学び方を学べ! sugamo Learners’ Gym
巣鴨中学校・高等学校のプログラム「Sugamo Learners’ Gym(SLG)」は、通常の授業で養う学力とは異なる“学ぶ力”をつけてほしいと、巣鴨の先生が巣鴨の生徒に向けて講演する特別な時間。まだまだ狭い世界の中で学びを続ける生徒たちが、知ることで、考えることで、自分を変えられるテーマで行われています。今回は中学2年生を対象にした「SLG」。講演内容や巣鴨生の様子と共に、SLGや今回のテーマに込めた想いを丸谷貴紀先生にうかがいました。
Sugamo Learners’ Gym REPORT
知ること、考えることで、学ぶ力が変わる!
学び方を学べ! sugamo Learners’ Gym
学び方を自分で掴んでいく時代

今回のSLGの担当は、普段高校生を担任している丸谷貴紀先生。静かに着席して開講を待つ中2生の緊張をほぐすように、「みんな、すごいね。めっちゃ聞くやん!素晴らしいね」と声がかかる。少し雰囲気が和らいだところで、「中2が終わるタイミングの皆が、これを知っておいたらいいなということをテーマに話そうと思います」と、まずはSLGがスタートした背景から説明があった。 「人生100年時代になり、社会情勢的にも、学びの質、学びの角度が変わってきているんですね。戦後の学び方は、一斉授業で一方的に教壇から教えてもらう授業。アメリカ、ヨーロッパの先進諸国を見習え!という姿勢の勉強だったけれど、今は起業家たちがどんどん生まれたり、コロナもあったり、社会が大きく変わって考え方も一気に変わってきた。大正解が一つではなくなり、自分の基準というものを掴んでいかないといけない時代になっています」。

自分の成長を
邪魔するものを知る

時代の変化に対応した学び方を掴み取るための“力”として丸谷先生が挙げたのは、『物事を見る力・掴む力・捉える力』。つまり観察力の解像度を上げるということ。今日のテーマがようやく明かされたが、まだ生徒は「んんん?」といった様子。丸谷先生が話す“力”の意味が見えず、どことなく落ち着かない。  「例えば、同じ授業、同じ教材、同じ空間で学んでいて、隣の人と差が生まれているのはなぜ?能力差なんて微々たるものですよ。何が違うか?逆接的にいうと、自分の成長を何が邪魔しているのか?」。 「仕方がない」と諦めがちな、誰かと自分の能力差。丸谷先生の口ぶりから、その要因をやはり知りたいと思った生徒たちは、一気にそわそわし始めた。

学びの促進や観察力を
阻むものとは?

観察を阻むもの、自分の成長を邪魔するものは3つ。まずは『知識の乏しさ』『視点(コンテクスト)の少なさ』の2つが解説される。「学校教育での基本的なインプットはむちゃくちゃ大事!知識が点と点になり、直線となり、立体となり、見えているものがどんどん鮮明になっていく。授業ではしっかり先生の言うことを聞いて成長していきましょう」と先生が話す『知識の乏しさ』に対しては、学校や先生と言われたためか「わかってますよ!」的な反応も多い。
2つ目の「視点(コンテクスト)の少なさ』の例に、「この点については詳しいけれど、視点を変えて物事を見た時に一切見えてないことがある人、いるよね」と言われると、苦笑いする生徒や、友達を指さす生徒も。「いい悪いの話をしているのではないよ」という先生の声に、安堵の笑顔を見せる生徒もいた。
そこからイランとサウジアラビアの国交正常化のニュースが取り上げられ、1つのニュースにも様々な切り取り方があると丸谷先生は話す。「いろいろな見方があって、それぞれが正しい。でも物事のいろいろな見方を知っていないと、それだけしか見えない」と言われた生徒の表情はさまざま。「自分は大丈夫」と思う生徒もいれば、「もしかして」とドキリとする生徒もいたかもしれない。先生の話や問いかけに、自身で考え、自身の内の声を聞く。すぐに忘れてしまうとしても、その瞬間の積み重ねがSLGの要だ。

自分の脳が
だまされている!?

