模擬国連全国大会で得た新しい世界
2016年度全日本高校「模擬国連」大会に、高校1年の2チームが初出場した晃華学園中学校高等学校。普段の国語×社会や理科×社会といった教科横断型のコラボ授業や、ユネスコスクールとして「国際理解教育」や「環境教育」に力を入れ、国際問題への高い関心を生徒が持っていることが、大きな前進に結びついたようです。今回は、学校代表として「模擬国連」に出場したメンバーと、生徒たちを指導された佐藤駿介先生に「模擬国連」に参加したことでの意識の変化や成長を取材しました。
全日本高校模擬国連大会とは...
2007年度にスタートした「国際連合及び国際関係に関する研究と国際問題の正確な理解又その解決策の探求を促進すること」「豊かな国際感覚と社会性を有し未来の国際社会に指導的立場から大いに貢献できる人材を育成し輩出すること」を目的とした活動。 全国大会には300以上のチームが応募し、80組約160名(1校2チームまで)の高校生が議題をもとに各国の代表として議論。優秀賞受賞チームは、高校「模擬国連」国際大会に参加する。2016年度「全日本高校模擬国連大会」の議題は、「国際安全保障の文脈における情報及び電気通信分野の進歩」。
Students Interview 摸擬国連全国大会に出場した晃華学園高校1年の生徒たちと佐藤先生
摸擬国連全国大会に出場した高校1年の生徒たちと佐藤先生
※学年は取材時の学年です。

学校生活の刺激で
国際問題や討論に興味

YMさん

――皆さんは、晃華学園から「全日本高校模擬国連大会」に初出場した2チームだとうかがっています。参加しようと思ったきっかけは何ですか。

YMさん:私はいろいろな高校での討論会など外部の会議に参加する機会が何度かあって、それが楽しかったことから興味を持ちました。国際問題について話し合う機会はあまりないので、少し堅い感じのものに挑戦してみたら楽しいかなと思ったんです。

SSさん:私も「模擬国連」の話を聞き、面白そうだなと思いました。校内選考では2人で1本の小論文を書いてこのチームが選ばれ、その後の「模擬国連」の全国選考に向けて、夏休みの間に2人で小論文を英語で1本、日本語で4本くらい書いて2学期に提出したので、かなり大変でした。

ISさん:私は以前から「模擬国連」を知っていました。校外の友達が「模擬国連」などの活動に積極的に参加していたので、自然とそういう話になって、自分もいつか出てみたいなと思うようになったんです。高校生以上でないと出場できないので、今年は出たいと思って応募しました。。

校内での模擬国連で、国連カフェのメニューを決める。
校内での模擬国連で、国連カフェのメニューを決める。

――「模擬国連」に参加する前から討論などに興味があったということですね。やはり晃華学園での学校生活が今回のチャレンジにつながったところもあるのでしょうか。

Mさん:先生が朝礼で話をされたときなどに、いろいろな視点があるのだなと思いますし、そういうことを知る機会がたくさんあります。討論のときもいろいろな視点に立って物事を考えられることが、相手の視点を理解するという点では力になったと思います。

SSさん:外国のNPOやNGOで働いた方や卒業生の方が講演会をしてくださるのですが、そういうお話を聞くと視野が広がりますし、「模擬国連」のときもその話を思い出しました。

SFさん

SFさん:普通に過ごしているだけでは国際社会に目を向けようとは考えなかったと思いますが、ミッションスクールで、自分の生き方や生命の尊さについて考える機会が多く、静修会や慰霊祭などでいろいろな話を聞きますし、普段もロングホームルームなどの長い時間を使って難民支援などについて話を聞く機会があるので、影響はあると思います。難民支援をしていた方がお話をしてくださることもあり、学校で国際問題に触れる機会は多いです。

ISさん:学校行事以外でも世界史や政治経済、あるいは現代文の授業などで題材にされるものを通して「こういう問題もあるんだな」と新しく興味を持ったりします。学校の友達が積極的に海外交流をしていたり、国際交流プログラムに参加していたり、留学で1年間フランスに行ったりして、そこからも刺激を受けています。

徹底的に意見を主張
全国の高校生と交流
「模擬国連」は新鮮な体験の連続

ISさん

――ISさんとSFさんのチームは、ジョージア(グルジア)を担当したそうですね。今回の「模擬国連」出場にあたり、印象的だったことは何ですか。

ISさん:議場全体で1つの決議案に到達するというのが、「模擬国連」全体の最終的な目標で、そこに自分の国の政策なども取り入れてもらえるように交渉するんです。その文書には独特の決まった型があって、慣れていないだけに難しかったです。また、あまりにも偏ったことを入れようとすると、絶対に反対する国があるので、自分の国の主張をきちんと入れながらも、却下されない程度のものにするというバランスが大変でした。
「模擬国連」を通して良かったなと思うのは、参加した生徒と今も関わりをもてることです。例えば「模擬国連」で知り合った子と一緒に「今度はこんな企画をやろう」と言って、自分たちで新しい企画を考えたりしているのですが、単に友達が増えただけでなく、国際関係や時事問題など、自分と似たことに興味を持っている高校生と関わることができ、どんどん世界が広がっています。

