感染症対策の影響で休校だけでなく様々な学校行事が中止になってしまった2020年。誰もが悔しさや不満を感じる中、豊島岡女子学園中学校の3年生 4人は自分たち主催の学年イベントを計画し、3ヶ月の試行錯誤を経て、本番当日を迎えました。このような時期であっても気持ちを一つにして楽しめる思い出づくりを目指せたのは、同校らしい前向きさや行動力・実践力の賜物と言えるでしょう。
『集羽娯戦(じゅうごせん)』と名付けられた中学3年、15歳の今しかできないイベントの様子と、作り上げた生徒、見守った先生の声をお届けします。

EVENT REPORT

開始直前。運営委員の4人だけでなく、各クラスからの助っ人スタッフが集まって準備を進めていた。毎朝使う個人の運針用の布を1クラス分の枚数つないで、クラス対抗運針リレー用の布を用意。「針を無くさないように」「針の扱いに気をつけて」の声が飛び交うなかで、長い長い1枚布ができあがり運ばれていく。

いよいよスタートした学年イベント。まずはクラス47人が15秒ずつ運針した距離を競うクラス対抗の運針リレーが行われる。普段は朝の静寂の中、教室の自席で黙々と向かう運針だが、今日は立って縫うのも、周りから応援するのもOKというルール。驚きの速さで縫い進める達人があらわれて歓喜の声があがったり、戸惑っているうちに交代の笛が鳴って残念がる子を励ましたり…。お互いに知らなかった一面や表情を見せ合い、どんどん一体感を増していく。
2回戦では、1回戦の経験を活かして布の扱いや配列を考えるクラスも。その結果、運針距離は1回戦での1位614cm(4組)から1位748cm(2組)に大幅アップ。クラス対抗にすることでクラスの結束が高まるという運営委員の思惑通り、共に何かに打ち込む時間を生徒たちは思いきり楽しんでいた。

後半のクイズ大会の前に、初開催の学年イベントのタイトル『集羽娯戦』、生徒アンケートによるスローガン「ノー・イベント・ノー・フィフティーン・ライフ」が発表される。「何もなしには終われないですよね!」という運営委員からの掛け声に、自分たちのイベントだということを実感して大いに盛り上がる生徒たち。
その後に始まったクイズ大会は、先生に関する問題の正答率をクラスで競う。意外な一面を知る問題が多く、先生出演の回答動画に大声をあげて笑ったり驚いたりと、普段の先生と生徒の関係性の良さも見えてくる。最後にはアンケートの番外編、そしてスタッフのエンドロールも登場。クイズ大会結果に続き、総合結果が発表されると、1点という僅差で4組が1位に輝いた。
中学3年、15歳の思い出作りのために、生徒主催で作り上げた学年イベント。得られた思い出と感動、そして一体感は、個人やクラスだけでなくこの学年生全体を特別なものにしてくれるきっかけになったのではないだろうか。3学期にはもう一度「クラス対抗合奏コンクール」の開催を予定しているという。規制の多い中で、自分たちがどうしたいのか、何をしたいのかを考え、実現してしまうという豊島岡生の強さが形になったイベントだった。

STUDENTS INTERVIEW

未知の挑戦 実行が成長につながった

中3 集羽娯戦 企画メンバー

自分たちで企画すればいいんだ!

― 今回の中学3年生の生徒主催イベントが行われることになった経緯と、皆さんの想いを教えてください。

Tさん 中高一貫とは言え中学最後の学年で、修学旅行とか合唱コンクールとか、何もできなかったのが残念だなとずっと思っていました。ただ、みんなが「残念だ」と言っているだけなのが気になっていたんです。それに休校期間があったので、もう少しクラスの人と仲良くなれる機会があればいいなとも思っていました。それで「何かできないかな。そうだ、自分たちで企画すればいいんだ」と考えたんです。安易な発想かと思いましたが、一緒に生徒会をやっていた3人にその考えを伝えたら快く「一緒にやろう」と言ってくれました。

Hさん もともとこの4人は生徒会役員でしたが、コロナの影響であまり活動ができていないことを残念に思っていました。何かをしたいなという気持ちはあったので、Tさんからの提案を聞いて「この4人でいい思い出が作れたらいいな」と、一緒にやることを決めました。

Oさん 私は正直、自分から何かを発案して行動することが得意なのか苦手なのか自分でもよくわからなくて、未知のことに挑戦するのが楽しそうだと思う反面、不安もありました。でも、発案者のTさんが中心になっていろいろ進めてくれる姿を見て、気持ちが前向きになったし、クラスの友達が「楽しみ」と言って応援してくれていたので、やりがいにもつながりました。

Kさん 私も生徒会でいろいろやる予定だったのがコロナの影響でなくなってしまって、4人で何かやりたいなと思っていたので一緒に頑張ることにしました。企画が始まってからは友達に「すごく楽しみにしているよ」と言ってもらえたのが励みになって、不安もありましたが精一杯やってきました。

初めての経験は答えがない!