3つ目の観察を阻むポイントの解説前に、スライドにはデコボコがついた2つの円の画像が登場。左右の円はデコボコが異なって見え、わかりやすいように片方だけに印が付けられている。「真ん中がボコッと出ているのはどっち?よく見ておいて」と言う丸谷先生が画像を回転させていくと……、生徒からは「えー?」「あれ?」「見てた」「違う」「入れ替わった」と様々な声があがる。「小賢しいことはしてないよ。ちゃんと見てたでしょ?見てるはずのものが何かによって阻まれているよ」。
続いて城が写った白黒写真の中の黒い1点を見つめ、途中で色が付いた同じ写真を見る実験が行われ、そこでも生徒が目をこすったり、目を細めたりしてしまうといった自分が見ているものを疑う現象が起こる。
「ちゃんと見ているはずのものが何かによって歪められてませんか?そう!脳です。一番信用できると思ってる脳がだまされてるんです」という先生の話に、頭を軽くたたいたり、抱えたりする生徒も。丸谷先生は笑いながら、「全てを疑え!という悪い世界に皆を誘おうとしているわけではありません。脳がだまされることを知っておきましょうという話をしているんですよ」と、3つ目の要因は『脳』だと伝えた。

バイアスが
かかるとは?

そこから話は一気に核心へ。脳を歪める『確証バイアス』『身体状態・感情』『正常性バイアス』『同調バイアス』を具体例と共に解説し、脳を歪める、脳がだまされるとはどういうことかが説明されていく。『バイアス』『脳』といった言葉の表面的な印象だけにとらわれないように、身近でわかりやすくイメージしやすい例をあげて、話のポイントが生徒に消化しやすくなった講義は、生徒の本質をよく知る先生ならでは。
最終的には、「頭で解釈して、ちょっと歪んだ違う角度で見ていることを、認知バイアスと言います。でも、認知バイアスをなくそうと言っているわけではない。認知バイアスは、認知をして脳内処理、つまり思考して判断するサイクルを、より早くするための素敵なものです」と、バイアスにも意味があることも教えてくれる。バイアスというものに対してバイアスがかかりかけていた頭を柔らかくしながら、生徒たちは素直に興味深そうに講義を聞いていた。

物事を想像、思考、
検証して解像度を上げよう

最後に丸谷先生は、「今日話したことは、観察力を上げるためのスキルではなかったね。同じ授業を受け、同じ空間で過ごすのに差が出てくる理由は観察力であり、その観察力は、心がけ・意識で変わるということ。見えないところにも想像、思考が馳せられるかどうか。物事を検証し続けることによって、よりその眼鏡の解像度が上がってくるから、いろんな色眼鏡を持とうというお話でした」と締めくくった。
観察力向上のための方法を伝授するわけではなく、そのスキルを付けて能力をうまく使えと強制するものでもない。講義内容をどう活かすかは自分次第であり、自分を変えられるチャンスもたくさんあることも知れたSLG。知っていれば違うこと、知ったことで変わることは人生にたくさんある。SLGは、そのための1つの『知』を育む新鮮な時間だった。

