晃華学園中学校高等学校

カトリックの女子校で稀有な 居合道同好会

部活白書
晃華学園部活動居合道生徒インタビュー先輩後輩先生インタビュー中学受験私立中学東京女子校

絶対的な速さと独自の時間感覚を身につける居合道
カトリックの女子校である晃華学園中学校には、日本に古来より伝わる武道を学べる居合道同好会があります。緊張感のある袴姿に憧れ入部した生徒たちは、日常の動作にも結び付き、やればやるほど価値がわかる奥深い居合の世界に、どっぷりとはまっていくようです。ココロコミュeastでは都内でも珍しい居合道同好会の練習風景、型を紹介すると共に、ご指導される先生や会員たちの熱い思いを探りました。
Club Activity Scene
校舎内の広い廊下にて行われる居合道同好会の練習風景
練習は校舎内の広い廊下にて。
正座をするときも、目の前の敵を意識しながらゆっくり座るのが居合道。
晃華学園中学校高等学校の居合道同好会の練習風景
素振りは全ての技に通じる基礎。
素振りは全ての技に通じる基礎。
練習では必ず行われる。
時折、全体の稽古にストップをかけて訂正される市川先生。
時折、全体の稽古にストップをかけて訂正される市川先生。
「いい稽古を10回やるのと、悪い稽古を10回やるのは違います」。
抜刀のイメージ
模擬刀のほか、袋竹刀、木刀、杖を使って練習
模擬刀のほか、袋竹刀、木刀、杖を使って練習。持ち方や扱い方で学年がうかがい知れる。
細かに先輩から後輩へ指導
細かに先輩から後輩へ指導。こうして技と人を磨いていくことが居合道同好会の伝統。
居合道 制定居合 一本目「前」
居合道 制定居合 一本目「前」
全日本剣道居合道「制定居合」という全12本の型があり、最初の技は制定居合 一本目「前」。
1~12本目まで、それぞれ名前がついていて、2本目は制定居合 二本目「後」(うしろ)。
晃華学園中学校高等学校 居合道同好会の皆さん
Profile
晃華学園中学校高等学校 居合道同好会

顧問の市川先生が創部されて27年。現在の部員数は中学生22人、高校生16人の合計38人。 居合道とは、刀を鞘に納めた状態から鞘に納めるまでの型によって、実際にはいない仮想敵を相手に戦う剣術がルーツの武道。 部活動で居合道を学べる学校は東京に2校しかなく、貴重な鍛錬を重ねている。練習は週3日。中高合同で行っている。
自分の意識次第で、技が全く違って見える。それが居合道の魅力かなと思っています。
日常生活が居合道の練習になる

― 居合道同好会は、創部から27年とのことですが、ずっと同好会で活動してこられたのですか。

市川先生 ええ。できるだけ多くの人に居合道に興味をもって、参加してほしいと思っています。

Mさん 同好会だから活動がゆるいというわけではなく、実質は部活と規模もほぼ同じです。

居合道同好会 Mさん(会長・高校2年生)

― 市川先生は入部してくる生徒たちに、まずどのようなご指導をされるのですか。

市川先生 居合道は歩き方や座り方が大切なので、それらを日常的に注意するということを教えます。刀を使うために適した歩き方なども指導しますね。普段の振る舞いが道場での体の使い方に繋がるので、日常生活が練習だと言っています。

Mさん 普段から意識はしているので、中1の頃に比べたら、歩き方や座り方も安定してきたと思います。以前、市川先生が電車の中で膝を曲げてつり革をつかむふりをしつつも、実はつかまらないで安定させる立ち方を教えてくださったのでそれを実践していたら、重心が安定するようになりました。

どこまでえぐる? どこまで斬る?
居合道では日常会話

― 居合道については情報が少なく、女子が居合道をしている学校は、東京でも貴校を含めて2校ということですが、居合の魅力や面白さはどこでしょうか。

市川先生 「絶対的な速さ」ですね。相対的な速さとはオリンピックのような、ストップウォッチで何秒という測り方で、筋力などの物理的な世界の速さです。居合道はその正反対で、自分に対しての絶対的な速さの世界なのです。自分が正座から膝立つ間の時間数というのは、10人いたら10人ともほぼ変わらないのですが、その中で膝立つ間で斬り終わるということが居合道なんです。  大抵の人は足場を固めてから斬るわけですが、そのときにはもう斬られる距離に足が入り込んでしまっているわけですね。それで相手を斬っていないということは、相討ちになる恐れがあるわけです。しかし、足が入ったときに斬り終わる練習をしていると、一般とは少し違う時間の感覚があります。それが居合道の世界です。

― 部員さんたちが考える魅力は?