― 本番までの3ヵ月は先生への交渉や運針リレーやクイズ大会の準備など大忙しだったと思いますが、どのように進めてきたのですか。

Tさん まず9月の半ばくらいに、先生に「こういうことをやりたいです」と話に行き、そこからスタートしました。

Oさん 10月半ばくらいに企画書を提出して、先生にご意見をいただきました。

Kさん どんなことをしたら盛り上がるかを考えながら、コロナ対策をどうすればいいのかにも悩みながら決めていきました。

Tさん もともと開催場所が体育館の予定で動いていたのですが講堂に変わり、一度決めたルールが全て撤回になり、そこからもう一度やり直しています。

Kさん 11月の後半の本番直前になって、クイズの問題を決めてスライドも作って、先生にも回答インタビューの動画を撮らせていただきました。

― 毎朝黙々と行う運針ですが、その布をつないでクラス対抗のリレー形式にするという発想には驚きました。クイズの質問も先生の人柄や普段のコミュニケーションが感じられました。運営する上で大変だった部分や工夫したところはたくさんありそうですね。

Tさん こんなことを言ったらいけないかもしれませんが…全部大変でした(笑)。部活にもほとんど行けなくて、ほぼ毎日下校のチャイムが鳴るギリギリまで4人で残っていました。家に帰っても、他の人が頑張っていることがわかるので、自分も夜中まで作業を続けたり…。すべてが初めての経験で答えがなかったことが一番大変でしたが、お互いがお互いを鼓舞しながらやってきました。

Hさん クイズの問題と答えの動画を作ってリハーサルをしてみたら、問題が出た直後に答えが出てしまって、前日に大慌てで修正しました。でも、本番でクイズを出したらみんなの反応がとても良くて、その笑顔を見たら「頑張ってきて良かったな」と心から思いました。

Oさん クラスのホームルームで流すためのルール説明のパワーポイントを作ったのですが、このイベントのことを何も知らないクラスメイトにも伝わる表現にすごく悩みました。私たちのイベントではなく、みんなのイベントなんだ、ということがわかってもらえる工夫を積み重ねました。

Kさん 学年全員が集まるとなると、いろんな考えをした人がいて、そういう人がどんな風に思うか、納得して参加して楽しんでくれるかを考えながら企画を進めていくのは大変でした。

クラスでの一体感を作るためには?

― 運針の布をクラス分繋いで、1人15秒ずつ縫っていくといった運針リレーは、盛り上がりましたね。

Tさん 最初に4人でルールを決めてシミュレーションをしてみたら、時間が足りないことがわかったんです。そこで時間を変えると、次は布が長くて余ってしまいました。何度もシミュレーションをして、本番2日前までルールの修正をしていました。

Oさん まず、1人30秒縫うか15秒縫うかで迷ったんです。時間的にはどちらでも問題なかったのですが、今回のイベントのコンセプトは「クラスでの一体感を作ろう」ということなのに1人30秒にすると他の人の待ち時間が長くなって飽きてしまうのではないかと。それで、1人15秒を縫う2回戦形式にしたほうが盛り上がるだろうと考えました。

Kさん 2回戦形式にしたもう1つの理由としては、初めてやることなのでみんなルールがよくわからなくてうまくいかなかったとしても、2回戦目ではルールを理解してちゃんと縫えたらもっと盛り上がるかなと思ったことです。実際、2回戦目のほうが記録も伸びていました。

― クイズはどのように?

Tさん 3年間持ちあがっている先生もいらっしゃるので、ありきたりなクイズを出すとすぐに答えがわかってしまうと思い、まず先生へのアンケートの段階で、少しふざけた質問にも答えてもらいました。

Oさん 答えもスライドだけでなく、先生が動画で話してくださった方が盛り上がるかなと思って、1問ずつ映像で答えていただきました。

みんなが笑顔で楽しんでくれた

― 最終的にクラスの一体感が作れたように感じました。皆さんの今日の本番を終えての感想や手応えを教えてください。

Kさん たくさん準備してきたけれど結局ギリギリになってしまい、直近1週間になってもわからないことがいっぱい出てきて不安でした。一番の心配は、本番が5限目6限目の時間内に終わらずに、イベントの印象が悪くなってしまうことだったので、何とか時間内に終わらせることができてホッとしています。

Oさん 大事なのは、楽しんでもらうことじゃないですか。そのためのルール作りは苦労しましたが、クイズは思ったよりもスムーズにいって良かったです。その一方で運針は若干ドタバタしたところがあって、その場で考えた対応も多く、明確なルールを打ち出し切れなかったのが悔しいです。でも結果的にはうまくいったから、臨機応変に4人で指示を出せたことは自信になったようにも感じています。