SFさん:私個人の意見ではなく、ジョージアの大使として討論するので、国の情報をしっかりと調べて知ることが大変でした。テーマがサイバー事情だったため、サイバー攻撃などを懸念して、情報があまり公表されていないということや、英語で記載された文書が大半でその中のどれが有益な情報なのかを探し出すのも苦労しました。
でも、私にとっては大きかったことは、全国から集まってくる過去にも「模擬国連」に参加したことがある意識の高い人たちに会えたことです。「模擬国連」の終了後もFacebookで繋がっているのですが、同じ高校生なのにやっていることが違って、すごく刺激を受けています。

ジョージア大使を担当した2人。
ジョージア大使を担当した2人。

――カナダを担当したYMさんとSSさんの印象的だった点はどこですか。

SSさん:事前準備のことで言えば、カナダも資料が少なく、図書館に行ってもカナダの情報はなかなか見つからなかったので、ネットの情報が主になってしまいます。でもネットには様々な情報が飛び交っていて、政府が出したものなのか、どこかの大学の教授が言っていることなのかを英語の状態で見極めなければいけなかったんです。必要な情報と不要な情報を見分けることが大変でしたが、同時に力にもなりました。とにかく英語がわからないと何も始まらないので、もっと英語を勉強しないといけないなという意識が芽生えました。

YMさん:「模擬国連」ではいくつか同じような考え方をもったグループが、会議場の中で大きなグループになっていくのですが、交渉していく上で、「こういう政策、あるいは機関を作った方がいいと思う」というポリシーをそれぞれ持っている国同士がくっつくと、意見がぶつかってつぶし合いのようになるんですね。学校生活では相手の意見を尊重してできるだけ生かせるように工夫するように私自身はしているのですが、徹底的に意見を主張して相手とぶつかり合うことは、私にとって新しい経験でした。

興味関心や必要になる力を
「模擬国連」で確認できた

SSさん

――皆さん、将来に向けての意識も変わりましたか。。

ISさん:私は小さい頃にユニセフハウスに行ったことがきっかけで、国際事業の中でも特に食糧問題に関することに興味をもっていたので、今回の「模擬国連」を通して自分はやっぱりそういうことが好きで興味があるんだなと再認識しました。

SSさん:私はどこに行ったとしても話し合うことや会議、交渉していく力は大事だから、そういう力を今からつけていこうと思いました。もっと日本のことでもアンテナを張っていろんな情報やニュースなどを知っていかなければいけないと思っています。

YMさん:将来という大きな話ではないのですが、会議などの場でもっと短時間で的確に話せるようになりたいと思うようになりました。いろいろな例を出して説明していると却ってわからなくなって意味がないと気づかされたので、手短に確実に相手に伝わるように言葉を選んで話せるようになりたいと思っています。

SFさん:私は将来、医者になりたいと思っていたのですが、英語がそこまで得意ではないので、海外や発展途上国にはあまり興味がありませんでした。でも「模擬国連」を経験して、日本でもこんなに英語を話せる人がいると知ってから、英語をもっと勉強しようと思うようになりましたし、そして世界で働くのもいいかなと思っています。海外の大学への留学に力を入れている大学にも興味を持つようになりました。

校内摸擬国連にて
校内摸擬国連にて

――「模擬国連」には常連校もありますが、今後、晃華学園の後輩たちに受け継いでもらいたいことはありますか。

ISさん:私が「模擬国連」に興味を持っていることは皆が知っていたのですが、「なぜそんなことに興味があるの?」と言われることが多かったんです。でも、実際に参加できたことで、その内容やできたことを知らせると、皆も少しずつ興味を持ってくれるようになりました。それが嬉しかったので、そういう人がもっと増えてくれたらいいなと思っています。

SFさん:私は今度、別の団体で開催される「模擬国連」にISさんとは違う2人とチームを組んで出場予定なので、全日本高校「模擬国連」で得た経験を全て伝えるように心がけています。その他にもこれから「模擬国連」に出たいという後輩がいたら、少しでも力になりたいです。

SSさん:「模擬国連」を体験したことで、学校の中でも文化祭や体育祭などで、もっと意見を出せるような機会や人が増えればいいなと思いました。

YMさん:私も学校で身近な友達と話していると、皆それぞれ学校に対して思っていることがあるのに、それをきちんと言えていないことが多いんです。思ったことをちゃんと言える場所はあるので、そこでまずは言ってみる気持ちを持ってほしいし、行動してほしいなと思います。

Teacher Interview 晃華学園中学校高等学校 佐藤俊介先生

手を挙げて勝ち取ったのは彼女たち
でも、ここで満足してほしくない!

