
Kさん 今の高2の先輩の人数が多くないということで、高1から2年間幹部をやることになったのですが、去年まで中学生で全然見えていないことがあったなと思います。先輩方が後輩にわかりやすいように配慮してくださっている姿を見て、「今まで気づかなかった」とすごく感動しました。私は茶道部の雰囲気が好きだから、みんなに茶道の伝統を知ってほしいという思いとともに、みんなが気持ち良くいられるような場所を作って、みんなで成長していけるように気遣いたいです。
炉に茶釜、掛け軸など、本物をそろえた茶室の中で心を育てていく
揺るぎない自分を作り上げてくれるのが豊島岡
― いろいろな年代の先輩の考え方や生き方を見て刺激を受ける。それを次の世代にも受け継ごうと思ってしまう。それは豊島岡女子学園の大きな特色ですね。
Sさん 茶道部では今、大学生の先輩にも来ていただいていますし、文化祭が近づいてくると、歴代の部長だった先輩が「困っていることはない?」「大丈夫?」とメールをくださったり、アドバイスをくださったりするんです。皆さんお忙しいと思いますが、その中で後輩を気にかけて、自主的に連絡をくださることは、すごくありがたいなと感じます。豊島岡にはその他にも卒業生インタビューといって、卒業生の先輩のところに企業訪問に行く取り組みもあります。先輩方のお話を身近に感じられるのが豊島岡の良さかなと思いますし、その中で自分の限界を作らないことの素晴らしさを学んでいます。
Tさん 確かに豊島岡はいろいろなことができて、上を目指すこともできますが、そのためには自分の足元がしっかり固まっていなくてはいけないとも思います。茶道部は「私たちの帰る場所」になっていますし、揺るぎない自分を作り上げてくれるのが豊島岡です。先輩方が築き上げてくださったものを自分でもしっかり踏みしめて、自分も後輩のためにそういう場を作り上げていく一員になれたらと思います。
Kさん 茶道部での先輩方や先生方の活動を見て、自分も後輩のために何かしたいという気持ちを持てるようになりました。茶道部以外のところでも、私は高1なので今年は文理選択を決める年ですが、興味のある大学に行っている先輩にお話を聞かせていただいたり、先生方もすごく親身になって相談にのってくださいます。豊島岡のそういう方達を見て、自分も人に寄り添えるような人になりたいと思います。