Mさん 中学生のときは型を覚えるのに一所懸命でしたが、最近は自分の意識次第で、技がこうも違って見えるんだということに気づきました。それが居合道の魅力かなと思っています。例えば正座をするときも目の前の敵を意識しながらゆっくり座るだけで、座り方が全く違って見えるんです。先生が演武されると、錯覚で敵が見えるくらい伝わってくるほどです。

居合道同好会 Hさん(大会担当・高校2年生)

― 型だけでなく、敵を想定することが大切なんですね。敵とはどういう想定なのですか。

Hさん この技では横から敵が襲いかかってくるとか、自分の前で同じことをしている敵がいるとか、それぞれの技にシチュエーションがあるんです。その敵よりも速く身体と刀が一致している抜き打ちで、その敵を倒すという技です。

― そこに先生が言われた時間の感覚が必要になるわけですね。

市川先生 そうです。居合道の時間の感覚を知っていると、時代劇を見ていても反応が遅いと感じるんですよ。この侍の振り返ってから刀に手をかける動きは遅いとか、高いところから飛び降りてきた忍者が2人の男を斬ったりするけれども、「いや、飛び降りてからでは遅すぎる」と思ったりもします。それが居合の面白さですね。居合道では、相手を見たら刀を抜き始めている速さが必要なのです。

― 居合道を知る人の共通の感覚がある?

Hさん 居合は人を倒す技なので、部活でも「ここをえぐって」とか、「ここで指を切り落として」とか、そういう表現がたくさん出てくるのですが、部員は完全に慣れていて「これはどこからどこまで斬るんですか」という会話が飛び交っています。入部したときは「居合道は本当に人を殺すものなんだ」と重々しさを感じました。今は、昔の人は敵が来たときにどう考え、どんな対応をしていたのだろうとか、タイムスリップしたように昔の人を身近に考えられます。

高2の「幹部代」がすべてを主導
後輩一人ひとりをちゃんと見る
市川学先生(美術家教諭・居合道同好会顧問)

― 練習では、先生が指導される場面と、先輩が後輩を指導する場面がありましたが、それが普段の進め方ですか。

市川先生 そうです。昔から練習は高2が仕切ることになっています。だから高2の部員には、「部活では私をうまく使ってくれればいいよ。ただし、これはおかしいと思ったところは言うから」と伝えています。でも、ほとんど文句は言いませんね。信用して任せて、アドバイスはしますけれども、「ここを変えろ」とは一切言わないです。

― 例えば今年の高2の皆さんが後輩指導で大切にしていることはありますか。

Mさん 高2全員でやると決めているのは、後輩一人ひとりをちゃんと見て、良いにしろ悪いにしろ、この子はこういう振り方をするなとか、それぞれの個性や癖を知ることです。自分が素振りをしているときでも後輩をちゃんと見て、「あの子は振りかぶっているときに少し剣先が下がっているな」とか、そういうことに注意するようにしています。

― 練習における長年の伝統はあるのですか。

Mさん 高2が部活を作っていくことです。他の部活も全部そうなのですが、うちの学校は高2のことを「幹部代」と呼んでいます。「幹部の世代」という意味で、代々、高2が主導していきます。

Hさん コーチとか顧問の先生で見本となる人がいて、その人たちが主にプレーについて教える部もあると思うのですが、私たちはそれも幹部代である高2がやります。もちろん先生や先輩もいらっしゃるのですが、練習は幹部が考えたメニューをコーチにお願いしてやっていただくという方法でやっています。それが伝統です。居合道同好会はありがたいことにOGがよく来てくださって、稽古をつけてくださったり、合宿で教えてくださったりするんです。普段もアットホームなところが特長ですが、上下関係のけじめはちゃんとあるし、幹部は会をまとめますが、温かい雰囲気作りは心掛けています。