Hさん 準備している時から、あれもこれもやらなきゃいけなくて、4人で揉めて辛くなってしまったこともあるんです。けど、辛くなったからやめようではなくて、やると決めたからには最後までやり遂げなくてはいけないと思って、今日までみんなで頑張ってきました。本番も運針の最初は手間取ってしまいましたが、最後にはみんなが笑ってくれていたし、やってきて良かったなと思います。

Tさん 私が担当した動画編集は思っていた何倍もしんどくて、途中で何度も泣いてしまったんです。一度、動画が全部消えたことがあって、もうやめようかとも思いましたが、自分が言い出したことだからと責任を感じてやってきました。その結果、一緒にやってきてくれたこのメンバーの関係はより深くなったと思います。それにこんな時期にイベントをやりたいと言い出したにも関わらず、先生方にもたくさん協力していただきました。周りの友達にもいっぱい支えられました。今日までいろいろありましたが、みんなが楽しそうに帰ってくれたので、私の中では満足です。やって良かったという思いに尽きます。

成長できたことがとても嬉しい

― 苦労して作り上げたイベントを実現できたことは貴重な経験になったと思います。それぞれが、この経験を通して成長できたと思うことはありますか。

Kさん 私は誰かと一緒に頑張るといったことが得意ではなかったんです。今までは人と一緒にやるくらいなら自分1人でやった方がいいと思っていました。けれど、この4人で分担して、話し合い、ぶつかりながらも何かをやり遂げるという貴重な経験ができたことで、1人ではできないことに気づけて、自分が大きく成長できたと思います。

Oさん 自分にはコロナ禍でイベントをやろうという発想がなくて、そういうところに可能性を見出したTさんが新鮮だったし、見習いたいと思いました。そのメンバーに参加して、イベントを行えたこと自体が、私にとっては大きな成長だったなと感じています。本番までの仕事はたくさんありましたが、中でもTさんの負担が大きかったと思うんです。それはありがたかったけれど、自分たちで企画して実行するうえでは仕事をきちんと分担することも大事だなと気づきました。そこは今回学べたなと思います。

Hさん 私は自分からこういう企画をやりたいと言い出すタイプではなくて、Tさんが言ってくれたからやってみたところがあるんです。できるかどうか不安でしたが、成功経験ができて、これからの自分に自信が持てるようになったと思っています。それに私も部活での仕事を自分1人で抱え込んでしまうタイプなのですが、今回のイベントで映像制作を頑張るTさんを見守る側になってみて、今後自分が何かを抱え込んだ時は誰かに声を掛けてみようとか、他の人に頼ってみようと思いました。それがわかったのが良い経験かなと思っています。

Tさん みんなが言ってくれるように抱え込んだつもりはないんです(笑)。でも、成長はすごくありました。私自身、中1の頃は先生によくお説教されるような生徒だったんです。それでも今回挑戦したことで、真面目に「やるぞ」となれば私でもできるんだと思えたし、周りの人は助けてくれるんだと気づきました。「人は簡単には変われない」とよく聞きますが、この企画や人前に立つことを経験して自分が大きく変わりました。「私は変われたよ」と言いたいです。こういう機会があって本当に良かったし、自分自身が成長できたことがとても嬉しいです。

TEACHERS INTERVIEW

貴重な経験での発想力、行動力は今後に活きる!

山下文子先生(中学3年学年主任)
中原佑紀先生(中学3年担任)

― 学校行事が行えない中、生徒からの学年イベントを提案されて、先生はどう思われましたか。

山下先生 1学期の終わりにアンケートを取ったら、「友達の名前を覚えられていないまま1学期が終わる」といった声がすごく多かったんです。だから、私たち教員も2学期になったらなるべくクラスの輪を作る時間を作ろうという話はしていたんですね。
そんなときにあの4人が学年でイベントをやりたいと言ってきたんです。先生が企画してクラスの中でグループを作って何かをやるよりも、生徒企画でクラス対抗のほうが盛り上がるかなと思ったので、全く反対はしなかったですね。即OKでした。ただ、年間のスケジュールは決まっているので時期の問題がありました。

中原先生 さすがに2学期は厳しいのではないかという話に最初はなりましたよね。

山下先生 いつも2月の終わりに合唱コンクールがあるので、生徒もその時期にと言ってきたんです。だけど、最後に仲良くなるよりこれから過ごすために仲良くなった方がいいねということで、「2学期の終わりと3学期の2回に分けたら?」と言いました。