TEACHER INTERVIEW
物事は主体的に取り組むことで動き出し面白くなる
中学2年生の学年末に行われたSLGで、
「観察力」を1つのテーマに選ばれた理由を教えてください。
丸谷先生
中学に入学して最初の頃は、日々の生活をすること、授業を消化することに、時間も、脳も、心も取られてしまいますが、今は中2の終わりでずいぶん余裕を持てるようになってきました。言い方を変えると中だるみの時期です。思春期真最中のこの時期なら、「物事の捉え方を見せることによって、心理的に成長してもらうきっかけになれば」と考えました。
生徒は最初様子見をしながらも、講義内容に引き込まれていった印象でした。
中2生ならではの素直さと、まだ頭の固さもある時期ですね。
丸谷先生
学校教育を受けた子というのは、一番頭の固い保守的な子たちです(笑)。ある大学の先生にも、18歳が世界や日本で一番保守的な世代だと言われました。それは学校教育で認知バイアスが確立され過ぎてしまった直後だからですね。
ただ、今日の生徒たちは、いい感じに素直で柔軟でした。学年の雰囲気づくりがうまくいっていて、予想どおりの反応なのかもしれません。私も話をしながら「よし!」と思っていました(笑)。
普段、丸谷先生は高校生を教えられているそうですが、SLGの場合、中学生と高校生では反応は違いますか。
丸谷先生
話の持っていき方次第ですね。高校生は複雑なキーワードだったり、知っている領域と知らない領域を織り交ぜたりしないと、いくらビジュアル素材を持って来ても退屈する生徒は退屈しますが、中学生はビジュアル素材を持って来ると、やはり引き込みやすさはあります。今日の中学生には、どのビジュアル素材を持っていったら生徒が「えっ!?」となるかなと思いながら準備しました。
最後に先生も話されていましたが、SLGは「これがダメ」「こうしなさい」ではなくて、話を聞いた生徒の考えが大切なんですね。
丸谷先生
今回の講義は、いくつかの本を読んでまとめたものですが、その中に「問いを立て続けることが学びの解像度を上げていく」とあり、私自身もそれが面白いと思っています。
ありがちなのが見切ってしまうこと。こんなに世の中が複雑なのに、見切れるわけがないし、もっと面白いものに出会えるはずなのに、「これには興味がない」と心に蓋をしてしまうことが、特に男の子には多くあります。でも、世の中はもっと面白いし、もう少し猶予を残しておいてほしい。それは自分のクラスでも、いろんな場面でも伝えています。
生徒は教室を出た瞬間に忘れていますが、こうして聞いた話をどこかで体験した時につながります。その実体験とつながったとき、感覚の揺さぶりが違いますからね。
SLGというプログラムの役割を
どのように考えられていますか。
丸谷先生
物事は、主体的に取り組むことで、動き出し、面白くなることを伝えられればと考えています。普段の授業で個々の教員が蒔いている種をキャッチし直す時間でもあります。こういう授業ばかりをしていると、然るべきステップアップや受験の足枷になってしまうと考える人もいるかもしれませんが、すべてはつながっていますし、これからの子どもたちは自分で考えることがどんどん求められていくので、教員としてその必要性を伝えていくべきだと考えています。
生徒の目の輝を見ていると、SLGのような学びは大切なんだと感じます。いかに生徒の目を腐らせないかが、教員の仕事ですね。
現代を生きる中学生に対して思うところがありますか。だからこそ、様々な取り組みにチャレンジされているのだと思いますが。
丸谷先生
私は巣鴨に来て2年ですが、都会に暮らす巣鴨の生徒の肌感覚の弱さを心配しています。もっと肌感覚を大事にして、「やってみようかな」とか「面白そうだな」と心を動かしてもいいのに、そこが弱い。それは特に自然系の実体験があまりにも少ないからではないかと、勝手ながら仮説を立てています。
私はやはり実体験が人を動かすと思うのです。巣鴨では火山学習の一環として大島に行こうとか、日本の産業の歴史と現場を知るために工場に見学に行こうといった現地に行くことを大切にしたプログラムを行っていますので、まだまだ生徒の心を揺さぶれるとは思っています。
実は今、いろいろなプログラムを新しく作ろうとしています。生徒の原体験の一つになればと思うものを、新年度に4つぐらい作っています。それが今の生徒に大事だと思うので。
丸谷先生が思われる巣鴨の生徒の良さ、
今後への期待は?
丸谷先生
まず、人の話を咀嚼できる子が多いです。おそらく素直なんですね。今後、どんどんクリティカルになっていってくれたらと思います。さらには多角的に物事を捉えていったら、学びの吸収率も高まり、日本を世界をより良くする人材となっていきます!