市川先生 合宿でも、お風呂は中1から先に入るように、高2が取り計らっていますよ。ちなみに私は最後です(笑)。それから、合宿所の掃除をするときは、高2がトイレ掃除を担当しています。靴を脱いでトイレに入っても大丈夫なくらいきれいに水拭き、二度拭きで拭いていて、なかなかよくやっています。

Hさん トイレ掃除は先輩方が「トイレは私たちがやるから」と言ってサッとトイレの掃除をされていたんです。みんなが嫌がるようなところを先輩が進んでやるという姿勢を見ているので、私たちも自然にそうなりました。

― 市川先生と部員の関係は?

Hさん 卒業生の先輩が言っておられるように、居合道初心者や部員から見ると、市川先生はカリスマという感じです。縛られるというわけではなく、先生がおっしゃったことは正しいと素直に思います。

目標は文化祭などの学校行事
居合を真剣に続ける先輩から認められたい

― 居合道同好会のメインの発表の場は文化祭ということですが、演武はどのような内容ですか。

Hさん 今年はこういう風にしたいと話し合い、その学年の個性を出せるように意識しています。居合道を知らないお客様は、演武だけではつまらないと思うので、けっこう派手なものも入れます。当たってもあまり痛くない袋竹刀を使って、「組居合」というけっこう派手な打ち合いもします。それこそ時代劇みたいに、型を織り交ぜて、練習よりもアクロバティックな動きを取り入れることが多いです。

市川先生 それで、私が時代劇と同じように「遅い、遅い」と思うわけです(笑)。「それはないよね」とか、「現実なら相手はこうやるだろう」とか、「斬られる方が弱すぎるよ」とか。

Hさん 確かに、技を派手にすればするほど粗が出てきてしまうので、そこはすごく難しいです。派手にした方がお客さん受けはいいのですが、たくさんのOGが見に来てくださるので、居合を真剣に続けておられる先輩から「ここが遅い」とか「あそこの動きは無駄なのでは」と指摘されないように頑張っています。

― 居合道同好会としての目標は、文化祭での発表や段位を上げることですか。

市川先生 そうですね。大会にも出場しますが、大会で良い結果を残すことが全てという育て方をしたくないという思いもあって、目標は文化祭などの学校行事に置いています。昇段としては、中学から始めた部員に、高3までに3段を取ることを奨励しています。そのまま続けると大学3年生くらいで4段を取れますから、そうなると就職活動で履歴書に「居合道4段」と書けるんです。居合道4段はなかなかいませんから、就職面接で注目されるはずです。

左から、市川学先生[居合道同好会顧問]、Mさん[会長・高校2年]、Hさん[高校2年]

― 最後に居合道同好会に興味を持っている人たちにアピールをお願いします。

市川先生 晃華学園はもともとアットホームで、自分の居場所ができ、自分でバランスを取ることには適している学校です。その中で居合道は、走りが遅いとか高く飛べないとか、そういう相対的な世界でない、絶対的な自分とのやり取りです。そういう意味で自分の居場所は確実にできると思います。

Hさん 居合道同好会は顧問の市川先生、コーチ、代々続いてきた先輩方、全てにおいて恵まれているなと常に感じています。学校のアットホームな雰囲気が部活にもいい影響をもたらしていて、先輩・後輩でちゃんと上下関係はあるけれども、すごく仲のいい部活です。5年間を通してやってくると、立ち居振る舞いも変わってくるので、凛とした女性になれるかなと思います。

Mさん 幹部代になってから、他の学校では部活の合宿の内容を顧問の先生が決めていると知って、うちの学校とはぜんぜん違うなと思いました。晃華学園は委員会も、部活も、同好会も、高2が完全に中心になって活動していますから、物事に対する責任感がすごくつきます。後輩たちも幹部代になる前から自分の後輩をよく見て、後輩がそのまた後輩を見て責任感を身につけていく、その伝統を繋げていけたらなと思います。