――2016年度の全日本高校模擬国連大会に晃華学園の2チームが初出場したわけですが、佐藤先生は「模擬国連」への参加をどのようにアピールされたのですか。

佐藤先生:生徒に伝えるときは、各国の大使という立場で国際問題を考えると説明しました。社会的な正しさではなく、いかに国益を実現していくかが重要なので、もっと自己主張しならなければいけないと生徒たちは痛感したのではないかと思います。クラスでバランスを取って「皆で仲良く」というやり方ではダメだということに気づいたのではないでしょうか。

――事前調査でも本番の討論でも貴重な体験を通して、発見と苦労があったようですが、佐藤先生からご覧になっていて生徒の皆さんにどのような成長や変化があったと思われますか。

佐藤先生:学校全体を引っ張っていってくれる4人なので、自分の限界を破ってほしいという思いがありました。その意味では、今いる環境だけでなく世界はもっと広く、自分よりさらにできる人はたくさんいると知ってもらえたのはよかったと思います。 「模擬国連」への参加を提案したのは僕ですが、手を挙げて勝ち取ったのは彼女たちです。経験を得るところまで自分たちを持っていったのが、何よりのすごさだと思っています。でも、もっとできるとも思っていますね。非常に成長してくれたと思うのですが、ここで満足してほしくない。「模擬国連」を終えて楽しいとか悔しいとかいろいろな思いがあるでしょうが、それを糧に伸びていってくれるといいなと思います。

――4人が「模擬国連」で頑張ったことは、周囲の生徒たちに刺激を与えましたか。

佐藤先生:そうですね。同学年や後輩にもいい影響が出てきました。今後、もし後輩たちが世界大会に出られるようになったら、彼女たちがやってくれたことが学校にとっての1つのターニングポイントになると思います。やっぱり「先輩が出ている」となると、「模擬国連」という取り組みがぐっと近くなるんです。中学生の中から、学校で「模擬国連」の練習をしようという動きも生まれています。
佐藤先生

学校という帰る場所があるから
挑戦する場所も必要

―今回、佐藤先生が「模擬国連」に生徒を参加させたいと思われたのはなぜですか。

佐藤先生:理由は2つあります。僕は、政治学をやっていて思うのは、正しさには1つだけではなく、いろいろな正しさがあるということです。「模擬国連」はそうした正しさのぶつけ合いで、すべてが正しいとか間違っているではないと知ってほしかったんです。
もう1つは本校の教育理念として「家庭の精神における教育」というものがあるのですが、ほかの優秀な高校生たちと競い合い、切磋琢磨し、たとえ傷ついて落ち込んでも、再び自分を見つめ直し、立ち直る場所があるからこそ、生徒たちにはどんどん外に出ていろんな刺激を受けてきてほしいという思いが強くあります。だから「模擬国連」だけではなく、「ビジネスコンテスト」にも生徒を応募させているのですが、ISさんは高校生のベスト100を勝ち取って帰ってきました。

――先程、先生は「もっと自国のことを考えて、自己主張する場」と言われましたが、初めて「模擬国連」を体験したYMさんは「意見がぶつかってつぶし合いになることが怖い」という感想でした。それも経験として大切なことですか。

佐藤先生:そうですね。実際、現代の社会は変化が激しく、時に厳しい競争にさらされることもあります。学校は社会に出るための準備段階の場であることを知る意味は大きいです。交渉していく中でさらに高い次元の新しいものを生み出すところに気がついたと思いますし、最後に議決案を1つ作るのが「模擬国連」のゴールですから、相手をつぶすとか攻撃するだけでなく、違う見方を知るとか、うまくいかないときにどうやって自分の意見を通していくかのやり方を学んだのではないでしょうか。

教育において大切なのは
生徒本人の熱意と教員の根気

――これまでも貴校では、教科横断授業や講演会など生徒たちに刺激を与える取り組みをいろいろされていますが、今後やっていきたいと考えられていることはありますか。

佐藤先生:僕が本校でいいなと思っているところは、教員もやりたいことにチャレンジできることです。規模が大きい学校になると、1つの授業を複数の教師が担当することがあるのですが、そうすると小回りが利きにくくなるんです。今、中2から高2まで社会科を教えているので、ほとんどの生徒は僕のことを知っていますし、だからこそ参加を呼び掛けたときに手を挙げやすい部分が絶対にあると思います。物事にはいい面と悪い面があるので、小規模校ならではのいい面をどうやって活かしていくかというのが、僕の今後のテーマです。

――生徒の皆さんにもより変化が出てきそうですね。

佐藤先生:僕にとっては高め合えるというのが重要なキーワードなんです。以前までは「私は勉強していない」という感じを出すことが恰好いいと思っている生徒が多いように思っていました。それが、できなかった場合の予防線を張っているようで僕は嫌だったんです。でも、最近の生徒たちを見ていると、「皆がいろんなことをやり出すから、私も何かやらなければいけないのではないか」という女子の同調圧力がプラスの方向に変わってきたと感じています。それをもっとうまく活用していきたいですね。
ただ、「模擬国連」のようなものは合わない、手を挙げて前に出ていくタイプではない生徒もいることは確かです。そういった生徒にも輝く場を与えられるようになりたいですね。僕が教育において大切だと思っているのは、生徒本人の熱意と教員の根気です。生徒の熱意をきちんと拾って、それをどの方向に発散したらいいのかを整えてあげるのは、大人でないとできないと思いますし、それが僕らの大切な仕事だと思っています。