中原先生 最初に、発案者のTさんから何となくの段階で「こんなことをしたい」という話を受けて、やはり生徒たちは「もっと何かしたい」という思いがあるんだろうなという印象でした。それに自分は中1から中2・中3ともち上がらせていただいたのですけれど、中3になると足りないところを自分たちで言ってきてくれるんだと嬉しく思ったんです。

― 今回のイベントは生徒主催。今日も、先生達は少し我慢しながら距離を取って見守られていたように見えました。今日の感想を教えてください。

山下先生 いつもなら私が話しますが、今日は写真を撮る以外は登壇しないと決めていました。運針の針を講堂に落とさないように気をつけてという注意も生徒に任せましたし、今日はあくまでも生徒たちがやっているイベントだということで、物理的な可能・不可能のアドバイスに徹しました。
感想としては、段階を経てよく準備したなと思います。水曜日ごとに説明の動画を教室で流したり、各クラスに助っ人の募集をかけて説明したり、そういう姿も見ているので4人の活躍には感心しています。

中原先生 確かにいろいろ相談されてアドバイスはしましたが、それはすべて4人からこちらに提案があったうえでのことでした。自分たちにやる気があって企画しているのはもちろんですが、実際に動くとなると物凄いエネルギーが必要になると思うんですね。それを次々に「これはどう思いますか」「これでいいでしょうか」と確認をしにきてくれて、高2・高3の運動会の運営委員並の行動力を感じたし、実際本当によく動いていたと思います。本番を終えて、細かいところでは「もっとああすればよかった」という反省もあると思いますが、私個人的には「本番で失敗してもそういう経験もありだ」というスタンスでいたので、今日はうまくいって良かったなと思っています。

― 中原先生が4人に行動力を感じられたのは、どのような点ですか。

中原先生 毎週水曜日に説明の動画を流すというのも生徒たちの発案なんです。クラスの生徒たちにイベントの内容やルールを周知するために、具体的なスケジュールをしっかり決めて考えていたし、この週にはこの内容、この週にはこのルールをと考えて実行していました。相談に乗った覚えはあるんですけど、本当に悩んだところだけを一緒に確認したという感じで、自分たちでよくやっていたなと思います。

山下先生 企画書も学年主任の私に見せるだけではなくて、「学年の先生全員に説明に行くから、先生たちの空いている時間を教えてください」と言って説得に来ましたね。とにかく自分たちで全部動いていました。

中原先生 今日までの3ヵ月で、仕事の分担の偏りは感じていたのですが、最後に4人からそこでも学びがあった、成長があったという言葉を聞けて良かったです。Oさんが言っていた「臨機応変に対応できた」というところも、見ていてその通りだなと。こういう経験は、高校生になって部活動の中心を担ったり、委員会の中心になったりすることで得る生徒が多いですが、この時期にこれだけの経験ができたのは4人にとって非常に大きな意味を持ってくれるといいなと思います。

山下先生 苦労があったと言っていましたが、4人から自分たちが作ったというワクワク感が伝わったから、今日他の生徒も楽しめたんだと思います。勉強と両立させるのは大変だったと思いますし、途中で不安な声も聞こえてきました。でも、この4人が楽しみ、乗り越えたからこその今日だったと思います。すごくいい経験をたくさんして、すごくプラスになっているはずです。

中原先生 クラスからの助っ人のメンバーも積極的に自分たちで動いていました。うまくいったのはもちろん4人の成果ですが、学年全員がクイズの色を数える時も見えやすいように色を変えないようにするだけでも立派な協力だったと思うので、それが一つ一つ積み重なってうまくいったと思います。そういう意味では、4人の成長とともに学年全体の成長も見られて本当に嬉しい気持ちです。

― 先生方も大きな手応えを感じられたんですね。この経験を今後にどう活かしてもらいたいと思われますか。

山下先生 貴重な経験をしたから、高校に行ってもきっと中心になってやってくれるし、卒業してもこの学年をまとめてくれると思います。おそらく大学より中高の方が、こういう機会がある気がするんです。大学は基本的に1人で動くし、みんなをまとめたり、ゼロから何かを作ったりすることはあまりない気がします。だからこの企画力や行動力は、社会に出てからも絶対に活きると思います。

中原先生 山下先生がおっしゃったように卒業してからも社会人になってからも、いろんな経験をしていくと思うんですけど、今回のことがその一つになっていればいいなと思います。私たちがいつも発想力と言うのですが、新しい発想というのはすごく大事だと思うんですよね。「何かやりたい、何かやりたい」で終わるのではなくて、そこで何をやるかというのが発想力。今は、新しい発想力を持っている人こそが世の中で重宝されています。

山下先生 新しいことを発案して実行できる力が社会で絶対に求められています。新しい発想を持っている人と持っていない人では全然違います。そういう力を発揮した今回の経験は必ず役に立つと思いますから、これからも生かして頑張ってほしい。